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レビュー
希望の光となったサカ
ノース・ロンドン・ダービーから始まったロンドン三部作も最終章。代表ウィーク明け初のアウェイゲームはスタンフォード・ブリッジ。現在のプレミアでは最長となる3連勝を記録している好調のチェルシーとの試合となる。
ここ最近のチェルシーは国内だけでなくCLでもバルセロナを撃破するなど好調。代表ウィーク明けの初戦はバーンリー相手に積極的なターンオーバーを敢行するなどプレータイム管理も徹底。アーセナルよりも1日日程に余裕があることもあり、体力面ではアドバンテージがある可能性がある。
近頃の決戦仕様のチェルシーはマンツーマンでの潰しがメイン。特にこの日はカイセド、ジェームズ、エンソという中央を堅くする3センターを採用し、アーセナルを守備から潰していくイメージの人選で挑んでいく。
アーセナルはサリバが欠場したこともありモスケラとインカピエという2人のCBをスターター起用。共に足元に長けている選手ではある一方で、プレミアリーグの経験は乏しいため、プレスのスピード感の適応には不安がある。チェルシーからするとプレスのかけがいがある状況であることは間違いない。
ということで躊躇なく決戦仕様のハイプレスに出ていくチェルシー。特に中盤は執拗なマンツーマンを敢行。スビメンディが攻め上がったり、エゼが降りていったりなど大きな上下動からチャンスを作りにいくが、カイセドやエンソといった面々が徹底的についていくことで時間を作らせない。特にカイセドはネトの背後をカバーするなど二度追いからの潰しを見せていた。
アーセナルのCB陣は立ち上がりはややバタバタしていた印象だ。チェルシーの長いボールから縦に速い攻撃に対して、奪った後のプレーがやや不安定。アーセナルが直近2試合できっちり差をつけることができたのは奪った後の1つ目のパスが鋭く刺さったことが大きかったのだが、アーセナルの最終ラインの中央に差し込むパスはこの日は決まらず。チェルシーの中央の網に突っ込んでいってしまい、カウンターを誘発してしまった。
そんなアーセナルの希望の光となったのはサカ。早々にククレジャに警告を出させるなどマンツーにおいて重要な前線のポイントとして機能する。警告が出た後にファウルが嵩むことで退場のリスクがある状態に追い込まれる。ネトもカバーに出ていくがなかなか捕まえるのには一苦労である。
ただ、サカに完全なる自由を与えなかったチェルシー。サカの横断からの横パスをカイセドがカットするなど、左右を使った揺さぶりは簡単には許さず逆にカウンターに打って出る。好調のククレジャ相手にも優位に立ったサカもさすがだし、横断を許さなかったカイセドもさすが。マンツーを巡る攻防はハイレベルなものだった。
別枠のメリーノが退場を誘発
先にも少し触れたがアーセナルもこの日は高い位置からのプレスから追いかけていく形。同じくマンツー気味のハイプレスからチャンスを作っていく。チェルシーはサンチェスを積極的に活用することでマーカーの逃しどころを作る。
サンチェスは長いボールで縦に急ぎながらも、中央に強引に縦パスを差し込んでいくトライを敢行。このパスは時折アーセナルの中盤に引っかかってしまう。チェルシーのプレスの網よりも少し敵陣側で引っ掛ける形でショートカウンターに移行する。
ただ、全面的にアーセナルが優勢だったわけではなくチェルシーは中央に起点を作ることに成功。特にアーセナルが捕まえるのに苦労したのはジェームズ。細かく体を動かしながら相手の逆をとり、アーセナルのファウルを呼び込む。アーセナルのバックラインは次々と警告を受けるなど、序盤からファウルトラブルに苦しむ展開に。
チェルシーはバックラインでボールを引きつけつつ、ライスとスビメンディのカバーする範囲を広くすることで縦パスの効果を高めていく。中盤で起点を作ったチェルシーはアーセナルのプレスを後手に回していく。
チェルシーが優勢だった盤面が一気に変わってしまったのがカイセドの退場劇である。中央に立つメリーノに対してのファウルが遅れてしまって一発退場に。先に述べたようにサイドから中央につけるパスをカットするというのはチェルシーのこの試合の優位の生命線でもあった。そのトライに一歩遅れてしまったことでチェルシーは一発退場で10人に追い込まれてしまう。
マンツーというルールと対峙することを考えた時に、アーセナルの前線の中で一番マーカーがファジーなのはメリーノ。チェルシーの2CBが交代でマークするメリーノは純粋なマンツーとは別ルールで動いている感がある。「中盤で降りて行く動きへの対応についていくか?」の手前に、「そもそも誰がついていくのか?」の判断があるメリーノに対しては、チェルシーが一歩プレスが遅れるシーンが多かった。
ファジーなメリーノを活用したアーセナルは数的優位を得る。だが、この試合はアンソニー・テイラーが序盤から警告を出すなど両軍にイエローカードを受けている選手が多かった。特に帳尻での2枚目の警告が欲しいチェルシーにとってはここから先は積極的な駆け引きで時計の針を進めながら、アーセナルの退場を狙っていく。
チェルシーの非保持は5-3-1。サカをマークするのは警告を受けているククレジャではなくネト。ククレジャは後方支援役としてカバーに周り、さらなる退場を防ぐための対策を講じる。前がかりになったところをマルティネッリとライスがカウンターで一気に進んでいきながら決定機を迎えるが、これはサンチェスの素晴らしい足抜きからファインセーブ。先制点を許さない。
