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「スカッド拡大チャレンジに挑むために」~2025.4.9 J1 第5節 川崎フロンターレ×横浜F・マリノス レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

「最も避けたいこと」に直面する

 勝てば首位に立てる川崎と負ければ最下位の可能性もある横浜FM。対照的なチーム状況にある両チームによる神奈川ダービーだ。7連戦という過酷なリーグ戦を戦っている両チームのメンバー選びも対照的。植中、遠野、永戸、宮市、キニョーネスと4試合連続先発のメンバーを並べる横浜FMに対して、川崎は三浦や丸山といった3試合連続スターター組をベンチ外に。4試合連続となる選手は宮城にアクシデントがあって急遽先発となったマルシーニョ1人だけだ。

 序盤は互いにロングボールのスタート。川崎は小林、マルシーニョと縦に速い展開からの抜け出しからチャンスメイクに成功する。前線に高さのない横浜FMは背後に長いボールを送ることで川崎のバックラインを揺さぶる。SHは絞ってセカンドを回収する役割となっていた。

 バタバタ感があったのは横浜FM。開始3分で「4連戦組」のキニョーネスが負傷交代。トーマス・デンが投入される。さらにはヤン・マテウスのミスから川崎は両SHによるカウンターが炸裂。最後は遅れてボックスに入ってきた大関が冷静に沈めてプロ初ゴールを決める。

 失点までは今季のチームの悪い流れを引きずっていた横浜FMだが、徐々にリカバリーに成功。GKを絡めてゆったりとしたポゼッションを行っていくと、右サイドに縦パスを差し込んでいく。

 プレビューで横浜FM相手に最も避けなければいけないこととして「ライン間に降りるアクションをする前線や2列目に前を向かせないこと」を提示した。端的に言えば川崎はこの点を遵守できずに苦しんだと言えるだろう。川崎の左サイドのユニットは簡単に相手に動かされてしまい、ライン間にパスを通されて前を向くことを許してしまう。

 特に大関周辺のスペースはかなり縦パスを自由に通された。大関は相手の動きに簡単にリアクションしてしまうため、非常に簡単に動かされてしまい、その結果脇に縦パスを差し込まれる頻度が非常に高かった。マルシーニョ、田邉、アイダルといった選手たちもこれをリカバリーすることができず。むしろ、芋づる式に釣り出されてしまい、あっさりとピンチを迎える。

 前を向かれる状況を作られてしまうという点でこの日の川崎の守備はうまくいっていなかった。だが、横浜FMの仕上げのパスもなかなかに不発で攻撃を完結させることができなかった。

失点は前半の総括

 まがいなりにも無失点の時間帯が続く川崎。だが、悪い流れをなかなか跳ね返すことができない。理由の1つは守備対応。特にアイダルは不安定さを露呈。体勢に制限がかかっていない状況でもヘディングのパスの方向がはっきりせず、守備から攻撃に転じるという点で十分な働きを見せることができない。

 ビルドアップでも川崎は事態を好転させることができず。降りるCHに対して迷いなくマンツーに出てくる横浜FMの圧力に苦戦。久しぶりの先発となったソンリョンがビルドアップに組み込みにくいバタバタ感だったのは誤算だった。

 川崎の安定前進パターンは左サイドにボールを集めて、人に吸い寄せられる横浜FMの守備を密集させる。そして逆サイドに展開することでフリーのサイドから運ぶ。逆サイドにボールがあるときはSHの井上は川崎のCH付近まで絞るので、川崎はファン・ウェルメスケルケンまでボールを展開することができればそこから安定して前進ができる。

 しかしながら、そうした横断してSBを浮かせるアクションを取りにくくなっていたのがこの日の川崎。苦し紛れに蹴ったCFへのロングボールが徐々に増えるように。浮いてボールを受ける機会が多い瀬川は序盤はワンタッチでのパスが刺さったものの、ギャンブル性のあるパスは安定感を欠き、時間経過とともにボールは繋がらなくなる。さらに時間が経つと長いボール自体がカットされるようになり、ギャンブルにすら興じられなくなってしまった。

 ファン・ウェルメスケルケンが右サイドでボールを運んだ先でもなかなかもう一手を打つことができず。インサイドのライン間でボールを受ける伊藤はタッチが乱れやすかったし、裏を狙う小林はオフサイドの時間帯があまりにも長い。故障明けなので仕方ない部分もあるかもしれないが、1つの動きと次の動きの間が間延びしており、DFとの駆け引きで相手を苦しめることができなかった。年齢的に相手を背負うのは難しいかもしれないが、こういった駆け引きを行えなくなるのであれば相当厳しい。まずはここから戻していってほしい。

 というわけで川崎は先制点以降は攻め筋を見つけることができず。守備でも大関と河原を入れ替えることで懸念の左サイドは手当するが、右サイドでも大関が釣り出されて背後が使われるなど、穴が空いている場所をただ増やした感もあった。

 押し込む横浜FMは前半のうちに同点にすることに成功。右サイドからのカットインに対して、大関の対応が遅れ、ライン上にいるはずのアイダルが壁になれなかったという川崎の失点の仕方は前半の守備の総括のような場面となってしまった。

顔を覗かせるエラーの前兆

 タイスコアで先に動いたのは内容面での不安があった川崎。山本と脇坂の投入で中盤の強化を図る。ただし、交代選手は河原とマルシーニョという連戦組。あくまで優先事項はプレータイムのマネジメントということが垣間見える采配だ。

 後半の川崎のポジティブな変化の1つは左サイドのボール回し。アイダルの立ち位置が開くことで横浜FMの2トップの管理から外れることで左の供給ルートが開通。それに伴い、田邉が高い位置を取り、瀬川がインサイドに移動する。

