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【前半】
ボール保持で「おびき寄せつつ削る」
やむって聞いてたのに、やまない雨。等々力は霧雨に包まれながらキックオフの時を迎えた。
プレビューでも書いたが、川崎がこの試合で取りそうなフォーメーションは大きく分けて2択。ざっくり言うと今回は「ゴール前の迫力を重視」した2トップではなく、「ボールのまわりやすさを重視」したトップ下を採用したフォーメーションで臨んだ。この日、ベンチを外れたレアンドロ・ダミアン(とこの日起用されなかった知念)に関して、試合後のインタビューで理由を聞かれた際の鬼木監督の返答は以下の通り。
「今日は攻撃のところでトップ下を作ってという形でしたので、そこのところでケンゴ(中村憲剛)を選択したというところです。」
というわけでこの日の鬼木監督はトップ下を置くということに強いこだわりを持っていたということは間違いないだろう。トップに小林を置いたのは、おそらく密集地帯でのコンビネーションに最も信頼を置けるFWだからではないだろうか。どうでもいいけど、プレビューのスタメン予想が21人当たっていて地味にうれしかったぜ。
ひとまず、蹴りあうスタートになった両チーム。まずはピッチの条件を把握するため、安全運転をするための蹴りあいだろうか。
川崎のボール保持に対しては、鳥栖は素早くプレッシャーに来る。それに対して川崎も素早いパス回しで応酬。配置による工夫は少なかったものの、高いスキルで鳥栖のプレッシャーをかいくぐりつつ縦パスを通していた。
しかし、そういったシーンが見られるのは非常に稀。なぜなら序盤は鳥栖のボール保持がメインで試合が進んでいったからだ。鳥栖のボール保持の特徴は大きく開くCB。自陣のPAの横まで両CBが開く。GKを中心にひし形を積極的に形成するビルドアップパターンもよくある(大分、札幌とか)のだが、鳥栖はCHが比較的横並びを維持しつつ、ボールを引き出す時だけ段差をつける動きをしていた。
鳥栖も川崎もCHが2枚なので、川崎としてはついていけばいいやんけ!となりそうだが、田中を悩ましくしていたのは内に絞ってくるクエンカ。田中が前に出ていくスペースにクエンカが入り込んでくるので、若干ピン止めされている感のある田中。そのため鳥栖のCHはマッチアップ上は同数だが、余裕をもってボールを受けることができた。もう1つ悩ましかったのが、川崎の右サイドの守備。家長の役割があいまいだったことである。特に上がってくる小林に執着するわけでもなく、前に残っている状態に。
── 前半、前から行ってもなかなかボールを取り切れないところがありましたけど、想定と違ったのでしょうか?
「前から行く行かないという部分で言いますと、ある程度選手に判断を任せているところがあります。想定は当然していました。ただ、そこのところで下がるという選択の方がかなり多くなってしまっていたのと、それは前だけの選手のせいではなくて、基本的には後ろがラインをあげないと埋まらないところだったので、そこは途中から言い続けました。後半のところで言うと、そこは怖がらずにやっていたかなとは思います。」
鬼木監督の上記のインタビューを聞く限りは前のメンバーのプレスの判断は任せていたということだろう。というわけでふわふわする家長を尻目に車屋はクエンカと上がってくる小林の対応に悩まされることになった。
鳥栖が低い位置のポゼッションで徹底していたのは、川崎のプレス隊を呼び込むこと。おびき寄せるようにGKを軸としたパス交換を繰り返す。じれない。開いて高い位置にいるSBに直接届けられる高丘も厄介だった。おびき寄せに成功したらロングボールを解禁。セカンドボールの回収の見込みが立つので、仮にジェジエウに競り負けてもまぁよし!といったところだろうか。原川と福田の行動範囲の広さまでうまく生かしたロングボールといえるだろう。
【前半】-(2)
足りない頻度
川崎はボールを持った時の攻撃デザイン自体は悪くはなかった。特に左サイドはいつも通り、オフザボールの動きがうまい長谷川と登里を軸に脇坂と家長がパス交換に絡んでいくことで突破するシーンはあった。長谷川と登里のレーン交換で安と原にマークの受け渡しを強いながらフリーの時間を作ることで左サイドは外側から、チャンスは作れていた。
