チェルシー、22-23シーズンの歩み。
第1節 エバートン戦(A)
不安な内容と明るい新戦力の台頭
キャルバート=ルーウィンの離脱とリシャルリソンの移籍を受けて、開幕戦のCFはゴードン。ちょっと難しいスカッドになってしまったかな?という感じのエバートンに対して、チェルシーは時間的にはギリギリではあるけども、ある程度充実感のあるスカッドを並べることができたのかな?というメンバー構成になっている。
立ち上がりはある程度互角か、ややホームのエバートンが攻め込む構図になっていた。5バックではあるが大外からガンガン立ち向かう形でチェルシーから正面切って向き合おうとする。
しかしながら、噛み合わせるフォーメーションをしているにも関わらず、高い位置からのプレッシングを積極的に行うことができていないエバートンは徐々にラインが下がっていくように。バックパスからのわちゃわちゃでゴドフリーを負傷で失うなど、順調とは言えない序盤戦になってしまった。
こうなるとチェルシーがエバートンのブロックをどう溶かすか?のチャレンジに試合の展開が流れていく。だが、チェルシーもこのフェーズで苦戦。特に大外の動きが少なく、5バックを大外から突っつくことがうまくいかない。
チェルシーはネガトラにおいてもエバートンのボールホルダーを捕まえるスピードが非常に遅いのが目に付く。自陣深くまでの侵入を許してはチアゴ・シウバが味方を叱り飛ばすような声かけをするというのがこの試合のおなじみの光景となってしまっていた。
そうした中で活躍して見せたのは新加入のスターリング。インサイドでボールを引き出す役割として、オフザボールで動き回り、5バックの攻略のきっかけとなるズレを作るべく動きができていた。
ボールを握りながらもなかなか思うように攻められないチェルシー。前半終了間際にようやくチルウェルも侵入からPKを獲得。こじ開ける絶好のチャンスを迎えると、このPKをジョルジーニョが決めて先制する。
後半も似たような展開が続く両チーム。チェルシーは押し込みながらも攻めあぐねるし、エバートンも前線に高さがない分、ハイボールに逃げては跳ね返される展開が続く。グラウンダーで縦パスを一本繋ぐことができれば、エバートンはチャンス構築のきっかけを掴めそうな気配もあるが、チェルシーのバックラインがこれをシャットアウトする。チアゴ・シウバは今年も偉大である。
そんな後半の中で目立ったのはククレジャ。大外を回る攻撃参加やパスの供給の部分でも躍動。なかなか内容面で前向くことが難しい中で、合流数日でのこのパフォーマンスはチェルシーファンに希望を与えるものだった。
互いに会心のパフォーマンスとはいかなかったものの、チェルシーがなんとか逃げ切り勝利。前後半に見せた新戦力のパフォーマンスなどの好材料をここから内容につなげられるかが気になるところである。
試合結果
2022.8.6
プレミアリーグ 第1節
エバートン 0-1 チェルシー
グディソン・パーク
【得点者】
CHE:45+9′(PK) ジョルジーニョ
主審:クレイグ・ポーソン
第2節 トッテナム戦(H)
共に開幕戦は勝利。打倒2強に向けてスカッドを急速に整えたトッテナムに対して、多少の出遅れはあったものの戦力を揃えつつあるチェルシーの一戦。チェルシーはククレジャがスタメンデビューを果たす。
序盤はトッテナムの出足の良さが目立った。特に左サイドにボールがあるときのインサイドへの折り返しパスに狙いを定めてショートカウンターを発動。落ち着かない展開を利用してチェルシーゴールを狙う。
しかしながら、この試合のチェルシーは前節の物足りない出来とは違った。チェルシーは右サイドを中心にある程度前進すると、横に揺さぶりをかけるパスを繰り返しながらの慎重なアプローチを行う。
ビルドアップにおいては4バック変形がチェルシーの主流。よって、左サイドの大外でボールを引き取るのはククレジャ。逆サイドからのボールの受け取り手としても、CBからのボールの引き出し役としても安定しており、スタメンデビュー戦とは思えない出来だった。
サイドの崩しでは多角形を使いながら抜け出す選手を作り出すという設計図。中央では横パスを繰り返しながらある時突然スイッチを入れる形。トッテナムの中盤の背後に忍び寄るマウントと体を張りながらのボールキープができていたロフタス=チークはどちらも絶品だった。
カウンターからチャンスを狙うトッテナムだが、中央を封鎖に成功したチェルシーに苦戦。降りてくるソンはジェームズのマンマークに、クルゼフスキはスムーズなチェルシーの受け渡しの前に完全に消されていた。このプレスで人を離さないところと受け渡しのスムーズさがバランスよく共存していたチェルシーの守備は非常に良かった。
先制点はその好調の守備陣から。ククレジャのCKが見事にクリバリのミドルを呼び込む。嬉しいホーム初試合、初ゴールを達成することとなった。チェルシーは先制以降、横の揺さぶりパスを徹底。相手が穴を開けたら前進という形でことごとくトッテナムのプレスを無効化する。
後半になっても流れを変えられないトッテナムはリシャルリソンを投入し、4-4-2に移行。アバウトなボールの放り込みで試合をオープンに引き戻すとホイビュアのミドルで同点に。直前のファウルやリシャルリソンのオフサイドインパクト疑惑などチェルシーファンには一言言いたくなる失点になってしまった。
一方でトッテナムは4バック移行の副作用に苦しむ形に。横のスライドを5バックのノリでやってしまう分、逆サイドがおろそかに。チェルシーは浮いた逆サイドからジェームズが決めて勝ち越しゴールをゲット。再びリードを奪う。
だが、試合は最終盤に再び動く。セットプレーからニアで合わせたのはケイン。土壇場で同点に追いついたトッテナムがチェルシーの勝ち点3を阻止。トゥヘルとコンテの大げんかばかり目につく試合だが、肝心の内容も見どころ十分だったロンドンダービー。両チーム勝ち点1を分け合う結果で幕を閉じることとなった。
試合結果
2022.8.14
プレミアリーグ 第2節
チェルシー 2-2 トッテナム
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:19′ クリバリ, 77′ ジェームズ
TOT:68′ ホイビュア, 90+6′ ケイン
主審:アンソニー・テイラー
第3節 リーズ戦(A)
共に1勝1分、開幕戦で勝利し2節目で引き分けての勝ち点4でここまでやってきたチーム同士の対戦である。トゥヘルは例の一件で1試合のベンチ入り禁止処分を食らっているが、この試合では処分の適用が先送りにされてベンチ入りが可能であった。
ボールを持ちながら試合を動かしていこうという狙いが強かったのはアウェイのチェルシーの方。トッテナム戦では4-2-2-2のような形がだいぶ話題になっていたが、この試合では前線に5枚張るようなフォーメーションに準拠したような形になっていた。
リーズはインサイドを締めながらうまく対応していたと思う。ハーフスペースからカットインしてくるスターリングは人の多いところに突っ込む形になっていたし、ギャラガーはCHから狭い中央のスペースに入り込みながらプレーするタイミングを掴めずに苦戦していた。
ただ、ワイドのククレジャのフォローのタイミングの良さと、ロフタス=チークのゴリゴリ感にはリーズは悩まされており、チェルシーにも糸口があったのは確か。それでも縦パスがズバズバ入ったトッテナム戦とは全く異なる感覚だったはずだ。
