MENU
カテゴリー

「逃したオープンの女神」~2025.5.3 プレミアリーグ 第35節 アーセナル×ボーンマス レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

互いの保持の思惑

 3月の中断明けからここまではCLを考慮したメンバー構成をリーグでも行うようになっていたアルテタ。今季最大の大一番であるパリ戦に挟まれたボーンマス戦でも同様の措置を行うかと思われたが、この日はCLのメンバーを踏襲するスタート。CLでは出場停止となっていたトーマスとこの試合で欠場となったティンバーのところを入れ替えるのみに終始した。

 エネルギー的に優位と考えられるボーンマスは躊躇することなく前からのプレッシング。クックが前方にスライドし、前線のプレスに追従。アーセナルのバックラインに強気でプレスを仕掛けていく。

 アーセナルはこれに対してCHが大きく動くことで相手のプレスを外していく。ライスの降りる動きにトーマスが合わせてサイドに流れることで対応。前からのプレスにショートパスで対抗していく。

 このボーンマスのハイプレスに対しては絞るルイス=スケリーや降りるトロサール、ウーデゴールといった面々が中盤に対してポイントを作っていく。ただ、ボーンマスのプレスのスライドが早い分、あまりアーセナルの選手たちには時間が与えられず。さらには、前線のボールの供給先であるWGに対しても厳しいマークが付いていたため、アーセナルも悠々自適なスタートとはいかなかった。

 一方のボーンマスの保持はCHのアダムスがサリーして3バック化。おそらくはキャリーができるCBを生かすためのアクションだろう。左のハイセン、右のサバルニーともに後方からボールを動かしていく。アーセナルはメンバーこそ維持したものの、前からプレスを強引にかける気はなさそうだったので、ボーンマスはこの2人の保持性能は生かしやすそうであった。

 特に序盤の狙い目になりそうだったのはボーンマスから見て左サイド。デュエルに怪しさがあったり、背後を狙われたりというホワイトのところはボーンマスの後方からの保持でも狙えそうだった。

得点をきっかけにテンポを失うレアケース

 序盤はやや苦戦していたアーセナルだが、少しずつペースを握っていく。大きかったのは左サイドの攻め筋が機能しそうなこと。大外のマルティネッリが収めどころになっていたのもそうだが、より際立っていたのはライスのフリーラン。広範囲を動き、相手に受け渡すか?それとも付いていくか?という判断を強いつつ、ギャップに入り込んでいく。

 ボーンマスはCBも出てくるチームなので、特にこのライスのギャップへの走り込みはとても効いていた。中盤で人をきっちりと捕まえにいくスタンスは次にあたるパリでも生きる。まぁ、この試合は結局負けてしまって反省も多い試合になったけども、このライスのフリーランに関してはアンカーにトーマスを置くことができる2nd legに向けていい材料になったように思う。

 もう一つ、アーセナルにとってこの時間帯に手助けとなったのは中盤に降りる選手たちが前を向けるようになったこと。ウーデゴールとトロサールは苦戦が目立っていたが、ウーデゴールは少しずつ浮きながら前を向けるようになってきた。

 ライスのフリーランと前を向くことができるウーデゴール。この2つの要素が揃ったのが先制点。前に出るCBのギャップを狙ったライスが抜け出し、GKを交わして無人のゴールに流し込んだ。

 失点をした時間帯のあたりに関してはかなり後手を踏んでいたボーンマスだが、失点以降はだいぶ立ち直った感がある。ボール保持の機会を増やしつつ、アーセナルのブロックの攻略のポイントを探っていく。

 狙いを定めたのはキヴィオル周辺。縦へのギャップへの対応が遅れがちなキヴィオルの手前をまずは使って揺さぶった後に、背後を使って抜け出す。ワッタラの抜け出しがサリバにカバーされたシーンなどはボーンマスの狙いの典型のように思える。

 こうしたキヴィオルの縦への揺さぶりへの弱さはプレミアリーグで元来見られる課題。マドリー戦ではこんな顔は全く覗かせなかったが、この試合ではまたこの課題を突きつけられる結果となった。この試合ではエヴァニウソンにも吹き飛ばされて決定機を許すシーンがあるなど、ひょっとするとコンディションはあまり良くなかったかもしれない。

 ボーンマスに押し込まれたことに関しては彼一人というよりはチーム全体の問題だろう。降りるボーンマスのバックラインに付いていけず、起点となる場面が増えていった印象。エヴァニウソン、クライファートといった面々から左右に展開してアーセナルのバックラインを背走させる場面が増えていく。

 ならば保持でなんとかしたいところだが、ラヤのパスミスなどその点でもテンポを掴むことができないアーセナル。先制点でリズムを掴むというのは聞いたことのある話だが、先制点でリズムを失うという珍しいケース。リードをしながらもなかなか難しい試合運びでハーフタイムを迎えることとなったアーセナルだった。

ライスを下げた影響は?

