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レビュー
ロングボール回避は机上の空論
金曜のナイトゲームはチェルシーとアストンビラがそれぞれ勝利。共にポイントを66に乗せて、CL出場権争いは混沌の一途を極めることに。早々に優勝をものにしたリバプールを除くと、残り4枠となったCL出場権争い。混沌からの一抜けが決まるのがこの日曜ナイターの一戦。ホームで引き分け以上でアーセナルが、アウェイで勝利でニューカッスルがそれぞれこの争いから事実上抜け出すこととなる。
重要な一戦であることは明白なのだが、スカッドはかなり苦しい両チーム。故障者が多いアーセナルはもちろんのこと、ニューカッスルも勤続疲労が滲み出るメンバー構成に。チェルシー戦で筋肉系のトラブルに見舞われたウィロックはギリギリベンチに間に合ったものの、トリッピアー、ジョエリントンといった主力は欠場。さらにはイサクも前触れのない欠場ということでかなりやりくりは厳しそうだった。
そうした中でのニューカッスルのメンバー構成は5-4-1。マーフィー、ゴードン、バーンズといったサイドアタッカーを総動員するスタートとなった。
5-4-1というフォーメーションながらニューカッスルは強気のプレスでスタート。低い位置のライスやトーマスといった面々にギマランイスとトナーリの2人がチェイシングするなど、リスクを冒して前から追いかけ回すプランを組む。
ということでアーセナルの狙い目になるのは前に出てくるCHの背後のスペース。序盤はここに前線のメンバーがロングボールを引き出すために降りる形を作っていく。
机の上では成り立ちそうなこの前進ルートだが、めちゃめちゃ効果的に刺さったわけではなかった。1つはアーセナルの前線がロングボールを収めるのに長けているわけではなかったこと。マルティネッリはともかく、サカやトロサールといった面々は相手に寄せられると収めるのが難しい。そういう意味ではレシーバーはきっちりと浮く必要があった。
もう1つの懸念はパスの出し手の方。この日はラヤの立ち上がりのフィードが不安定。長いレンジのパスミスが多く、自分たちのチャンスどころか致死性のミスになることが多かった。
しかしながら、そうした致死性のミスを自ら帳消しにしてしまう凄みがこの日のラヤにあった。立ち上がりの(自分が招いた)大ピンチは一度目のセーブの凄みとセカンドリアクションでのリカバリーというラヤの凄みが詰まったワンプレー。セットプレーからのピンチを防ぐなど、前半のラヤのセービングは群を抜いていたといっていいだろう。
普段と違うアーセナルの事情
とはいえ、アーセナルはニューカッスルのハイプレスを機能的に交わせていなかったと言えるだろう。逆にニューカッスルはアーセナルのハイプレスを見事に回避することで前進に成功する。
ポイントとなったのはこちらも中盤中央のスペース管理。トーマス、ライスは強気でギマランイス、トナーリを追いかけ回していくのだが、その背後を取られてしまう。ニューカッスルは5-4-1から保持時は4-3-3にシフトする形になっており、この場合にインサイドに絞るバーンズを捕まえるのが難しかった。

さらにはインサイドに絞るリヴラメントもアーセナルの守備が乱れた要因でもある。普段、アーセナルがルイス=スケリーでやっているような混乱のもたらし方をニューカッスルにリヴラメントでやり返されているという格好である。CHの背後にポイントを作り、サイドのゴードンとマーフィーで勝負を仕掛けるニューカッスルは優位を保つように。
自陣からのロングカウンターやポゼッションに手応えがあったニューカッスル。それであれば特にリスクをかけて前からのプレスには出ていく必要はないのだろうと思ったのだろう。20分になったところからコンパクトな5-4-1ブロック構築を優先し、アーセナルにボールを持たせるプランを組んでいく。
ニューカッスルがこのような舵取りをしたのはアーセナルの攻撃に対するローブロックの攻撃が十分に機能しているという手応えからだろう。サイドの攻撃の封鎖はお手のもの。サカ、ウーデゴールの連携を高い位置で止めつつ、時たま発生するホワイトの裏抜けもバーンが体を張って食い止める。
ハーフスペースからの強引なウーデゴールの打開のトライも実らず。この点はニューカッスルの左サイドのユニットが優っていた。
ニューカッスルはローブロックできっちりと受ける意識を高めている分、トーマスがフリーになる機会が圧倒的に多かった。しかし、それでもトーマスの受け先をきっちりと潰す形を組むニューカッスルに対して、アーセナルはトーマスがフリーになる旨みをきっちりと出すことができない。
左サイドでは今日は前半からマルティネッリと積極的なレーン交換を行っていたトロサールが孤軍奮闘。リヴラメントとは対照的に、ルイス=スケリーにはあまり元気が見られなかった。
ただし、アーセナルにとって普段と事情が異なるのは、ジリジリとスコアが動かない展開は歓迎ということ。引き分けでもCL出場権が確定。2位を確保という観点でもリスクを賭してニューカッスル相手に勝ちに行くよりも、相手に勝たせず最終節勝負の方がアーセナル的には割りがいい。
そういう意味ではジリジリと押し込みながらセットプレーで得点を狙いに行く30分から35分くらいのアーセナルの流れは非常に合理的とも言える。ニューカッスルはリヴラメントの一発抜け出しなどチャンスの場面もあったが、アーセナルは両CBとラヤの活躍でスコアレスをキープ。狙い通り、ジリジリとしたまま前半の幕を閉じることに成功した。
トリッキーなCBコンビの勝算は?
