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「ようこそ、長谷部監督くん」〜川崎フロンターレ 個人レビュー2024-FW編

 ここまではこちら。もうすぐ開幕だな。

目次

FW

9 エリソン

中盤以降に見られたアラと向き合う姿勢は見られる

 プレシーズンマッチで大暴れからのACLでの早々のゴールとシーズンで出だしは快調だった。爆発的な加速力を生かしたロングカウンターとハイプレスは単独でチャンスを作れる馬力を持っており、移籍したレギュラー選手が多いシーズン序盤の川崎にとっては単騎で状況を切り拓けるエリソンは貴重であった。

 その一方でシーズンが進むにつれて粗が出てきたのも確か。爆発的な加速でゴールに突き進むのが得意なのは分かったけど、背負ってのプレーは?とかクロスに入ってくる動きは?とか、そういった得意な部分以外のプレーで気になるところが増えてくる。この点は攻撃の起点としての機能を求められてきた川崎のFWの系譜にはマッチしない部分なのだろうと思う。

 守備に関しても意欲的なのは悪くはないのだけども、味方とつながる意識はあまり濃くはなく、かつフラストレーションをぶつけるようなアプローチが多い。その結果、不用意なイエローやもめ事を起こすことも少なくなかった。こうしたプレーの質の面に加えて、筋肉系の負傷が重なり、シーズン中盤はかなり序列が下がってしまった感がある。

 しかしながら、ゴミスの退団や4-4-2へのフォーメーションチェンジによってシーズン終盤は少しずつ出番が増加。得意ではないポストプレーやゴールに向かわないオフザボールからの味方へのスペースメイクといった部分にも少しずつトライをしており、プレーの幅を広げている印象。守備におけるプレスバックもシーズン序盤と比べれば改善はみられる。

 3年契約という長い付き合い、そして25歳という現在の年齢を考えればまだまだ苦手分野の向上は見込めるはず。福岡で外国籍FWをうまく起用してきた長谷部監督のもと、飛躍するシーズンを迎えたいところだろう。

11 小林悠

数字以上にポジティブな印象の要因

 結論から言えばとても評価が難しいシーズンだったといえる。印象で言えばおそらく多くのサポーターにとっては昨季よりもよかったように思う。しかしながら、数字で言えば公式戦のプレータイムは昨季より100分ほど多いものの、ゴール数は公式戦換算で昨季よりも1少ない4得点と目覚ましい何かをもたらしたわけではない。

 今季も負傷には苦しんでいたし、エリソンの項にも書いたがCFを含む前線が前進の形を決める今の川崎においては、J1レベルのCBを背負うことが出来ないというフィジカル面での衰えは大きなマイナスになっている。ここは昨季と比べて大きく変わっていないということだろう。

 だとすれば、今季の小林悠の印象がいいのは、数字の残らない面でチームの課題となっている部分を解決したからなのではないか。そんな仮説が浮かび上がる。

 真っ先に思いつくのは4-4-2でのプレスの旗頭としての貢献度の高さだ。今季の川崎を見ればプレスを機能させるには運動量ではなくチームとして前から連動したつながりを見せられるか否か?に帰結するということが大事。動ける選手をおいても、無秩序なプレスを乱発するだけでは効果がないということを身を持って証明したシーズンだといえる。

 そういう意味では蔚山戦で見せていた出て行くところと出て行かないところの押し引きを旗頭として見せた小林は唯一無二の働きだった。我慢をしつつ、詰めるところは詰めるというところでSHあるいは後方のCHと連携してボールを奪うための道筋をきっちり敷くことが出来たCFは今季の川崎で彼一人だった。

 ゴールも非常に印象深いものが多い。真っ向からぶつかっていっても弾かれる分、駆け引きを怠らず、動き出しの巧みさで相手のマークを外すというところも力押しが目立った今季の川崎の中では異彩を放っていた。

 冒頭に述べた小林に対する好印象は自分も同じ。その心を紐解くのであれば、苦しい時に勝負できる手札を見極めて、戦えるフィールドで戦うというベテランらしい経験値なのではないだろうか。

