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「できることをかき集める」~2024.12.27 プレミアリーグ 第18節 アーセナル×イプスウィッチ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

対アーセナル仕様のイプスウィッチ

 おそらく、ある程度まとまった期間となるであろうサカの離脱の初陣となるアーセナル。ホームにイプスウィッチを迎えて、勝てば2位に浮上する一戦に挑む。

 イプスウィッチは今季ここまで割と忠実に4-4-2の形を崩さずにフォーメーションを組んでいたように思うが、この試合では5-4-1を採用。バックスを5枚並べる形にし、トップのデラップのプレスはアーセナルの中盤がスタート地点。アーセナルにポゼッションを渡し、自陣を固める形を採用する。

 プレビューでも書いた通り、基本的にはイプスウィッチは対戦相手に合わせた対応をするチームというよりは出ていけるところまで行ってみよう!という感じなので、シンプルにこの試合で5-4-1を採用したのは驚いた。サカのいないアーセナルに対してはこういう後ろに重いプランが通用するかもと思ったのかもしれない。

 アーセナルは後方からショートパスでボールを動かすスタート。SBは絞りすぎず、開きすぎずという塩梅でアンカーと似た高さに立つ。後方の陣形を数字で示すのだとしたら2-3型だろう。

 相手との位置関係を考えると、アーセナルのSBの立ち位置はイプスウィッチのシャドーの視野のやや外に位置するように見えた。すでに述べたとおり、デラップはライスの管理を優先していたため、アーセナルのCBはボールを運ぶとシャドーを釣ることができる。よって、シャドーの前後をCBとSBで挟み撃ちするイメージと言えるだろう。

 イプスウィッチのシャドーはアーセナルのSBがボールを運ぼうとすると、そのままスライドしながら最終ライン付近までついていく。よって、アーセナルがSB→WGにボールをつけるとダブルチームのような格好になる。こうなると、今度はシャドーの手前からのフリーマンでもう一回前進ができるかどうかを探ることになる。

 とても細かい話に終始しているのだけども、この日のアーセナルとイプスウィッチの攻防は割とこういう細々としたところをどこまでやれるか?がそもそも重要であった。高い位置からボールを奪うということの優先度を下げて、前の5枚を変形させながら守ろう!というイプスウィッチとの試合でこういう観点が出てくるのは当然感がある。

意味付けが薄いダブルチーム

 イプスウィッチはサイドを守る際にCHが左右に大きくスライドするため、左右に大きく展開することはアーセナルにとって効果的に思えた。しかしながら、ライスから対角パスを受けたマルティネッリはアイソレーションでやや苦戦。「前節をきっちり見てきました!」と言わんばかりに縦を優先して切る対面のデイビスに手段を封じられてしまう。

 大きなサイドチェンジはなかなか機能しなかったアーセナルだが、イプスウィッチの守備ブロックはエバートンに比べるとだいぶ粗さが目立った。特にCHのチェーンが切れやすく、アーセナルはイプスウィッチのCHの間もしくは脇を狙うことで前進をすることができていた。

 18分のシーンが代表例だが、CHの間をドリブルで切り裂くティンバーとCHの脇を取るハヴァーツに自由を与えてしまうのであれば、あまり中央をきっちり守ることを念頭におく5-4-1を組む意味がない。

 マルティネッリが幅を取る意味はボールが彼に入っている時は正直あまりないのだけども、外に立っていること自体には意味がある。マルティネッリが対面のデイビスをピン留めするという前提があれば、CBのキャリーでスモディクスを引きつけさえすれば、イプスウィッチとWBとシャドーの間には広大なスペースが広がる。

 このスペースを活かす動きは今季のアーセナルは得意。無論、サイドフローのアクションである。サイドフローに対してイプスウィッチで対応できるのはCHのポジション。この動きさえできれば、フィリップスとカユステの間はさらに広がることになる。マルティネッリのアイソレーション封じには成功したイプスウィッチだったが、中央封鎖には課題を残すこととなった。

 押し込むアーセナルは20分すぎに先制ゴールをゲット。左右のサイドから上がってくるクロスを処理し切れないイプスウィッチを尻目にハヴァーツがゴールを決める。

 このシーンに至るまでの流れとしてアーセナルは2つのクロスを上げることができた。1つはスモディクスがマルティネッリにクロスを上げることを許したもの。右足を素直に振らせてしまったものであり、イプスウィッチとしてはここさえ切っておけば・・・と思えるところだった。

 アシストを記録したトロサールのクロスも縦に行かせてしまった守備側のエラーと言えるだろう。トロサールは右利きなので、もちろんカットインを警戒したい気持ちはわかる。だが、この場面ではトロサールに向かったジョンソンとオシェイはどちらもカットインを優先してしまったように見えた。

 振り切られたジョンソンは後方の様子を確認する余裕はなさそうなので仕方ないと言えば仕方ないのだけども、2人いるのに片側しか切ることしかできないのはやはりダブルチームの価値は希薄になってしまう。ダブルチームをつけるような相手はそもそも縦にも横にも行ける相手なので、そこは分担をしておきたいところ。実際にこの場面でトロサールが上げたクロスは縦側もケアすべきだ!ということを証明するような素晴らしいクロスだった。