 これによって人基準の運用がうまくいっていた横浜FMの守備は基準点を失うことに。中央には細かく高さを変えることでパスをつなぐことができる脇坂と山本が入ったおかげでボールは前に進むように。右サイドでは高い位置をとる大関が仕上げのパスを通し、左サイドでは高い位置をとる田邉のオーバーラップが目立つ後半の立ち上がりとなった。

 ボールを回すという点では改善が見られた川崎だが、メンバーを入れ替えても解決しない部分もある。それは守備に回った時のボールハントの部分。大関-山本のCHコンビではSBが釣り出された時のハーフスペースの潰しが間に合わない。右サイドでは大関についていってほしい井上の抜け出しに高井が釣り出されて対応する。大関が出ていった上で旋回するようにローテした結果、CBは動かないのが理想的な守り方のように思う。

 山本はサイドにカバーに行った際に宮市に振り切られてしまうのは仕方ないとして、脇坂が登場することで雲行きがはっきりした前からの守備に呼応できなかったのが課題となった。77:40は脇坂と神田によって挟まれたクルードが強引にスピードを上げている場面。コントロールが大きくなる可能性が高い。後方からのスライドが間に合えば問題なく潰せた場面だと思う。より具体的に言えば77:42の静止画の場面のコントロールでボールを奪いたかった。

 というわけで川崎のビルドアップが改善しても横浜FMは十分に攻め手が残る状態に。井上、ヤン・マテウスといった幅を取れるアタッカーからズレを作り敵陣に迫る。特に横浜FMからみた右サイドは手応え十分。川崎はあアイダルが前半に比べれば安定したパフォーマンスを見せたのでなんとか踏ん張ることができていたという感じだろう。

 誤算だったのは徐々に保持でもリズムがつかめなくなったこと。パスミスが増えてしまい、少しずつ横浜FMのペースに飲み込まれていく。特に目についたのは瀬川。ダイレクトで繋ぐときは迷いがなくていいのだけども、プレーを一度キャンセルしてさらにいい選択肢を模索しようとすると、79分のように明らかに状況に適していない選択肢を選んでしまったり、あるいは精度が足りないパスになってしまったりなど苦しいプレーが目につく。

 苦しくなった川崎は改善しない左サイドの守備の対処療法として佐々木を投入。逃げ切りを図る。しかし、この長谷部監督の目論見は失敗。左サイドで宮市がクロスを上げると、最後はこぼれを天野が押し込んで横浜FMが同点に追いつく。

 この場面は先に挙げた瀬川の判断ミスが大きく関わってしまった格好。横に安全なパスコースがあるのに、強引に縦に通そうとした結果、引っ掛けてカウンターを食らうという最悪の判断。少なくともリードをしていて、後方に若い選手がいる時に選ぶプレーではない。本人もコメントにあるように気にしている様子なので今後の改善に期待したい。

 3失点目は脇坂のミスが槍玉に(本人コメントでも触れている)挙げられているが、個人的に気になるのは山本。前から突っ込んでくる相手に対して、避けるようにドリブルのコースを開けてしまっている。

 おそらくはパスコースを塞ぐことを優先したのだろうけども、前を空けてしまうことよりも優先度が高いプレーとは思えない。ここもクルードを止められなかったシーンと同じく、前との守備に連動できていない。パスミスをしたことは脇坂は反省すべき(というかしている)だが、そもそも脇坂が後追いになる形でも無理に食らいついていなければ、山本の軽率なプレーで簡単に中央からこじ開けられた場面でもある。中央で食い止めきれず、サイドに逃してしまった責任は山本にもあるように思う。

 2つのミスから逆転を許した川崎。しかし、最終盤にセットプレーから高井の活躍で勝ち点1のレスキューに成功。85分以降に3得点が入った神奈川ダービーは文字通りの痛み分けとなった。

あとがき

 激闘でスペクタクルな試合となったが、共に負傷者を出すなど過密な日程でジャンプアップのチャンスを逃したのは文字通りの”痛み分け”だろう。

 個人的にはリアルタイムで見ている時にすでに気になっていた瀬川のプレー判断と山本の守備の連動の悪さがともに失点につながったのが印象的である。瀬川がフリーでパスを繋げなかったり、あるいはサイドにカバーに走った山本が宮市に振り切られたりなど技術やフィジカル能力に紐付くミスなら仕方ないと思うのだけども、ともに判断の部分に大きく根ざしているミスであることがとても気になるところ。

 確かに試合終盤で体力的にも苦しい場面であるけども、そういう場面でも状況に応じた適切な判断をミスしないのがキャリアがある選手に求められている振る舞いだと思う。土屋の投入はアイダルの負傷が絡むアクシデンタルな要素が強いもの。スコアや時間帯など多角的な面で正しい判断やいつも通りのプレーができなくても仕方なかったと思う。

 もちろん、ピッチに立っている以上は年齢は関係ないだろうけども、このようにスカッドを広げるための運用というチャレンジに挑むためにはより出場機会が多い選手が引っ張っていってほしいと考えるのは自然なことだろう。そうでなければ今後もスカッド拡大チャレンジに挑むことができなくなったしまう。そういう意味でチームを救う同点弾以外にもはっきりとした潰しで貢献した高井は腕に巻いたキャプテンマークがよく似合うパフォーマンスだった。

試合結果

2025.4.9
J1リーグ
第5節
川崎フロンターレ 3-3 横浜F・マリノス
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:7′ 大関友翔, 66′ セサル・アイダル, 90+9′ 高井幸大
横浜FM:41′ 90+2′ ヤン・マテウス, 89′ 天野純
主審:御厨貴文

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