リーズの守備で気になったのは裏へのボールの対応が曖昧なこと。繋ぐ意識が高いからか、蹴り出せる場面でも中途半端にコントロールしようとして、結局繋げないで終わる場面が多い。チェルシーの波状攻撃の抑止にはつながっておらず、奪われて即ピンチのリスクもあるのであまり良いプレーとは言えなかったように思う。
リーズの保持はCBが広く間を取りながらのビルドアップ。人を捕まえにくる意識が強いチェルシーに対しても臆することなく向かっていった。特に目立っていたのはアーロンソン。右サイドでスタートし、クリバリに早々にイエローカードを出させると、中央に移動してから一層磨きがかかったダイナミズムでチェルシーを翻弄する。
全体で見ればチェルシーの方がやや優勢だったが、先制点を奪ったのはリーズ。ハイプレスでGKにボールを追い込むとコントロールミスしたメンディがボールを処理することができず。アーロンソンにボールを掻っ攫われて押し込まれてしまう。メンディの大きなミスで先制点を許してしまったチェルシーであった。
さらに数分後、リーズはセットプレーで追加点。チェルシーの守備の約束事はちょっと見えなかったが、ロドリゴをフリーにするリーズの狙いはハマったと言えるだろう。
2点のビハインドという重い十字架を背負ったチェルシーは4-2-3-1にフォーメーション変更。CHで輝けなかったギャラガーはSHに移動する。CHから攻撃に顔を出すという点ではロフタス=チークは十分だし、ギャラガー自身も右サイドでパレス時代と似た動きをすることができていた。
前線にアタッカー色の強い選手を入れてさらに攻勢に出るチェルシー。しかし、バックラインはどんどんとカウンター耐性は弱くなっていく。ツィエクとプリシッチを投入した交代はかなりこの傾向を強めたと言っていいだろう。リーズのMFの背後で縦パスを引き出そうとする選手を増やすのはわかるが、効果が出たかと言われるとなかなか難しいところである。
長所と短所両方あるチェルシーのシステムだったが、結果につながったのはカウンター時の脆弱性の方。リーズが再三狙っていたリース・ジェームズの裏から3点目を奪うと試合は完全決着。終盤にはクリバリの退場のおまけまでつけることに成功したリーズが無敗をキープ。
チェルシーは2点目までの流れで要所をリーズに抑えられた結果、取るリスクを増やさなきゃいけないのが痛かった。肥大化したリスクをリーズに咎められてさらに状況を悪くするという悪循環から抜け出せなかった印象である。
試合結果
2022.8.21
プレミアリーグ 第3節
リーズ 3-0 チェルシー
エランド・ロード
【得点者】
LEE:33′ アーロンソン, 37′ ロドリゴ, 69′ ハリソン
主審:スチュアート・アットウェル
第4節 レスター戦(H)
フォファナの綱引きというもう一つの両チームをめぐる駆け引きは試合前にFabrizio Romanoの『Here we go』によってチェルシー移籍で決着をした様子。レスターとしては手痛い流出ではあるが高額の移籍金とこの試合のチェルシーのスカッドに組み込ませなかったことはせめてもの抵抗という感じだろう。
というわけでクリバリ不在のバックラインの構成に頭を悩ませることとなったチェルシー。この試合では4バックを選択し、ギャラガーの2CHに再トライをすることになる。
どちらのチームもじっくりボールを持っての前進には苦戦している印象。チェルシーはアンカーのジョルジーニョを消されており、中央からの侵入は難しい。外を迂回させながら左のハーフスペースからのスターリングのカットインと、右のハーフスペースにおけるハフェルツやロフタス=チークの抜け出しによって打開を図る。
一方のレスターは左サイドのバーンズから手早い攻撃でのカウンターがメイン。ロングカウンター気味の反撃で少ない手数で攻め入る形である。ただし、アタッキングサードまで進んでからの選択肢がやたらペナ幅に偏っており非常に窮屈。チェルシーはやたら守りにくい状態だった。
よって、よりゴールに迫っている展開になっていたのはチェルシー。特に効いていた右のハーフスペースからの抜け出しがレスターにハマりつつある。そして、ロフタス=チークとティーレマンスのコンタクトからPK判定。だが、これは直前のハフェルツのプレーがオフサイドにより取り消されることに。
すると、トランジッションからレスターが活路を見出す。ククレジャのパスミス起点からチェルシーはまずい局面が発生。バーンズからのカウンターでギャラガーを退場に追い込む。これでチェルシーを10人に追い込む。
しかしながら、この状況を生かすことができないレスター。バックラインからの繋ぎでも数的優位を有意義に使うことはできない。チェルシーはCHに入ったロフタス=チークの上がりを抑制することでバランスを取る。ハフェルツをはじめ、2列目がレスターの最終ラインにアタックをかけられる状況は続いていたので、数的不利を感じずに攻め続けることができていた。
10人のチェルシーが先制点を奪ったのは後半早々。スターリングが個人技でこじ開けてみせた。反撃に出たいレスターだが、CBがきっちりボールを運べないこととカウンターの起点となっているハフェルツを囲まずに放置していることでなかなか挽回をすることができない。
保持で押し込めず、カウンターを咎めることができない。5-3-1にシフトしたチェルシーはもっとサンドバック状態にされてもおかしくないのだけど、レスターはなかなかバックラインから押し上げる形を安定して作れない。
そんなレスターを尻目にチェルシーは追加点をゲット。右サイドで裏に抜けたハフェルツから再びスターリングが決めて点差を広げる。レスターは最終ラインの消極的な対応が目に余る失点シーンとなってしまった。
レスターはバーンズのカウンターから1点を返すも反撃はそこまで。イヘアナチョ、アジョゼ・ペレスなどの追加アタッカーも得点には結びつけることができず。終始数的優位を感じられない戦い方になってしまったのは嘆かわしい。頼みのヴァーディも不発で、10人のチェルシー相手に勝ち点3を明け渡してしまった。
試合結果
2022.8.27
プレミアリーグ 第4節
チェルシー 2-1 レスター
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:47′ 63′ スターリング
LEI:66′ バーンズ
主審:ポール・ティアニー
第5節 サウサンプトン戦(A)
立ち上がりから優位に試合を運んだのはチェルシー。4バック+2CHという今季ここまでのスタンダードな後方のユニットで前進を行う。
サウサンプトンはこれに対して4-2-3-1で対抗。ただ、素直にかみ合わせると相手の2CHに対してトップ下が1枚で監視する形になってしまう。よってヘルプに出るのはSH。絞ることで中盤の枚数を噛み合わせようとするのがサウサンプトンのアプローチである。
だが、この形を採用してしまうとサウサンプトンにはチェルシーのSBを監視する選手がいない。よってチェルシーはボールを簡単にサイドから運べるように。ククレジャから一気に敵陣に侵入し、対面のSBを引き出す。そうなると同サイドのCBであるベラ=コチャプがスライドしてくる。
確かに今季のサウサンプトンはCBが横にスライドして守ることが多い設計である。そのうえ、ベラ=コチャプとサリスの両CBもかなりこのスライドを高い水準でこなしている。だが、やはりCBが持ち場を離れるというケースはあまり頻発させたくはない。
高い位置から何かのチャレンジをした結果、しわ寄せがバックラインに来るというのならばわかる。だが、この試合のように、割とわかりやすい仕組みでサイドに引っ張り出されるケースがあまりにも多いと、メリットの少なさの割にデメリットが顕在化してしまっているように思う。
