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プレビュー記事
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レビュー
逃げ場のない状況に挑む
3人の前線しかいない今のアーセナルは予想通りその3人をそのまま前に並べる形でスタート。サカとマルティネッリが戻ってくるまでの苦しい1ヵ月の始まりである。
プレビューでも述べたが、アーセナルがまずこのメンバーで困るのはロングボールの逃がしどころがないことである。ハヴァーツ、サカ、ジェズス、マルティネッリとターゲットになれそうな選手は軒並み負傷欠場。ポゼッションにおいて長いボールで逃がすという選択肢は事実上削られる状態となる。
そんなアーセナルの状況を試すように、立ち上がりのレスターは人をハメる形でハイプレスに出て行く。序盤の1つ目のプレーはひっかけてしまったアーセナル。ボールを奪ったレスターは左サイドからスピーディに前進。ウーデゴールを潰したところから左サイドの連携で抜け出しからゴールに迫っていく。
この日のレスターは左サイドの攻め筋に手ごたえ。ヴァーディはもちろん、アイェウもポスト役としてタメを作ることが出来るので、左サイドの背後からクリスチャンセンが飛び出してきてオーバーラップを成立させることが出来る。レスターの左サイドはこのメカニズムをそれなりに早い段階で固めた感があった。
ただ、レスターは枚数を合わせる強引なハイプレスに対して、アーセナルは徐々にポゼッションから落ち着きを図っていく。レスターも特にこのプレスに奇襲以上の意味合いは持たせていなかったようで、4-4-2のミドルブロックに移行する。
アーセナルはいつも以上にポジション移動が激しかった。アンカーのトーマスの周辺でプレーする選手の種類はいつもより多く、縦パスのルートを作り出すために丁寧なポジションチェンジが行われていた。インサイドに絞るのはルイス=スケリーだけでなくトーマスもだし、もちろんウーデゴールが落ちることもある。
もう1列前で縦パスをレシーブする役割もウーデゴールだけでなくヌワネリが中に絞ったり、あるいはCFのトロサールがかなり低い位置まで降りてきたりなど行動範囲は広め。小兵ぞろいの前線で攻撃を構築するのならばこれしかない!ということだろう。
後方もトーマスが最終ラインに落ちる動きを見せるとアンカー役にルイス・スケリーが入ることで縦パスのルートを模索したり、ライスがアンカーに入りルイス=スケリーは大外を上がるなどバリエーションは豊富。まずは動き出しからレスターをゆさぶっていくということはできていた。
スクランブル型の3つの問題点
しかしながら、このアーセナルの攻撃の構築にはいくつかの問題点があるように思えた。まずは構造の話から。前線の選手たちは降りるアクションはうまいけども、裏に抜けていくアクションはあまり得意ではない。
単に降りるアクションしかないのであれば、相手がきっちりと勇気をもって潰しにくれば、そのままボールを失うリスクがある。この試合ではレスターがそこまで強烈なプレスを持続的に行ってきたわけではないから、あくまで持続的に見た時の話だけども。
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この試合でそこを回避すべく動いていたのはライス。降りるアクションとセットの動きを何とか捻出すべく、中盤から前線に飛び出すダイナミックな走り込みを何回もやっていた。
もちろん、単体で見ればこの動きは非常に効果的ではあるのだが、例えば週に2回が続くスケジュールで同じことを続けるとなれば明らかに負荷は過剰。ライス1人で列を上げるアクションを担保するのは無理があるように思う。
2つ目の問題点はそこまでスピーディではない展開の時の話。後方の下準備の甲斐もあり、レスターのブロックの隙間で前を向く選手を作ることが出来たアーセナル。しかしながら、そこからの攻撃の出口のクオリティには不満があるところ。
左サイドのスターリングは味方との連携を始めとして、大外での存在感を発揮することが出来ず。ライン間からサイド攻撃に持って行くところで大幅にトーンダウンしてしまうのは非常につらいところがあった。
もう1つは構造的な話というよりも個人のコンディション的な話ではあるのだが、トーマスの調子があまり良くなかったこと。この試合の前半だけで言えば、目下の一番の問題点といっていいだろう。縦パスのフェーズでブロックにひっかけてしまい、レスターのカウンターを食らうことに。
幸運だったのはカウンターに移行するレスターにそこまでスピーディに攻め切る手段がなかったことだろう。一度ポストしてサイドに散らして後方からオーバーラップをしてと今のレスターはいい形でボールを奪うことができてもそこから先が割と長かったりする。