 マルティネッリに右足でクロスを上げさせたスモディクスも含めて、自分が今何の選択肢を切るべきかの優先順位づけの甘さが失点につながったと言えるシーンだ。中央封鎖の甘さとダブルチームの意味づけの希薄さは本来ブロックを組んで受けることを優先していないチームが、この日用にプランを組んだ故の綻びと言ってもいいかもしれない。

 失点したイプスウィッチはプレスを強める。5バックは降りるアーセナルの前線にプレスに出ていく頻度はづえたし、デラップはアーセナルのCBにプレスをかけるようになる。

 しかしながら、このイプスウィッチのプレスのアクセルの踏み込みはあまり効果が高いものではなかった。なぜならば、シャドーがアーセナルのバックスにプレスに釣り出されてしまえば、サイドの守備の綻びが発生してしまうというイプスウィッチの構造的な欠陥は特に解決されていないから。ウーデゴールのサイドに降りるアクションに対しては手を打たれていないので、サイドからボールを運ばれた結果、徐々にサイドの守備者は前からプレスにいけなくなる。一瞬だけSHのような立ち位置をとったジョンソンもすぐにWBの位置に戻って行った。

 ジェズスというターゲットがそれなりに機能したことも大きかった。単純なロングボールで競り勝ち続けるタイプではないが、サイドの裏に抜けるアクションを織り交ぜてのオフザボールはやはり回帰傾向。角度のあるところからのフィニッシュを見せた幻のゴールシーンは紙一重という感じではあった。

 イプスウィッチの目線に立つと、前からプレスに行きたくなる気持ち自体はわかる。後方を重くする布陣を採用した影響で、ロングカウンターの比重は重くなるのだが、序盤からまるで突破口を見出すことができなかった。なるべく高い位置でボールを奪おうという意識を持ってのプレスはそこに根差したものだと考える。

 だが、理念と実装は別物。高い位置でボールを奪うプロセスに懸念は残っており、その状態ではアーセナルを制圧するのは難しかったということになる。

押し込まれるがチャンス構築は許さず

 アーセナルはラヤの危ういパスミスからスタートする後半。嫌な立ち上がりとなったが、ペースをイプスウィッチに持っていかれたか?という観点では答えはNoになるだろう。後半もペースを握っているのはアーセナル。やはり狙い目になっているのはスモディクスの背後。CHのスペースの管理量を増やすこと、そしてそのスペースをウーデゴールやライスで蹂躙することでイプスウィッチのゴールに迫っていく。

 後半もイプスウィッチは苦戦モード。前線のターゲットとして活用したいデラップはサリバに完全に封殺。この時点で手軽な陣地回復の目は消えたと言っていいだろう。

 というわけでイプスウィッチは徐々にボール保持モードにシフト。2列目の積極的な列落ちを3-2-5ベースの布陣に加えることで後方に人数をかけるビルドアップから攻撃を安定させる。これも試合の展開を落ち着かせることは役には立ったが、結局イプスウィッチの攻撃を機能させるのは「ライン間の選手がフリーで受けられるか」でしかないので、ボール保持の機会が増えること自体は得点を取ることに近付いているというわけではない。ボール保持の機会が増えても、加速のきっかけをつかめなければ意味がないからだ。

 トランジッションでハッチンソンが前を向く機会もあったが、この日は数回あったその機会を活かすことができるほどハッチンソンの調子は良くなかった。得意の右のハーフスペースからのレシーブから左への展開ほいずれもズレてしまうなど空回り気味。イプスウィッチはデラップ、ハッチンソンという2人の前進のキーマンがどちらも機能しなかったということになる。

 アーセナルもイプスウィッチに対抗するように前半以上に移動を自由化。保持に対して、こちらも保持での主導権を握り返しにいく。

 終盤はハッチンソンを大外の3-4-3→4バック移行と段階的に前の枚数を増やすことはしたイプスウィッチだが、保持の機会確保以上のことはできず。アーセナルは4試合連続ホームでの完封勝利を達成した。

あとがき

 ハーフタイム明けのイプスウィッチは5バック継続を選んだのが興味深かった。この試合のことを考えれば、もう少し早い段階でリスクを賭しても良かったし交代選手もいた。もしかすると、5バック採用のハードルを下げるのかもしれない。モーシー&カユステのCHコンビならばもう少し上手くやれるかもしれないし、CBの潰しの感覚も掴めるかもしれないので、フォーメーションの運用方法をどういじるのかが楽しみだ。

 アーセナルは手堅く勝利。何点も取れるほどチャンスを作ったわけではないけども、まぁ1~2点は取れただろうなというくらいの決定機の数を作り、相手のチャンスの数は10回やれば8回は無失点だろうなというくらいには抑えることができた。ある意味、これくらいの手堅さはサカ不在の間の勝ちパターンとして意識しておきたいところかなと思う。

 前節はマルティネッリがいるなりの右の攻略法を見せて、今節はマルティネッリが機能しないなりの右の恋略法を見せて欲しいところ。もちろん、試合ごとに機能性が上がるのが理想だが、週2での試合が続きローテを回すと疲れを回復させることの優先度が高い中で、機能性を上げるのは個人的にはミッションインポッシブルだと思っている。できることをきっちりとかき集めて目の前の相手に勝負したい。

試合結果

2024.12.27
プレミアリーグ 第18節
アーセナル 1-0 イプスウィッチ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:23′ ハヴァーツ
主審:ダレン・イングランド

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