この形を生かしてチェルシーは先制。サイドに引っ張り出されて手薄になったボックス内をスターリングが攻略する。
これでリードを奪ったチェルシー。ここからペースを握っていきたいところ。だが、チェルシーはこのサウサンプトンのCBのスライドが間に合うか否かのチャレンジを繰り返すだけで、横に揺さぶるとか相手の狙いを外すようなアプローチは少なかった。CBのスライドのスピードという土俵の中で勝負をしてくれたというか、サウサンプトンとしてはリスクはあるものの真っ向から向かってきてくれた感じである。
そういう意味ではサウサンプトンにも攻撃機会を渡したチェルシー。その機会をいかし、サウサンプトンはCKから同点弾を奪う。バイタルに流れたところをラビアにミドルで打ち抜く。これで落ちつきが完全になくなったチェルシー。強引な縦パスや猪突猛進のドリブルなど強引なプレーをしてはサウサンプトンの中盤の守備に引っかかる。
サウサンプトンはここからリトリートを早めに組み込み守備の修正をする。中盤の後ろの意識を高めることで、序盤に見せたようなズレは見られないようになる。トランジッションの意識もチェルシーより高く、強度面でチェルシーを上回るように。チェルシーとしてはカウンターの餌食になる強引なプレー選択が元凶なのは間違いないが、そのバックラインの中でもアスピリクエタの対応の遅れは気になるところである。
勢いに乗るサウサンプトンはHT前に勝ち越し点までゲット。右サイドから左サイドへの展開で見事にピッチを横断、深さを作ってバイタルにスペースを作り、シュートを打つ余裕を作り、アダム・アームストロングが仕留めた。チェルシーの守備側に気になったのはマイナスを切り切れなかったアスピリクエタと横断を許したロフタス=チーク。特に入れ替わられてしまったロフタス=チークは致命的。HTに負傷交代したことを踏まえるとこの時点ですでに負傷を抱えていた可能性もあるが。
後半も基本的に流れは同じ。ボールを持っているチェルシーがいかにリトリートの意識を高めた上に強度を上げたサウサンプトンを崩すか?が争点である。チェルシーはハフェルツとスターリングがサイドの裏にきっちり流れるところから。CBを引き出すという観点では基本に立ち返った感がある。だが、チェルシーはボールを変なタイミングで失うことが多く失い方が悪く、なかなかいい流れを持ってこれない。
対するサウサンプトンは60分にラビアに代わって登場したアリボが右サイドに流れながら存在感。強靭なフィジカルでチェルシーのDF陣をてこずらせる。
チェルシーは終盤にフォーメーション変更し3バックにシフト。トゥヘルお馴染みの攻撃色の強い並びを見せることに。
しかし、最後まで強度が落ちないサウサンプトンのDF陣を前に強引なドリブル頼みのチェルシーのアタッカーは解決策を見出すことができず。リーズ戦に続きチェルシーはアウェイゲームを連続で落とすこととなった。
試合結果
2022.8.30
プレミアリーグ 第5節
サウサンプトン 2-1 チェルシー
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:28′ ラビア, 45+1′ A.アームストロング
CHE:23′ スターリング
主審:マイケル・オリバー
第6節 ウェストハム戦(H)
なかなかブレイクスルーが掴めないチェルシー。この試合ではマウントとハフェルツを外すという荒療治と2トップ型の5-3-2のような布陣でウェストハムを迎え撃つ。3センターの関係性は左のIHに立つコバチッチは低い位置をとり、右のIHのギャラガーは比較的高い位置をとる左右非対称の形となっていた。
ウェストハムのバックラインに対して、チェルシーは早い位置から捕まえに行きたい姿勢を見せる。だが、ややマーカーが定まっていない感じがあり、ボールホルダーに対して距離が遠くなってしまう状況が続いており、なかなか前から捕まえきれない。かといってウェストハムもそれを有効利用できているわけではないのだけども。
ウェストハムは2トップで前から守備に行くよりも、中盤を噛み合わせる状況を優先。新加入のパケタはロフタス=チークをマークするタスクを命じられた。
この中盤のマンマークに対して、チェルシーはスターリングなど前線の選手を中盤に落とすことでアウトナンバーを作りながら対応する。ライン間にボールを預けることができたチェルシー。だが、そこからサイドにボールを逃すとその先が詰まる。サイドのフォローが少し足りない分、いつもより攻め方が淡白な感じを受ける。
ウェストハムも攻め手が見出せずに苦戦。序盤は左サイドに流れるアントニオのロングボールを軸に攻めて行ったが、だんだんと跳ね返されるように。パケタがもう少しカウンターのスイッチになれれば面白いのだが、そこはまた今後という感じだろう。
前進が難しくなったなら、ハイプレスでなんとかしたい!というところ。だが、前から行けば行くほどチェルシーにあっさりボールを運ばれてしまうというジレンマにハマってしまっているように見えた。
膠着している試合を動かすのは大きなミス、セットプレー、もしくはスーパーゴールのどれかであることが多い。この試合ではセットプレー。CKからのすったもんだからアントニオがこじ開けてウェストハムが先制する。
リードを得たウェストハムはフォルナルスを最終ラインに下げる5バックで守る機会を増やす。つまり、ここからはチェルシーのブロック破壊チャレンジとなる。
攻略のキーになったのはチルウェルだ。手前で引き取る動きが多いククレジャに比べて、奥行きを取る動きが多いチルウェルはこの試合にあっていたかもしれない。裏を取る動きから華麗な身のこなしを見せて同点弾を生み出す。
逆転ゴールの立役者もチルウェル。追い越す動きを繰り返して局面を動かすとラストパスでインサイドにグラウンダーのパス。マウントがニアで潰れた先にいたハフェルツが決勝ゴールを決める。
だが、直後にコルネが反撃ゴールを挙げてウェストハムが同点に追いついた。かと思いきや、これはメンディへのファウルでまさかの取り消し。個人的には今季ここまでのプレミアの中のナンバーワンでアレなジャッジである。同点ゴールを取り上げられたウェストハムは非常に大人な対応だったのが不思議なくらいだ。
何はともあれ逃げ切ったチェルシー。まぁ、これがトゥヘルのプレミアラストゲームになるとは誰も思わなかったわけだけど。
試合結果
2022.9.4
プレミアリーグ 第6節
チェルシー 2-1 ウェストハム
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:76′ チルウェル, 88′ ハフェルツ
WHU:62′ アントニオ
主審:アンディ・マドレー
第9節 クリスタル・パレス戦(A)
チェルシーが採用したフォーメーションは4-3-1-2。ハフェルツをトップ下において、オーバメヤンとスターリングに2トップを組ませる形である。ボールの循環は右にやや偏る形。トップ下のハフェルツが右に流れる傾向が強いこともあって、人数とボールが右サイドに集まる形になっていた。
チェルシーはバックラインにパレスのWGを食い付かせて、その背後でジェームズが受ける。ここから間のハフェルツや裏に抜けるスターリングを狙ってボールを動かしていく。パレスがあまりチェルシーのバックラインにプレッシングをかけていかなかったこともあり、ボールを動かすことは比較的できていたと言えるだろう。
