
プレビュー記事

レビュー
構造で圧倒する柏のビルドアップ
2点のビハインドを本拠地で跳ね返さなくてはいけない柏。スターターには出場停止明けの中川が復帰し、ベンチには1st legで欠場した古賀と原田を投入する体制で勝負。一方の川崎は1st legで負傷した三浦と大島のところを入れ替えて臨む一戦となる。
何度も書いたプレビューで触れたように、このカードは構造で勝負したい柏とトランジッションの連発で縦に速い馬力勝負に持ち込みたい川崎の構図となっている。柏が2点ビハインドという状況が生み出すのは、こうした本来勝負したい土俵に対するミスマッチ。高い位置から追い回すことで、川崎のロングボールを蹴らせて縦に速い展開を生み出す。
本来、柏はより展開を制御したいが、2点ビハインドを覆すという目的により縦に速い展開を意識するという立ち上がりに。川崎は見事にこのミスマッチにつけこんで先制点をゲット。脇坂が攻撃の起点と終点を務める形でゴール。右サイドの伊藤の突破の手助けからわずか4分で先制点に持ち込む。
3点のビハインドを埋める必要が出てきた柏。失点直後はややバタバタした展開となったが、徐々に保持で川崎を振り回していくようになっていく。この試合で見せた柏の保持の仕組みはリカルド・ロドリゲスの真骨頂といえる部分だろう。文字数をかけて振り返って行きたい。
まず、基本的な並びは3バックの前にアンカーの戸嶋が経ち、相棒の中川は左サイドにやや流れる。その中川と左右対称の位置に小泉が落ちる。3-4-2-1という枠組みで言えば小泉と対になるはずの小屋松はトップ下に入る。いわば、3-3-1-3のようなフォーメーションとなった。

川崎は脇坂とエリソンが縦関係になり、トップ下役の脇坂が戸嶋を管理。ワイドCBの馬場と三丸はSHのマルシーニョと伊藤がチェックに入る役割だった。
この基準を乱していたのが中川。伊藤の背後でボールを受けようと微妙にポジションを変えながらやや左に流れたり、列を降りたりなどをしていく。基本的には河原が監視したいのだが、サイドや奥に深追いをすると今度は背後が空く。背後が空けばこのスペースには小屋松が移動し、縦パスをレシーブする。

というわけで河原はなかなか中川にべったりというわけにはいかなかった。ということで脇坂がマークを引き取るのであるが、そうなると本来の脇坂のマーカーである戸嶋が空いてしまう。
十分にリードを取っていたこともあり、川崎の3トップは柏の3バックに対してタイトにマークをつかず、コースを消すような守備をしていた。基本的には伊藤は中川につながるようなコースを消したいし、エリソンは戸嶋につながるコースを消したい。コースを消す守備の難点は角度を変えてしまえば何の意味もないということ。

エリソンはあくまで犬飼に対してアンカーのコースを切ろうとしていたが、角度のついた三丸からのパスを消す想定はしていない。おそらく、そこを捕まえるのは戸嶋をマークしている脇坂のタスクであると考えているはずだ。
しかし、背後では降りてくる中川の対応に追われるため、脇坂は戸嶋に集中しきれていない。そのため、アンカーのパスルートが空くということが多かった。
サイドを抉って保持一色の攻撃を完結
中川だけでなく、逆サイドでは小泉も上下の揺さぶりをする。山本が出て行けば背後では同じように小屋松が縦パスを受けるためにポジションを取り直す。アンカーの戸嶋もそうだが、柏の中盤は全員がこまめにポジションを取ることに積極的。チームとして川崎の中盤に負荷をかけることを共有して臨むことが出来ていた。
仮にすべての選手が捕まっている場合はトップの垣田が保険に。川崎としてはきっちり挟み込むことが出来れば楽なのだが、小屋松、小泉、中川に忙殺されている状況では垣田の挟み込みまではリソースを割くことはできない。