17 遠野大弥

コインの表と裏である短所と長所

 まずは家長と同じく稼働のコンスタントさが大きな加点ポイント。怪我の多いスカッドにおいて多くのポジションで起用の目途が立った遠野が通年稼働しなければ、川崎は多くの大会を並行したシーズンを過ごすことはできなかった。ここは今季に限らず、遠野が在籍した過去のシーズンを含めて総括できる部分といえるだろう。

 その一方で内容面では相変わらずムラがあった。豊富な運動量はオープンな展開では生きやすい反面、カウンター時の判断の悪さという積年の課題は今季も改善が見られず。ドリブルにおけるコース取りや、ボールをリリースするタイミングの悪さで目に見えにくい形でチャンスを潰すことも多々あった。

 もちろん、これは前に出て行くことが出来る脚力があるからこそ可視化される欠点でもある。そういう意味では遠野の推進力という長所とカウンター判断の悪さというのはコインの表と裏のような関係だ。

 守備においても豊富な運動量をあまり生かせていないのは同じ。単騎のプレスは距離が遠く、交わされてしまったり寄せる前に回避されたりなどあらゆる動きで無効化されることが多数。家長、マルシーニョと比べて献身的な姿勢があったのは確かだと思うが、それが実際の守備に高い効果をもたらせていたかといわれると個人的には懐疑的な部分を拭うことが難しい。シーズン終盤にはSHで起用されながら守備に戻らず、サイドの立ち位置も守らないという家長的な振る舞いを目立つなど規律的なところも疑問視される形でシーズンを終えてしまったのも残念だ。

 2024年のゴミスとの関係性や、それ以前までのダミアンとの関係性を考えるに、2トップに明確なターゲットマンがいた方が活きるのは間違いなさそう。なお、アンロペがそのタイプかは怪しいところだと思っている。自らが何かを生み出せるかが問われることになるというのは横浜FMでも変わらない課題になるだろう。

 長所としてもう1つ付記しておきたいのはカップ戦での勝負強さだ。川崎の4年間において決めた21得点のうち、11得点は国内外のカップ戦におけるもの。プレータイムを計算してみると、リーグ戦とカップ戦の割合は7:3だったので、これは明確な傾向だろう。チームを救った得点に思いを馳せながら、新天地への健康を祈念したい。

20 山田新

目の前には2つの道

 「24歳のストライカーが(38試合制に変化したとはいえ)シーズンで19得点を挙げた」という事実をもしシーズン前に知ることが出来ていたとしたら、おそらく掛け値なしで素晴らしいと称賛していただろう。ただ、実際のところこのストライカーは高評価と低評価の試合を繰り返しながらのシーズンになっている。試合によっては多くのサポーターから文句を言われながらもこの数字に到達しているのは単純にポテンシャルの高さを示していると思う。

 やはり魅力となっているのはその猪突猛進ぶりだろう。どんな状況でも貧欲にゴールに向かう姿勢は明らかに川崎では唯一無二。歴代のストライカーと照らし合わせてもこの部分はトップを張れる部分にあるだろう。2,3人を交わして強引にシュートまで持って行くという点では明らかに違いを作り出せる存在だ。

 それゆえにCB相手のマッチアップに優位を握れた試合ではその効果を最大限まで高めることができる。文字通り、コテンパンに相手をやっつけることも多く、やれたチームのサポーターにはトラウマを植え付けていたように思う。

 加速したら止めにくいという性質ゆえに、オープンな終盤戦に強いのもストロングポイント。今の川崎には試合を制御しながら進める力はないし、相手も静的な展開を好んだり実装したりできるチームは少ないので、そういう状況においても山田の推進力は脅威を与える。

 反対に対面のCBにアドバンテージを握れなかった場合はマイナス面が非常によく目立つのも山田の特徴だ。もちろん、そういうケースはストライカーにはよくある話ではあるが、味方のために潰れるなど黒子的な働きはとても苦手。アドバンテージが握れない相手に対して、ひたすら反転を繰り返したり、2,3人がいるところに突っ込んでいけばロストしてしまうのは当たり前である。