このままいけば確実にCL出場権を手にすることができるアーセナル。残り45分のミッションを前に立ちはだかった試練はサリバの交代。残り時間をキヴィオルとカラフィオーリというトリッキーなCBコンビでアーセナルは凌がなければいけなくなる。
こうなると最も避けたいのはトランジッションの連続。広範囲をカバーできるサリバとガブリエウの両方がいなくなってしまった状態でニューカッスルの素早いカウンターを受ける機会はなるべく減らしたいところだろう。
要は押し込むか、きっちり引くかの2択。この布陣を見た時にポジティブに捉えるのであれば、左サイドの攻撃性能は非常に高まったということを踏まえれば押し込みながら攻撃の機会を探るのがベターだろう。
というわけでアーセナルは左サイドを軸に攻撃を仕掛けていく。後方の支援をカラフィオーリが全面に行うようになったことで、前半は大外で大人しくしていたルイス=スケリーがインサイドで躍動。大外のマルティネッリもしくはトロサールとのレーンの棲み分けをしつつ、ボックス内に迫っていく。
右サイドはやや前半の不調を引きずっていた感があったが、ゴードンが奪ったボールを奪い返したアーセナルはこの右サイドから先制。ウーデゴールの折り返しをライスがファーにミドルで叩き込んでゴールを決める。
結果的にはアシストとなったが、ウーデゴールのラストパスはやや威力が弱く、ライスからすればゴールから離れる方向にステップする必要があった。それでもこのような力強いシュートをファーサイドに叩き込むことができるのはひとえにライスのポテンシャルの高さと言えるだろう。
アーセナルからすればこのまま押し込み続ける展開をなるべく続けたいところ。だが、アーセナルが続けたいことは裏を返せばニューカッスルが避けたいルートでもある。失点をしたニューカッスルはWBが前に出ていくなどプレスを敵陣までかけるような形で積極策に出てくる。
アーセナルはロングボールでこのプレスを回避。右に広がるサカと中央で相手を背負うマルティネッリという2人の異なるカラーでの陣地回復でニューカッスルのプレスを空転させていく。サカの調子がイマイチだった分、決め切るところまではいかないアーセナルだったが、ニューカッスルを背走させる程度には手を焼かせたと言えるだろう。
ニューカッスルは4バックにシフトすることでサイドの手当を行いつつ、前プレの人員を確保していく。しかしながら、早速マルティネッリのロングボールの標的となったクラフトが警告を受けるなど、このシフトチェンジはあまり前向きな入りにはならなかった。
攻撃においても4-3-3に対して、きっちりとブロックを組んで引くアーセナルにはニューカッスルは苦戦するように。速攻にしてもルートが単一でアーセナルのバックラインは先読みがしやすかった。こういう展開であればキヴィオルは落ち着いて相手のボールを処理することができる。
唯一外された感があるのは74分のオスラとギマランイスの連携からバーンズがシュートを放った場面。この攻撃もう一歩タイミング速くバーンズまで辿り着けなかったニューカッスルの物足りなさが先行したシーンだろう。
振り返ってみるとニューカッスルとしてはこの日の薄いスカッドでアーセナル相手に立ち向かうのであればあくまで前半勝負ということだったのだろう。オフザボールの質も落ちたし、プレスも単発でぶつ切りと後半は明らかにガス欠。追いかける展開が苦しかったのはいうまでもなく、交代選手もこの流れを変えることができなかった。
最後まで攻め続けたニューカッスルだが、アーセナルの牙城を崩すことはできず。アーセナルはホーム最終節を勝利で飾ることに成功。3連敗を今季苦しめられ続けた天敵に最後に一矢を報い、2位の座をほぼ確実に確保することとなった。
あとがき
アーセナルがニューカッスル相手に先制されると一気に展開が苦しくなるのと同じように、ニューカッスルもまたアーセナル相手に先制されると苦しくなるのだろう。調べてみるとこのカードは直近17試合中16試合で先制したチームがそのまま勝利を手にしている。残り1つはスコアレスドローでそもそも先制したチームが存在しない。それだけ先制点が大事なカードということだ。
この試合のニューカッスルは今季アーセナルが3回体験した追いかける展開を初めて経験したことになる。時間の経過とともに攻め筋がなくなっていくあの感覚はまさしく敗れた時のアーセナルを見ているかのようだった。アーセナルは4回目にしてようやくニューカッスルの前に出ることができた。3回味わった苦しみをロンドンで宿敵に味わせ、酸いも甘いも味わった本拠地を最後は笑顔で締め括った。
試合結果
2025.5.18
プレミアリーグ
第37節
アーセナル 1-0 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:55′ ライス
主審:サイモン・フーパー