中盤で切れ目が出てくるようになった柏。バックラインからサイドに直接つける形であれば川崎はスライドしながらの圧力で間に合わせていたが、中川や戸嶋といった中盤のフリーマンを経由しての展開に対しては少しずつ後手に回るように。切れ目を生み出した柏田が、初めはフィーリングが合わず、川崎に前向きなカウンターを許してしまうケースもあった。
高さで圧倒的なアドバンテージがあるわけではない柏は単にクロスを上げるだけでは勝負は難しいが、サイドを抉ることが出来ればスペースはできる。川崎は中央が捕まえられないことで徐々にサイドも間に合わなくなる。伊藤の二度追いが出て行けなかったり、あるいは山之内に背後を狙われたりなど、左右のサイドから危ないシーンを作り出していく。
柏の1点目は右サイドの山之内の裏抜けから。インサイドに合わせて川崎の守備陣を置いていった垣田がまずは先制点を帳消しにする。川崎としてはサイドの裏を取られた形が痛恨。田邉は小泉をほかの人に任せられる状況だったからこそ、山之内へのパスはなんとか寸断したかった。パスを通すとしても絞って体の左側に制限したかったところ。右を通されるパスはワーストケースといえる対応だ。
もちろん、その手前のエリソンと脇坂のバタバタのパスも反省の余地が大いにあるものだった。エリソンは直前のプレーで靴が脱げていたことも要因ではある。不満の意を表すように靴を投げる暇があったら、履き直す時間はあっただろう。サッカー以外のところでの損が失点に絡んでしまうとなかなかにやるせない気持ちになる。
反撃に出たい川崎だったが、5レーン的な柏の攻撃に対して後手を踏む影響で、山本や河原がバックラインに吸収されたり、脇坂、伊藤、マルシーニョが列を落としたりなど全体が後ろ重心に。こうなるとサイドからのスピードアップは難しい。
いくらスピードがあるアタッカーがいたとしても前を向けないのであればいないのと同じ。マルシーニョと伊藤はとにかく加速する前に潰されることで延々と柏はカウンターの芽を摘んでいく。エリソンは孤独に柏の守備陣と戦っており、彼が事実上唯一の突破口だったといえるだろう。
佐々木が前向きでボールを運べたり、あるいは脇坂がカウンターの起点になったりした時は推進力を出せる川崎だったが、そうした状況は稀。柏側にミスが生まれればそういった起点ができるが、そうしたミスを誘発する仕組みを川崎は作れていなかったため、川崎としてはお祈り感が強い前半となった。
90分押し込み続ける手形
後半、川崎は脇坂を右サイド寄りに配置する4-5-1の形で守るように。二度追いができていなかった伊藤のサイドにおいての手当てということになるだろう。
1st legと同じく柏はハーフタイムに3枚の交代を敢行。おそらく、復帰直後の古賀と原田は試合前からこのタイミングで投入することを決めていたのだろう。後方の舵取り役として保持の局面を整えられる古賀と、山之内がほぼ専任だった右の大外役をシェアできる原田の登場で柏はさらに保持の支配度を高めていく。
川崎の一手は受ける前提であるもの、そして柏の一手は押しこむところを強化するもの。両者の思惑は一致した状態となり、試合は前半の試合の流れを踏襲することとなった。柏の交代策はきっちりと効果を反映。特に右サイドで乱数を増やした原田は川崎の守備を前半以上に混乱させることとなった。
川崎は前線に起点を作れないのは前半と同じ。マルシーニョと伊藤は低い位置でスピードアップする前に囲まれ、エリソンはよくてフィフティーのボールを追い回すことしかできない状態が続く。
息をつく暇なく守備の時間が続く川崎は10分ほど過ぎたところで決壊。中盤での連続ロストの結果、細谷に出されたパスに逆を取られたウレモヴィッチが一発退場。やや転んだようにも見えたので、どこまでが意図的なプレーかがわからないが、体勢の反転を強いられたことも含めて準備ができていなかった感が強かったプレーだった。
プレビューにおいて柏のこの試合のポイントとしていたのはプランの持続性だ。負傷者の影響もあり、一部の選手はかなりプレータイムがかさんでいる状態。WBができる選手を4人投入したこの日のスターターを踏まえても、サイドの活性化は難しいし、選手交代も(おそらくはプラン通りとはいえ)早めにカードを切っている。
