スタメンはこちら。
【前半】
押し込んだ方が有利
メンバーを見て「もしかすると4-3-1-2?でもウルブス相手に4-3-1-2って・・・平気?」と思ったアーセナルファンは多いかもしれない。少なくとも僕はそう思いました。ワイドを広く使うウルブスに対して、4-3-1-2は結構守りにくい。「いや・・・そんなことないよね。やったとして果たしてどう守るんや・・・。」と思ったんだけど、普通に4-3-1-2でした。
というわけで予想通り苦しい展開を強いられるアーセナル。ウルブスの最終ラインは3対2の数的優位を獲得し、余裕をもってボールを回すことができていた。ウルブスの前進は右サイドがメイン。WBのドハーティにはセバージョスが対応する。そうなると今度はウルブスのCHが時間を得られるように。
後方の空いた選手から大外に展開するのがウルブスの組み立て。左はジョニー、右はトラオレとドハーティが大外で1on1を挑みクロスを上げる展開に。
アーセナルは3センターでの課題である守備時のスライドがこの試合でも露呈。3センターの間で受ける選手に対して、仕方なくCBが前に出て潰す場面も見られた。エジルも守備の基準点を見いだせず、なかなか有効な立ち位置を取ることができない。局地的に発生する1対1の対応に手を焼いていた。
ボール保持においてもアーセナルは苦戦。ゲンドゥージはフリーでボールを持てるものの、そこから先の出しどころには迷う場面が多く、序盤は引っかけてカウンターを誘発する場面が目立つ。前進に苦しむ状況を見かねて、セバージョスやエジルが降りてくる状況に。トレイラが高い位置を取ってバランスを取ろうと試みるものの、なかなか受け手と出し手のバランスを見いだせず。
一番効果的な前進だったのはダビド・ルイスを起点とした裏への展開。中央で重心が低い選手が多い分、SBも積極的なオーバーラップは目立つ。降りてきたエジルと最後方のダビド・ルイスが起点となり、苦しみつつも裏を狙った展開で前進する。
ただし、アーセナルは困ったときに頼れるコンビが前線にいる。PA深くでフリーになったダビド・ルイスのクロスをラカゼットがコントロールしてオーバメヤンにアシスト。絶対的なアーセナルの柱であるFWコンビの連携で得点を決める。ウルブスはデンドンカーの対応が若干軽かったか。人数が揃っている最終ラインはアーセナルの2トップを無力化できなかった。
そこからはアーセナルがボールを持つ時間が続く。アーセナルは即時奪回を狙うことで、ウルブスの幅広く使う攻撃を未然に防ぐ。ボール保持ではエジル、セバージョス、ゲンドゥージが降りてくると、ウルブスはボールをなかなか奪い取れない。特にポジショニングを乱されていたのはウルブスのシャドー。降りていくMFと高い位置を取るSBのどちらについていくかの整理がうまくいってなかった。アーセナルは前に人がいないからなかなか進めない、その代わりにウルブスもボールを奪えない。ボールはアーセナルが握り、ウルブスの反撃を未然に防いでいた。
アーセナルの攻撃のアクセントになっていたのはチェンバースの裏抜け。エジルがこちらのサイドに流れてくる頻度が多いこともあり、積極的に裏抜けを敢行。ボールの前進に役立っていた。
ボックスまで進むとウルブスの守備がやや淡白さをのぞかせることもあり、アーセナルはシュートチャンスを得るものの決めきれず。
ただし、前半の終盤にウルブスがボールを持つ機会を得ると、アーセナルもブロック守備での脆さを見せる。特に怪しいのは3センターの動き。ボールを中で取りたいのか、外に誘導したいのかの意識があまり揃っているようには見えず。それぞれが自由に動いた結果、CBが前に出ていって潰さざるを得ないパターンは多く見られた。41分のドハーティの決定機はゲンドゥージがサイドまで出ていった結果、中央のバイタルが空っぽに。インサイドハーフの2人がプレスバックを怠ったことから、遅れながらもエジルが戻るというシーンだった。セバージョスはともかく、トレイラがこのシーンで戻ってこれないのは選手のキャラクターを踏まえるとちょっと不思議な感じ。
ともにブロック守備に難を感じる両チーム。ゴール前のシーンでは共に決定機があったものの、アーセナルの先制点のみで試合はハーフタイムを迎える。
【後半】
試合運びが押し切る自信を生んだ?
