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「渡してはいけないプレゼント」~2025.4.16 J1 第12節 ヴィッセル神戸×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

気持ちよく走るエリキ

 7連戦も佳境。6戦目はアウェイ連戦の2戦目。ミッドウィークの神戸との一戦だ。

 先週のミッドウィークの神奈川ダービーでは大幅な選手の入れ替えを敢行した長谷部監督だが、この日の入れ替えは最小限。右の伊藤と家長を入れ替えた以外は清水戦と同じメンバーでスターターを組む。一方の神戸は大迫を入れ替えて前線に佐々木を置く布陣。負傷とメンバー入りを繰り返すシーズンとなっている武藤は前節に続いてのメンバー外となった。

 川崎はある意味いつも通りの入りだったといえるだろう。GK、CB、SBが自陣の深い位置でボールタッチをしつつ、主にCBとGKが長いキックで前進のきっかけを探る形である。

 異なったのは長いボールの機能性だ。今年の記事には何回も書いているが、山口がロングキックを蹴る際にCBが低いラインを敷く形は仮に相手に跳ね返されれば大ピンチ。神戸を自陣に引き寄せてMF-DFラインの間を間延びさせることが出来れば確かにCFへのボールは収まりやすくはなるが、CBのラインを乱してまで得るメリットだとは思わないというのが従来のこのプレーに対する自分のスタンスだ。

 川崎のCFがCBに負けてどうにもならないというパターンも当然あるが、この日はとにかく山口のありとあらゆるキックがエリソンの競りようのないところに飛んでいくケースが多かった。これだと、CFの強度以前の問題。というか、エリソンは割とボールを届けた時は収めることが出来ていたので、単純にキックの精度の問題ということになる。

 相手にプレゼントをするロングキックを蹴るのであれば、そもそもこんな陣形を敷く必要はない。たぶん、途中からやめていたのはそこに気づいていたのだろう。

 要因が何かはわからない。よく言う神戸の芝が合わなかった説もあるだろうし、神戸の前線のプレスはGKへのチェイシングも行う類のものだったので、その影響かもしれない。はたまた単純にそういう日もあるというだけかもしれない。いずれにしても、開幕から見られたこのビルドアップを川崎はやればやるだけ損をするというのが正直なところ。自分たちが収められないというだけでなく単純に相手にプレゼントをしてしまう場面があまりにも多すぎた。

 仮にボールが収まったとしても問題点はその先にも。6分のシーンの一連の流れはこの日の川崎の問題点をよく表している。脇坂のボール奪取から川崎はいい形でカウンターを付けられそうだったが、脇坂がボールを運んだ右サイドにはパスの預け先が皆無だった。

 ここは伊藤の問題点だととらえている。脇坂と左右を入れ替わるようにインサイドに入っていった伊藤だったが、ここは右に開いて相手の守備ブロックを広げてほしい。

 伊藤のこの問題は出ている時間を通して見られた。52分の敵陣での攻撃も右の大外に幅を取りたい場面なのに伊藤は不在。彼自身がインサイドのレーンが得意というのはわかるが、陣形を歪めるのであればそれに見返りがあるメリットを提示しなければいけない。

 同じインサイドレーンに入る傾向のある家長(それでもこの日の伊藤ほど極端な日はあまり見ないが)も清水戦で指摘したようにSBとのつながりがない試合をしたばかりだが、仮にインサイドでボールを受けても彼はそこまで簡単にボールを失わない。

 伊藤はその点が家長とは決定的に違う。無論、今季の家長はアタッキングサードでのプレー精度がそこまで高くないので、伊藤がこの点で明確に上の結果を出せれば入れ替わりもあるだろう。だが、この日のようにインサイドでひっかけまくるのであれば、まずはきっちり開いてチームとしての流れが良くなる方向の動きに徹してほしいところだ。

