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「特効薬なんてない」~2019.9.1 J1 第25節 セレッソ大阪×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
「おぅ、確かに入ったやろ!」

 確かに自分はサッカーを愛する1人の人間であるし、チームに関係なく若い日本人選手が活躍するのは嬉しい。それが自分の名前と同じ選手なら親しみも一層湧くというものである。だからといって、自分の贔屓のチーム相手に早々に先制点を決めるのはどう考えてもやりすぎである。そんなことを思いながら両チームの配置の確認もままならないうちに決まった瀬古のゴールを見ていた。互いに今季の逆転勝利がないチーム同士の「先制点ダービー」とプレビューで称した試合は2分でC大阪が先手を奪うこととなる。

 川崎はいわゆる2018年モデルに回帰した布陣といえるだろう。直近の試合でも好調をアピールしていたダミアンはベンチスタート。離脱した大島、奈良、そして退団したエウシーニョを除けば、昨季のレギュラーメンバーが多く顔を連ねる構成になった。

 C大阪に先制点が入ったこともあり、序盤はサイドから切り崩して中央に乗り込みたい川崎と、それをさせまいとサイドを封鎖するC大阪の攻防で推移することになる。

 いつもよりCHが最終ラインに入る頻度は低かった川崎のビルドアップ。C大阪の1stプレスが高い位置から来ないことを見越してだろうか。守田も下田も通常のCHの位置に入ることが多かった。先制点が入ったことで、慎重にブロックを埋める形にシフトするかと思ったC大阪の非保持だが、中盤4枚は前への意識は比較的強く、川崎のCHやSBに積極的にあたりに来た印象だった。ただ、どちらかというと「カウンターで2点目をとっとと取ってしまおうぜ!」というプレスではなく「90分引きこもり続けるのは無理だよ!」なのか、あるいは「まずはこれくらいだったらどこまでかわせるの?」と川崎に問いかけているか、そのような感じのプレスに見えた。

 川崎はまずまずうまくやったと思う。序盤は割とうまく受けて立つというのは、ここ数試合の川崎のあるあるである。具体的にはC大阪のSHを自陣側のSBで食いつかせた後、スライドしたC大阪の中盤に対して、CHを経由しながら、逆サイドのC大阪のSHの外から回るか、逆側のCH-SHの間から侵入するかのいずれの方法を使うことが多かった。文字ばっかでわからないですよね。図で書きますね。そうしますね。

 気になるのはここから先のクオリティである。例えば10分のシーン。相手のMF-DFライン間に侵入した中村憲剛。ここで受けるのはC大阪にとってはクリティカルで嫌がられることだろう。ここから中村は右のマギーニョを選択する。しかし、このボールは弾道が高くなり、マギーニョ到達までに時間がかかってしまう。そのため、C大阪は全体の陣形をスライドさせることが可能になり、見た目ほどのチャンスにはならなかった。

   たまにレビューで述べるけど、川崎らしいパスワークを「パスをつなぐほど状態がよくなっている」と定義している自分としては、このプレーはあまり川崎らしくないパスワークだったように思う。家長の不調に隠れがちだが、中村憲剛のアタッキングサードでのパス精度も、今季の川崎が「らしくない」一因だと思う。ポジショニングは巧みなんだけどね。

 話がそれた。試合に戻るとそういった横の揺さぶりを駆使した川崎は、今までのC大阪戦にしてはサイドで呼吸ができており、同数もしくは優位な状態でサイドでボールを持てていた。そういった中で家長のクロスを起点に混戦から阿部がミドルを決めて川崎が追いつく。チャンスらしいチャンスはなかったものの、サイドからタイトではない状態でクロスを放つところまではうまくいっていた川崎としては、一発で仕留めてくれたのはうれしかっただろう。

【前半】-(2)
スコアとあべこべな展開

 というわけで同点に追いついた川崎。しかし、得点経過とは裏腹に試合は時間が経つごとに徐々にC大阪ペースに試合は移っていく。攻守においてC大阪は微調整を施したように見えた。

