■プレスの開始位置が主導権を決める
グループEどころか、グループステージ48試合の中でも最注目と言っていいカード。ドイツにとっては日本がコスタリカに敗れたことで、予選突破に再び希望が灯った形での一戦となった。
立ち上がりからボールを持ち続けたのはスペインの方である。アンカーのブスケッツこそ、常にギュンドアンにマークされる状況ではあったが、その分CBには時間がある形。バックラインからボールを繋ぎ、サイドにおいては三角形を形成。ドイツ陣内の深い位置までポゼッションを行いながら、ボールをロストすると即時奪回。ずっと自分たちのターンを続けてみせる。
スペインのハイプレスのポイントはドイツのホルダーに対してマイナス方向に帰陣しながらきっちりと挟むことが多かったことである。一般的に即時奪回の目的でまず挙げられるのは素早いショートカウンターへの移行。高い位置で奪うということで、敵陣深い位置で相手の守備者が少ない人数の中で素早く攻略をしてゴールを陥れるという方向性になることが多い。
ただ、スペインに関してはハイプレスはボールを握り直すことや、相手の進撃を止める意味合いが強い。無理にショートカウンターまで行かなくても、ボールを奪い返しさえできればきっちりと自分たちのサッカーに持っていくことができるということだろう。その分、人数をかけても奪い返す。アタッカーが前に残らなくてもボール奪取後にポジションを整える時間を作れば問題がない。
ドイツはなかなか自陣から脱出できない立ち上がり。ボール保持に関してもバックラインにプレスがかかっている状態で前進する隙を探るかきっかけを見つけることができない。日本戦でも見たようにムシアラなどは前を向ければ多少強引でも前進はできるが、スペインの即時奪回はそれを許さない立ち上がりだった。
しかしながら、ドイツにもチャンスがなかったわけではない。ドイツ陣内に押し込んだ時のボール保持に関しては明らかに分があったスペインだったが、自陣側でのボール保持は思ったよりも余裕がない。特にサイドからウナイ・シモンにボールを戻す際には時間がないことが多く、苦し紛れのキックがドイツに渡りショートカウンターになることも多かった。
よって、この試合の優劣を決めるのはスペインがプレスを受けるエリアである。スペインが一度敵陣にきっちり押し込めば、バックラインを活用してもドイツが簡単にボールを奪うことはできないが、スペイン陣内でドイツがプレスのスイッチを入れた時には一気に苦しくなる。前半の終盤は敵陣後方でボールを奪うことができていたドイツのペースだったと言っていいだろう。
後半もメインとなるトピックスはドイツのプレスの開始位置である。ドイツが敵陣深くでスイッチを入れてマンマークで追いかけ回すことができるか、スペインがCBがオープンでボールを持てる状況まで押し返すことができるか。その部分のせめぎ合いであった。
後半で少し気になったのは前線にボールが入った時のスペインのプレーである。特にアセンシオにボールが入った時にアバウトでもゴールに向かう動きを挟むようになった。不確実なゴールチャンスより、確実なポゼッションを選ぶ方が彼らのスタンスからすると自然。アセンシオのこの立ち上がりのスタンスはスペイン基準で言うとやや不自然なものだったと言えるだろう。
よって、この時間帯はやや縦に速いプレーの応酬が見られるようになった。試合のテンポが早くなったら躊躇なく敵陣までスピーディにボールを運ぶようになったドイツからすると、この部分では十分に勝算があるということだろう。
陣取りゲームの様相で不利になりかけたスペインは前線にモラタを投入。右サイドの裏抜けを中心に、陣地の押し下げに貢献する。モラタはフィニッシャーとしても活躍。フリーになったブスケッツから左サイドを加速させるパスが通ると、最後は折り返しをモラタが押し込む。ズーレに対して明らかに一歩先の動き出しができており、オフザボールの動きに定評があるモラタのスキルとスペインのポゼッションとが見事に融合したゴールと言えるだろう。
スペインは以降はボール保持を優先。ドイツは失点シーンにも代表されるように先発メンバーで引っ張り続ける中盤のプレスの機能性がやや低下したように思えた。フレッシュなトップが前に出ていっても、中盤がついていけないシーンが目立つようになる。
しかし、交代したアタッカーが躍動するのはスペインだけではなかった。ドイツの交代選手の中で目立ったのはザネ。右サイドからの横ドリブルに裏抜けを合わせる形でゴールへの導線を切り拓く。同点ゴールのシーンでこの動きを見せたのはこちらも交代で入ったフュルクルク。相手の背中を取る動きと豪快なフィニッシュの組み合わせで試合を振り出しに戻してみせる。
スペインからするとラポルトのキャリーがミスになったのは痛恨。フリーでボールが持てていた選手からの不安定な展開で、連勝を逃したことは彼らにとっては苦しいところだろう。
保持で試合を殺しきれなかったスペインに牙を向いたドイツ。依然グループ最下位ながらも、最終節に向けての逆転突破が十分視界に入る勝ち点1を奪い取ることに成功した。
試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第2節
スペイン 1-1 ドイツ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ESP:62′ モラタ
GER:83′ フュルクルク
主審:ダニー・マッケリー