唯一の手段で望みをつなぐ

 6分のシーンの問題点は伊藤だけではない。右の外のレーンの選択肢がなくなった川崎は左サイドに展開。すると山本のパスミスから川崎の攻撃は終了する。

 右の大外という選択肢が試合を通じてなかったというエクスキューズはあるが、それでもこの日の左サイドユニットは山本、丸山、三浦の誰一人としてパスをきっちり通すという点で満足な評価をするのは難しいレベルだった。

 川崎の問題点は幅が取れないことと、パスがズレてしまい攻撃がつながらないこと。特に後者に関しては相手のミスを咎めるようなボール奪取からのスピーディーなカウンターが成立しないという致命的な欠陥だ。正直、今季の川崎はここでアドバンテージを取れないのであれば勝つことは難しいと思う。チャンスの数で勝負するチームではないので、相手がくれた機会は絶対に逃したくない。だけども、それは成立しなかった。

 というわけで川崎は幅を取れない状態で縦に速くということをなるべく少ない手数で成立させることが一番の武器だった。すなわち、エリソンとマルシーニョがそれにあたる。

 神戸の前6枚の機能的なプレスはGKからDFまでの川崎のつなぎを狭いサイドに追いやる形できっちりと川崎にダメージを与えていたが、DF-MF間のスペースがコンパクトというわけではない。おそらくそこから前のスペースでプレスを仕留めてしまおうという設計でその点のリスクは度外視なのだろう。確かに井手口と鍬先はそれを成立させるべく、前に出て行くだけでなくSHのカバーに搬送しており、こちらはリスクに見合ったプランだといえる。

 だけども、エリソンとマルシーニョにボールが入ってしまえば行ってこいは出来そうではある。というか、それが川崎に与えられたこの日の唯一の前進手段だった。

 前進できないだけであればまだいい。問題は山口のミドルパスの項でも述べたが「相手にボールをプレゼントしていること」である。左サイドのミスもしかりだが、川崎は神戸のポジトラに対して受ける陣形が良くないことが問題。

 プレビューでは神戸の攻撃を抑えるポイントとして相手のCF(=佐々木大樹)とのマッチアップをどうハンドリングするかを挙げた。その理由としてはここが収まってしまうと、エリキにあっさりと裏に走られてしまうからである。

 しかし、こうしたプレゼントパスを出してしまうと佐々木大樹どうこう以前に簡単にエリキに走られてしまうので元も子もない。「この出来の神戸はなんでこんなに順位なんだ?」という質問が来たけども、少なくとも予習したどの試合よりもこの日の川崎は気持ちよくエリキに走られまくっていた。神戸が苦しんでいる要因は大迫のポスト&ゲームメイク力の低下と指摘したので、それ以外の部分を川崎が担保するのであれば十分に強みを出せるのは当然のことだと思う。

 ということで主に神戸の前進のプランは前からのボール奪取。保持時には右の酒井を片上げする形で3-2-5のような形を作っていたが、川崎のプレスをずらして矢印の根元を狙って云々というよりは前線の安定したロングボールの供給元を作るためだろう。この日の川崎相手ならセカンド回収で神戸の有利は見込めるし、たとえ川崎に拾われたとしても、そこからつなぐところに川崎の強みが存在しない日なので、特段問題にはならない。

 まずは川崎からするとホルダーの足を止められるかどうか。ここは個人の潰し次第。高井はここでも安定している。

 リトリートが間に合った場合、川崎の右サイド側からのクロスはなんとか強度を持って防げた。この点では伊藤は家長よりも強度のある守備ができていた。その一方で左サイドはしんどいところ。神戸の人数をかけた抜け出す選手作りにかなり苦戦。この辺りは川崎の守備ブロックの弱みを狙ったのか、汰木のいる逆側は少人数でOKという神戸側の事情かもしれない。

 佐々木のゴールに関してはディフレクトするところもあったので、山口には対応が難しかった部分もあるだろう。しかしながら、その手前の佐々木の決定機も含めてこの日の山口は他にも反省すべき点がたくさんある。

