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「川崎式4-4-2を考えよう」~2019.6.14 J1 第15節 川崎フロンターレ×北海道コンサドーレ札幌 レビュー

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目次

【前半】
配置の優位を生かす

 川崎のビルドアップはいつも通り2CBと2CHが中心。札幌のプレッシングが激しくないことから、CHが最終ラインに落ちる動きはあまりない。その代わり、CHは中盤で段差を作る。高い位置を取るCHと、FWかSHが1枚落ちてきて(主に家長)を中盤で数的優位を作る。この形で後方から前線の選手に楔を通して中央から前進する動きが多かった。

 サイドにおいての川崎の狙いはWBをおびき寄せること。基本的には5-4-1のように撤退して構える札幌。しかし、1トップのジェイは守備においての行動範囲が狭い。そのため、基本は撤退しつつSBを監視するチャナティップや鈴木が仕方なく、CBまでプレスに行く事案が発生。川崎はSBとSHで札幌のWBをおびき出した裏のスペースを狙うことでサイドから狙っていた。

 このケースの例として挙げたいのは7分のシーン。このシーンでプレスをかけるために前に出ていったのはシャドーではなくCHの荒野。離さないようにマークには行けているが、相手には前を向かせている状態である。そのため、パスで前進されるリスクが大きい状態でチャナティップは前にプレスにいくことができず、中央に絞った位置から離れることができなかった。結果、浮いた車屋を捕まえに行った石川の裏を突く形で守田から家長にボールが出る。

 守田→家長の裏へのパスで局面打開は11分にも。このシーンは流れの中でポジションを入れ替わったチャナティップと石川がポジションに戻るタイミングを狙ったものだった。

 仕組みの話でいえば、この序盤は似た構成で臨んだ浦和戦よりもはるかに出来がよかったというのが個人的な感想だ。相手の出足の鋭さに怯んだ前節の序盤とは異なり、相手の前に出てきたプレスを利用したり、判断を強いてエラーを発生させたりという流れを再現性をもって実行できていたと思う。

 それでも決定機までこぎつけられなかったのは、そこから先の精度が浦和戦と同じだったから。中央では2トップがボールを収められず、連携も見られない。TMでは好調だった知念だが、4分にはスペースに出されたロングボールを収められず。自身で深さを作りながらほかの選手へスペースを供給する得意なシチュエーションなはずだが、あっさり跳ね返されてしまう。

 右サイドの突破も前節と同じで基本は家長、車屋がそれぞれ単騎で仕掛ける形。そこからがいい形を作れない。ゴールに近づいたといえるのはダミアンのシュートがソンユンの正面に飛んだシーンくらいだろうか。

 というわけで今節も序盤の崩しの頼みの綱は長谷川竜也ということになる。右は家長が裏を抜けることで形が完成!という感じだが、左は長谷川と早坂が正対して1on1になるところである程度完成!という感じだった。そこからの仕掛けでPKも獲得した。まぁ決められなかったけど。

【前半】-(2)
プレス位置<距離感

 札幌のビルドアップはプレビューで紹介したとおりソンユン、ミンテ、CHの4枚で形成するひし形を軸とする形。そのひし形に加えて、ビルドアップの助っ人として最終ラインに落ちてくるのはチャナティップ。ひし形+1で前進を狙う。

 5分にチャナティップがいた位置と入れ替わるように、福森がエリア内に侵入した形のように、低い位置からの数的有利と配置の入れ替えを駆使して前進するシーンが理想。ただ、この日は1stプレスを回避した後に簡単にジェイに蹴っ飛ばしてしまうシーンがあったのはかなり安全策を意識しているように感じた。昨季の7-0はプレスを回避できなかったところからのカウンターで仕留められまくった経験があるのだろうか。

