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「アグレッシブさこそアヤックス」~2019.11.5 UEFAチャンピオンズリーグ グループステージ 第4節 チェルシー×アヤックス レビュー

スタメンはこちら。

図7

目次

【前半】
2点目で光ったアヤックスらしさ

 チームのスタイルの部分に違いはあると思うけど、チェルシーもアヤックスも課題は似通っているチームだと思う。どちらのチームも自分たちのリズムでないときの試合運びが課題。アヤックスは昨季のスパーズ戦を見た時にそう思ったし、今季良化傾向のレールに乗った感のあるチェルシーもそう。トップ4争いのライバルに比べれば完成度は高いものの、やや不安がある最終ラインの補強が見込めない今季は、この課題と辛抱強く付き合っていく必要がありそうだ。

 そういう弱点を持った両チーム。ただ、わかり切っている弱みは覆い隠せばいい。というわけでまずは共にボール非保持の局面でハイプレスを敢行。後方に構えず前に前にプレスをかけていく。幸か不幸か非保持側がボール保持側に噛み合わせ良くプレスをかけやすい配置だった両チーム。高インテンシティで落ち着かない立ち上がりとなる。

 落ち着かない展開の中でセットプレーから先制したアヤックス。しかし、即座にPKをもらったチェルシーが追いつく。なんとなく、全体的にふりだしに戻った感のあるPKだった。落ち着かない展開が続いたのは10分まで。10分過ぎからは前プレ隊の激しいプレスもやんで、試合は少々穏やかになっていった。

 そうなればビルドアップに自信がある両チーム。アヤックスはマルティネスが最終ラインに落ちることで相手のFW+トップ下のプレス隊に対して数的優位をキープ。中盤にはもう一枚のCHのファン・デ・ベークが残り、受け手の役割を果たす。チェルシーもCHが縦関係になる構造は似ていて、ジョルジーニョが後方、コバチッチが前方の担当だった。ジョルジーニョはマルティネスとは違って、CBの間に落ちるほど低い位置ではなかったけど。

図9

図10

 ただ、どちらのチームもビルドアップのスキルはさすが。CBがあまり高い位置を取らないことで、相手のプレス隊をおびき寄せる。前線や中盤が食いついて後方がついてこなければ、ボール保持側の思うつぼ。

 チェルシーで言えば、13分のアヤックスの中盤のプレスの遅れを見逃さずにコバチッチが中盤をラインブレイクしたシーンは象徴的である。ボール持っている方が強いなぁと改めて思わされる前半となった。アヤックスも同様で、チェルシーのプレス隊に無駄走りをさせる場面は多かった。どちらのチームもボール保持時に強みを出す展開の中で、追加点を取ったのはアヤックスの方。

 サイドのオーバーロード→ファーのスペースでクロスを競らせるというやり方は昨季からのアヤックスっぽい流れ。アスピリクエタを出し抜いた、クインシー・プロメスの素晴らしいフィニッシュ。どうでもいいけどクインシー・プロメスはもう27歳なのか。勝手に20歳くらいかと思ってた。

画像4

 この得点シーンもそうだったが、アヤックスがオーバーロードをかけたときの選手のレーンの入れ替えに若干チェルシーは戸惑い気味。特に深い位置に走りこむ選手についていくことで重心が低くなり、浅い位置の選手がフリーになってしまうケースが散見された。このシーンではマズラヴィの斜めへのランに複数の選手がつられたせいで、大外でフリーになったジエフが逆サイドにピンポイントクロスを送ることができた。

 チェルシーは攻撃面でももう一歩決定機までたどり着けない。アヤックスは中盤CHを高い位置に出してプレスに行っているため、チェルシーの中盤がなかなか呼吸できない状況。中盤で苦しい分、ウィリアンがサイドの低い位置に降りる動きでフォローに入ることでボールを循環の手助けをする。

