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「『これでよくない』から『これでいい』」~2025.12.6 プレミアリーグ 第15節 アストンビラ×アーセナル レビュー

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レビュー

信頼の裏返しであるマンツー真っ向勝負

 ミッドウィークは逆転でブライトンを撃破しての4連勝。今プレミアで最も勢いのあるアストンビラが今節の対戦相手。過去2シーズンで8月にしか敗れていないという要塞ぶりを発揮しているビラ・パークが今節の舞台となる。

 序盤はアストンビラのビルドアップからスタート。左サイドのパウ・トーレスを軸とした組み立てに対してアーセナルの姿勢が試される立ち上がりに。アーセナルはハイプレスから真っ向勝負。サカがトーレスの左足側から切るプレスを皮切りに、高い位置からボールを奪いに行く。

 アストンビラは左サイドのハーフスペース付近に縦パスを通す形を狙う。スビメンディ周辺をフラフラしているロジャーズとティーレマンスからフリーになる形から進めていく。また、サカが背中で消しているマートセンも角度を変えればフリー。工夫次第では前から進めるブロックを作ることができる。

 しかしながら、縦パスのルートを望めないのであれば、純粋なCFとCBのマンツー気味のマップアップになる。互いにリスクをかけている以上、ここのデュエルの勝敗がそのままシュートまで。アーセナルはカットすることができれば、ウーデゴールのシュートのようにそのまま進んでいけるし、逆にアストンビラが収めることができればワトキンスのシュートシーンのような形まで持ち込むことができる。

 ワトキンスのような実績のあるFWに対して、マンツーで受けるプランを選択したこと自体がアルテタがインカピエとティンバーのCBコンビにおいている信頼の裏返し。先に挙げた決定機のシーンに関しては、スビメンディが転んでしまった関係もあり対応が後手に回っていたが、それ以降はロングボールの対応は安定。

 収められたとしても外に逃がすように追いやりながら無理にとびこまず、ワトキンスにミドルシュートを打たせる間合いを作らせなかった。ワトキンスは徐々に中盤にせりかける形に移行し、ロングボールのターゲットを変更。降りるアクションも含めて確実にフリーになる方策を作る。

 アーセナルはミドルブロックを組むところからカウンター。トランジッションでチャンスを作る。素早く右サイドにボールをつけると、そこからサカを軸に攻撃を素早く完結しに行く。序盤はアストンビラの保持に対して、ハイプレスとミドルブロックを使い分けるアーセナルがトランジッションで対抗する運びとなった。

構造逆転の前半中盤

 アーセナルの保持のシーンはいつもよりは少ない立ち上がりだったが、20分ごろから徐々にそうした場面も増加。スビメンディ、ウーデゴールなどが落ちるアクションからボールを動かして、アストンビラの4-4-2の守備ブロックに対抗する。

 イメージとしてはセンターラインの選手を落としつつ、前に出ていく成分はSBに任せる形だといえるだろう。ライス、スビメンディ、ウーデゴールが重い位置を取りつつ、インカピエとティンバーとともにアストンビラの4-4-2のブロックの手前に立つ。

 逆にホワイトとカラフィオーリのコンビは前線に飛び出していく。特にカラフィオーリのハーフスペースからの裏抜けといった前線の飛び出しは前線が裏になかなか抜けないこの日のカラーを考えると重要なアクションであったのは違いない。

 より定点攻撃色が強い右サイドではサカとウーデゴールを中心に攻撃を組み立て。前節はあまり保持のスキルが冴えなかったウーデゴールではあったが、この日は復調気配。リリースに手間がかかる分はきっちり抜け出すアクションと組み合わせることで回収していたし、パンチ力のある枠内のミドルシュートも打つことができるように。静的な場面でも奥行きを取ることができる右サイドは今のアーセナルの武器だし、ウーデゴールもこの日はその武器に乗っかることはできた。

 その一方でインサイドや左サイドにおける起点づくりは苦戦。こちらの2つの箇所ではタイトに守るアストンビラの守備に前を向く選手が作れないまま苦戦していたように見えた。

 序盤はアストンビラの保持、アーセナルのカウンターで推移していた試合だが、徐々に構造が逆転。アーセナルがボールを持ちつつ、アストンビラがカウンターを狙う形にシフトすることとなった。

 アストンビラはボールを持つと素早く左サイドからのキャリーで前進。トランジッションにおけるマートセンからのキャリーは陣地回復には特に効いていたといえるだろう。

 アタッキングサードにおいては右サイドのキャッシュの飛び込みがフィニッシュとして機能。一度目のチャンスはライスのぎりぎりのブロックに阻まれることとなったが、二度目のチャンスは得点に結びつく。一度目よりも静的な局面であったが、エゼはマークを話してしまい、ファーサイドに飛び込んだキャッシュが右足を振りぬいて先制点を仕留める。

 アーセナルは引き続き右サイドを軸に攻めていくが、アストンビラの左サイドはこちらにスライドすることでスペースを圧縮。逆に左サイドからロジャーズがホワイトを崩したところでアストンビラが決定機。ホームチームが反撃のチャンスを殺しながらリードを守り、ハーフタイムをリードで迎える。