こういった状況を踏まえれば、60~70分以降に運動量の低下に伴うオフザボールの減少で前半途中から後半にかけて見せられたような川崎の守備に選択を作るような動き方が出来なくなってしまう可能性もあったはずだ。
この試合で川崎が息を吹き返す筋があるとすればまさしくこの柏のスタミナ切れだった。しかし、ウレモヴィッチが退場したとなれば話は別。動きの量が多少下がっても誰かしらはフリーになるのが数的優位。指をくわえているだけでは柏は落ちてきてはくれない。レッドカードによって、柏は押しこんで選択を迫り続ける状況を90分間続けることができる手形を確保したようなものである。
川崎は退場に伴って5-3-1に移行。5レーンをズレないようにしつつ、両SHを下げることで基本的には専制守備の構えを見せる。攻撃は引き続きCFのフィジカルにお祈り状態となっていた。
柏の保持はレーンが埋められた状態であればU字でただポゼッションを行う上では難しい。5-3-1に対峙するには横断をしつつ、縦を狙っていく姿勢が重要なのだが、その点を中川が担うことにより、川崎の守備の裏をかくことが出来ていた。
ショートコーナーからの仲間の一撃でトータルスコアを3-4とした柏。もう一押しが欲しい終盤戦で活躍したのは細谷。神橋を駆け引きで外した同点弾、反転で佐々木を振り切った逆転弾はここしばらく苦戦していた9番にとっては待望の大仕事。専制守備の川崎に穴を空けることに成功する。
家長、ロマニッチと前線の選手を入れることでリカバリーをしたい川崎だが、前から追う状況は作れず。頼みの数回のセットプレーでもネットを揺らすことができないままゲームセット。2点差を敵地でひっくり返されて、国立の切符を逃してしまった。
あとがき
10人になった影響もあり、この3連戦の中でもっとも片方のチームが得意な土俵の時間が長かった試合だったと思う。そういう意味では3つの試合の中で最も点差がついたのはある意味自然なものであった。
10人になった段階で伊藤かマルシーニョを残しておくべきでは?という意見もわからなくはないものの、11人でも前を向けずにいないも同然だった時間が続いていた伊藤が前を向けるかは柏のミス待ち状態だったのも確か。前半の守備を見ていれば特に伊藤は守備で穴を空ける可能性は高く、このリスクを排除したかったと考えるのはわかる。結局のところ、11人で立ち行かなくなっている展開を10人でどうにかしなければいけないという時点で何かのリスクが残るのは当たり前なので、どう舵を取ろうとそれなりにメリットもリスクもありつつという選択になってしまうのは仕方がない。
ただ、11人だったとしても「柏次第」とか「ミス待ち」といいたくなる状況が非常に多かった。レッドカードの手前の時間帯であまりにもこの日立台での90分は川崎の手から離れてしまった感があった。突き詰めればここがこの試合一番の課題になるだろう。
今の守備の精度では前半から連綿と続いた柏のビルドアップの仕組みを咎められる実力がなかったということ。10人になったプレーは退場者本人のミスも当然咎めなければいけないが、一方的に攻められる状況の線の上にある話。「マルシーニョと伊藤を下げなければよかった」に反省を矮小化できる話ではないのは明らかだ。
より長い時間柏のようなチームを跳ね返し続けられる耐久度、そして待たずとも流れを奪いに行けるような流れを変える地力。タイトルを獲る上で足りないものを感じさせられる90分だった。
試合結果
2025.10.12
Jリーグ YBCルヴァンカップ
Semi-final 2nd leg
柏レイソル 4-1(AGG:5-4) 川崎フロンターレ
三協フロンテア柏スタジアム
【得点者】
柏:26′ 垣田裕暉 73′ 仲間隼斗, 77′ 90+2′ 細谷真大,
川崎:4′ 脇坂泰斗
主審:今村義朗