 前に出たアヤックスの中盤の背後に楔を打ち込める頻度は低くはなかったものの、そこから先が問題だったチェルシー。エイブラハムやマウントが中央で起点になり、スペースがある状態でサイドに展開するまではできていたものの、そこからチェルシーが苦しんでいたのはクロスに対する動き。スペースへの動き出しが乏しく、中央には枚数がそろっていたものの高さがあるわけではない。サイドでドリブルで勝負!まではできていたチェルシーだったがクロスから決定機を多く生み出すことはできなかった。

 あれよあれよといううちにセットプレーから3点目を決めるアヤックス。まったりとアヤックスペースで進んだ展開を象徴した1-3で前半は終了する。

【後半】
前後分断で縦に間延び

 ホームで2点を追いかける展開になったとはいえ、ズマがドリブルで持ち上がってシザースからシュートするというとんでもない後半のスタートを飾ったチェルシー。「ランパード、そんな奇策を仕込んだのか!?」と思ったけど、ベンチでランパードも爆笑していたので、多分アドリブですね。ただ、ファンも燃え上がっていたし、チェルシー はいいスタートを切ったと思う。

 チェルシーは前半と比べてダイレクトにゴールに迫るシーンが多かった。プリシッチがより早い段階で仕掛けることで、チェルシーは相手の守備がセットしきる前にシュートで攻撃を完結させられるように。アヤックスは後半も同様に強めのプレスに来ていたが、チェルシーは中盤のパスワークで先手を打って回避する場面もあった。

 とはいえ、アグレッシブさはアヤックスも負けておらず。ボール保持時も相手をいなすだけでなくガンガン攻め込む気概を見せたアヤックス。というわけで試合は後半頭から、互いに相手の中盤のプレスをかわしあいながら、ゴール前の局面が非常に多く見られる展開になった。

 そして得点をゲットしたのはまたしてもアヤックス。この場面ではクロスを待ち受けるエリア内で動くタディッチととどまるファン・デ・ベークのコントラストが印象的だった。前半にクロスの際の中の動きに苦労していたチェルシーに「こうやるといいんだよ!」と教えているわけじゃないだろうけど、高さがなくともスペースを突いてエリア内を攻略した見事な攻撃であった。

 さすがに3点を取ったことで落ち着きたいアヤックス。しかしながら、どうしてもボールを持たないで落ち着くことが難しいよう。アヤックスがプレスラインを下げたことで点差は開いたものの、流れはボールを持つことができるチェルシーに傾くという展開に。

 マウントの負傷でハドソン=オドイを入れたチェルシー。この交代で前は2列目のウィリアン、ハドソン=オドイ、プリシッチの3枚がいずれもドリブルで運ぶことが可能に。エイブラハムが収まることもあり、前を向いたチェルシーのアタッカー陣に対して、アヤックスが簡単にラインを下げてしまう場面が目立つようになる。

 「やっぱり前にいった方がよさげ?」と思って前に出ていっても、マウント→プリシッチにトップ下が変わったことでコバチッチはよりセントラルに専念するようになり、チェルシーの後方はFPの6枚で安定。エイブラハムに収めることもできるため、前に出てきたアヤックスの間延びした陣形を逆に利用して前進する力を得ていた。

 反撃ののろしを上げる2点目は、ハドソン=オドイが大外に展開してアヤックスのラインをさげるところから。プリシッチのクロスが流れて、もう一度大外のアスピリクエタに。押し込まれてしまったアヤックスにとっては起こりうる失点だろう。

 そして、問題の2人退場のシーン。ちょっと判定の話をしておくと、ロッキの判定は間違いであるわけはない。仮に2枚目のイエローを出す場合でもアドバンテージを取ることは認められている。ただし、それは「明らかな得点の機会」を攻撃側が得ている場合のみ。このブリントのファウル以降の局面がチェルシーにとって「明らかな得点の機会」か?といわれると個人的にはあまりそうは見えなかったりする。あいまいな文言でグレーの部分を残している表現なので、明確なミスとは言えないもの、アヤックスファンからすれば納得しがたい判定とも言えそうである。とにかくこのシーンで得たPKで1点差にしたチェルシー。