 そういう試合では守備でも得てして空回りすることが多い。強引に前から1人でプレスに行った結果、無駄に中盤に負荷をかけるか、そもそもフリーズして全く守備で貢献できないパターンも。守備での貢献は気まぐれで基本的には攻撃へ多くの意識を向けるタイプのストライカーという位置付けだ。

 普通に考えれば、コテンパンにできない相手に対しての組み合い方を是正すべきというのが課題の提示になる。強引に反転をするのではなく、ポストから味方との連携を促したり、あるいは2,3人の密集に突っ込むことは避けるべきというのが当然の考え方になる。

 だけども、山田に関していえば強引なターンや普通の人にとっては無理な密集を打開することで活躍をした選手である。そういった選手に対して「強引に突っ込むな」というのはちょっとナンセンスな気もしないでもない。

 けども、強引さがいい方向に向かない試合における貢献度の低さが際立っているので、その点はどんな方法を使ってでも是正する必要があるのは間違いない。理屈に沿ったクレバーなプレー選択を身につけるのか、強引な手段を使ってももう誰にも負けないかのどちらかが改善策になる。

 個人的には今後のキャリアを見据えた時には前者の改善のルートの方が楽かと思う。けども、山田っぽさを考えるのであれば、後者のルートの方がイメージはつきやすい。どちらのルートで大きくなるのかを見守るのはとても楽しみだ。

23 マルシーニョ

マイナスを潰す上積みは叶うのか?

 前進の仕方が今年も整備されなかった川崎において、やはり裏抜けのアクションでアドバンテージを作ることができるマルシーニョの存在は唯一無二。いきなり裏を狙うという手段の是非はもちろんチームとしては問わなくてはいけないが、悪い時はとにかく足元で受けたがるという川崎のアタッカー陣の特性を考えても助かるのは確か。背後を狙うアクションに救われる試合は今年もたくさんあった。

 数字という面でも今年は悪くないシーズン。2024年のリーグ戦は9得点。2022年の12ゴールに続き、キャリアで2番目に多くJリーグで多くのゴールを決めている年となった。

 数字ほど評価がしにくい理由は2つあるように思う。1つは個人のせいとは言いにくいが、彼がゴールを決めた試合では勝利がとても少ないこと。今季ゴールを決めたリーグ戦はじめ6試合はいずれも得点が勝利に結びついておらず、勝ちに貢献することができていない。

 勝利した3試合においても、2試合は複数点差勝利の試合でのダメ押し弾(町田戦、福岡戦)、1試合は乱打戦バカ試合での道中のゴール(東京V戦)。彼のゴールが「勝利のヒーロー」として脚光を浴びる機会はとても少なかった。ヒーローとして明確に位置付けられるのはアウェイで蔚山を下したACLの開幕戦だけだろう。

 いいイメージが少ない理由のもう1つはマイナスアクションの多さだろう。抜け出しから決めきれない!というのは自分で作り出しているチャンスを勝手に捨てているだけとも取ることができるので仕方ないとしても、やはり年間で3回という退場はあまりにも多すぎる。

 特に横浜FM戦、上海申花戦ではプレー開始から間もない危険なプレーでの退場でチームを数的不利に追い込んでおり、この点では擁護の余地はない。常に退場のリスクと隣り合わせというのはなかなか難しいところ。前から機能的な守備を要求するであろう長谷部監督の元ではよりこのリスクが顕在化してもおかしくはない。

 長所がはっきりしており、その点が他のアタッカーと明確に被らないので、差別化という観点では申し分ない存在。そういう中でどこまでマイナスを溜めるプレーを減らせるかがキーポイントになる。軽率なプレーでチームを追い込まないのは最低限、抜け出した後のクオリティと守備貢献での貢献で上積みができれば最高だ。

24 宮城天

まずは20人枠入りを目指したい

 2023年の12月に半月板の負傷に伴う手術を決行。率直な話をすれば、この手術で2024年のレンタル移籍の扉は事実上閉ざされてしまったので、戦力としてきっちりカウントされてのシーズンインだったのか?というのはそもそも怪しい。