終盤はカードゲームとなったビッグロンドンダービー。試合は動かないままハーフタイムを迎える。
サンチェスを超えるクロス
後半、いきなりセットプレーからチャンスを掴んだチェルシー。右サイドからいきなりインカピエに突っかけるとこのFKからペドロがラヤを強襲。セットプレーから追い立てていくとCKからチェルシーが先制。GK付近でわずかにボールをスラしたチャロバーが先制点を決める。
チェルシーは後半4-4-1のフォーメーションでアーセナルに対抗。望外に早く点が入ってしまったが、おそらくは10人の状態でゴールを奪いにいくための設計を組んでいたのだろう。4-4-1ながらも左右のSHの役割はアシンメトリー。サカの監視役からククレジャを外す形は前半から引き続きで、この役割はネトから交代で入ったガルナチョにスイッチする。
ネトは右のSHで高い位置に前に残ってカウンターのキャリー役に専念。ドリブルからの陣地回復役としてチェルシーはここにフォーカスする。このネトを活用していたのはサンチェス。アーセナルのクロスカットしたところから素早く右サイドにボールを預ける形でリスタート。ルイス=スケリー、インカピエをファストブレイクから突っついていく。
サンチェスは特に相手のペナ角から放たれるゴール方向に向かうクロスにめっぽう強く、迷いなく上背を活かして出て行ってはキャッチ。精力的にネトのカウンターのスイッチを押していく。
押し込むことはできてもなかなかチャンスを作ることができないアーセナル。スビメンディを早々に諦め、エゼを左サイドにスライド。左利きで窮屈そうだった左サイドのパス交換に右利きを投入する。
エゼの左サイドへの移動でボールの循環はスムーズにはなったがきっちりと体を張るチェルシー相手に有効打を打つことができない。苦しい状況を打破したのはやはり右サイド。複数のマーカーと対峙しながら強引に縦突破を図ったサカから上がったクロスをメリーノが叩き込んで同点。アーセナルは1つ目の有効打でスコアを振り出しに戻す。
このゴールの場面においてはアーセナルはクロスに対して待ち構えるサンチェスをうまくかわすことができた。きっちりとサイドの奥をえぐる形を作り、そこからマイナス方向にあげればサンチェスからするとボールは逃げる方向に向かう。
アーセナルとしてはもっとこのようなサンチェスが深追いをしにくいようなボールの動かし方をしたかったところ。しかしながら、そこがこの試合ではうまくいかず。右サイドでは裏に抜ける選手にウーデゴールのパスがカットされるシーンが多発。故障明けの主将はこの試合ではパスを是が非でも通したい場面でひっかけるシーンが多く、本調子ではないことがうかがえた。
左サイドでは終盤にインカピエが暗躍。ハーフスペースの抜け出しからロブ性のクロスを上げるシーンが見られており、終了間際にティンバーの決定機につながるなどチャンスを感じさせた。1枚の交代カードを残していたのは点を取った時の守りに転じるためということで理解できなくはないが、点を取りに行くのであれば味方を追い越して右サイドの奥を取れるホワイトを投入しても面白かったかもしれない。
ただ、前提として述べておきたいのはチェルシーの抵抗の素晴らしさだろう。ボールを奪ったらCBがキャリーする、サイドにつけて広く使ってのポゼッションを行うといったアーセナルに即時奪回をさせない工夫があった。10人になったのは誤算だろうが、10人なりの勝ちに行き方の設計図と遂行能力はいずれも高い水準にあったといえるだろう。
最終的に得ることができた勝ち点はともに1ずつ。10人ながら激しく抵抗したチェルシーを壊しきることはできず、アーセナルはロンドン3連戦を全勝で飾ることはできなかった。
あとがき
2位相手にアウェイゲームで1ポイントを取ったということ自体は悪くはない。シティとの勝ち点差は縮んだが、前節との2試合単位でみれば開いているし、彼らがニューカッスル&リーズとやっているうちに、我々がトッテナム&チェルシーと対峙して勝ち点差が開いたと考えれば星取的には悪くはない。
10人相手にエンジンを上げきれなかったことは否定しようもないが、こういう日程で1日間隔が相手よりも少ないのであれば、この日のアーセナルのようなパフォーマンスに終始することもある。それでも下振れの中で最低限のことはやったと思うが。ただ、このまま順調に進めば進むほど年明けにも似たようなシチュエーションは出てくる可能性はある。その時は今回よりもシーズンの成否に大きな影響を与える試合になることもあるだろう。その際には言い訳が効かない。強いチームの宿命のようなものだろう。
一番気になるのはチェルシーがこの試合で勝ち取った自信だ。彼らはここまでいい試合となかなかパフォーマンスが上がらない試合を繰り返しながらこの順位まで来ている。だが、バルセロナをたたきのめしてアーセナル相手に10人で抵抗したことは自身のパフォーマンスの積み上げに大きな手ごたえを感じているはずだ。与えた勝ち点は多くはないが、この自信の種が大きく育つようであればシーズン終盤に大きな障害になる可能性もある。自信を摘み取れなかった結果が回りまわって大きな代償とならないことを今は祈るばかり。まずは彼らはカイセドのいない3試合にどのように向き合うかを見守りたい。
試合結果
2025.11.30
プレミアリーグ
第13節
チェルシー 1-1 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:48’ チャロバー
ARS:59‘ メリーノ
主審:アンソニー・テイラー