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レビュー
攻撃の手段を見切った両軍
残留争い、優勝争いに対して一刻の猶予もない両チーム。立場は違えど欲しいのは1ポイントではなく3ポイントというのは同じスタンスの神奈川ダービーだ。
川崎はコンディション不良でクラシコを欠場した脇坂が先発復帰した以外は3日前のメンバーを継続。湘南はゼ・ヒカルドなど不可抗力で入れ替えるメンバーを含めて大幅にスターターを変更。中2日のリフレッシュ要素かと思いきや、GKに真田を入れるなど流れが悪いチームへの活性化を促す起用も行っているという印象だ。
序盤にテンポを掴んだのは湘南。トップに素早くボールを入れていくことで起点を作っている。中心となっているのはサイドの背後を狙う二田のフリーラン。立ち上がりは右サイドにフォーカスし、枚数をかけたサイドでハーフスペースの裏を狙う形でボックスに迫っていく。
しかしながら、このサイドの攻撃は川崎は見切っていた。ハーフスペースの裏抜けに対してもCBは落ち着いて対応。佐々木が出ていって潰すか、もしくは折り返しのクロスをカットできる位置にいることがほとんどだったことがインサイドを乱されなかったことの証左と言えるだろう。
サイドの深い位置をえぐる副産物といえるCKは多く稼ぐことができた湘南だったがこちらも不発。序盤5分で4回あったCKはほとんど川崎に先に触られてしまい、有効な攻撃とすることができなかった。
一方の川崎は湘南以上に攻撃の形を作ることができない立ち上がり。左サイドに流れるエリソンをロングボールのターゲットとして勝負をしていくが、ここはきっちりと湘南が準備をしていた形。ワイドCBの舘とアンカーの奥野が挟み込む形でエリソンを封殺。徹底的に挟み込むことでエリソンに粘る隙すら与えない。エリソンへのロングボール対策という点では明らかにここ数試合の中で一番きっちり作戦を打ってきたチームだと思う。
川崎は収まらない状態においてもロングボールを入れる展開を継続。序盤は相当この長いボール一本槍だったので、川崎としては難しい展開。むしろ、湘南が攻め込んでくれた場合のトランジッションの方がエリソンが挟まれる状況を作られない分、川崎は攻め筋を作りやすかった。二田の落としのミスや中野のインサイド旋回から入ってくる形のロストなど、湘南がボールを失ったところがすなわち川崎の攻撃のタイミングと言えるだろう。
左サイドの関係性整理が活路に
ロングボールを決めうちで蹴るのでエリソンが挟まれてしまう状況が作られる川崎。それを回避するにはなるべく中盤を手前に引き出すアクションが必要となる。というわけで川崎は15分過ぎから少しずつ自陣でのポゼッションをスタート。DFラインがショートパスを繋ぎ出す。
湘南はすかさずハイプレスにシフトチェンジ。IHがSBにプレスに出ていくことで川崎のビルドアップをなるべく川崎の陣内で止めていく。特に湘南が狙っていたのは低い位置に立つ三浦。ボールが出ると素早く池田がスライドすることで、三浦の選択肢を制限。ミスキックを蹴らせて回収する。今季、低い位置でのボール関与においてはミスが多い三浦のところをきっちり湘南が咎めていく。

三浦と比べれば低い位置でボールを触る頻度は少なかったが、逆サイドのファン・ウェルメスケルケンにも小野瀬がハイプレスにいく。ファン・ウェルメスケルケンは三浦に比べれば対面の相手と駆け引きしながらパスコースを作ることができるが、こちらは右サイドで奥を取るアクションをする選手がいないので、ファン・ウェルメスケルケンから先に繋ぐことができたとしても、先の先がないというケースが多かった。そういう意味でショートパスへのシフトチェンジははじめはあまりうまくいかなかった。
風向きが変わったのは低い位置においてのポジションバランスを変えてから。河原のサリー、もしくはGKの山口を最後方のビルドアップ隊に加えることで、佐々木の位置を左の大外に張り出す位置が増えていく。三浦の定位置は一列前。この日はインサイドの高い位置を取り、舘を対面とするケースが多かった。

佐々木と三浦の配置バランスの変化により、SBのプレス役だった池田はマークに出ていくかを迷うように。高い位置から咎めてショートカウンターという流れを掴めないようになり、少しずつ川崎は左サイドから奥をとっていく。
先制点はその高い位置をとった三浦がアシスト役。山口からのロングボールをマルシーニョが繋ぎ、山本の裏パスで抜けた三浦が脇坂の先制ゴールをお膳立てしてみせた。川崎としては佐々木を左のサイドに押し出すポジションチェンジは三浦のビルドアップ負荷低減による失点リスクの回避と、高い位置に出て攻撃性能の上積みという2点で素晴らしい調整となった。
対する湘南は時間経過とともに苦しい展開に。後方からのビルドアップにチャレンジしたいところではあるが、ことごとく繋ぐ過程のところでミスが出てしまい、川崎のカウンターのチャンスになってしまっている。最もリスクの低い攻め筋は二田の背後への抜け出すアクションなのだが、これは完全に川崎のCBに見切られてしまった感。佐々木、ウレモヴィッチの両名はこの二田の裏抜けが湘南の攻撃の最優先手段であることを見越して先回りして潰すことができていた。
リスクを取ればミスになってカウンター、リスクを低減した手段をとれば有効打にならないというジレンマを抱えた湘南。非保持面においては少しずつ2トップ背後に構える河原に対して、佐々木からのパスを許してしまい、ショートパスからも幅を使った攻撃を許してしまうように。押し込まれた際のセットプレーにおいても川崎の選手に先に触られたり、真田が不用意なカウンターで飛び出したりなど怪しさが見えた。