   まずはボール保持。序盤はCBとCHがスクエアを組んでいたが、徐々に藤田が最終ラインに下がり3枚になるシーンが増えていく。いわゆるサリーちゃん。ちなみにサリーダのあとの正式名称は細かく覚えていない。3枚になったC大阪のバックラインに対して、2枚の川崎のプレス隊は狙いが絞れなくなる。ワイドに開いたCBからボールが入る。C大阪のサイドはSBが外、SHが内のレーンを使うことが多い。特に左側はこの傾向が顕著で、ワイドに開いたCBから、絞った清武が受けて前を向けばスイッチオーン!って感じなんだけど、この日は彼が不在。柿谷もドリブルでファウルを受けて川崎のリズムを作らせないという点では貢献した部分はあるが、チーム全体の攻撃のスイッチを入れる役割だった清武と比べてしまうと、物足りなさは否めないというのが正直なところだった。というわけでシンプルにブルーノ・メンデスに蹴りこむ場面もしばしば。ただ、とりあえず後方のボール保持は安定していたので、陣形を相手側に押し返せた。

 非保持では2トップにより引いた位置での守備のタスクを命じたように見える。立ち上がりはボールサイドのFWがサイドに出ていき、もう片方は前残りをしてカウンターに備えるような配置が多かったが、徐々に両方とも低い位置まで下がり守備に参加するようになった。大事なのは目的。おそらくサイドチェンジの阻害だろう。ボールサイドのFW、CH、SH、SBの4枚で相手を閉じ込めつつ、ボールサイドと逆側のFWが中央に残るCHを見る。これにより、阿部のゴールより前の時間でよく見られた、サイドチェンジで振り回される頻度はやや減少。川崎は密集の中での同サイド攻略を余儀なくされることになる。これにより、サイドからのチャンスメイクの質が低下した。

 というわけで得点の直後にリズムを握るのは失点したチーム!というややあべこべな展開で前半は推移した。1-1でハーフタイム。

【後半】
あちらを立てればこちらが立たず

ハーフタイムでの交代こそなかったものの、後半開始直後に「日本で一番有名なチャントを持つ外国籍選手」ことブルーノ・メンデスが負傷交代。前線の起点がなくなってしまうかも?という疑念をよそに代わって入ってきた鈴木孝司が決勝点を取るんだから、サッカーって本当に面白いですよねうそです全然面白くねぇよはぁ。

   C大阪目線で見れば、川崎の中盤のラインをブレイクした結果がゴールとして返ってきた形。鈴木に触れもしなかった谷口は痛恨だし、奥のジェジエウもマークマンとの距離はかなり遠かった。

   川崎はひとまず長谷川竜也を投入。おそらく大外からの仕掛けを託したものになる。ちなみに車屋については「シンプルに大外を縦に持ち上がってほしい」という意見も多いようだが、現状の大外からのクロス精度の低さとか、大外からえぐって中に切り込むドリブルの少なさとか、この試合の後半でいえば前にいる長谷川の役割を考えても、内側のレーンでも勝負するのは全然ありだと思う。クロスに精度が伴わないのなら、急所に侵入を試みるようにシフトするのは割と自然なような。もちろん、この時期に試合の中で試行錯誤しながらやることなのかという疑問は残るけど。

    というわけで車屋と長谷川の縦関係はレーンとりに工夫は見られたものの、両者ともにクロスの精度が伴わない。さらに、PA内のターゲットは小林のみなので、C大阪守備陣からすれば、狙いが絞りやすかった。川崎はレアンドロ・ダミアン投入でクロスのターゲットを増やす形にシフト。エリア内の脅威は増したものの、中村と家長を下げたことで今度はライン間でプレーする選手不在による影響が出た感じ。徐々にビルドアップが詰まるようになる。そこの改善を狙っての3枚目の脇坂投入だろう。中盤に入り、守田がRSBにスライド。クロス主体になっている中での守田のSB起用はちょっとよくわからなかった。

    脇坂が所々で光るものを見せたのは、この試合の川崎の数少ない材料。ただし、この試合の脇坂はCHというよりは、点が欲しい中での中盤フリーロールというニュアンスでの投入という意味合いが大きいように思う。リスク度外視というか。スタメンでCHとして長い時間プレーした場合とは異なるシチュエーションでのプレーだったことは留意しておくべきだ。

    サイド強化の長谷川、エリア内強化のダミアン、ライン間侵入強化の脇坂というあらゆる策を講じた川崎だったが、惜しかったのは小林がクロスバーを叩いた1回のみといっていいのではないか。C大阪が川崎のあの手この手を受け止めながら封じた後半だった。

