私の属しているサッカーアナライザーさん(@_socceranalyzer)主催のマッチレポゼミである『FIゼミ』は2-3週に一度のペースで課題試合についてマッチレポを書き、比較や論評をしましょうという試みをしている。たまに私がベティス×レアル・マドリーとか名古屋×神戸とか門外漢のレビューを書いているのはそういう理由である。今回アナライザーさんが出した課題は少し変わったもので「自分の応援するチームはこんなチームだよ!」という紹介をしてね!というもの。「ゼミメンバーが継続的にみているチームの特徴をまとめてみよう!きっと一見さんじゃわからない部分があるはず!」というのが今回の課題の要旨である。
というわけでまずはフロンターレについて。アーセナルについては書くかもしれないし、書かないかもしれません。時間があれば。
川崎フロンターレがやっているサッカーについては、あまり今更説明することもないかなと思う。自分自身で毎試合ごとにレビューに振り返ってるし、改めてフォーメーションがどうのとか、ボール保持時がどうのとか言ってもイマイチかなと。それよりも川崎フロンターレについて今多くの人が知りたいトピックは「なんで勝てないの?」ということだろう。
勝てないのである!前年王者がこれだけ勝てないのは23年ぶりのことらしい。確かにスロースタートは毎年恒例のことだし、「リーグ4連勝スタート!いやっふぅ!!!!」とかいう高い理想を求めていたわけではないんだけど、まさか3月のこの中断期間までリーグ未勝利が継続するとは思わなかった。ショック!というのが多くのファンの本音ではないだろうか。
決定機を逃してしまったぜ!っていう場面もあるにはあった。しかし、「たまたまが続いていいのは2回まで」と古畑任三郎も述べている(SMAPの回より引用)ように、4回も勝てなかったのはたまたまではないはず。今季のリーグ戦を振り返りながら、「なんで勝てないの?」を考えてみよう。プレイバック!
第1節 FC東京戦@等々力 0-0
諸事情で大阪にいたのでこの試合は現地観戦できていない。今思えば、この試合が一番昨季までのフロンターレっぽい試合だったと思う。試合の流れを少し述べておくと、序盤左サイドから攻めることが多かったフロンターレ。後半に、右サイドで孤立していたマギーニョと馬渡を交代すると、逆サイドの仕掛けも活性化。時間の経過とともに、時間とともに空いてくるMF-DF間の第3レイヤーには大島が楔を入れることで活用。前半はジャブで、後半に徐々に東京を自陣に釘付けにするのとかはフロンターレっぽかった。決定機も数回あったが決められず。ちなみにここまでの試合の中で最もエリア内でのシュート回数が多い試合だった。
第2節 鹿島戦@等々力 1-1
今季から始めたプレビューに書いた展望がまともに役に立った唯一の試合だと思う。中村憲剛の今季のゴールパフォーマンス初お披露目となったこの試合。あの時は行けると思ったんだけどね(遠い目)。人へのプレスが特徴の鹿島はスタイル的には正直やりやすい相手に分類されると思うのだが、この日は人に食いついて場所を空けがちな鹿島を伊藤翔が1stDFとしてしっかり手綱を握ってコントロールした印象。ボールを取りに行くのが困難と判断した場合は、ステイして鹿島の陣形を縦にコンパクトに保つのに一役買った。後ろでは内田篤人が攻守に君臨。間を奪い取られた川崎は大外から攻める作戦に。しかしながら、右の馬渡は連携が今一つ、左の車屋はプレー精度と選択に難を抱えており、サイドアタックは不発。最後はダミアン→阿部の交代で小林を1トップに置く「2018年モデル」で勝負をしたものの鹿島の守備は崩せなかった。
第3節 横浜FM戦@日産 2-2
そろそろファンも選手も勝利を渇望してくる第3節。挑む相手は開幕2節で「時のチーム」に成りあがった横浜FMである。得点が多く入ったこともあるが、今季のリーグ戦で最もエキサイティングだったのはこの試合だろう。横浜FMは対戦した相手の中では最も自分たちのサッカーをどう落とし込むかに注力しているチームであり、川崎への対抗策という色は薄いチームだった。強気の4-4-2プレスで敵陣深くまでプレッシャーをかけた川崎はその流れでショートカウンターから先制点を奪取。仲川の突破から追いつかれた後も、ありったけのFWをフィールドに並べる作戦で長谷川のクロスを生かすことに成功。しかしながら、再三突破を許していた自陣右サイドを手当てする交代カードも体力(上海遠征帰り)も尽きており、横浜FMが押し込み始めると、最後はCKから失点。悔やまれるドローとなった。
第4節 G大阪戦@等々力 0-1
勝てなければリーグ戦未勝利で中断突入!という嫌な流れを断ち切るべき試合だったが負けちゃったよ!試合はG大阪の「川崎のボランチ経由のサイドチェンジを遮断作戦」+「ウィジョやアデミウソンに蹴っ飛ばして、とにかくショートカウンター回避作戦」で片側サイドの攻略を余儀なくされた川崎が沈黙。サイドの攻略強化や!と齋藤学とダミアンを投入して4-4-2に移行したところ、間延びした陣形をアデミウソンにめっちゃ使われる展開に陥ってしまう。最後はSB→SBのクロスで決着。それ、日産でも見た失点なんだけどーーーーー。
結局なんで勝てないの?
