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「下振れの高さ勝負」~2025.10.26 プレミアリーグ 第9節 アーセナル×クリスタル・パレス レビュー

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レビュー

あえての噛み合わせの可能性

 土曜日の試合ではリバプールとチェルシーが敗戦。第8節終了時点の2位であるシティはこのカードと同時刻キックオフであるが、アーセナルとしてはこの試合をモノにすればライバルに差をつけることができる。重要なホームゲームで迎えるのはクリスタル・パレス。今季はリバプールよりも長く無敗記録を伸ばし、そのリバプールを2回も倒している曲者である。

 まず、試合はアーセナルの保持からスタート。パレスはバックラインに強引にプレスをかけていくことはしないいつもの立ち上がりを敢行。ミドルゾーンで構えるようなプレスを仕掛けていく。

 アーセナルの保持はカラフィオーリ、ガブリエウ、サリバが3バックを形成。ティンバーはあまり組み立てには関与せず、前に張る役割が重い立ち上がりだった。

 いつもと異なる保持のバランスの狙いは解釈が分かれるところではあるが、個人的にはパレスのプレス隊を誘き寄せるための作戦のように感じた。普通に組むのであれば、パレスのプレス隊はミドルブロックを優先して、バックラインにプレスをかけない。ただ、インサイドを使いたいアーセナルはそれでは困るのでプレスに来て欲しい。そのためにはプレスに来たくなるように3バックを噛み合わせてしまおうというイメージなのかもしれない。

 相手が間延びしてくれれば、インサイドにチャンスが生まれるアーセナル。狙いが刺さりそうだったのは右サイド側。組み立ての入り口はサリバなのだが、普通に並べば対面となるはずのピノは高い位置を取るティンバーが気になる様子。そのため、サリバへのチェックは鎌田が担当することが多かった。

 というわけで鎌田が前に出ていこうとすると、CHの間に入ってくるエゼが受けるスペースができてくるという算段である。ならばピノが前に出ていけばいいのでは?と思うかもしれないが、ピノにはこの日はティンバーの監視に加えて、ミッチェルのフォロー役としてサカのダブルチームのパートナーとしての役割も与えられていた感があった。よって、サリバを潰しに高い位置には出て行きにくかったのかもしれない。

 アーセナルの左サイド側への対応は右サイド側よりは整理されていたように思う。ただ、このサイドは低い位置でのズレ以外にも狙いがあったと推察する。ライスのサイドフローを絡めて、ムニョスをピン留めしつつ、狙いとするのは高い位置のトロサールとリチャーズの1on1。

 スペースがある状況での守備対応では直近安定しないパフォーマンスを見せているリチャーズについてはプレビューで触れた通り。ガブリエウが一つ飛ばしにトロサールを狙う頻度が高かったことを踏まえると、ここはあらかじめ左サイドのポイントとして定めていた可能性があるポイントであった。

異なる手札が出てくる中盤戦

 パレスのポゼッションは前線へのロングボール中心。ガブリエウ、サリバと真っ向から渡り合いながらそれなりに収めるマテタはさすがではあるが、他のチームとの対戦時と比べると抜け出し切るシーンを作るのは簡単なことではない。チャレンジとカバーがはっきりしているアーセナルのCB相手にはなかなか決定的なシチュエーションまでには至らなかった。

 むしろ、パレスは非保持の整理からのカウンターでチャンス。ややバタバタしていたアーセナルの右サイド側への対応も時間の経過とともに安定。スビメンディのパスミスを誘発したり、あるいは中央で縦パスを受けるエゼを取り囲んだりなど、本来アーセナルがここから加速して行きたいというポイントを押さえて、自分たちの攻撃に転じていく。

 惜しむらくは奪った後のプレーの質だろう。前向きのパレスの強みの一つは思い切りのいい攻め上がりを見せるWB。普通ならば間に合わない縦に速い攻撃においても、とんでもない脚力で間に合わせる両翼の破壊力は非常に重要なポイントとなる。

 しかし、このWBへのパスの供給が不安定。力み過ぎて流れてしまったりなどでサイドから抉る絶好のチャンスをフイにしてしまう。アーセナルのミドルゾーンのパスワークが不安定だったように、パレスもミッドウィークの欧州カップ戦の負荷を引きずっているのかもしれない。

