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「復活と躍動の両翼」~2025.4.1 プレミアリーグ 第30節 アーセナル×フラム レビュー

プレビュー記事

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レビュー

段差を生かした前進ルート

 代表ウィーク明けのミッドウィーク開催。水曜の夜にエミレーツに詰めかけたファンに贈られたのは待望のエースのベンチ入りというプレゼント。ブカヨ・サカがおよそ100日の離脱からようやく復帰となった。

 フラムのフォーメーションは5-4-1。イウォビ、バッシーなど数人のスターターはベンチから。おそらくは週末のFA杯を考慮したプレータイムマネジメントの一環と位置付けることが出来るだろう。

 フラムの5バックがひたすら自陣で受けるだけの5バックではないというのはプレビューで説明した通り。極端にラインが低いことを望むわけではないし、保持に回ればゆったりとポゼッションを行う。

 特にポゼッションに関しては幅を取りながらアーセナルの高い位置からのプレスを外すプランを徹底。ゆったりとボールを動かしながら敵陣に押し込んでいく。だが、アーセナルは横パスをカット。ウーデゴール、トーマスなどのボール奪取から一気に攻め込む形を狙っていく。ただ、この日のアーセナルはポジトラの出足が非常に鈍重。代表ウィーク明け特有の重さを感じる立ち上がりでボール奪取の鋭さをなかなか生かすことが出来なかった印象だ。

 さらには15分ごろにはアーセナルはガブリエウが負傷交代。重い試合の中でさらに出足が鈍くなる材料が上乗せ。この負傷交代以降は試合のトランジッションの成分が減少した印象だ。

 それに伴いアーセナルは保持の時間が増えることに。トランジッション成分が減ったことは一見するとオフザボールの動きが重いチームにとっては悪いことのように思えるが、この日はそうでもなかった。

 まずは、フラムに対してアーセナルは明確な前進のルートがあったこと。ポイントになるのはフラムのナローなシャドー。トラオレ、スミス・ロウはそれぞれ絞り気味な立ち位置を取ることで中央を閉めに行く傾向があった。

 この形はCHとSHに段差を生みやすい。アーセナルはフラムのこの段差にパスを通せば、ブロックの中と外を自由に行き来することが出来る。

 とりわけ、フラムのSHからすると背後に回り込まれるアーセナルのSBは非常に厄介。死角でどのようなオフザボールをしているかは前を向いた状態からは把握できないからだ。

 というわけでアーセナルはSBから前進。フラムのSHの背後に回り込んだルイス=スケリーとティンバーのキャリーによってアーセナルは前に進む。

 フラムはアーセナルのSBに対する守り方が左右で微妙に違った。ティンバーに対してはSHのスミス・ロウが根性でスライドするが、逆サイドのルイス=スケリーに対してはSHのトラオレではなく、ルキッチが出て行くことが多かった。

 トラオレがサボっているのか、それともそういう役回りなのかは判断が難しいところ。実際のところ、スミス・ロウとルキッチが共にIH役となる5-3-2のようにも見えなくはなかったので、そもそも左右のSHに与えられる守備の役割の重みが異なった可能性は十分にあるだろう。後述するカウンターの仕組みもこの守備の役割とリンクしているかもしれない。

“ストライカー”がひねり出したゴール

 ミドルサードでの前進のきっかけはあったアーセナル。フラムは撤退守備に徐々に追いやられることに。アタッキングサードでの仕上げを担ったのはマルティネッリ。今季のマルティネッリは対面の相手との駆け引きでスペースを作る意識が強い分、クロスを引っかけなくなった。その一方で相手をぶち抜く力強さは鳴りを潜めてしまうことも多かった。

 ただ、この日は今季のマルティネッリらしい駆け引きの巧みさに力強さが加わり、アタッキングサードでのキレは抜群。大外から相手を置いていくアクションもちらほら見られつつ、ボックス内に危険なクロスを放り込み続けた。

 押し込まれるフラムはカウンターにフォーカス。中央に絞って縦パスを受けたトラオレがドリブルで加速しつつ、左サイドへの展開からアタッキングサードにボールを運ぶ。先述したトラオレが守備の負荷が軽い(=サイドではなく中央にとどまる)理由が攻撃と結びつくかもしれないというのはこれ。インサイドに絞って縦パスのレシーバーとなるために前に残った可能性はある。

 トラオレからの陣地回復はそこそこうまくはいっていたが、これが仕上がり切るかはまた別の話。左サイドからの崩しはハーフスペースからの裏抜けと前を向いてのミドルの両睨みだったが、いずれもアーセナルの守備陣に先回りされてしまった感。トーマスがこのカバーリングには大きな役割を果たしており、最近の彼のチームがしんどい時に幅を利かせる力を存分に発揮しているように見受けられた。

 というわけで受けに回る場面もそこそこに押し込むアーセナル。前半の内に先制点にたどり着く。キーになったのは右サイド。ティンバーのパスキャンセルからのバックドアでヌワネリが背後を取ることに成功。ロビンソンの裏からインサイドのメリーノにパスを送る。