ハイプレスへの牽制に対する一手がない

 後半、アーセナルは反撃に出るためにポゼッションからスタート。右サイドにボールをつけつつセットプレーからチャンスをうかがっていく立ち上がりとなった。

 アーセナルの右サイドの攻撃は前半よりも手ごたえのあるものだった。スペースを消しながら圧縮してボールホルダーを囲むような圧力は前半から割引。ホルダーと守備者はマンツー気味に対峙するようになった。

 これによってサカやウーデゴールは非常に簡単にカットインからインスイングのクロスを上げることができるように。ファーサイドには交代で入ったトロサール。攻守に精彩を欠いていたエゼはこの日は調子が上がらず、左にフィニッシャーとして計算できるトロサールを入れたことはサイド攻撃の再構築としては非常に納得できる一手だったように思える。

 右サイドからのクロスで背中を取り続けられたアストンビラ。失点に向けては危機感のある時間帯を迎えたため、ポゼッションからリカバリーを図る。

 しかし、中盤でキャリーを仕掛けたオナナをライスがつぶし、カウンターから攻撃を発動。右サイドでサカとウーデゴールがタメを作って縦に抜けだすと、折り返しをトロサールが仕留めてゴール。これで試合を振り出しに戻す。

 アストンビラは勢いを取り戻すために選択したキャリーが裏目に。だが、これは勢いを取り戻すためには必要なこと。個人的にはリズムを取り戻すために必要なリスクだったように思える。

 失点以降はポゼッションからリカバリーをするアストンビラ。インサイドから少ないタッチでボールを動かして角度を変えることでチャンスを作っていく。アーセナルとしては前プレから陣地を回復したいところだが、パウ・トーレスへのプレスに苦戦。

 マートセンが躍動している以上、サカが彼を放っておくのは難しいし、ウーデゴールがプレスに出ていけばロジャーズとティーレマンスでいっぱいいっぱいのスビメンディがスライドすることができず、オナナが空いてしまう。よって、アストンビラに対してはライン間を締めて耐えるという対症療法的な策を組むことしかできなかった。

 こういう状況であればカジュアルな陣地回復をしたいアーセナルだが、前線のギョケレシュはコンサにつぶされてしまい起点となれず。バックラインがロングボールを蹴る時間を特に取れなかったことから、ギョケレシュらしい左右にボールを動かすアクションを作ることができず、簡単に待ち構えたコンサのつぶしにあらがうことができなかった。ここは押し込まれる状況の反撃の一手として正直機能してほしかったところである。

 それならば保持の機会を何とかしたいところだが、左サイドのユニットはやや苦戦。インカピエは追い込まれたところからの逃がし方がうまくいかず、蹴って捨てている状況を生み出してしまうことも。この辺りはまだ慣れが足りないのだろうなと思う。

 押し込み続けるアストンビラは左右のハーフスペースの裏からチャンスを作っていく。特に左サイドのハーフスペースから突撃するマートセンはアーセナルにとっては脅威。ワトキンスが下がってもなお、アストンビラの支配力は落ちなかった。

 「時間制限があった」とアルテタから試合後にコメントされているトロサールに代えて、マルティネッリを投入したアーセナル。だが、最後まで前進に苦戦するのはかわらず。貴重なトランジッションから作った左サイドからのクロスのチャンスもマドゥエケが慌ててしまって枠外に飛ばしてしまう。

すると、その直後に押し下げに成功したアストンビラがクロス爆撃からのシュートラッシュ。何度もぶん殴り続けた攻撃は最後にブエンディアが完結する。

 要塞のビラ・パークの2年連続の攻略はならず。接戦としてもつれた試合は最後にアストンビラが首位に牙をむく形で終わった。

あとがき

 疲労感は感じる試合だったが、代表ウィーク明けからここまでのスケジュールは何人選手がいようと足りない。試合数もそうだが相手がハードすぎる。移動を伴うアウェイでは疲労は色濃くなるのは当たり前で、そうした中で何ができるか?というような試合だった。

 そうした試合でもギョケレシュやハヴァーツ、マルティネッリ、マドゥエケなど前進できるような馬力のある選手がいるのがこの日のアーセナルの強み。この日はトロサール以外の交代選手たちはさえなかったが、12月はいやでも試合はやってくる。試合をこなしながらコンディションを上げていきながら、勝ちに行くアプローチとしてより強力な武器となるように仕上げていきたい。

 こうした試合の後は敗因についていろいろな議論が飛んでいる(それぞれの内容や議論をしていることは尊重する)が、個人的には正しいアプローチをしているように思うからあまり心配をしていない。「これでよくない」と選手たちが思っているだろうことも含めてみている側としては「これでいい」と思うので、少し一息入れる1週間をきっちり過ごし、年末の過密日程に向けて準備を進めたい。

試合結果

2025.12.6
プレミアリーグ
第15節
アストンビラ 2-1 アーセナル
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:36′ キャッシュ, 90+5′ ブエンディア
ARS:52′ トロサール
主審:ピーター・バンクス

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