 個人的には低い位置から1枚ずつずらされたほうが嫌な感じはしたのだが。例えば10分のソンユンがジェイに蹴ったシーンとかは、もう少しつないだ方がよいのではないかと思った。15分に進藤がエリア内に出したクロスみたいに、ジェイの周りに人がいる状態で長いボールは使いたい。

 川崎としては、このビルドアップに対しては0か100かで迎え撃ちたいところ。避けたいのは2トップだけでひし型を追いかけまわして、後追いした挙句、後ろが間延びすること。

 川崎としては一番下のケースを避けたい。序盤は比較的避けることはできていた。10分前後のシーンでは前線とSHが連携して、捕まえることができるケースが多かった。しかし15分を過ぎたあたりから徐々に様子が変わり始める。ビルドアップの起点として札幌の後ろ側で福森が預けどころとして機能。後方も徐々に場当たり的な川崎のプレスに慣れてくる。チャナティップもビルドアップの手伝いをやめたことで、ジェイの近くでプレーできるようになっていった。ジェイとチャナティップの距離感が近くなることでカウンターの威力は増していく。

 札幌の守備も変化をつける。ミドルプレス気味の設定から、より割り切った5-4-1でPA手前まで撤退するように。ジェイが大島を追いかけまわしているのは趣深かった。奪う位置が低くなっても全体がコンパクトであればいいし、放っておけば川崎は全体の重心あげてくれるっしょ!的な。

 札幌は最近の川崎対策としてはおなじみになりつつある片側サイドへの封殺を敢行。サイドを封鎖されたなら、なんとか中央や逆サイドからこじ開けたいところだが、札幌のコンパクトな中盤に加えて、この日は大島のパスの精度が低く、パスミスにて被カウンターの起点になってしまっていた。

 さらにはPK失敗を早く取り戻したいダミアンと、ほかの選手でプレスの判断にギャップが出るようになる。もう1人のプレス隊の知念が警告を受けるとその傾向はさらに拍車がかかることに。自陣深い位置で落ち着いてボールを持てるようになった札幌は人口密度が増した前線に長いボールを蹴るようになる。

 それが実を結んだのが36分過ぎのPK。徐々に増えてきた対角線上のエリア内へのボール。大外に石川がいて難しい対応だったのは承知だが、内側にクリアしてしまった車屋はあまりよくない対応だった。逆に体格で劣るチャナティップは体を入れて車屋に難しい対応を強いた。こぼれ球にジェジエウよりいち早く反応したジェイが殊勲のPKを獲得。これを決めて先制する。

 その後も長谷川の突破以外は活路を見いだせないままの川崎。知念の決定機を逸したシーンは悔いが残るかもしれないが、ソンユンがシャットアウト。札幌リードで前半を折り返す。

【後半】
狙いは左右均質化?

 ダミアン→小林の交代、車屋と登里のサイド入れ替えが鬼木監督のハーフタイムの決断。後半は鬼木監督の采配の意図を考えながらレビューを進めていこうと思う。コメントから単純に拾っていくとまず、ダミアン→小林の交代の意図としてはおそらく各所で動き回ってタッチ数を増やしたいという部分によるものだろう。そして車屋と登里のサイドの入れ替えは「左が単騎突破できるから、右でオフザボールの動きにより優れた登里でスペースを突きたい」的な意図があったことが読み取れる。

川崎フロンターレ オフィシャルWEBサイト最新のお知らせ、チケット・等々力競技場の情報、試合の情報・結果、選手・スタッフ紹介、アカデミーの情報など、川崎フロンターレwww.frontale.co.jp

 リアルタイムでは自分を含めたサポーターの頭の上に「??」という文字が浮かんでいたこの交代。しかし、サポーターの戸惑いを尻目にこの交代は効果を発揮することとなる。

 まずはサイド裏の攻略。登里を逆サイドに配置することで、横幅を単騎だけでなくコンビネーションで崩そうと試みる。大外は「そこにいるだけでいい!」的な側面もあるが、登里はこのチームはトップクラスの「そこにいてくれる」プレイヤーである。