 神戸は前半終了間際にセットプレーから追加点。丸山のマーカーのトゥーレルが押し込んで2点目。後半にトゥーレルが退いても、丸山のマーカーである大迫が同じようにCKからフリーになっていた。おそらく、神戸の方向性としてターゲット(マーカーが丸山なのはたまたま?)に対してほかの選手がスクリーンをかけることでフリーにするというものだったのだろう。

 川崎は前半終了間際にマルシーニョがゴール。まさしくそこしかない!という川崎の攻め筋から1点差に。後半に望みをつなぐ形でハーフタイムを迎える。

限定的な良化で危なげない逃げ切りを許す

 後半も大きくペースは変わらない。トランジッションで優位を取ることができるのは神戸。中盤のボール奪取からオーバーロード気味の右サイドからチャンスを作っていく。55分は佐々木のポストを起点とした攻めを行うなど、後半もバリエーションは多彩だ。

 川崎に関しても前半から付け加えることはあまりない。山口のロングボールがエリソンに届かない、伊藤が開かない分の右の幅を取ることが出来ない、左サイドはパスミスを連発。その繰り返しとなる。トゥーレルの負傷に基づくバックラインの入れ替えは神戸にとっては本来ややこしくなるはずだったが、そういう点で川崎が神戸を苦しめるというケースはあまりなかったように思う。

 どうにもならなかった川崎は選手交代を敢行。前線を2トップに入れ替えて、右には家長を置く形を作る。

 伊藤よりは幅を取る意識のある家長によって、川崎の攻め筋は横に広がる。これによって押し込むフェーズは比較的安定したということになる。

 しかしながら、アタッキングサードへの効果的な配球が増えたかというと別問題。2トップもアバウトな前進において馬力が欲しい状況ではあったが山田も小林もボールの収まりどころが見つからずに苦しい展開となった。

 川崎はさらに3枚の交代カードを切ったが、なかなかこれも活性化にはつながらず。右のファン・ウェルメスケルケンのクロスは悪いものではなかったが、なかなか上げる機会が少ないという状況。前川もファン・ウェルメスケルケンがボールを持った時には一歩ゴールマウスを離れていたので、クロスには警戒をしていたのだろう。

 だが、インサイドのターゲットは最後までクロスを押し込むことが出来ず。時間の経過と共に神戸の保持からボールを奪い返せなくなってしまう。最少得点差ながら危なげない逃げ切りを見せた神戸が川崎相手に逃げ切り勝利を決めた。

あとがき

 「連戦は関係ない」という丸山のコメントを言葉通りに受け取っていいかはわからないが、この日の出来だと2失点してしまえば勝ち点を取れる筋はなくなってしまったのかなという感じ。きっちりブロックを組めるならまだしも、保持でのミスからあっさりと持って行かれるシーンがあまりにも多すぎた。

 線で見た時に感じるのはシーズン序盤ほど川崎のスタンスが静的寄りではなくなっていること。特にCHは前に出て行って潰すことを求めるケースが増えてしまったように思える。相手よりもコンディションが悪い試合が出てくるというのはこの連戦の中では当たり前。この日はもちろん、前の試合の清水もそうだったし、そして次の東京Vもおそらく相手よりもこの点では優位は取れない。

 気になるのはそうした中でここまでの試合の運び方が強度寄りになっていること。もちろん、今のサッカーにおいて強度で劣勢というのはそれだけで苦しいのだけども、そういう中で勝ち点を積み上げなくてはリーグ優勝に手が届かないのも確か。少なくとも0-0で前半を我慢できる素養を取り戻さないと、勝ち点の確保は厳しいかなと思う。

試合結果

2025.4.16
J1リーグ
第12節
ヴィッセル神戸 2-1 川崎フロンターレ
ノエビアスタジアム神戸
【得点者】
神戸:31’ 佐々木大樹, 45‘ マテウス・トゥーレル
川崎:45+3‘ マルシーニョ
主審:上田益也

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