一方でパレスもビルドアップで短いパスを繋ぐことでチェルシーを動かすことができていた。4-3-1-2だとやはりパレスのSBのところをカバーするのが構造上難しくなる。パレスはいつも以上に丁寧にサイドを使いながらチェルシーのIHに負荷をかけていた。特に右のIHであるコバチッチは広い範囲をインテンシティでカバーしていくタイプではないので、とても苦労していたように思う。
互いに攻撃の形を持っている両チームだったが、先制したのはクリスタル・パレス。左右に揺さぶりながら、最後はエドゥアールへのクロスで仕留めて見せた。
パレスは押し込んだ後も武器があるのがいい。得点の場面でクロスを上げたアイェウもそうだけど、右のIHであるオリーズが大外まで流れることができる。キャラクターを考えれば当然の動きではあるんだけど、パレスはここまであまり大外レーンの交換はやってこなかったので、こうした試みは割と面白い。
チェルシーはやや危うい場面が目に付く。チアゴ・シウバのハンドの場面はあわやという感じだったし、そもそも先に挙げたボールの動かし方をなかなか修正できていなかった。前からプレスに行っても捕まえることができていない。
そんな中でチェルシーは前半のうちに同点ゴールまで漕ぎ着けられたのは大きい。セットプレーで前残りしたシウバにジェームズからロングボールを当てると、折り返しをオーバメヤンが押し込んだ。同点ゴールでだいぶ縦への鋭さは戻ってきた感じである。
チェルシーは後半に前線を1トップ+2WGに移行することで保持の安定感アップとワイドの守備のケアを両立させることに成功する。チェルシーがやり方を変えたものの、パレスはあまりやり方を変えず。個人的には彼らの特色であるロングカウンターをもっと織り交ぜてもよかったと思う。前半のようにサイドでズレを作れる前提であるならばゆっくりにこだわる意味はあると思うけど、チェルシーはハーフタイムの修正で噛み合わせてきたので、それならばパレスも少し趣向を変える方向に流れてもよかったのではないか。
というわけでペースは徐々にチェルシー側に流れていく。しかしながら、安定したポゼッションと引き換えて決め手にかけるという4-3-3あるあるに陥ってしまった感もあり、試合は膠着する。
停滞した試合を決めたのは交代選手。パレスにいたギャラガーがスーパーミドルを決めて決着する。今季なかなか馴染めていなかったギャラガーだったが面目躍如。昨季、慣れ親しんだスタジアムでようやくチェルシーファンに挨拶を済ませることができた。
試合結果
2022.10.1
プレミアリーグ 第9節
クリスタル・パレス 1-2 チェルシー
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:7‘ エドゥアール
CHE:38′ オーバメヤン, 90′ ギャラガー
主審:クリス・カバナフ
第10節 ウォルバーハンプトン戦(H)
コリンズの一発退場によって、3試合のCB不足をなんとかしないといけない!と言う状態になっているウルブス。1試合目でCBに選ばれたネベスを累積警告で失ってしまったため、今節はゴメスを登用することとなった。
チェルシーは今節は4-2-3-1を採用。前節と同じく、立ち上がりは右サイドを軸に攻撃を展開する形を狙っていく。右に流れることが多いハフェルツに加えて、右のハーフスペースに突撃ができるロフタス=チークやギャラガーを起用。右サイドアタックに厚みをもたらしていた。
ウルブスの右サイドは不安定。ジョニー、ゴメスというバックラインの左サイドはそもそもここで起用されておらず不慣れ。連携面でも怪しく、ボールを奪った後の脱出ができておらず、チェルシーの即時奪回に屈してしまう場面が多かった。
またウルブスはファーサイドのクロス対応も怪しい。チェルシーはファーへのクロスからの折り返しという形でチャンスの山を作っていく。だが、この日のチェルシーは決めることができない。アスピリクエタ、プリシッチなどゴールが決まったと思えるようなシーンでも決定機を逃していく。
エリア内においてはハフェルツが息が合わないシーンが散見される。背負う部分、抜け出しのタイミングなどCFとしてチームを牽引するパフォーマンスを見せられず苦労する。
ウルブスも保持に回れば攻め手がなかったわけではない。チェルシーの中盤はヌネスのドリブルを素通りさせるなどフィルタリング能力に欠けるところがある。トラオレにボールを渡すことができれば陣地回復も可能。ダイナミックなドリブルに対面のククレジャも苦しんでいるようだった。
チェルシーはエリア内においても怪しさを見せる。人がいる割にフリーな選手が多く、動き直しに対応できていない選手が多い。ここに入り込んで行ったのがこちらもヌネス。フリーのヘッドであわやというシーンを作り出していく。
ウルブズも手応えはあるものの、保持で相手を動かす手段が多いチェルシーが圧倒的に有利。前半追加タイムにファーで待ち構えたハフェルツがゴールを奪うことで前に出る。ウルブスはサイドで同数で受けたにもかかわらず、受け渡しが杜撰。あっさりとフリーの選手にクロスを上げさせてしまったのが痛恨だった。
ビハインドになったウルブスはホッジを入れて4-3-3に変更。ボールを奪ったら右のトラオレに預けて打開を頼むという状況を作ることで反撃に出る。
エリア内の守備は危うさがあるチェルシーにはトラオレ大作戦は一定の効果は見込める。しかし、ボールを奪ってしまえば当然チェルシーにもチャンスはある。よって後半もチェルシーよりのペースは大きく変わることはなかった。
左サイドのプリシッチの追加点で試合は実質決着と言っていいだろう。ウルブスはこのシーンでは右サイドの連携の拙さを見せて、シンプルなワンツーであっさりと抜け出しを許してしまった。この2点目で試合は沈静化。仕上げの3点目をブロヤが決めるまでは静かな展開に。
手薄なバックラインの連携の悪さをついたチェルシーが完勝。大きく動かして相手のアラを炙り出すというポッターのプランを見事に実践してみせた。
試合結果
2022.10.8
プレミアリーグ 第10節
チェルシー 3-0 ウォルバーハンプトン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:45+3′ ハフェルツ, 54′ プリシッチ, 89′ ブロヤ
主審:シモン・フーパー
第11節 アストンビラ戦(A)
少々並びが読みにくかったチェルシーだが、蓋を開けてみると3-4-3。スタートで右のWBに入ったのがスターリングというのは少々驚きだろうか。
チェルシーの保持はかなり慎重なものだったといえるだろう。外循環を軸にボールを動かしながら、じっくりとアストンビラの4-3-3と対峙。無理に縦パスを入れてカウンターを食らうような真似を避けるかのようにボールを動かしていった。
アストンビラの守備はバックラインに3トップでプレスをかけつつ、背後を3センターでカバーしてもらうという昨シーズン後半に定番として見られた形だった。チェルシーのポゼッションのスピードはそこまで早いものではなかったので、ビラはワイドのカバーに間に合っている印象である。
チェルシーの本命は中盤の守備を広げた状態を作り、インサイドで呼吸ができるようになったタイミングでコバチッチやロフタス=チークにボールを渡すこと。しかし、ビラのスライドが間に合っている状態が多く、なかなかチェルシーは前進ができない。
我慢比べになるのか?という試合の展望をぶっ壊してしまったのがミングスだ。明後日の方向に決めてしまったクリアをマウントに拾われて失点。これで凌ぐというビラのゲームプランは壊れてしまった。