 後半は少し縦に速い展開の応酬からスタート。前半は少しローペースを意識していたようにも見えたアーセナルだが、後半の立ち上がりはこの応酬に乗っかる形に。48分のハイセンの楔をカットしたところからサカがカウンターで加速。最後はそのサカのヘッドでアーセナルはチャンスを迎えた。

 間延び上等のハイプレスに打って出た感があるボーンマスだが、立ち上がりはあまりその成果を得られていないようだった。特にライン間のウーデゴールが縦パスをレシーブすることでアーセナルが4人ほどの速攻を仕掛ける場面が増えていく。

 アーセナルのバックラインの迎撃の甘さとラヤのパスワークの不安定さは前半とあまり変わらなかったように見えたが、ボーンマス目線の収支でいえば、このオープンな展開はややマイナスだったように思える。きっちりと縦のパスコースを見逃さなかったのはトーマスの存在の大きさを感じる部分だったりする。この点も2nd legへの好材料かもしれない。

 しかし、ボーンマスは交代選手から流れを変えにいく。右サイドを駆け上がったセメンヨで一気に陣地回復に成功すると、ここから得たCKで同点に。GKの動きを制限する役割から自身がクロスの受け手に素早く移り変わったハイセンの動きにルイス=スケリーは付いていくことができずに失点。フリーでのヘッドを許してしまう。

 さらにはそのCKで追加点まで辿り着いたボーンマス。ニアのややボックス浅めの位置でファーにすらしたところをエヴァニウソンが押し込んで勝ち越し。リードを奪う。アーセナルとしてはこのセットプレーの直前にライスの交代を敢行したことがどう出たか。ニアにすらした相手の咎め役はこの前の場面ではライスがやっていたように思うので、その役割をサカに引き継いだことで対応の遅れを呼んでしまった可能性がある。

 追いかけたいアーセナルだが、終盤になると前からのチェイシングやフリーランが一気にトーンダウン。この部分で別格の存在感を見せていたライスがいなくなったことの影響もあるかもしれないが、シンプルにこの辺りは日程と展開の妙もあるだろう。ボーンマスはリードをしても他のチームと異なって引きこもるわけではなかったが、後半の立ち上がりと異なりオープンな展開を味方につけられているのはアーセナルからボーンマスになってしまった。

 最後までハイプレスでエネルギーを見せつける格好のボーンマス。アーセナルはメリーノ以降の交代選手をだいぶ引っ張ったのが、他の選手への現状の信頼度ということなのだろう。右のヌワネリはパリ戦でのスーパーサブでの爆発を期待したい選手だが、この試合ではまだ左のスターリングの方がチャンスメイクに効いていたというのはなかなか重たい結果である。

 試合はセットプレー2つでボーンマスが逆転勝利。アーセナルに対してクラブ史上初めてのシーズンダブルを達成した。

あとがき

 単純に勝ち負けの話をするのであれば、セットプレーで2つ取られる展開で勝利は難しい。決める側の立場を多く経験してきたアーセナルならばわかるだろう。どちらのセットプレーも甘さが出てしまった部分だと思うし、競り合いの強度と相手に対する出し抜かれ方の両面で不満が残る。

 流れの中でもオープンな展開がどちらのチームに傾く時間もあった中で、アーセナルがその流れを味方につけることができなかった。オープンな展開の女神にそっぽを向かれたかのようなスコア推移だった。

 CL出場圏に関してはニューカッスルの引き分けによって、5位確保に必要な勝ち点は69になった。繰り返しになるがサウサンプトンを最終節に残している状態ではそこまでこの点は心配していない。けども、パリ戦に向けて収穫が得られたかは微妙なところ。

 消耗戦で長い時間レギュラーをプレーさせたのも個人的にはあまり受け入れにくいところ。フルで休ませるとかはなくても45分での入れ替えは欲しかった。この試合で勝てなかったことも残念だが、個人的には収穫よりも不安が先立つ試合でパリに臨むことになったことの方が気がかりだ。

試合結果

2025.5.3
プレミアリーグ
第35節
アーセナル 1-2 ボーンマス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:34′ ライス
BOU:67′ ハイセン, 75′ エヴァニウソン
主審:ジャレット・ジレット

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次