 どちらにしてもキャンプをまるまるフイにしてしまったのは確かであり、序列が高くない中で不利を背負ってしまったシーズンになったのは苦しいところ。スカッド全体に負傷者が多い中で主戦場である左のWGに関してはマルシーニョ、遠野、山内と比較的負傷に無縁のシーズンを送った選手が揃っていたというのも不運だった。

 少ないプレータイムの中でアピールをしたい!という意気込みを感じはしたが、いかんせん試合勘のかけたプレーは目につくし、少ない時間でも守備でのアラは目立つ。そういったプレー内容に先述のスカッド事情を掛け合わせればプレータイムが伸びないのは必然だろう。

 2025年はベンチが9枠になるため出場のチャンスは広がる可能性がある。まずは試合に絡む「20枠」の1つを確保すること。そこから始めるシーズンになるだろう。

32 神田奏真

ラッキーボーイなだけではない

 2024年の公式戦でのプレーは8分。その中で記録したのは1ゴール、1アシスト。追加タイムはおそらくプレータイムに加算されていない計算だろうから、実際のプレータイムはより長いと思うが、スコアに絡んだ相手はブリーラムと山東泰山であり、いずれもACLであることを踏まえればインパクトは十分だ。

 ラッキーボーイ的な側面にフォーカスされがちだが、限られた時間でのプレーはとても印象に残るものだった。カウンターにおける緩急の付け方は非常に質が高く、自らでの仕掛けを匂わせるつつ味方を使うことの両方を突きつけることができている。プレーの速度をイタズラに上げて解決を図らないため、1つ1つのプレーの質が高いのも素晴らしい。

 山東泰山での山田へのアシストも見事。動き出しでギャップを作りつつ、インサイドの状況を認知し、逆足で正確なクロスを送る。ワンプレーに長所が詰まっていた場面だったと言えるだろう。先に挙げた減速の上手さも含めて個人的には非常に好きなスタイルの選手だ。

 より整った局面での貢献や守備での機能性など未知数な部分はある。しかしながら、2025年もアンダー世代への招集を遅らせるなど監督から期待は高いことが伺える。補強なしとなったCFのポジションでは大暴れできる素地がある。大幅な飛躍のシーズンとなるか。

18 バフェティンミ・ゴミス

不可解な点はあったが偉大さの片鱗は見えた

 チームとしてのタイトルこそ手にしたものの、自身の決定機逸にPK戦でも失敗と天皇杯では散々な出来。2023年の幕切れはひどいものではあった。

 もっとも、個人の出来は悪かったわけではない。決勝戦で見られたようにゴールには見放されていたが、相手のラインを決める強靭なフィジカルやボックス付近での貢献は健在。とってきた意味は少なくとも理解はできた。

 2024年もその流れは継続。ハムストリングの負傷で出遅れていたが、5月の浦和戦で先発に復帰すると攻撃の雛形づくりに貢献。特にボックス内での形がなかった川崎にとって、相手のCBの位置を決めることができるゴミスの引力は強力。味方のFWへのスペースメイクに大きな貢献を果たした。

 ほぼ動くことのできない守備での貢献度の低さが気にならないと言えば嘘になるが、それだけ押し込んだ時の状況に苦しんでいたのが今季の川崎。札幌戦では待望の初ゴールから一気にハットトリックを見せるなどついに爆発。

 このまま後半戦はACLを軸に活躍を期待したいところだったが、神戸戦で完封されるとそこから一気に戦列から遠ざかることに。ACLではまさかの登録外という報道もあり、結果的にはシーズン途中での契約解除と正直に言えばやや不可解な幕切れで終わってしまった。その点はシンプルに残念だ。

 それでも偉大なCFとしての片鱗は十分に見せてくれた。スコアリングマシーンという事前の評判とは異なる形ではあったが、川崎に確かにゴミスというストライカーのページは刻まれたことだろう。

   これにて2024年シーズン終わり!

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