失点で前に出て行く必要が出たビラ。バックラインからの繋ぎで前に強気で出てくるチェルシーのプレスを外していく。狙い目としたのはお馴染みの左サイド。この日はワトキンスのスタート位置が開いていたこととSBがヤングであることからかなりこちらのサイドの攻撃は効く感じである。
大外からのヤングとスターリングの1on1も有望だし、ハーフスペースの走り込みに縦パスを使ってエリア内を空けるのもいい。左サイドを軸にビラは保持からチェルシーを攻め立てることが出来た。
しかし、そこに立ちはだかったのはケパ。ポッター就任と同時に正守護神の座と自身を取り戻したスペイン人GKは立て続けのセーブでチェルシーのピンチを救い続ける。
後半はクリバリ、アスピリクエタを投入し、後ろの手当てを図るチェルシー。ビラの攻勢を前半よりは抑えることに成功する。
逆にビラは中盤のコンパクトさを徐々に維持できなくなってくる。コバチッチをフリーにできるようなボール回しも前半よりは増加し、チェルシーが落ち着いてボール保持を進めることができる展開が増えていく。
試合を動かそうと攻撃的なカードを切るビラだが、前半のような一気呵成の攻めを再現するところまではなかなか至ることができない。そんなビラを尻目にコバチッチからボール運び続けるチェルシーはマウントのFKで試合を決める追加点をゲットする。
いい時間帯を作ることは出来たが、仕留めることが出来なかったビラ。ミングスにとっては先制点の扉を開けてしまった上に、終盤には負傷してしまう(最後までプレーはしていたが)など、散々な一日になってしまった。
試合結果
2022.10.16
プレミアリーグ 第11節
アストンビラ 0-2 チェルシー
ビラ・パーク
【得点者】
CHE:6‘ 65’ マウント
主審:ロベルト・ジョーンズ
第12節 ブレントフォード戦(A)
カンテ、ジェームズとワールドカップの出場が難しい負傷を抱えてしまった選手が続々と出てきたチェルシー。苦しい台所事情になってきた中で今節はプレミアの中でも有数の難所であるブレントフォードのホームスタジアムに乗り込む。
チェルシーは序盤から積極的。高い位置からブレントフォードのDFラインにプレッシャーをかける。チェルシーのバックラインはククレジャを中心にラインを上げながらプッシュアップする。
ブレントフォード側はチェルシーのプレスに抵抗。開始直後に見られたヘンリーの爆裂持ち上がりなどサイドからボールを運びクロスを上げることを目指していく。特にブレントフォードの右サイドにおける攻防は見応え抜群。クロスを上げたいブレントフォードに対してククレジャが抵抗したり、そのククレジャの裏をムベウモがとったりなど一進一退の攻防が続く。
クロスから決定的な場面を作るブレントフォードだが、本日もケパは絶好調。ピンチをセーブで打ち消すことに成功する。
チェルシーの保持はバックラインから横を揺さぶりながらブレントフォードの2トップがカバーしきれない場所から運んでいくイメージで前進していく。チェルシーのバックラインはSBがアシンメトリーの立ち位置。左のククレジャが高い位置をとる一方で、右のアスピリクエタは3バックの一角として振る舞う。これでブレントフォードの2トップに対して数的優位を作る。
チェルシーは右で余らせたアスピリクエタから持ち上がるシーンが多かった。アスピリクエタが過剰に高い位置をとらない分、右の大外はギャラガーとロフタス=チークの2人でシェアしていく形で高い位置をとる。
前半の早い時間でギャラガーが負傷してしまった際にはロフタス=チークを右のSHに移動するのに伴い、ハフェルツとマウントを入れ替える。トップ下に右に流れやすいハフェルツを入れることでハフェルツとロフタス=チークで担当する形に変更する。
トップのブロヤやマウントなど、この日のチェルシーは動きながら受ける選手が前線に豊富。ラストパスを相手を外して受ける形も多かったが、動き出しに力を使う分、フィニッシュの精度が割引に。なかなかゴールマウスを捉えることができない。特にブロヤは動きながらのプレーの精度が今度の課題になるのかもしれない。
得点が決まらないまま迎えた後半。クロスを上げられてしまう機会が目立つようになったチェルシーは非保持において5-4-1に変更。ワイドをケアしやすい変形を行う。しかしながらそれでもなおサイドからクロスを上げられて決定機を生み出されるなど根本的にチャンスを潰せているわけではなかった。
それでもCHのジョルジーニョとコバチッチからキャリーしながら押し返す機会を増やしていく。終盤はかなり押し込む場面が増えたチェルシー。WBにスターリングを入れたり、アスピリクエタが高い位置をとるようになったりなど攻勢に出るチェルシーだが、ブレントフォードのゴールにはラヤが鍵をかけてシャットアウト。
終盤にチャンスを迎えたチェルシーだったが、パンチ力はもう一押し足りず。難所に挑んだチェルシーはスコアレスドローで勝ち点1を持ち帰るという結果にとどまった。
試合結果
2022.10.19
プレミアリーグ 第12節
ブレントフォード 0-0 チェルシー
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
主審:ジャレット・ジレット
第13節 マンチェスター・ユナイテッド戦(H)
現段階ではCL出場権争いのボーダーにいる両チームの対戦である。ちなみにユナイテッドはこの試合が終われば、前半戦のビック6との直接対決を終えることになる。
試合は順位が下のユナイテッドの方が明確にいい入りだったと言えるだろう。チェルシーはプレッシングにおいてはCBにもプレスをかけるのを諦めない。マウントはリサンドロ・マルティネスに対して、外切りでのプレスをかけるシーンもあった。
ユナイテッドはバックラインでボールを動かしながらチャンスを伺う。バックラインは外を回しながら相手の中盤に穴が開くかを探っている。よくある動かし方はバックラインが左→右に展開。その移動に合わせてカゼミーロが右に流れる。空いた左側のスペースにエリクセンが降りてくると、横パスを受けてフリーに。そこからサイドの高い位置に大きな展開を見せる。
仕上げとなった左サイドは、チェルシーのバックラインを動かしながらクロスを上げる形でPAに入っていく。ユナイテッドに得点があってもおかしくない場面もあり、好調な滑り出しと言えるだろう。
明確な前進ルートを持っていたユナイテッドに比べるとチェルシーはやや前進の物足りなさが際立った。ユナイテッドは前からプレスにはきていたが、枚数は余らせる形。そのため、アスピリクエタのところが比較的余るのだが、大きな展開で素早くアスピリクエタまで動かすことができなかったりというチームの問題や、あるいは素早く持ち上がりにくいというアスピリクエタの性質でなかなか打開の決め手にはならなかった。
前半のうちにコバチッチを入れて修正したポッターのアイデアは、ユナイテッドが有利な状況に風穴を開けるものだった。中盤の経由地を増やすことでユナイテッドはプレスで中盤を潰し切ることができなくなっていた。アスピリクエタ以外に起点を作ったことでチェルシーは前進にだいぶ兆しが見えてきた。
中盤の枚数をチェルシーが増やした影響は非保持面でも。ユナイテッドの中盤を捕まえ切ることができるようになったことでサイドへの展開役であるエリクセンの潰しが間に合う場面が増えた。これでユナイテッドのサイド攻撃の機会は幾分か抑制されたと言えるだろう。