なのでそうこうしている間にアーセナルはリトリートの守備が間に合っていた印象。今のアーセナルはブロックさえ組めればそれなりに堅さは出る。今のアーセナルの強みの1つは誰が出てもそれなりに強固なブロック守備が組めること。悪い時のパフォーマンスがリーグで一番優れているのはアーセナルという自負があるが、それはこの点における安定感がブレないからだと思う。スターリングは戻り遅れから少しクロスを上げさせていたけども。
時間の経過と共にアーセナルは少しずつ押し込むフェーズを増やしていく。敵陣でも緻密な攻め筋を求められるのは当然インサイドに高さがないから。ライスはボックス内に飛び込み続けていたが、囮というか引き付け役となるCFがハヴァーツではなくトロサールであれば、だれもが本命はライスということはバレる。なので、高さを生かしたギャップづくりは非常にしんどい。
ということでアーセナルはキャンセルとボディコントロールで個々人がミクロなコースを作り続けるという地道でしんどい作業がひたすら続いていくことになる。コースを作り出す作業とその作業と並行して動き出す味方を探すのはやはりウーデゴールがうまい。それでもミクロなスペースにぴったりと動き出しに合わせたボールを提供するのは難しい話。なかなか穴を空けることができないまま試合はハーフタイムを迎える。
タフなマッチアップを制した右サイド
後半、レスターは再び前向きのプレスからスタート。オコリやクリスチャンセンがアーセナルのバックラインにプレスをかけに行くなど、前半以上に前からボールを奪うアクションを重視したスタートを切る。
アーセナルはハイラインのレスターに対して、広いサイドへの展開でボールを逃がしつつ、縦パスでの一気の前進を狙っていく。ライスが前線に飛び出すなどこちらは前半のリバイバルで対抗。速攻から一気にチャンスを作りに行くが、ンディディの戻りで何とかレスターがピンチを防ぐ。
前半に見られた課題は案件ごとに進捗差が見られた。前半は不調だったトーマスは後半に入ると、パスの精度がアップ。速攻の旗振り役として1つ前のウーデゴール、ヌワネリに安定したパスが供給できるようになったことで、アーセナルは右サイドから攻撃の加速を見せることが出来ていた。
逆にスターリングはなかなか精度が上がらずに苦戦。押し込む状況において仕掛ける役が多いWGがひっかけてしまう頻度が多いのはある程度仕方のないところではあるし、そういう状況ではある程度数勝負になるので攻撃が仕上がらないこと自体は許容しなくてはいけないように思う。
ただ、スターリングは割と正対した初手でひっかけてしまうことが多く、守備者が安定した体勢でそこから一本目のパスにつながることが多い。そうなるとカウンターが生み出されることがセットになってしまう。
攻撃面では目をつぶれても、カウンターのリスクまで踏まえれば躊躇したくなるところも出てきてしまう。ジャスティンからマッチアップ相手がクリバリになった後半でもアーセナルはなかなか状況が好転しなかった。
というわけでアーセナルは右サイドに攻撃が傾倒するように。特に後半はヌワネリの存在感が光る展開になっていく。鋭い加速からの陣地回復はもちろんのこと、わずかなスキを作れば左右の足を構わず振っていくことでゴールに迫ることが出来る。対面の相手が粘り強い守備を見せるクリスチャンセンでなければもっとわかりやすく決壊していたように思う。
そのクリスチャンセンも後半に存在感が増した選手。対面のヌワネリへの対応や、セットプレーにおけるガブリエウのマーカーなどアーセナルの多くの得点源に対処。さらには左サイドでのオーバーラップ役を担うなど大車輪の活躍を見せていた。
だが、このサイドの攻防を最終的に制したのはアーセナル。右サイドのヌワネリのクロスに合わせたのはスターリングに代わって入ったメリーノ。高さもさることながら、シンプルにレスターのバックラインとの駆け引きを制してゴールを生み出した。
さらに速攻からメリーノは追加点をゲット。やや人数の足りないファストブレイクだったが、冬から見られるようになったトロサールの巧みな縦突破からのクロスを再び仕留めて試合を完全に引き寄せた。
タフなマッチアップを制したヌワネリ、CF不在の中でスコアラーとなったメリーノ。2人のアタッカーが救世主となり、アーセナルはアウェイで勝ち点3をもぎ取った。
あとがき
やはりこの陣容だとできることはそれなりに限られてしまうのだなというのは正直な感想だ。ここから1ヵ月はこの状況と向き合いながらその試合で相手にどこでアドバンテージを取るかをひたすらに血眼で探すような試合が続くことになると思う。メリーノのゴールやCF起用のアレンジが成功したのはうれしいが、ここから控えるのはいずれもレスターよりタフな相手ばかり。正念場のスカッドのやり繰りはまだはじまったばかりだ。
試合結果
2025.2.15
プレミアリーグ
第25節
レスター 0-2 アーセナル
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
ARS:81‘ 87’ メリーノ
主審:サム・バロット