 これ以降は9人で戦うことになったアヤックス。4-3-1を組みながらなんとか時計を進める。もちろんチェルシーの決定機祭りだったのだが、アスピリクエタのゴールがハンドで取り消されたり、バチュアイが仕留めきれなかったりでリードを奪えない。

 アヤックスは9人だったけど、ボール保持では押し上げるし、プレスは後方も割り切って連動していたので、ずっと自陣で引きこもっていたわけじゃなかった。85分あたりには3連続でシュートシーン作っていたし、9人になってからも見せ場を作ったのは驚きである。

 一時は3点をリードしたアヤックスも、2人の数的優位を得たチェルシーも結局は勝つことができず。試合は4-4のドローで終了した。

あとがき

■あれよあれよの前半は課題

    負けても仕方ない試合から、勝たなくてはいけなくなった試合に急展開。チェルシーファンとしてはジェットコースターのような試合だっただろう。もちろん、なんとなく相手にペースを握られながら失点を重ねた前半の試合運びは課題だ。

    しかしながら、後半のビルドアップ隊と2列目以降のアタッカー隊の分担ともいえる4-2-3-1は、後方での迎撃が苦手なアヤックスの守備陣には相性が良く、2人の退場がなくても巻き返しは期待できた。ウィリアンがとても気を遣ってプレーしていたのが印象的。彼のおかげでトップ下に移動したプリシッチが最終局面に専念することができた。

    前後分断の色が強まる2列目にアタッカーを並べるやり方は、よりコンパクトな陣形を組む相手には苦戦するかもしれないが、そこはマウントなど中盤とのつなぎ役ができる選手を起用することによってうまく調整していきたい。カンテの立ち位置はどうなるんだろうね。そこはちょっと気になるかもしれない。

■攻めの姿勢こそアヤックス?

   「一番悪かった時間帯は?」という視点でこの試合のアヤックスを振り返ると「3点リードを掴んだタイミング→2人退場まで」をあげる人は結構いるのではないか?僕はそうです。

   リードしてリズムが悪くなるチームというのも珍しい。3点のリードに伴い、プレスラインを下げたことが直接的な要因だろうけど。2人の同時退場は不運もあるが、やはり自分たちの時間ではないタイミングの試合運びの課題が露呈してしまった格好である。

    9人になってもう一度腹を括って襲いかかる姿勢になれば、11人のチェルシーを脅かせるのもまたこのチームの面白さでもある。おそらく受けに回ったらおしまい。そのため、ピーキングがバッチリな格上との対戦に非常に強いのは納得。去年のCLの躍進はチームとしての持ち味が大舞台にフィットしていた部分もあるのかなと感じた。

    選手の入れ替えがあるのは宿命だが、チームとしての魅力や2得点目のボールの動かし方など、今季もアヤックスはらしさを見せてくれることを感じた試合であった。

    配置的には面白いシーンは少なかったが、両チームの良いところや課題が見えやすい試合だった。攻撃側が優位に立つ局面が多いこともあり、中立のファンも楽しめた90分になったのではないだろうか。

   おわかりかもしれないが、今更でもこの試合のレビューを書きたかったのは図をパワポに移行したテストでもある。読んでくれた方、付き合ってくれてありがとうございます。

試合結果
UEFA Champions League グループステージ 
第4節
チェルシー 4-4 アヤックス
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE: 4′(PK), 71′(PK) ジョルジーニョ, 63′ アスピリクエタ, 74′ ジェームズ
AJA: 2′ エイブラハム(OG), 20′ クインシー・プロメス, 35′ ケパ(OG), 55′ ファン・デ・ベーク
主審: ジャンルカ・ロッキ

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