ユナイテッドの優位をチェルシーの対策が打ち消した格好になった後半。チェルシーはワイドに人を置く4-3-3気味の形に陣形を修正する。明確な変更というよりはマウントとスターリングがやや外を気にするようになったという程度の調整と言えるだろう。
中盤が捕まる状況が変わらないユナイテッドはフレッジの投入で4-2-3-1に移行。フォーメーションでどうこうというよりは、列移動しながらボールを受けられるフレッジが欲しくなるというのはわかる。サンチョとショーでなんともならなかった左サイド攻略の3人目の登場人物としてもフレッジは重要だ。
交代で徐々にアスリート系の選手が増えてきたこともあり、試合は終盤に進むにつれてビルドアップの隙を探す展開から、ややダイレクトに縦に進む展開になっていた。しかし、どちらのチームもアタッキングサードにおける攻略に活路を見出せず。試合は膠着した展開に。
そんな状況を変えたのがPK判定だ。マクトミネイがPA内でブロヤを抱え込みPK。こういうのどんどんPKとった方がいいよね。このPKをジョルジーニョが決めて87分にチェルシーが先制する。
ここからやや小競り合いが増えたこの試合。ユナイテッドは守備陣を中心にやや空回りしているかのような振る舞いが続き、なかなか自陣から脱出することすらままならない。
そんな状況を変えて敵陣までボールを運ぶことができたのは左サイドを進んだエランガ。その後のセットプレーでカゼミーロが同点弾を奪うきっかけを作ったのは彼である。
カゼミーロのプレミア初ゴールは劇的であり、高い技術に裏打ちされたもの。あれだけ体が伸びているのに、逆サイドに正確にボールを落とせるヘッドができるのはすごい。場所甘ければケパが届いていた可能性もあった場面だったが、見事にコースを撃ち抜いたシュートで同点に追いついてみせた。
トッテナム戦同様、ビックマッチをまたしても終了間際に落としてしまったチェルシー。展開としてドローは互角だが、終盤までリードをしていたということもあり悔しさは残る。ちなみにユナイテッドとのリーグ戦はこれで5試合連続のドローゲームとなった。
試合結果
2022.10.22
プレミアリーグ 第13節
チェルシー 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:87′(PK) ジョルジーニョ
Man Utd:90+4′ カゼミーロ
主審:スチュアート・アットウェル
第14節 ブライトン戦(A)
立ち上がりから攻め込んだのはブライトン。チェルシーのプレッシングの圧力を跳ね返すと、いきなりゴールを強襲するシーンを作り続ける。体を張り続けて決定的なゴールを2つ防いだチアゴ・シウバは神々しかったが、そのゴールチャンスを生み出すきっかけになったビルドアップミスに彼が絡んでいたのも事実である。
ビルドアップによって引っ掛ける形を繰り返し、序盤から立て続けに窮地に陥るチェルシー。仏の顔は二度まで。3回目のビルドアップのミスからショートカウンターを発動したブライトン。左サイドからわずかな隙間を見つけた三笘がトロサールにラストパスを出し、これを決めて先制する。
チェルシーはビルドアップのバタバタがなかなかやまない。失点してもなお、枚数の余ったバックラインは捕まった中盤の選手に強引にパスをつけることでロストを誘発。押し込まれる展開が続く。するとブライトンはセットプレーから追加点をゲット。CKからロフタス=チークのオウンゴールを招き、早い時間にチェルシーを引き離す。
早くも2点リードされたチェルシーはここから強気のプレスでリカバリーを図る。狭い場所に閉じ込めることができた場合はハイプレスは割と成功。ショートカウンターからチェルシーがゴールに迫る機会もあった。ブライトンはドリブラーへの中盤の対応がやや軽いところがあったので、チェルシーは中央に切り込んでくるようなドリブルからチャンスメイクができていた印象だ。
それでもバックラインが横に揺さぶることができればブライトンはあっさりとチェルシーのプレスを脱出する。右サイドはマーチ、左サイドはエストゥピニャンが大外から裏をとる動きを繰り返しており、きっちりとチェルシーを押し返す。
特に、左サイドの動きは秀逸。インサイドに絞る三笘とトロサールを軸としたパス交換を行って時間を作ったところでチャロバーの背後をとるように斜めに走るエストゥピニャンにラストパス(出し手はカイセドが多かった)を送ることで再現性のある揺さぶりをチェルシーにかけていた。3点目のオウンゴールを誘発した形はまさにこの再現性がある動きが呼んだものと言えるだろう。
後半、チェルシーは4-3-3にフォーメーションを変更。同数でサイドを受けているところから1人フリーの選手を作り、早い時間でハフェルツが追撃弾をあげることに成功する。
ブライトンは失点を受けて撤退頻度を増やし、試合を落ち着けながらコントロールするように。それでもコバチッチの運びなどは効いていたが、それ以降の仕上げの部分では設計図が不明瞭で戸惑っている感じがした。攻撃的な選手は入ってはいるが、チーム全体としてトップギアを入れられている時間は限定的なものだった。
むしろ、終盤もカウンターに切り替えたブライトンの方が得点のチャンスはあったかもしれない。交代までは三笘が、以降はエンシソを軸に馬力のあるカウンターからゴールに迫っていく。
決定的だったブライトンの4点目は要であるコバチッチのパスミスから。またしてもプレスを引っ掛かっての失点だが、後方ユニットで最も信頼がおける選手にそうしたミスが出てしまうのはなかなか重たい。
デ・ゼルビ政権の初勝利は前任者を引き抜いたチェルシー相手。プレミアリーグが書く脚本としてはベタな部類に入るストーリーだが、ブライトンは前後半をきっちりやり遂げて作品を仕上げてみせた。
試合結果
2022.10.29
プレミアリーグ 第14節
ブライトン 4-1 チェルシー
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BHA:5′ トロサール, 14′ ロフタス=チーク(OG), 42′ チャロバー(OG), 90+2‘ グロス
CHE:48′ ハフェルツ
主審:アンディ・マドレー
第15節 アーセナル戦(H)
レビューはこちら。
リーグ戦、3試合未勝利となっているチェルシー。ニューカッスル、マンチェスター・ユナイテッドを追いかけるためには首位との一戦とはいえホームゲームを落とすわけにはいかない。
しかし、立ち上がりからペースはアーセナルのもの。ボール保持からリズムを作ったのはアウェイチームの方だった。バックラインからの組み立てで空いたガブリエウからアーセナルはボールの配球が可能となっていた。
チェルシーは中盤中央でのアーセナルのポゼッションに苦戦。かわるがわる中央に入ってはサイドに出ていくジェズス、ウーデゴール、マルティネッリなどにジョルジーニョやロフタス=チークはどこまでついていけばいいのかわからない状況になっていた。
それでもアーセナルは縦パスを出した先の精度が物足りないことで決定的なチャンスを創出できず。アタッキングサードにおける攻略がもう一声足りず、前半における明確なチャンスはマルティネッリ→ジェズスのクロスくらいのものだった。
一方のチェルシーの保持はロングボールにおけるプレス回避を選択。ショートパスでの繋ぎではアーセナルのプレスに屈することになるのは開始すぐにわかったため、折衷案としては正しいと言えるだろう。
ロングボールのターゲットはサイドの前線の選手。競り合いになると明らかに不利なので、フリーの選手めがけて長いボールをつなぐことができれば理想的だ。このロングボールにサイドに流れるハフェルツを噛み合わせればアーセナルのバックラインのズレは有効活用できる。
