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「『持たせた』と『持たれた』の境界線」~2019.4.28 J1 第9節 ヴィッセル神戸×川崎フロンターレ レビュー

 プレビューはこちら。

前節のレビューはこちら。

目次

【前半】
システムの神戸、スキルの川崎

 両チームとも非保持に問題を抱えながら、ボール保持では前に進める展開になった。
 神戸のビルドアップはCBが大きく開く形。CBが大きく開いた間にCHが落ちてGKとCBと菱形を作る形である。

 川崎の2トップに対して、ここまで進むのは簡単。その先は外を使うことが多かった。この両サイドの仕上がりがアシンメトリーだった神戸。神戸の左サイド側はイニエスタが落ちてくる頻度が高かったこともあり、結構脅威だった。古橋が中に絞って三原が上がることでパスコースを確保。齋藤学は大崎にプレスをかけたり、イニエスタのために内側に絞ったり、すんごいフリーダムなプレスを一人展開していたので、4分にはサイドを駆け上がって相手陣に侵入してきた三原の対面に知念がいるというしっちゃかめっちゃかシチュエーションが出てきた。頑張った知念。
 そんな左に比べて、右はどういう仕上がりかというと小川と登里が裏を取り合うという裏取りタイマンが開催。小川が引いて受けれればもっと面白いんだろうけど、サンペールや西がひたすら裏にボールをけり続けていた。登里は裏取りタイマンは望むところだろう。対人強いのです。

 フィードが出せるダンクレーは比較的放置気味。イニエスタはいるけど、連携が怪しい三原と大崎のラインの神戸の左サイドを手厚めに狙う!が川崎の指針だったと思う。本職のSBじゃないながら実直に職務をこなすイメージのある三原がサイドを駆けあがって、いろんなことをやりたそうな西が裏にひたすらボールをけり続けているあべこべ感。それでいいのか。まぁそれでもイニエスタが流れれば、そのサイドはボールが回るという現象はあった。イニエスタは世界屈指の交通整理員。

 川崎のボール保持は2CBと2CHのスクエアが基本線で、足りないときはCHが降りてくる。神戸ほどはっきりとはCBは開かない。運動量に定評がある古橋と小川に加えて、ビジャとイニエスタも高い位置から奪う意思を見せた序盤。川崎の後方にはっきりとした陣形の変化はないため、配置的にも嵌めやすい神戸。この日はトップ下と阿部が不在なので前方のボールを引き出しのお手伝いはいつもより少なめ。登里が危険なロストをした時は「長谷川もっと助けてあげて!!」といいたくなる場合もあった。

 そんな川崎のプレス回避術は原点回帰。対面の相手を手玉に取ること。下に挙げたのは6分30秒のシーン。登里が対面の小川が消しきれないコースで知念に楔を入れる。引きながら受けた知念がダンクレーを釣りだすとそのスペースに長谷川が入っていく。鉄砲玉感の強いプレスにひるんでなんかいられるか!感が見えたプレス回避。熟練の技で「人よりボールの方が速いんだぜ!」とも言いたげな感じだった。

 神戸はシステムで、川崎は判断速度とスキルでそれぞれ前進する機会が多く、ともに非保持で問題点を抱えつつも一進一退の攻防だった序盤戦だった。

【前半】-(2)
神戸のビルドアップのボトルネック

 一進一退の中の勝負を分けるのはスーパーなタレントである。神戸ならビジャやイニエスタ、そして川崎ならばもちろん大島僚太だ。先制点のFKにつながるワンタッチパスを知念に通したのが大島僚太。このシーンでマークがきつい大島に、これまたワンタッチでパスを通したのは舞行龍だ。パス交換から粘り強く、大島が浮くその時を待ちながらワンタッチで一気に入れる。奈良とは違う持ち味のパスワークでリズムを生み出す。彼もまた馬渡和彰(彼のFKもスーパーだ)が生んだ先制点の黒子役だった。

 川崎が先制点を取ると焦りが出てくる神戸。川崎をなんとなく苦しめていたミドル以上ハイ未満のプレスもやや後手に回るようになる。齋藤学がSHとしては絞り気味の中央でボールの受け手になっているのは、相手からすると対応しにくかったかもしれない。ボール保持においても川崎のプレスは強気を継続。神戸のビルドアップでボトルネックになっているのは大崎ー三原のラインに加えてキム・スンギュ。サイドバックにボールを正確に素早く届けたい意志は伝わるのだが、いかんせん技術がついてこないようで、後方からのやり直しに関してはチームとしてややためらわれる感じになるだろう。

