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【前半】
CHの裏狙いのリバプール
昨シーズンに続いてグループステージで同居することになった両チーム。実は昨季もこの試合はマッチレビューを書いていたりする。
昨年のレビューした試合の舞台はアンフィールド。リバプールは敗退がけっぷちまで追い込まれていたが、グループステージ最後の難関であるナポリを撃破して優勝まで駆け上がった。昨季のリバプールは序盤こそボール保持を基調とした落ち着いたスタイルをベースに取り組んでいたけど、この試合はエンジン全開ハイテンポだったことを覚えている。昨季のアンフィールドとはうってかわって、この日はグループステージ初戦。リバプールは全く追い込まれていない状況である。そのせいかクロップ印のハイプレスは比較的控えめであった。
序盤は両チームとも様子見の様相。特にリバプールはサラー目掛けてロングカウンターを仕掛ける様子が目立った立ち上がりだった。試合が進むと徐々に落ち着いてボールを持つようになる両チーム。リバプールのボール保持は4-3-3である。ナポリの非保持の4-4-2に対して浮きやすいのはアンカーである。実は昨季も似たような配置での対決になっている両チーム。昨季のナポリはアンカーに入ったヘンダーソンを割と放置していた。
しかし、今年のリバプールのアンカーはファビーニョ。ヘンダーソンよりもいささか無視しにくいタイプのキャラクターの選手である。ロサーノとメルテンスの小兵2トップにはアンカー監視の役割は与えられていなかったように思う。ということでアンカーにボールが入るとナポリはCHが出ていく形になる。主に出ていったのはアラン。アランは出ていったり、最終ラインまで落ちてハーフスペースを埋めたり、非常に献身性が目立った。
献身性は素晴らしいのだが、アランが出ていった分、中盤に穴が空くのも確かである。リバプールのボール保持における狙いはこのCH周りではなかったかなと。IHのヘンダーソン、ミルナー、そしておなじみの降りてくる動きを駆使するフィルミーノ。それに加えてこの日はマネも絞って受ける機会が結構あった。ファビーニョのマークでずれた中盤のスペースをオーバーロード気味に使うこと。これがリバプールのボール保持の目的だったと思う。
それにしても素晴らしかったのは前進を許してしまった後のナポリの守備陣の粘り強さ。前述したアランもそうだし、この日はCBコンビがピカイチだった。中でもクリバリは圧巻だった。スピードに乗ったリバプールアタッカー陣をクリーンに処理。サラーを終始黙らせまくっていたのは恐ろしいというほかない。
【前半】-(2)
脇からすり抜けナポリ
ではナポリのボール保持の目的はどうだったか。リバプールの前線3枚の守り方は「WGは外を切りつつプレス。フィルミーノはカバーシャドウで中央へのパスコースを寸断」というやつである。しかしながら、この日のリバプールは若干悩ましかった。それを誘発していたのはナポリのSBのアシンメトリーな振る舞いだ。左のマリオ・ルイが高い位置を取るのに対して、右のディ・ロレンツォはCBと同じくらいの高さで攻め上がりを自重することが多かった。3人の中では守備をさぼりがちなサラーのサイドは高い位置をとって普通に使い、献身的なマネのサイドは自陣に引き込むような位置にSBを立たせる。リバプールの後方ではロバートソンがカジェホンにピン止め。ロバートソンが前に出てくれば、ロサーノやメルテンスが裏に抜けられるようになっていた。
というわけでナポリのボール保持の狙いはマリオ・ルイとカジェホンをメインにリバプールの3センターの外側から回りこんでいく形だった。どことなくマネのプレスに元気がなかったのはどこまで深追いしようか迷っていたからかなぁとか。後方のミルナーもやや連動したプレスはかけづらそうにしていた。大外でSBが自由を享受すると、今度は横パスでCHがボールを受けられるようになるナポリ。ファビアン・ルイスはU-21 EUROからお気に入りだったりする。数回ボールをひっかけてピンチを招くシーンはあったものの、中盤で華麗にタクトを振るっていた。
ナポリの狙いの3センターの外からの前進は、リバプールの狙いであるCH周辺よりはややゴールから遠い感じはするが、それでも時折好機を迎えていたのは前線のアタッカー陣がアジリティの部分でリバプール守備陣に手を焼かせていたから。ロサーノやインシーニェを筆頭にスピード系アタッカーに苦戦する姿はちょいちょい見えた。特にマティプは苦労していた。それでも大事なところをやらせなかったけど。痛いところは突かれているけど、致命傷にはなっていなかったという感じ。
両チームともボールの前進は許してしまうけど、最後のところで踏ん張りが効いたおかげでノーゴール。試合はスコアレスで前半を折り返す。