というわけでここまで2000字余りを使って川崎が勝てない試合展開について書いてきた。苦行かよ。こんな苦行を経て何が言いたいかというと、結構どのチームも川崎に対して違うアプローチしてきたんだなという話。鹿島とFC東京は結構似てたかもしれないけど、縦圧縮の印象は鹿島の方が強かったし、ディティールは異なっていたと思う。しかしながら、そんな中でも共通点はあって。何かというと彼らは川崎から「何か」を取り上げたという点。対戦だから当たり前っちゃ当たり前なのだけど。開幕戦であるFC東京戦で極端に少なかったのは川崎のFWの裏抜けの動き。これが川崎側の問題(多分こっち)なのか、FC東京側の仕掛けなのかまでは読み取れなかったけど、この試合は「裏」を使う意識が少なかった。それでもSBの交代で「幅」は取れるようになったし、「間」も大島が徐々に使っていく場面も見られるようになった。
その「間」を塞いできたのが第2節の鹿島アントラーズ。普段の彼らとの対戦ならば、むしろ狙い目になるこの「間」の部分を徹底的に閉じてきた。第4節で対戦したガンバ大阪は鹿島に比べればMF-DF間は空く場面は見られた。その分ガンバ大阪が注意を払ったのはフロンターレのビルドアップを片側サイドに押し込むこと。「幅」を奪うことで守備時のスライドをなるべく少なく。その分「間」は空けてしまっているが、そこを使うマエストロである大島は不在。フロンターレのサッカーが輝くときは、最後方から組み立てて前に行くにつれてよい状態になっている!というものだが、この日のフロンターレはその日ではなかった。
少し時間を前に戻す。第3節の横浜FMのアプローチはもっと違うもので、川崎が下地としているボール保持を奪ってしまう!という理想を追い求めた形だろう。この日の川崎がボール保持に固執していたわけではないが、後方のプレス回避は大島不在でも堅調。中村憲剛が低い位置でスタートしたこともあり、さすがにボール回しに関しては一日の長があることを再認識した。根っこから破壊されるのは少なくとも現段階では食い止めた印象。昨季の名古屋や神戸のように形は違えど、このアプローチをとってくる相手は得意分野だ。横浜FMだけはほかの3チームとは若干テイストは異なっていた。
去年との比較
辛い話ばかりを続けていたので、少し楽しいことも思い出してみたい。ここまで苦しい話を読んでくれた皆さん。皆さんの昨季のフロンターレのベストバウトは何でしょう?僕はエディオンスタジアム広島の広島戦です。
この試合の素晴らしいところは、試合を進めながら相手の弱みとなりそうな部分をあぶりだし、そこを攻略している点だ。具体的に言えば、SBや中盤の人への食いつきの良さ。試合中のプランを明かした中村憲剛の試合後のコメントが話題になった試合(筆者は『このコメントで広島の攻略法がバレて失速・・・・』みたいな意見は戯言だと思ってる派)だったが、正しく中村憲剛を中心にどの引き出しの武器を使うかを品定めしながら、最終的に広島を仕留めた試合だった。
翻って今季はどうか。鹿島に閉じられた「間」は車屋と馬渡の幅とりでカバーするしかなかった。内田篤人が試合後のインタビューで車屋について
「車屋くんだっけ?前に立てば別に問題なかった。とりあえず聖真を立たせておけば、あいつもがんばってくれたし、あとはオレも外を捨てて中のカバーに集中できれば、そんなにやられないかな(と思った)。」
下記に引用元
と語っていたが、これはいわば鹿島に「武器を選ばされている」格好。川崎が広島相手に「武器を選びとって戦った」のとは正反対といえる。ちなみに上の記事において、内田は「車屋君だっけ?」とすっとぼけているが、半年ほど前には彼を評価するコメントも出している。本来はともかく、今の車屋では「立っておけばいい」という状態という意味だろう。状態の悪い車屋で鹿島と対峙することを川崎は選ばされたのである。
ダミアンや山村、馬渡やマギーニョなど様々な新戦力を加えて4冠という目標を掲げた川崎。彼らの補強は引き出しに入っている一つ一つの武器をより研ぎ澄ませるためのもの。新戦力の連携や、上に挙げた車屋に代表されるようなコンディションも含めて、その部分は時間が解決してくれる可能性はある。しかしながら「勝利のためにどの武器を選び取るか」という部分(中村憲剛が最も得意としている部分だ)の共有があいまいだったり、相手に使う武器を選ばせられてしまうと川崎の強みは失われてしまうと思う。
冒頭の「なんで勝てないの?」という質問に自分なりの答えを与えるならば「相手に使う武器を選ばされているから。」である。相手の戦術に対応し「どの武器も使える」状態に武器にそれぞれの武器を仕上げること、そしてその武器を使う設計図を共有することが中断明けのフロンターレの解決すべき課題ではないだろうか。