前半に関しては攻撃の質は問題なかったと思う。少なくとも左サイドは。問題は頻度。鳥栖からボールを取り返す仕組みを持たない川崎はマイボールの時間を増やすことに非常に苦慮していた。時間の経過と共に小林と脇坂という川崎のプレス隊はCBへのプレッシャーを自重するようになる。これにより、さらに鳥栖はボール保持の時間が長くなることに。試合中にスポナビの速報サイトでチェックしたが、前半20分での川崎のボール支配率は40%。支配率だけで試合を語るのは浅はかであるかもしれないが、いつもと様子が違う川崎×鳥栖の試合になっていることは、この数字だけでも明らかだ。
ただ、鳥栖もボールを運んだ先からの攻撃はやや苦しんでいた。川崎の中盤より後ろが対人守備の強さで突破を許さなかったことが大きい。中央の谷口やジェジエウもさることながら、流れてくるトーレス、金崎、上がってくる小林を気にしつつクエンカの突破を阻害した車屋は殊勲。逆サイドからの安の巻いてくるクロスにも絞って対応し、CB兼SBのロールを全うしたといえるだろう。鳥栖はボール保持で川崎の決定機創出頻度はある程度低く制御していたものの、自らの決定機創出までは至らなかった。
時間が経つとともに徐々にボール保持を増やしていく川崎。雨の中でのボール扱いに慣れてきたか、それともこれはどうやらボール大事にした方がよさげ!と思ったのかはわからないが、ショートパス→人数をかけた崩しに徐々にシフトしていく。最終ラインにCHが1枚落ちる川崎のビルドアップに対して、特に鳥栖は無理することなく撤退していたので、川崎もボール保持に関しては安泰だった。
雨の中でも大島と脇坂のボール扱いは川崎の攻撃にアクセントを加えていた。大島はいつもより広い範囲に気を配りながらパス交換。特にバラバラになりがちな右サイドを気にかけるシーンが印象に残った。脇坂のターンやトラップも秀逸。40分に1対1の決定機を逃したことは悔やまれるが、このシーンは今季の川崎としては珍しく、中央の狭いスペースをパス交換で崩した従来の川崎のイメージに近いチャンスになったシーンだった。
鳥栖がボール保持でペースを手繰り寄せた序盤に対して、川崎がボール保持で再び対抗することで盛り返す。そんな前半戦だった。
【後半】
こだわる川崎、展開に合わせる鳥栖
鳥栖のロングボールから始まった後半は前半と比べるとややオープンでゴール前のシーンが増える展開から。両チームの最初の山場は50分付近。オープンな展開でロングボールが増えると踏んだのか、フィジカル特化型の豊田を召喚。一方で川崎にはアクシデント。大島が負傷してしまい、守田と交代することになった。
もったいなかったのはその直前のシーン。家長へのタックルがファウルかどうか!という議論は置いておくとしても、そのプレー選択はもったいない。3対2を3対3にしてしまうドリブルのコース取りでチャンスを潰した格好になった。小林に早い段階で出しておけば、鳥栖の2人の選手に選択を強いることができたのにという観点から言ってももったいないシーンだった。もったいなさ過ぎて図にしてみました。
シュートまではいけない上に、大島は負傷するわで踏んだり蹴ったりな川崎。大島の交代はボール保持の質の低下に直結する。大島と交代した選手ハードルが上がっちゃう問題に巻き込まれた感のある守田は若干かわいそうだった。
川崎は2枚目の交代カードで脇坂→中村。トップ下は意地でも継続します!という気持ちが全面にあらわれた交代だった。大島を失ったボールの落ち着けどころは復活したところ、脇坂と違い自身がゴールを陥れる動きはやや不足気味。視野はさすがだが、単純にパスがずれる場面も目についた。フィニッシャーが小林以外不在という状況は鳥栖からすると守りやすいはず。というわけでボール保持は安定してきたけど、フィニッシュは迫力不足となる川崎。
逆に鳥栖は豊田を入れた分、ロングボールの比率は若干多くなったような。前半でも優位に立てていたセカンドボール回収に加えて、競り合いを強化することで終盤のオープンな展開を引き寄せようとしていた。そしてセットプレーも。実際もう少しのところまでゴールには迫った鳥栖であった。