 ヌワネリのボールの受け方と折り返しは悪いものではなかったが、ボールを受けたメリーノはそれだけでシュートを振り切れるほど目の前が開けた状態ではなかった。シュートコースを作るためにボールを動かす姿は普通にストライカー。結果的に得点はクエンカに跳ね返ってゴールインするという運要素が強めのものにはなったが、そもそも駆け引きをしなければより手前の壁にボールをぶち当ててゴールに向かわなかっただろうから、メリーノの動きは大きな意味があったように思う。

 重い展開ながら解決策をひねり出したアーセナル。リードでハーフタイムを迎える。

正しい手順でお祝いの道を切り拓く

 後半もペースはアーセナル。SBが浮くという現象は後半も継続。ルイス=スケリーのキャリーを軸にアーセナルは左サイドから攻め込んでいく。

 マルティネッリは後半もよく見えている。ルキッチが遅れてルイス=スケリーに食いついていくのならば、そのスペースは下記の図のように空いたりする。自らしかけるだけでなく、このように周りを使う余裕もマルティネッリにはあった。

 大外を起点としたチャンスメイクは右サイドでも。ウーデゴールとの連携から抜け出したティンバーの決定機などはその一例である。

 フラムは前半以上に攻め込まれる展開ではあったが、攻め筋を改善することで限られた機会での対抗策を打ち出せていたように思う。具体的にはヒメネスへのロングボールを積極的に活用することで、より直線的な攻め筋に移行。サリバをヒメネスで帳消しに出来れば、キヴィオルとトラオレのマッチアップであれば、フラム側に分があると踏んだのだろう。実際に63分の場面においてはこの形から強引に決定機にたどり着いた。

 どちらのチームにも得点のチャンスがある中でアーセナルはサカをついにピッチに投入。4月にして2025年はじめてのピッチを踏むことになった。そのサカは投入直後にゴールをゲット。左サイドからのクロスを合わせての追加点で自らの復帰を祝った。

 追加点のきっかけは中央でのパスカットからのカウンター。後半はやたらとフラムは強引な中央なボールをカットされるシーンが目立ち、この失点のシーンでついにとがめられたといった印象だ。

2点目のカウンターのシーンにおいてもマルティネッリの優秀さがよく際立つ。ボールを奪った状況はよかったが、追いかけるペレイラを振り切り、ディオプの足を止めたタイミングで左サイドにボールをリリースした。

仮にディオプの足が止まる前にボールをリリースしてしまえば、メリーノからのマルティネッリへの低い弾道でのクロスはカットされていた可能性がある。美しいアシストももちろん素晴らしいが、キャリーの段階でマルティネッリが正確な手順を踏んでいたからこそゴールまでの道筋が開けたといっていいだろう。

 終盤にフラムはリカバリー。主役となったのは交代で入った両SH。左サイドのイウォビは大外レーンからの正確なクロスでチャンスメイクに成功。古巣をサイドから脅かす。

 逆サイドは古巣がライバルチームのセセニョン。左サイドのイメージが強い選手だが、この日の右サイド起用も悪くなかった。スピードを生かして、ルイス=スケリーの背後を取ることで陣地回復に貢献。94分のムニスのゴールに貢献したのは彼のサイド突破。アーセナルの先制点の時のフラムと同じく、ボックス内の守備はこのシーンでも間に合っていたが、跳ね返りがゴールインしてしまう格好となった。

 キヴィオルはカウンター対応で気になる場面が多かった印象。失点シーンではボックスから動けず、インサイドへのクロスの動線も切れずとほぼいないも同然だったし、80分のムニスの決定機はインサイドに絞る選手についていったルイス=スケリーにムニスを受け渡したつもりになったせいで完全にフリーでシュートを打たれた。

 キヴィオルからするとおそらく中央から動かないことを優先したいのだと思うけども、80分のシーンはルイス=スケリーには他に気にしなければいけない選手がいた状態だし、体格を考えてもややミスマッチ。CFへのマークにはもう少し責任をもってほしいし、味方とのマークの受け渡しをはっきりさせないとマドリー戦に先発となれば致命傷ともなりえる。ホワイトとティンバーの状態次第ではエバートン戦で異なる最終レーンの組み合わせが試される可能性もある。

 それでもアーセナルは逃げ切りに成功。エースの復帰弾がチームを勝利に導き、アーセナルがホームでのフラムとの無敗記録を伸ばした。

あとがき

 単純にマドリー戦の見どころの1つはティンバー&サリバ&ガブリエウのマッチアップがエンバペとヴィニシウスとどのような力関係になるのか?とにらんでいたので、ガブリエウが少なくとも出場が難しそうな類の怪我をしてしまったのは残念である。

 そのほかの点はおおむねよかったが、撤退時に従来よりも堅さがないのは少し気になるところ。わずかなスキを見せれば前を向いて足を振ってくるマドリー相手ならば致命傷になりかねない。

試合結果

2025.4.1
プレミアリーグ
第30節
アーセナル 2-1 フラム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:37′ メリーノ,73′ サカ
FUL:90+4′ ムニス
主審:ジョン・ブルックス

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