しかし、そうしたズレを活用できるシーンはかなり限られていたチェルシー。決定機の数こそ大きな差はなかったが、ボール保持も非保持も主導権を握っていたのはアーセナルだった。
後半のチェルシーは立ち上がりにアーセナルをプレスで強襲。マウントのプレス参加の頻度を上げることで、守備の強度を上げていく。アーセナルはかなり戸惑っていたが10分もすればこの状況に慣れるように。ボール保持でサイドから徐々にチェルシーを押し込んでいく。
押し込むことでチェルシーはカウンター移行時にハフェルツが孤立。アーセナルは即時奪回から波状攻撃を仕掛けていく。その甲斐あってアーセナルはセットプレーから先制点をゲット。CKはニアのハフェルツを抜けて、走り込んだガブリエウが押し込んで均衡を破る。
これ以降は完全にアーセナルが試合をコントロール。チェルシーは前線に入ったブロヤが奮闘するが、対面するサリバの壁は高く、決定的なジョーカーとしての役割を果たすのは難しかった。アーセナルはチェルシーの散発的な攻撃を跳ね返しながらカウンター→ハイプレスの流れでチェルシーの陣地回復を阻害。攻撃の機会を奪い続ける。
最小得点差ながら明らかなクオリティを見せつけたアーセナル。スタンフォード・ブリッジでリーグ戦3年連続の勝利を挙げることに成功した。
試合結果
2022.11.6
プレミアリーグ 第15節
チェルシー 0−1 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
ARS:63′ ガブリエウ
主審:マイケル・オリバー
第16節 ニューカッスル戦(A)
敗れた試合は未だ1試合だけと快進撃を続けるニューカッスル。中断前の最後の相手には4試合リーグ戦に勝っておらず、CL出場権との勝ち点差が開いているチェルシーである。
注目度の高さとは裏腹にジリジリするスタートとなったこの対戦。試合はまずはアクシデントから幕を開けることとなる。チェルシーのロフタス=チークが早々に負傷退場。チアゴ・シウバを投入し、アスピリクエタを1列前に上げる形でポッターは手当を行う。
ただ、この交代はこの日のチェルシーの前進手法から考えるとやや厳しいものになった印象だ。サイドに流れるブロヤのキープを主体とした前進なのだが、キャッチアップするWBはサポート役として重要。ブロヤの手前でターゲットになり、ブロヤに裏抜けのパスを送るか、あるいはロングボールを収めてキープするブロヤを追い越す形で、オーバーラップを行うかのどちらかができる選手を準備したかった。そうした役割はアスピリクエタよりはダイナミズムのあるロフタス=チークの方が向いていたはず。
シャドーにマウントとギャラガーというMF色の強い選手を置いたこの日のチェルシー。ブロヤに収まった後のところで彼らはエリア内に入るタイミングが遅く、PAが空っぽになってしまうことがしばしば。ブロヤに収まりはしていたが、その手前と先の部分を整備できない分、チェルシーの前進は不安定なものになってしまった。
一方のニューカッスルの保持は安定感はより感じられるものに。低い位置をプロテクトするチェルシーのWBとシャドーの距離が空いているところを安全地帯とし、ニューカッスルはチャンスメイクを行う。
左サイドのウィロックのカットインなど、サイドの深い位置からの決定機創出もチェルシーよりはできたいたニューカッスル。ただ、対戦相手に襲いかかるようないつも通りの迫力を出せていたかと言われると難しいところ。中盤でのデュエルでファウルを繰り返したことで、ややリズムよく攻め込む機会を確保するには苦労した印象だ。
迎えた後半もニューカッスルの優勢は変わらない。左右のサイドから攻め込み、前半よりも奥行きを取る形でチェルシー陣内を抉りながら侵食していく。特に狙っていたのは右サイド。デビュー戦となったホールのサイドから絶好調のアルミロンを軸に攻め立てる。
チェルシーはビルドアップからの脱出ができず苦しむ状態が続く。押し込まれ続けたチェルシーはついに失点。アルミロンの横ドリブルでクリバリを振り切ると、ドリブルを引き取る形になったウィロックがミドルを決めてついに均衡を破る。
ビハインドになったチェルシーは4-3-3にシステム変更。WGをはっきりさせたことでサイドの深い位置は取れるようになった。しかしながら、CFをハフェルツに変更したにも関わらず、2人マークにつかれているハフェルツにハイボールを放り込むなど、不可解な攻めが目についた。WGのツィエク、プリシッチはいずれも決定的な仕事をすることができず、チェルシーはこの日も沈黙でゲームを終えることに。
かたや、クリスマスを3位で終えることを決め、かたやリーグ戦5試合勝ちなし、公式戦300分ノーゴール。試合を終えたセント・ジェームズ・パークの両雄の表情は明暗がくっきり分かれるものとなった。
試合結果
2022.11.12
プレミアリーグ 第16節
ニューカッスル 1-0 チェルシー
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:67′ ウィロック
主審:ロベルト・ジョーンズ
第17節 ボーンマス戦(H)
クリーンシートで追走開始
8位とここまで出遅れが効いているチェルシー。CL出場権を逆転で手にするためには年末年始の過密日程から連戦連勝を重ねて行きたいところ。代表組が数多くいる環境とはいえ、中断期間という時間を得ることができたポッターの次の一手を構築できたが問われることになる。
立ち上がりからチェルシーは非常に勢いがよかった。ハイプレスでボーンマスを捕まえにいけていたし、ボールは奪ったら積極的に縦につけて一気にシュートまで行くシーンもしばしば。ボーンマスを飲み込めていたので、少なくとも立ち上がりの振る舞いとしてはチェルシーのこのやり方は成功なのだと思う。
ボーンマスは5-3-2のフォーメーションを組み、ブロック守備でガッツリ迎撃の様相かと思いきや、特にそういうわけでもない様子。高い位置に出ていく素振りを見せており、フォーメーションに比べれば前がかりな守備をしていたとも言えるだろう。
だが、このボーンマスのプレスにはコンセプトが見えてこない。どちらにボールを追い込むのか、それとも目の前の人を潰し続けるのか。いずれも中途半端。人をきっちり捕まえないのならば、せめてジョルジーニョだけでもきっちり管理したかったところだが、彼まであっさりとパス交換からフリーにしてしまう場面が目立った。
その結果、ジョルジーニョをフリーにする形からチェルシーに先制点を奪われてしまうボーンマス。縦パスから攻撃を一気に加速させると、最後はハフェルツがゴールを沈めてみせる。チェルシーの攻撃で際立っていたのは右サイドの加速。ハフェルツが右に流れる動きを見せたり、あるいはジェームズが帰ってきたりなどいろんな要因はあるが、右のハーフスペースへの縦パスから攻撃の活路を見出す場面が多かった。
マウントの2点目もボーンマスのプレスをひっくり返す形からだった。ザカリヤへのワンタッチのパスとフィニッシュの精度で違いを見せたマウントが仕組みにクオリティを上乗せした追加点だったと言えるだろう。
ボーンマスが前半で試合を捨てずに済んだのは、チェルシーに3点目が入らなかったことと、保持における振る舞いはチェルシーに通用しそうだったこと。CBがGKを挟みつつ4バック化しながらショートパスを繋いでいくスタイルはリスクも大きかったが、チェルシーのプレスにかかるシーンは少なく敵陣まで小気味よくリズムを刻むことができていた。