 いろんなところに顔を出すと決めた小林悠がボールに触ることで前線もコンビネーションが復活。相手を自陣に釘付けにできたおかげで、CBとCHも高い位置からのボール奪取を敢行しながらのハーフコートゲームを札幌に強いることができた。

 というわけでここからはカウンターを警戒しつつソンユンをどう乗り越えるかというのが川崎の命題になりつつある。深井、荒野の連続パスミスからの川崎のカウンターは札幌の致命傷になりかねなかったが、片方がソンユンがキャッチ、片方は大島と知念の息が合わずにフイにしてしまう。

 なんとか得点にこぎつけたのは69分のこと。右サイドからのクロスを合わせたのは小林悠。浦和戦に続いて登里のいるサイドのクロスからのゴールである。登里の配置転換で死んでいた右サイドが普通に復活していたので、本当に最近の彼はエグい。俺は毎試合褒めている気がする。右でもストッパーとして機能したり、左に戻したらちゃんと深くえぐれるようになった車屋も偉いけど、逆におかれても左と同じくらい機能する登里は偉い。

 ペドロビッチはここでアンデルソン・ロペスを登場させる。対する鬼木監督は齋藤学を投入。おそらく、サイドからの崩しの質の改善を狙ったものだろうか。しかし、この日の齋藤は精度がイマイチ。サイドの崩しの助けにはならず。最後に投入した山村も高さ要員+ミドルシュートのパンチ力期待での投入だったけど、そんなにエリア内にガンガン入り込む感じでもなく、普通にサイドでの崩しに顔を出したりしていた。いいのかそれは。

 試合はそのまま1-1で終了。川崎にとっては等々力では3試合連続の1-1のドロー決着となった。

【おまけ】
個人的采配考察

 さて、なるべく鬼木監督に寄り添って采配を考えてみたが、気になる点はいくつかある。

①知念→ダミアン、登里と車屋の配置転換

 深さをもってボールを収められる知念だが、この試合においてはそのボールキープを見せる場面はわずかだった。本人は後半は前半よりは手ごたえを感じていたものの、カウンターのコース取りが悪く、味方と息が合わない場面が二度ほどある。個人的にはかなり大きくため息をついてしまったシーンだ。

 鬼木監督はダミアンでの交代理由の1つにサイドに顔を出すことを求めていたといっていたが、そもそもこの布陣でFWにサイドでの仕事を求めることが必要だろうか。誰でも点を取れるイメージがあるかもしれないが、現状の川崎はサイドからのクロスをFWに合わせる形がほとんど。MFで複数得点を記録しているのは阿部と脇坂のみで、その2人はこの試合でベンチを温めたままだった。守田はPA内での精度に苦しみ、家長も無得点のまま。足に慢性的な不安のある大島に上下動を求めるのはリスクが大きい。車屋には深い位置までの進出は期待できず、長谷川と登里は手前の崩しの局面における切り札だ。

 サイドでの崩しから、最終的にフィニッシュの局面で中に入ればいいという考え方もあるはず。もちろんそれは理想形だ。しかし、そのような人数をかけた形での崩しをサイドでやりたいならば、現有戦力で崩しの最強ユニットである長谷川と登里を解体する点に疑問が残る。長谷川と登里を異なるサイドに配置することはサイドからの崩しをシンプルにして、中でFWが両サイドからのクロスを待ち受けられる形にするためではないだろうか。登里と車屋の配置転換は両サイドでシンプルな攻略からのFWの得点を狙うための手段ならば、サイドに流れる部分は気にしないもしくは小林に任せて、密集の中で仕事が可能なダミアンを残した方がよかったのではないか。

②知念→齋藤

 齋藤を入れるならば2トップを維持したままにしてほしかったというのが個人的な感想である。サイドでの攻略は齋藤を投入せずとも比較的機能していたし、投入するにしても中のクロスのターゲットの枚数は維持したかった。そのあとの山村の投入で減らしたクロスのターゲットを再度増やしている点とも矛盾するのが気にかかる。