フィニッシャー不足ということで川崎の最後の交代は長谷川に代えて阿部。2列目の中でも、打開力の齋藤ではなくスコアリング能力に長けた阿部を選んだのは、トップ下を使ったままフィニッシュ強化を目論んでいたからではないだろうか。というわけでいつの間にか大島抜きの2018年モデルになった川崎。鳥栖はプレビューで書いた通り、ライン間を潰すことを優先しながら対応。3枚目の交代カードとしてイバルボを入れたのは割り切りつつも、一発で勝ち点3を狙いに行った感はあった。
中村憲剛の投入でトップ下継続!ということで「そうか!崩しにこだわるんやな!」と思ったら最後はベンチからの指示で結局ジェジエウがパワープレーに打って出ることに。アディショナルタイムに急に力こそパワー!を始めたのはなんでなんだろう。試合はそのまま終了。両チームともゴールは生み出せず、スコアレスドローとなった。
まとめ
■驚きの立ち上がりから試合展開に合わせた修正
ボール保持率60%という驚きのスタートを見せた鳥栖。フィニッシュまでの道筋は両SHの個人技に頼るきらいはあるものの、ボール保持→中盤へのつなぎの過程は数的優位を維持できる仕組み作りが行われていて、川崎のプレスの狙いを絞らせなかった。高丘のミドルパスもとてもめんどくさかった。ほめてます。川崎のボール保持の時間も削ることに成功し、川崎のチャンス構築の機会を減らしていた。
後半に移り、オープンに試合が進行していくにつれて、豊田を投入した采配も納得。前半よりは支配力は落ちたものの、自分たちの時間帯がやってきたときには決定機を活かせるよう工夫していた。
新しい試みを織り交ぜつつ、現実的な勝ち点確保を両にらみした采配。勝ち点3には届かなかったが、健闘は見せた。クエンカ、安のドリブル突破以外のフィニッシュルートが見えればより得点力は増すはず。後半戦は金監督の新たなチャレンジに期待がかかるところだ。
■心中した4-2-3-1
試合後の鬼木監督のコメントや、この試合の交代カードを考えると、この試合は点を取るには4-2-3-1で心中!というのが鬼木監督のプランだったようだ。パス回しや崩しの精度は2トップ時と比べて高くなったものの、その分のゴール前の迫力は割引。割り引いただけの崩しの精度の高まりがあったかは微妙なところで、ボールを扱いにくい天候に加えて大島の負傷、さらには得点力と狭い局面の打開力を兼備した脇坂が途中交代というプランが決まっていたならば、途中で2トップにシフトして、ややアバウトな方向に舵を切ったほうがベターだったのではないか。後出しじゃんけんだけど。
パワープレーで前線に上がるジェジエウを見て、知念とダミアンは何を思うだろうか。
■戦力とどう向き合うのか
ここにきて90分間で4-2-3-1での打開を試みたということは、ACLを終えて去年のベースに新戦力を融合した形を模索しているとも考えられる。新入りも昨年のモデルについてきてね!そうじゃないと起用できないからね!みたいな。しかしながら、今年の川崎の戦力を考えると相手に合わせた色の変化はあってもいいというのが個人的な意見だ。伸びない勝ち点の中で、補強の声がファンから上がらないのは既存のスカッドのポテンシャルを信じている部分が大きいからだろう。そういう中で1つの形にこだわって引き分けに終わった結果をどうとらえるか。今季の補強の目玉であるダミアンをベンチ外にしながらも、前線の迫力不足を目の当たりにすると、もどかしさを感じざるを得ない。
もう1つ気になるのは、この試合の最後に披露した2018年モデルが思ったよりスムーズな連携を見せられなかったこと。天気や鳥栖のコンパクトな守備の影響もあるだろうが、今季のチャレンジがうまくいかなかったときの「保険」となりうる2018年モデルがさび付いているとなると、チームとしての危機感も一層切迫したものとなる。コンディションが上がらない中村をはじめとした昨年の主力の復調は後半戦の大事な要素になる。土台があってのチャレンジなのか、ぐらついている土台の再建が急務なのか。ここから数試合で川崎の状態を見極める必要があると感じる試合だった。
試合結果
2019/7/7
J1 第18節
川崎フロンターレ 0-0 サガン鳥栖
等々力陸上競技場
主審:上田益也