エリソンがボックス内で深さを生み出してミドルシュートの隙を作ったり、山本が得点シーンと左右のサイド反転で伊藤の決定機を創出したりなど、引き続きチャンスメイクをしていく川崎。湘南も中央で鈴木章斗がポストプレーで顔を出すようになっては多少は攻撃の形が見えてきたが、ボックス攻略の有効打には至らず。試合は川崎のリードでハーフタイムを迎える。
攻撃の芽を摘み切ったクローズ
迎えた後半、湘南は前半の立ち上がりと同じように右サイドにフォーカスした立ち上がり。枚数をかけた崩しを行いながら川崎の陣内に入っていく。前半よりは左右に揺さぶるアクションを入れていった湘南。WB→WBが成立した49分の場面など、川崎のCBがスライドしきれないシーンもあった湘南だが、フリーで折り返す役割の鈴木雄斗が味方に繋ぐことができず、シュートチャンスまで辿り着くことができない。
川崎は前がかりな湘南に対してファストブレイクで対応。エリソン、マルシーニョのシンプルなスピードを活かした左サイドと、中盤やバックラインからの繋ぎで前を向くことができる状態の伊藤に縦パスをつけるなどいくつかの手段で素早くゴールに迫る。左サイドを破ったエリソン→マルシーニョのシーンは明らかに決定機だった。
両チームともに後半の攻撃の形づくりに奔走する中で追加点のチャンスを迎えたのは川崎。FKを鈴木章斗がハンドを犯してしまいPKを献上。ジャンプしながら腕を引っ張られて空中でバランスを崩したように見えるのは不運だったが一度吹いてしまえば覆すのは難しい判定のように見えた。直後の河原の状況との違いは至近距離での軌道変化の有無。河原のケースは至近距離で軌道が変わっており、跳ね返りの予測をするのは不可能というのが小屋主審をはじめとする審判団の打ち出した判定となるだろう。
このPKのチャンスをエリソンは決め切ることができず。細かいステップを踏み、動かなかったら右の低い位置のギリギリにグラウンダーを相手のセーブが間に合わないスピードで蹴り込むというルーティンを守ったエリソンだったが、わずかにボールはずれて枠に跳ね返されてしまった。
追加点を決められなかったことで焦りがやや見えた川崎。カウンターの攻撃は単調なものになり、淡白なシュートを選択するケースが少しずつ出てくる。一方の湘南は中央にフェリッピを入れて背負える起点を中央に置く。左右に振るための新しい手段ができたことで、湘南は少しずつ奥に進んでいく。左サイドで余裕を持って受けられた小野瀬にクロスの精度がついてくれば、湘南の決定機はもう2つはあったように思える。
いけると思ったところで足元を掬われてしまうのが今の湘南の難しいところだ。左サイドからの中野のドリブルを起点としたサイドチェンジを咎める形で川崎はカウンターを発動。ボール奪取から一気に加速した三浦が敵陣まで運んでいくと、右サイドの小林の2回のクロスが実って最後は伊藤がゴール。80分に追加点を奪い、湘南を突き放す。
なんとかしたい湘南は左サイドからのFKで大外の舘を使うことで1点差に。河原を完全に出し抜いてのゴールで再び勝ち点確保を視野に入れる。
川崎は最後の交代で3枚を投入し5バックにシフト。やや後ろ重心だったのは確かなので、1トップは小林ではなくより陣地回復が期待できそうなロマニッチの方が適任だったように思う。もちろん、小林も右サイドに流れながら体を張って時間を稼いではいたけども。
ただ、押し込んでからの湘南の攻撃はあまり可能性を作れなかった。大岩を前方に入れたとはいえ、単純なクロスは枚数を増やした川崎の守備陣に跳ね返されていたし、エンドライン側を抉るクロスはウレモヴィッチが全てカット。左サイドでドリブルでの仕掛けができる石橋にクロスの精度があれば面白かったが、限られた機会でボックス内にはボールを届けることができなかった。湘南の攻撃の手段と精度を考えれば、川崎のこの試合のクローズは何ら問題ないもののように思える。
試合はそのまま終了。多摩川クラシコでの敗戦の鬱憤を晴らす勝利を川崎が手にすることとなった。
あとがき
神奈川ダービーは5勝1分。成績的にも神奈川最上位は川崎が確定なので、文字通り2025年の神奈川の王は川崎である。ちなみに2年連続となります。おつかれさまでした。
試合の内容を考えると湘南を相手にするという観点では問題なかったが、どこが相手でも胸を張ってやれると言えるかというと微妙なところではある。エリソンのワンサイドカット→サイド誘導から縦に蹴らせて回収というこの試合でよく見られたメカニズムは小島から作り直せる柏には通用しないはず。プレスの面ではよりブラッシュアップが求められることになるはずだ。あまり準備期間はないが、限られた時間の中でどれだけプレスの精度の底上げができるかが重要となる。
三浦が復調気配なのは朗報。この試合のパフォーマンスを見るとできるだけビルドアップの負荷を低減して左サイドの高い位置を彼に取らせることは検討しても良さそう。必要であればインサイドに入りがちな伊藤を左にスライドさせて、三浦が上がりやすい環境を整えてもいいのかもしれない。
試合結果
2025.9.23
J1リーグ
第31節
湘南ベルマーレ 1-2 川崎フロンターレ
レモンガススタジアム平塚
【得点者】
湘南:83′ 舘幸希
川崎:28′ 脇坂泰斗, 80′ 伊藤達哉
主審:小屋幸栄