オーバメヤンがラカゼットにあわや決定機というパスを送る。ルベン・ネヴェスがエリア外からミドルを放つ。2トップの連携の良さも、バイタルの管理の甘さも平常運転の後半の立ち上がりとなった。
ただ、アーセナルにとって好都合だったのはウルブスが前半と比べるとボールを追い回す意識を強めてくれたこと。追いかけまわしてくれるとなると、さすがにアーセナルのこのテクニシャン揃いのスタメンは相性がいい。それぞれにキープ力があり、テクニックもある。相手が寄ってきてスペースを空けてくれるのならばそこを通す力はある。
49分のサイドに流れたセバージョスが中央のゲンドゥージに通した形や、52分のトレイラがラカゼットに通した縦パスが起点になったシーンは、どちらもボールホルダーがウルブスの選手をを引き付けて空いたスペースにボールを通している。後者はセットプレー崩れということもあるが、いずれも見事な展開でこれが継続してできるようになれば確固たる武器になるだろう。
ただし、ソクラティスとダビド・ルイスがともに味方に寄ってくるようなジェスチャーをしていたり、47分のダビド・ルイスとセバージョスの連携が怪しかったシーンなど、まだチームとしてどこをどう回すかの整理はできておらず、即興に頼っている部分は現状では大きいのかなとも。
アーセナルの交代はラカゼット→マルティネッリ。この交代は出場時間制限なのか、戦術的交代なのかは判断がつかない。戦術的な判断であれば、ラカゼットを下げたのはやや不思議。この交代にともない、オーバメヤンがトップ、エジルがややサイドに流れ気味の4-3-2-1のような形にシフトするアーセナル。ただし、ボール保持時には3トップには自由が与えられており、中央に流れてくることもしばしば。エジルもマルティネッリもサイドアタッカーとして置かれたわけではなかった。
70分過ぎまではかなりゲームコントロールがうまくいっていたアーセナル。ボール保持では相手のプレスをいなす部分が目立ち、ウルブスを無駄走りさせるシーンが非常に多く目についた。試合を振り返ったときに、多くの人が疑問に思ったトレイラ→サカの交代+4-2-3-1へのシフトは「カウンターで一発のあるウルブスに対して、押し切って追加点を取ったほうがベター」という判断があったのかもしれない。後半ここまで割とうまくいっていたしね。まさか点を取られることを見越して攻撃的に・・・・なんてことはないと信じたい。
こんな信じがたい言説をTLで見る羽目になったのは実際にウルブスが追いついてしまうからだ。スローインからモウチーニョのクロスをヒメネスが叩きこむ。ジョアン・モウチーニョのPA内に走りこむアイデアは見事。アーセナルの選手はだれもついていくことができなかった。ダビド・ルイスはニアでモウチーニョを潰せず、ソクラティスは一番のクロスのターゲットであるヒメネスを挟み込むことができなかった。CB陣が悪い!と声高に叫べる場面ではないが、彼らもまた一瞬のピンチからチームを救うことができなかったことも間違いない。
というわけでここからは殴り合いの開始。人数をかけて押し込んで決勝点を取りたいアーセナルとカウンターで一撃を狙うウルブスの戦いになる。サカやジョタに決定機が訪れるものの、両チームは共に決めることができず。押し込んだアーセナルとカウンター一閃を狙ったウルブスの狙いは共に成就することがなく試合終了。試合は勝ち点を分け合う結果となった。
あとがき
■特色が全面に押し出された攻撃と淡白な守備
シティ戦に続き、ビック6相手から勝ち点を奪ったウルブス。パワフルなヒメネスとスピード自慢揃いのアタッカーの織り成す攻撃は破壊力は十分。それを下支えするモウチーニョとネヴェスのコンビは、円熟味を増しており下手なミスが少ない。この辺りはアーセナルでなくとも、どのチームも手を焼く部分であるだろう。
レビューを書いたチェルシー戦同様に気になったのはPA内の守備の淡白さ。人数は揃っているものの、ふとした対応が甘く決定的なピンチを招くシーンは散見された。シティを完封しているので、自分が見た2試合がたまたまイマイチだったのかもしれないし、最終ラインはややスクランブルだったのかもしれない。ただ、上位を目指すのならばこの辺りの甘さで落とす勝ち点を少しでも減らしたいところだ。
■プレッシングはアドリブでは解決しない
またしてもリードを手放して勝ち点を失ったアーセナル。すっとこどっこい感が非常に強いのは全く否定できない。ただ、部分的には一定の改善は見られたようにも見える。ビルドアップは個人のひらめき頼みなところは変わらないものの、後半はクリエイターたちの相互理解で効果的に前進できる場面も見られた。
ただし、課題も山積み。やったりやらなかったりの3センターは守備においての距離感の悪さがトップトピックスだろう。ELでトレイラのアンカーが怪しかったことも踏まえると今のままでは現有戦力での改善は難しい。役割分担や誘導したい方向を明確に打ち出さなければ、中盤の守備は依然としてアーセナルのアキレス腱のままであり続けるのではないか。
スカッドの選手の色を考えるならば、最悪ビルドアップは個人のアイデア頼みでもいいだろう。しかしながら無理の利く守備者がいない以上、プレッシングの整備は必須だ。
試合結果
プレミアリーグ
第11節
アーセナル 1-1 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 21′ オーバメヤン
WOL: 76′ ヒメネス
主審: マイケル・オリバー