【後半】
ガス欠モードに救いの一手
前半の一進一退の展開とは異なり、後半の立ち上がりはナポリのボール保持で試合が進む。リバプールは高い位置で構えるものの、プレスにはいかずににらみ合うみたいな場面が結構あった。シティもたまにやるよね、これ。
しかし、後半の高い位置でのプレッシングは空回り気味。リバプールはだれか1人がスイッチを入れることで一気になだれ込むプレスを敢行していたけど、ナポリがうまく外す場面が目立った。低い位置で冷静にボールをさばくディ・ロレンツォがリバプール憎かった。
初動のプレスを交わしたナポリはワイドからボールを進める。左のインシーニェよりも後半に目立ったのは、右のワイドで推進力を見せていたアラン。ミルナーやファビーニョをドリブルでガンガン剥がしていきMFラインを突破。仕上げで左サイドに展開してフィニッシュに向かう流れが、後半頭に何回か見られた展開である。仕上げの段階で顔を出すマリオ・ルイはオーバーラップのタイミングがうまくなった気がする。
プレス位置が定まず空転させられ続けるマネとサラー。ナポリのCKの流れから迎えたロングカウンターの大チャンスをパス一本の精度で台無しにするところを見ると、やっぱりプレーのリズムというのはあるんだなと感じた。マノラスのプレゼントパスも決めきれなかったし。
ボール保持においてもリズムがつかみきれないリバプール。ロサーノとメルテンスの2トップは前半よりも後方を気にかけるようになり、リバプールとしては前進が難しくなっていた。ファビーニョをどう解き放つかについて大分苦心していたように見える。
選手交代は両チームとも飛ばしていた印象の強い選手から。ミルナー→ワイナルドゥム、インシーニェ→ジエリンスキはともに同じポジションの交代だった。ナポリはさらにもう一枚交代。ロサーノ→ジョレンテ。こちらはポジションは同じでも選手の色がガラッと変わった交代になった。
75分を過ぎると今度はナポリが苦しくなってくる。足が攣って交代してしまったアランに代表されるようにガス欠で徐々にリバプール相手にプレスをかけられずに、押し込まれてしまう展開が続く。いつもより控えめなプレスだったからか、プレミアの展開になれているからか、終盤の体力面ではリバプールが優位だった。
そんな困ったときの前進の手段として、ナポリにはジョレンテがいる。彼へのハイボールという手段があるのが終盤の変化。そしてそのロングボールのこぼれ球を拾った流れから、ロバートソンがカジェホンを倒してPKを献上。体力面で優位に立ち、ここから終盤にかけてどう押し込むか?というフェーズに突入してた段階でのPKは痛恨極まりない。
時には6バックも辞さない形で守りきりにシフトするナポリ。先制点でもう一度エネルギーが回復した感がある。リバプールは思ったより押し込めないでいると、ナポリが追加点をゲット。ジョレンテはいきなり大仕事である。
試合は2-0で終了。ナポリがリバプールを下し、前回王者相手に白星発進を決めた。
あとがき
■理屈と理不尽のハイブリット
後半の立ち上がりが特に印象的だったナポリ。リバプールの特徴の1つである、前線のプレスを非常に効果的に外してボールを前に進めた。スコアを見た時は「ナポリがしのぎながら勝ち点をもぎ取ったのか」と思ったけど、後半は普通に試合のペースを握っていたように見える。選手全員素晴らしい働きだったが、特に印象的だったのはアランとディ・ロレンツォ、そしてクリバリ。後方の我慢が勝ち点につながったのは間違いない。クリバリすげかった。
そして最後の一手のジョレンテである。理に適ったボール前進を続けたものの、得点することができなかったナポリに、最終的にジョレンテという持ち味の違う理不尽さが起点となり勝利につながるのは、結構面白い展開だなと思った。
■狂った歯車は戻らず
まだ初戦とはいえ、厳しい敗戦になったリバプール。前線のプレスがハマらない展開が続いてしまったことで狂った歯車が最後まで立て直せない印象だった。ファビーニョとサイドバックという配球源はナポリによって寸断され、少ないチャンスでもミスが続く。サッカーは攻守一体とよく言うが、守備がハマらないと攻撃もリズムをつかめずにずるずる行っちゃうこともあるのだなと。そしてそれが今のリバプールのレベルでも起こりうるのだなと。
週末はチェルシーとの対戦になる。やや、振るわないパフォーマンスを見せた選手が見られたのは不安材料だが、リーグはひとまず全勝中。もう一度国内リーグから立て直しを図りたいところだろう。
試合結果
UEFA Champions League グループステージ
第1節
ナポリ 2-0 リバプール
スタディオ・サンパオロ
【得点者】
82′(PK) メルテンス, 90+2′ ジョレンテ
主審: フェリックス・ブリヒ