    試合は2-1でC大阪の勝利。川崎はまたしても大阪の地で苦い思い出を残すこととなった。

あとがき

■少ないチャンスと「ロティーナ印」で手繰り寄せた勝利

   素早い先制点を得てから、劣勢に回ったのは20分くらいまで。その時間の間に追いつかれたのは誤算だっただろうが、修正によって再びボール保持の時間と流れを引き戻したのは大きい。そして、少ないチャンスをゴールに結びつけた後半早々の鈴木のゴールも非常に大きかった。一発回答はお見事である。

    仮定の話になるがこの試合の中で川崎がリードをする展開があったら、苦しくなった可能性は否定できない。確かに「ああ、先制点ダービーだな」と思った。C大阪ファンがどう思ったかはわからないが、清武の不在の影響はかなり大きいように思う。攻撃を一気に加速させて少ない人数でフィニッシュに向かう動きはあまり多く見られなかった。パワーとスピードを兼備するブルーノ・メンデスが後半早々に下がった影響も無視はできないが、最終ラインからボールを引き出して前につなぐ中盤の要の不在とどう向き合うかは中断明けの課題になりそうだ。

    非保持においてはサイドで囲まれた時の圧迫感は1-2年前よりは少なくなったものの、ボール保持での安定感が出てきたことで、そもそも川崎がボールを持てる時間が去年までのC大阪戦よりも減った印象を受けた。従来の強みをベースにうまくロティーナ流を浸透させている道のりの最中だろう。低い位置でのビルドアップの落ち着きにはすでにロティーナ印(攻撃面の話だからイバン印が正しい?)がしっかり刻印されているように思えた。

    得点を決めた選手が共にJ1初ゴールでチームに勢いをもたらせそうなのは嬉しい部分。瀬古君は冒頭にも書いた通り「やりすぎ」です。得点場面以外にもヨニッチと共にビルドアップとクロス対応では安定感を見せた。特にビルドアップ局面はよかったなー。U-22代表頑張ってきてね。あと「おぅ、おまえ入ったやろ!」は僕も使わせていただきたく思います。

自分ができることと相手が嫌がることのバランス

   鬼木監督はスタメンから交代カードまで様々な打ち手を講じたが、実ることはなかった。長谷川投入までの間と幅を使いながらのポゼッションも、クロス爆撃も、そこにアクセントとなる脇坂を上乗せしても負けを覆す得点は入らなかった。「武器をたくさん作って磨くべき!」と自分はシーズン初めに主張したけれど、テコ入れした部分もそれ1つで相手を破壊できるほどの武器ではないというのが正直なところだった。

    リーグ戦6試合未勝利を経て思うことは、このチームがここから急によくなる特効薬などないということ。ある局面を改善しようと思えば、ある局面がうまくいかなくなるのが今年の川崎だ。負傷中の大島が復帰すれば、例えば中盤のラインブレイクの頻度は改善が見込めるかもしれない。しかし、負傷の影響も考えると下田や田中が見せたCHの攻撃参加という部分では物足りなさが出てくる可能性もある。大島自身のスキルに疑いの余地など一つもないが、今季でいえば大島がいたころのチームの出来は今と雲泥の差といえるほど大きくはないはずだ。実際、今季ベストのパフォーマンスは大島抜きだった多摩川クラシコだ。

   ここ最近のレビューで繰り返してきたように、ここから急に個人のパフォーマンスや連携がみるみる向上することは考えにくい。目の前にいる相手に対してどう向き合うかを無視して戦えるほど今の川崎は強くはない。

    幸か不幸か中断期間も試合はある。ルヴァンカップの相手は名古屋。今季のリーグ戦において、最も相手と向き合わなかった相手が名古屋との試合だと思っている。自分たちのやりたかった間でつなぐプレーに固執し、名古屋のプレスの狙いにどっぷりハマってしまった試合だ。名古屋は「自分たちに何ができるか?」だけでなく、「相手にとって何が嫌か?」を上乗せする必要がある相手としては、うってつけだと思う。自分たちの現状からも、相手と向き合うことからも逃げ出さないことが、未勝利を止めるためのスタート地点ではないだろうか。

試合結果
2019/8/17
J1 第25節
セレッソ大阪 2-1 川崎フロンターレ
ヤンマースタジアム長居
【得点者】
C大阪: 2′ 瀬古歩夢 64′ 鈴木孝司
川崎: 13′ 阿部浩之,
主審:池内明彦

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