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レビュー
リバプールの2つのルール
ボクシング・デーのマンチェスター・ユナイテッド×ニューカッスルから始まる怒涛の年末年始40試合のプレミアリーグも今日がひと段落。THE FESTIVAL FIXTURES(この謳い文句はボクシング・デーの1つ前の週から銘打たれていたような気がするが)の最終戦となるのはアーセナル×リバプールの一戦だ。
アーセナルはいわゆる現時点でのベストメンバーを送り出す形。万全であればハヴァーツ、カラフィオーリの2人はスタメンに絡んでくるかもしれないが、今のスカッドでスターターを選ぶならばこうなるだろうという11人が並んだ印象だ。一方のリバプールは出場が疑問視されていたエキティケが欠場。ヴィルツを1トップに置く形という前節からのマイナーチェンジでこの試合に臨む。
まず、目についたのはリバプールの守備のルールだ。ここ最近のリバプールはまずは腕試し!という感じで前からのプレスにいくことが多かったのだが、この試合ではそうしたノリの要素を封印。アンカーのスビメンディを受け渡すような守備を行うことでFW-MF間で浮く選手を作らなかった。
アンカーが管理された場合、アーセナルにはいくつか考えられる解決策がある。SBが絞る、ウーデゴールが降りる、CBが持ち上がる。ただ、この日のアーセナルの立ち上がりはこうした解決策を腰を据えて行うというよりも、まずは長いボールをアバウトに前に入れていくスタート。おそらくは試合の序盤に降っていた豪雨の影響も考えて、とりあえず様子見という感じだっただろうか。
プレス回避にしてもきっちりと列を降りるアクションを敢行することで枚数を確保。とにかく慎重な入りが目につく序盤戦となった。
もう1つ、リバプールの守備のルールで目についたのはSHがとにかくアーセナルのSBにマンツーでついていくこと。ティンバーに対してはガクポ、インカピエに対してはフリンポンがとにかくついていく形。
アーセナルはリバプールのマンツーがどこまで本気なのかを探る様子。いつもであれば大外を上下動するアクションが中心のインカピエもインサイドに絞ることでフリンポンがついてくるかを試していた。
結論から言えば、リバプールの守備者は「とりあえずついてきた」。アーセナルからすればとりあえずSBが高い位置を取れば、相手のSHを下げられるので、ひとまずは押し込む立ち位置を取ろうとなるのは自然の流れ。ゲームメイクはウーデゴール、ライス、スビメンディとCBに任せて、SBはビルドアップには関与せずに高い位置をとった。
押し込んだ際にもリバプールの守備のマンツーの原則は変わらず。例えば、サカにダブルチームといった極端な偏らせ方はせず。抜かれた時にマック=アリスターが後方からカバーに出てくるケースが多かった。後ろ重心の中であくまで個人個人が対面に負けないことを前提としたプランとなっていたと言える。
それでもいいという割り切り
非保持では後ろ重心だったリバプールだが、この日は保持でも同様の方向性。際立っていたのはセンターラインの選手たちが降りていくアクションである。まずは中央で数的優位を作ることでアーセナルのCHがハイプレスに出ていくことを牽制。出ていくのであればその背後で受けることで前進を狙っていく。

プレスの牽制、およびボール保持の盤面の確立という意味ではこの形は意味を持っていた。反対にこのリバプールのビルドアップがゴールに向かうところから疑問。降りた分、誰が高い位置を取るのか?というところは明らかに不明瞭。ケルケズがフリーで運ぶことができた場面など、ヴィルツは明らかに不要な場面でも降りるアクションを敢行してしまうなど、ボールは前に進んでいる一方で人は前に進んでおらず、ボックス付近にはクロスのターゲットが全くいなくなるというケースも珍しくはなかった。
もっとも、この日のリバプールのプランを考えれば、それでもいいのかもしれない。まずは失点をしないことを踏まえればアーセナルに即時奪回を許さないことが第一。アーセナルがボールをロストした後、リバプールが起点を作るプロセスで中央に刺すフェーズを必ず経由するというのはリスクも内包しているところではあるが、他にボールが預けられるところがないので仕方がない。ボールを高い位置で奪ったアーセナルがこの日ショートカウンターからのスピードアップがあまりにも冴えなかったことはリバプールにとっては幸運だった。
上で述べたように中央以外のところからはなかなかリバプールは前進に苦心。フリンポンがスピードで対面を千切れたらその限りではないが、インカピエはそうした状況を簡単には許さなかった。例外はブラッドリーが攻め上がりながらクロスバーを叩いたシーンくらいだろうか。
それでもリバプールからすればアーセナルにすぐにボールを取り返されないという状況は狙い通りなのだろう。リバプールのポゼッションが始まるとそれなりにまとまった時間、彼らがボールを握るという試合の展開のぶつ切りの仕方はスロットのプランに沿ったもののように思える。
その代わり、一度アーセナルに押し込まれたらリバプールの陣地回復は容易ではない。前半の終盤はアーセナルが押し込むところからチャンスを作っていた時間。右サイドからの崩しを模索していく。
サカを軸に右サイドからファーにカジュアルにクロスを入れる形ではコナテが構えているし、ニアに突っかけるランを誰もする気がないのであまり効果は薄め。それならば、クロスを入れる手前のフェーズで工夫を入れてラインを乱してからクロスを入れる必要がある。
よって、アーセナルはティンバーでハーフスペースの突撃をスタート。サカがケルケズを置き去りにしたり、ティンバーの突撃がフリーで成功したりなど、リバプールの守備の前提である「目の前の相手をなんとかする!」という原則が徐々に乱れる。サリバが高い位置を取って右サイドをサポートしていたのはティンバーにマンツーでついていこうとする限り、ガクポがカウンターの起点にはならないという算段の元だろう。