③脇坂の起用について

 アンケートを取ってみたけど、みんな脇坂の起用は早ければ早いほどよい!とっとと入れろ!っていう感じ。投票してくれた人ありがとう。このレビューの引用リツイートとかで投票理由とか教えてくれると喜びます。

 僕の考えはこのツイートで示した通り。なので、2トップとしてクロス爆撃が機能しだした後半の時点では投入することにはやや否定的。PA内での得点感覚に優れているとは言え、本職FWに代えて投入するのは反対。仮に後半投入するとしたら山村投入した場面における最終局面でボランチとしての交代だろうか。

 4-2-3-1でスタートから脇坂を起用する場合は、2トップを解消することで2列目の得点力低下が懸念される。崩しの肝になっている長谷川の逆サイドハーフに小林を配置するなど、得点力を維持する工夫が必要ではないかと考える。

 以上、この試合の采配についての個人的な見解を述べてみた。

まとめ

悔やまれる離脱者

 ついに初めてリーグ戦で等々力から勝ち点を持ち帰ることに成功した札幌。鈴木武蔵は等々力で初めて得点した札幌所属の日本人選手となる。序盤は慌てたものの川崎のプレッシングとボール保持の弱点を読み切ることで、ペースを引き戻し先制点を確保。昨季苦しみまくったプレス回避の課題はしっかりクリアして、チーム力の向上を知らしめた感はあった。

 惜しむらくは故障者が多かったことか。復帰直後の選手が多い前線はもう少し高パフォーマンスを見込めるはず。またWBに離脱者が多かったのも痛手で菅、L・フェルナンデス、中野、駒井のうち1枚でもスカッド入りしていればソンユン、福森、進藤の大きな展開がもっといきていたかもしれない。後半の失速は悔やまれるが、ソンユンを中心になんとか守り切った。川崎のCFにポストプレーを許さなかったCB陣も褒められるべきだろう。思うようなプレーできない時間帯をこの日のようにしのげれば、パンチ力のある前線で上位陣相手に勝ち点を重ねることもできるはず。念願のACL進出に向けて、まずは故障者の復帰が待たれる。

待望論とどう向き合うか

 追いついて負けなかったことはポジティブだが、前半戦でボトルネックになっていた部分は前節と同じ。2トップが起点になれず、互いに連携もままならなかったのは浦和戦と全く同じ。右が単騎頼みなのも前節と同じ。試合が進むにつれ徐々に長谷川への依存度が高まっていった。配置で優位に立っていた序盤をしのがれた後は、攻撃の構築のちぐはぐさとプレスのあいまいさを露呈。

 失点には絡んだものの、ストッパーとしての役割を果たしていた車屋はともかく、相手のWBを釣りだして2対2の状況を作った後でも、崩しの局面で違いを作れない2トップはなかなか難しい。得点はほぼ3人のFWで生み出されているものの、崩しの貢献度が上がらなければ脇坂待望論が出てくるのも無理がない。配置でうまくいっても、仕留める形で工夫がなければ、クロスをFWで決める形以外からの得点は望みにくい。

 大型補強を敢行したものの、ACL敗退とホームでの引き分けの多さでサポーターのフラストレーションはややたまり気味。個人的な経験則を述べれば引き分けの方が多い無敗記録は、記録が止まるとガタガタ負けを重ねる印象が強い。現状では2位にいるものの、内容も含めるとやや危険水域に足を踏み入れつつある感も否めない。2週間空いて、何かと因縁めいた磐田との次節の巻き返しに期待したい。

試合結果
2019/6/14
J1 第15節
川崎フロンターレ 1-1 北海道コンサドーレ札幌
【得点者】
川崎: 69′ 小林悠
札幌: 39′ 鈴木武蔵(PK)
等々力陸上競技場
主審:山本雄大

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