 後方からのボール回しが不安定になれば、登場するのはイニエスタ。低い位置でボールを回すイニエスタ。まさしく浦和戦のポドルスキのように、もう少し高い位置で触りたいけど・・・仕方ないか・・・。っぽくなってしまっている。イニエスタのプレーエリアが下がると、神戸のボールロスト後のプレスもかかりにくくなる。というわけで先制点を境に徐々にペースは川崎が握ることとなる。

 残された前半のトピックとしてはほぼ同時に両チームがサイドハーフを入れ替えたこと。その効果がすぐさま表れたのが川崎。山口のコントロールミスをかっさらった田中。オーバーラップしている西の裏に侵入した齋藤のケアに出てきたダンクレー。ダンクレーがいなくなってスペースに知念が抜けることで今度は中央のスペースが空く。あれだけ空いていれば小林がそのスペースに入り込まない方が不自然というもの。山口のミスの後、どこかで食い止めるとしたらおそらくダンクレーのところだった。後ろが理不尽がツケを払わなきゃいけないのは、前傾チームのDFの悲しき宿命である。谷口からしたら、試合後にダンクレーを飲みに連れていきたいくらい気持ちがわかるかもしれない。9節にして初ゴールを挙げたキャプテンの追加点で、川崎は2-0でリードして前半を折り返す。

【後半】
落とし穴はゲームクローズにあり

 プレビューで紹介した通り、後半開始から15分は今季神戸が5得点と最も得点を重ねているうえ、失点もしていない「炎の時間帯」。というわけで一気呵成をかけてくる神戸。のはずだったのだが、立ち上がりからどうもリズムがつかめない。原因としては中盤中央の空洞化。イニエスタが降りていくのは相変わらずで最も前を向きたい第3レイヤー(相手のDF-MF間)はおろか第2レイヤー(相手のMF-FW間)にも選手がいないのだ。かといってシャドーが楔をバシバシ受けられるミシャ式でもない。というわけで中盤中央を無理目に通したパスにより、田中のインターセプト数だけが増えていくという後半の立ち上がりになった。川崎の1stプレスのラインは先制後から徐々に下がっていき、相手のMFに第2レイヤーでプレーさせないことを優先。唯一第2レイヤーにいることが多かったのは山口くらいのものだった。

 FWのプレスラインを下げる、そして第2レイヤーで相手に前を向かせないことを優先する。そうしてサイドに誘導。でもクロス上げても高さ、無いでしょう?サイドに絶対突破できるマンいないよね?
 まさしく川崎がやられて嫌なことを実践しようというやつ。ゲームというのはルールの範囲内で相手が嫌がることをするものである。この日の川崎は多少押し込まれていても、長谷川と齋藤という独力で陣地回復できる選手が2人もいたのもでかかった。そしてなんといっても田中碧である。攻撃にも躍動。インターセプトもこなしつつ、イニエスタ番を全うしたし、気持ちよく眠れたのではないか。あと69分の飛び出しは完全にラムジー。きっと川崎のラムジーになるんだね。。

 徐々にCBがドリブルで運んでみたり、フレッシュな郷家でサイドを何とかしようとしたりなど、アプローチを始める神戸。どれもブロック崩しのアプローチとしては正しい。そして2枚目の交代カードはサンペール→三田。出し手よりに第2、第3レイヤーの受け手ほしいよね?っていう交代だった。
 フレッシュなサイドアタッカー、中盤中央の受け手補充と手を打ってきた神戸に対して、動かない川崎。確かに放っておけば3点目が入りそうな気もしなくもない。メンタリティとしては3点目を取りたいけど、ちょっと動きにくいぜ!と指揮官の心中を察するとこんなところだろうか。阿部がいたらおそらく速攻で投入していたと思うけど。

 78分の郷家のシュートから流れは明らかに神戸に傾く。相手を押し込み始めたときに前半は孤立気味だったビジャの近くには三田が、そして押し込んているのでSBが大外に進出できるので、シャドーも絞り気味に。前半と違ってビジャが孤立しないようになってきた神戸であった。