サリバのサポートやギョケレシュやライスの流れるアクションなど、人数をかけた分アーセナルはナローなスペースをこじ開けるように。左サイドからもトロサールの単騎からファーへのクロスもチャンスに繋がっており、アーセナルにとっては得点の機運が少しずつ高まっていく。
リバプールは無失点に終わったのは最低限だろう。保持においても防御第一というこの日のプランは失点した瞬間水の泡になることが確定。セットプレーも含めて、ボックス内で体を投げ出すことで相手の得点を防衛できたことはノルマ達成と言える内容だ。
さらに強まる負けない意識づけ
後半、アーセナルは右サイドからのキャリーで打開策を狙っていく。ガクポがマンツーでティンバーについていく、CBにはマークが甘いといった前半の非保持のルールが継続していることはこのワンプレーで確認できた感がある。
ややテイストが変わったのはリバプールの非保持だろう。狙いを左サイドに定めてオーバーロード。大外のガクポにボールを預けつつ、トップのヴィルツやグラフェンベルフといったセンターラインの面々が彼とケルケズをサポート。ショボスライがボックスの中に構える形で左サイドから何がなんでもクロスを上げて攻撃を完結させるためのアクションを敢行する。ヴィルツがインサイドに入っていく場面を作るなど、ナローなスペース攻略に踏み切るだけの見どころはあったと言えるだろう。
保持においてはとにかくやり直しを徹底するリバプール。前半からライン間にボールを入れたとしても、アーセナルのリトリートによって前を向いている間に再びブロックの外に締め出されるという現象があったが、後半は同じ現象があった時には徹底的にやり直し。相手が隙を見せるまでは縦にパスを入れない。それで時間が経ってしまうのであればそれはそれでOK。これも前半のアーセナルに対する防衛を念頭に置いたポゼッションをさらに強く意識づけした方向性と言えるだろう。
こういうボールの動かし方への対処は今のアーセナルはあまり得意ではない。ウーデゴール(や途中交代で入ったきたジェズス)は危険なエリアを封鎖するプレスバックはできるのだが、前に列を上げてプレスのスイッチを入れる働きは物足りない。ウーデゴールはちょくちょく前からプレスに出て行こうという二度追いを見せてはいたが、CHが呼応せずに孤立してしまう。
ライスとスビメンディからすれば、ヴィルツ、ショボスライに加えてブラッドリーなどCH周辺で受けたがるメンバーが多い中で前にスライドは難しいということだろう。実際、このポジションは僅かに潰しが間に合わないことによって、リバプールに危険なFKを与えていた。
相手に攻撃を受ける時間を制御することに割り切ったリバプールに対して、アーセナルが誤算だったのは限られた機会におけるクオリティ。やたらと急ぎすぎてしまう縦へのアクション、つまらないミスなどで攻撃は明らかにノッキング。マルティネッリ、マドゥエケといった交代選手たちは突破からキレを見せることができてはいたが、相手を抜いた後のプレー選択に難を抱えており、抜け出した後の状況をチャンスに変えることができなかった。
リバプールはやり直し重視のポゼッションの中でインカピエと交代で入ったルイス=スケリーをフリンポンのスピードで狙い撃ち。ここでちぎれた時にはアーセナルは難しい対応を迫られたが、ここも抜けた後のアクションがイマイチ。自らのシュートを狙わず、マイナスの折り返しばかりを狙っていたが、アーセナルのCH陣はここのスペースをネガトラで爆速で埋めることに関してはプレミアNo.1と言っても過言ではない。折り返しが決定的なシュートにはつながらなかった。
だいぶ時計の針を進められてしまったアーセナルだが、80分以降は少しずつ押し込む局面が増えていく。マルティネッリ、マドゥエケからチャンスを狙っていく。両翼の交代選手たちは突破からキレを見せることができてはいたが、相手を抜いた後のプレー選択に難を抱えており、抜け出した後の状況をチャンスに変えることができなかった。この辺りは今後の課題のように思える。トロサールは爆裂にこういったプレーは今季うまくなった。
撤退守備の局面が増えている中でエゼ、マドゥエケという交代カードをリスクを賭して投入したアルテタだが、最後までクリティカルな攻撃を打つことはできず。年末年始の連戦はスコアレスドローで終わるという結末となった。
あとがき
4連戦の4試合目なので体の動きが重たいのは仕方ないだろう。どちらが3ポイントに近かったかといえばアーセナルだろうが、アーセナルの攻撃の時間が一辺倒にならないように絡めとるように試合を運ぶマネジメントしていたリバプールの方がこの試合に向けて準備したプランをうまく遂行できたように思える。
アーセナルは点が入らなさそうだけど、負けそうもない試合が多い印象だが、この試合もその一つ。決定機自体が少なかった試合なので、「勝ち切れなかった」とか「もったいなかった」という表現は適していないように思える。もっとも、それはリバプール側も同じ話で怪我人も含めてこの試合を勝つためのクオリティは足りていなかったという評価が適切だろう。
11人でやり切ったリバプールの面々の後ろ重心な守備へのコミットは見事だったが、両軍ともになかなかクリエイティブな攻撃面の持ち味は出てこないまま。中立のファンには見応えある試合にならなかった内容かもしれないが、それもこれもまたこの短期間で4節を走り切らせるという鬼畜な年末年始の日程が要因。燃え尽きた祭りのあとのようなスコアレスドローだった。
試合結果
2026.1.8
プレミアリーグ
第21節
アーセナル 0-0 リバプール
エミレーツ・スタジアム
主審:アンソニー・テイラー