 中を覗くプランがなかなかうまくいかないアーセナル。そうした中で頼りになったのはギョケレシュ。右サイドに流れるような形を主として対面のCBを背負いながらお手軽な陣地回復に成功する。しんどく周りのコンディションが上がらない中で無理を効かせてほしいというのはまさしく彼に求めていたもの。

 対面のラクロワはスピードタイプなので走り合いで置いていくことはできなかったが、体のぶつけ合いではギョケレシュをやや苦にしていた様子。背負って落とすところまではギョケレシュのパフォーマンスは非常に安定していた。

 バックラインではライスのサリーを挟むことで3バックの構成を変更。相手のプレス隊が変な釣れ方をしないかを試していた。

 右サイドもバランス調整を敢行。サカとティンバーのレーン交換により大外にティンバーが出ていく形も。今季のティンバーのミスの少なさであれば、大外にサカを固定する必要はないということだろう。ティンバーはそれに応えて、高い位置の大外でもキープ力を見せていた。

 刺さったのはこの右サイドのレーン変更。インサイドに切り込むサカがファウルを奪うと、このFKから先制。得意のセットプレーを仕留めたのはエゼ。古巣相手の豪快なボレーでチャンスの少ない試合で貴重なゴールを仕留めることに。

 リードを得たアーセナルは落ち着いて前半をクローズ。試合はアーセナルのリードでハーフタイムを迎える。

得点よりも高い貢献度

 後半もアーセナルのポゼッションから試合はスタート。右サイドのポジションチェンジはスビメンディがよりはっきりと流れるなど変化を大きくつけていく。パレスとしてはこの動きについていけば、5バックに穴が空いていく仕組みになっており、リスクとリターンは紙一重という感じであった。

 左サイドではトロサールの切れ味が目立つ展開に。前半から続き、ガブリエウのこの日の重点プレーである左サイドの奥を取るアクションからチャンスを作っていく。受けたあとのボールタッチもキレがあり、やや重さがあったこの日のアーセナルの面々の中では好調を感じさせるパフォーマンスとなった。

 パレスも前半から引き続きマテタを起点とする形から中央のパスワークを敢行。しかしながら、前半と同じくパスワークに手数をかけてしまうとミスが起きてしまうのが難しいところ。アーセナルも同じようにミスがあるため、中盤はバタバタ。前半に比べるとアーセナルが加速してゴールに向かう場面もあり、トランジッション色は強い展開だったと言えるだろう。

 パレスの狙い目となったのはアーセナルの強引な仕掛けがミスになった時。スビメンディ、ティンバーなどが強引すぎるトライに失敗した時は狙い目。多くの局面には問題なく対応していたモスケラだったが、左サイドのエンケティアの裏抜けに体の逆を取られる形になってしまい、対応が遅れるシーンもあった。ここの背後を取られるシーンは以降もあったが、ラヤのカバーリングを含めて一度目以降は危なげなく対応した。

 攻撃を少しでも遅らせられればアーセナルの中盤の鬼のネガトラが炸裂。レギュラー組はもちろんのこと、エゼも穴を開けそうになったスペースに対する嗅覚が非常に良くなっていたのが印象的だった。パレスは70分以降は押し込むシーンが増えてきたものの、ボックス内でのもう一手を捻り出すのに苦戦する。

 終盤に再び輝きを放ったのはギョケレシュ。独力で時間を作れるストライカーは攻守に90分に走り回った素晴らしい立ち回り。個人的には2得点を挙げたアトレティコ戦よりも直接的に勝利に貢献した試合だったと思う。

 アーセナルは無失点記録を継続。セットプレーでの1ゴールを守ることに成功し、首位をキープした。

あとがき

 3連戦の3つ目ということもあり、さすがに疲れを感じるパフォーマンス。しかしながら、失点のリスクを最小限に抑えるというミッションをキープすることができて、その上にセットプレーでゴールを乗せることで勝ち点3を手にした。

 悪いなりにまとめるというのは昨シーズンからのアーセナルの得意分野。下に振れた時のパフォーマンスの高さはこのチームの最大の強みと言っていい。下振れしながら勝つという連戦が続く中で必要なものを体現できた90分だったのではないか。

試合結果

2025.10.26
プレミアリーグ
第9節
アーセナル 1-0 クリスタル・パレス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:39′ エゼ
主審:トーマス・ブラモール

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