 両サイドバックが人が集まる中央に圧縮され、大外が空いてしまった川崎。徐々に中も外も使えるようになってきた神戸。わらわら中央に集められてしまい、制御が効かなくなった川崎が失点したのは82分のこと。アシスト未遂のクロスを送ったイニエスタ、そしてPA内で冷静だった郷家と古橋はさすがである。

 とりあえず得点前から準備していた山村をひとまず入れた川崎。選手たちはプレーテンポは落としながら、試合をクローズしたそうに見えた川崎だけど、交代した知念と全く同じ位置でプレーしだしたのは驚いた。ビジャの負傷のシーン以降はCHに入って4-5-1気味になったけど。これがこの場面で投入された田中順也の投入によるものならいいんだけど、単純に山村投入時に指示があまり伝わっていないのだとしたら、結構危うい5分間を過ごしたように思う。川崎はこういうカオスにおける盤外での駆け引きというか、したたかさに欠けたり、詰めが甘い部分がある。北関東方面にめっちゃしたたかなチームがあるから、少しだけ見習うといいのかなと。
 2列目を5人にしてからも大外はケアできなかった川崎。ゲームのクローズの仕方はかなり危ういところはあったものの、何とか逃げ切りリーグ戦3連勝を飾った。

まとめ

 これでリーグ戦は4連敗。揉めたリージョを解任した後も成績が振るわない神戸。ポドルスキがピッチの外でも話題を提供するなど、チームの状況はなかなか上向かない。吉田監督のもとで何をするかというのは非常に難しいところではあるけれど、あくまでピッチにいるメンバーを基準に考えるなら、ショートパスを軸に第2、第3レイヤーで相手の嫌な立ち位置で受けるサッカーがマッチしているように思う。それならおそらくGKは前川の方がいいし、そこはミスしてもいいというか、個人的にはどっしり構えてもいいのかなと。走れる選手で激しく!っていうのと、でもビジャとイニエスタはよろしく頼むぜ!っていういいとこどり感はちょっと危険な感じもする。もしかすると少しメンバーを代えても、彼らとともにプレーする時間が長ければ、いわゆる目がそろう現象があるかもしれないけど。山口とか、ボールの受け方とか出し方がせっかくよくなってきたところなのに。グアルディオラの薫陶を受けた選手が急成長をすることを「魔法をかけられる」とかいうけど、まさしく山口は魔法をかけられている最中だったような気がする。不完全変身にならなきゃいいけども。あとサンペールはポドルスキとイニエスタを一番脅威になる位置に置くためには使わない手はないと思う。
 いずれにせよ、チームの方針、監督の人事など諸々が先行き不透明な神戸。今季の再注目チームは、開幕前とは違う意味で注目されている。もう一度チームの形を作り直すことができるだろうか。

 ゲームクローズはバタバタながらもなんとか逃げ切った川崎。これでリーグは3連勝。負傷者の数を考えれば、いくらクローズがバタバタだろうと大喜びしていい勝ち点3だ。この日MVP級の活躍をした田中碧は試合後のコメントで、以下のように述べている。

「自分たちがいかに誘導させてパスコースを少なくして、自分たちが取りたいところでボールを奪うか。そこが大事だと思っていました。自分たちが意図的にボールを持たせている感じになったと思う」
(
https://number.bunshun.jp/articles/-/839181?page=2)

 確かにこの日の川崎は相手より低い保持率ながら試合をコントロールできた。今後の戦いで自身になる部分だろう。しかし、相手にボールを「持たせていた」と表現できるのは78分まで。それ以降は相手にボールを「持たれている」といっていい展開。このメンバーでボール保持で神戸を上回れないのは仕方ないし、そういう時にボール保持とは違うアプローチで試合をコントロールできるならむしろ個人的には大歓迎である。しかし、締めるべき試合の終盤で交代枠を使わないまま、相手にカオスに持ち込まれたのは事実。本文中でも触れた交代選手へのベンチワークも含めて、そこは課題として今後改善していくべき事項のように感じた。勝利を喜びながらも選手もベンチも課題を抽出し、次の勝ち点3に向けて準備を進めていることだろう。

試合結果
2019/4/28
J1 第9節
ヴィッセル神戸 1-2 川崎フロンターレ
【得点者】
神戸: 82′ 古橋
川崎: 15′ 馬渡, 37’ 小林
ノエビアスタジアム神戸
主審:松尾一

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