チェルシーのハイプレスもまたどこに追い込んでいけばいいか?のところが不明瞭だったこともあり、ボーンマスにも得点のチャンスは残されている気配はあった。ただ、できればもう少しセットプレーでの得点のチャンスは大事にしたいところである。
後半、ボーンマスは4-4-2にシフト。おそらく攻勢に出ようというフォーメーション変更なのだろうが、変化は限定的。なかなかペースを引き込めない。後半も自分たちのペースに引き込んでいたチェルシーだったが、アクシデントでジェームズが再び負傷交代。この日というよりもチームと選手の今後を考えると頭が痛くなる状況だった。
じわじわと自分たちの時間を増やしていくボーンマス。保持のテストをしていたのかもしれないが、チェルシーが意固地になってショートパスで繋ぐことにこだわっていたおかげで、ボーンマスのプレスからのショートカウンターは比較的高い頻度で発動することができていた。それでも、チェルシーはロングカウンターからチャンスを作れていたので、好機としてはトントンかチェルシーがやや優勢と言えるだろう。
終盤にはそこそこゴールに迫ることができていたボーンマスだが、クロスとセットプレーの精度が足を引っ張り続け、決定的なチャンスを作ることができない。相手にも助けられたチェルシーは最後までゴールを死守することに成功。クリーンシートで上位追走を開始することに成功した。
ひとこと
ジェームズの怪我は残念だが右サイドの活性化はいいポイント。後半のトーンダウンは懸念ではあるが、チェルシーのリスタートには悪くない感触を抱いた。
試合結果
2022.12.27
プレミアリーグ 第17節
チェルシー 2-0 ボーンマス
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:16′ ハフェルツ, 24′ マウント
第18節 ノッティンガム・フォレスト戦(A)
幸運の先制点に襲いかかる理詰めの反撃
リーグ再開直後からマンチェスター・ユナイテッド、チェルシーと難敵との連戦となるノッティンガム・フォレスト。力のある相手ではあるが、上にも下にもチームが詰まっている分、なんとか頑張りたいところである。
当然、試合はチェルシーがボールを持ってスタートする。ライン間を閉じて、コンパクトなミドルブロック守備を敷くスタイルはもはやフォレストのトレードマークと言っていいだろう。バックラインにはボールを持たせることを許容したため、チェルシーのボール保持はクリバリとシウバが持っている時間が一番長い状況だった。
前進ルートはざっくりと2つ。1つは中央からのルート。ジョルジーニョの脇にマウント、ザカリアなどの人を下ろしての中央開拓。降りる選手を変えながら遊びを持たせているのが特徴である。もう1つは大外を使ったルート。フォレストの守備の中央の堅さを加味すると、メインはこちらになる。クリバリを軸にフィードを飛ばし、大外から攻撃の形を作る。
サイドからの崩しはクロスが主体。前節は右サイドからのクロスが多かったチェルシーだったが、今節は左の方がやや多かった。球持ちのいいプリシッチのサポートにククレジャやマウントがいる左サイドには、ハフェルツが流れるシーンがいつもより増えていたのが印象的。普段は右に流れる彼が左にいることが多いということは崩しの狙い目なのだろう。
フォレストの攻撃は非常にシンプルなもの。3トップがロングカウンターでチェルシーのバックラインにスピード勝負を挑む格好である。特にワイドのアウォニイとジョンソンの2人を軸にチェルシーのSBの背後からカウンターを狙っていく形を作っていく。
抜け出しは序盤にジョンソンが惜しい形を作り、アウォニイも有効打を放ってはいたが、試合の時計の針が進むとともにトーンダウン。チェルシーはスピードに乗る前にサイドに人を動員しながら潰し、早めの手打ちでフォレストのチャンスを未然に防ぐようになる。
先制点を決めたのはチェルシー。左サイドからのクロスをインサイドで対応したボリーのキックが跳ね返ってポストに直撃。このポストからのこぼれが目の前に転がってきたスターリングが先制点をゲット。チャンスの少ない前半だったが、チェルシーが幸運を味方につけて前半のうちに先制する。
後半、素晴らしい入りを見せたのはフォレスト。前半は縦に急いで3トップにお任せ!というスタンス一辺倒だったが、ポゼッションからバックラインを引き出し、裏を狙う前に一つ工程を挟むことでより前線のスピードを効果的に使っていた。
ただ、フォレストのボトルネックになっていたのは抜け出した後の判断。折り返したいところで直接シュートに言ってしまうジョンソンや自分より体勢のいい選手を差し置いて強引に打ち切ってしまうアウォニイなど、もう一工夫欲しい選手が多い。逆にジョンソンにインサイドのコースを切りながらシュートに誘導したチアゴ・シウバの対応は素晴らしかった。
しかしながら、攻めてリズムが出てくるとフォレストのアタッキングサードでの判断は徐々に改善していく。攻撃的なSBの特性も生きるようになり、高い位置で人数をかけて攻められるようになる。後半の立ち上がりはマウントのキャリーなどでプレス回避もできていたチェルシーだが、中盤で選手が捕まるようになると、いよいよ試合はフォレストが一方的に攻める展開に。
修正が手早いポッターの手打ちまでなんとか我慢したかったチェルシーだが、コバチッチの投入直後に失点。セットプレーからオーリエが飛び込んで同点ゴールを手にする。チェルシーはわずかに修正が間に合わなかった印象だ。
以降も攻め続けたのはフォレストの方。チェルシーは前線のテコ入れから4-2-3-1にシフトチェンジするが、コバチッチを軸に落ち着かせることが精一杯で攻めに打って出るところまではいけない。逆にフォレストはイケイケのうちに逆転まで持っていきたかったところだった。
幸運な先制点を理詰めの反撃から守りきれなかったチェルシー。手痛い敗北で4位のユナイテッドとの勝ち点差は7に開いた。
ひとこと
トータルで見ると引き分けはとても妥当。手打ちが遅かったことと、効果的でなかったことはポッターらしくなく、気になる部分である。フォレストはベテラン勢の不在が課題だったけど、オーリエのこの試合の出来はプレミア経験者を補強した意味をきっちり提示できたように思えた。
試合結果
2023.1.1
プレミアリーグ 第18節
ノッティンガム・フォレスト 1-1 チェルシー
ザ・シティ・グラウンド
【得点者】
NFO:63′ オーリエ
CHE:16′ スターリング
主審:ピーター・バンクス
第19節 マンチェスター・シティ戦(H)
後半頭の猛チャージでトラブル続きのチェルシーを下す
年末年始の連戦の最後。中断明けから継続してきたメンバーを入れ替えて臨んだのはアウェイのマンチェスター・シティの方だった。後方のビルドアップを支えてきたリコ・ルイスとアカンジに代えてカンセロとウォーカーを起用するという変更を行った。
変更したのはメンバーだけではない。フォーメーションにもグアルディオラはメスを入れた。カイセドをWBとみるかSHとみるかは微妙なところではあるが、右サイドにはカイセドとウォーカーを縦に並べる形。フォーメーションとしては4-4-2か3-4-2-1のどちらかといった形だろうか。
ボール保持においては3-2でのビルドはキープ。ウォーカー、ストーンズ、アケの3枚の前方にロドリとベルナルドが並ぶ形になった。チェルシーのプレスはそこまできっちりかかることはなかったけども、攻撃はやや直線的で淡白なものに終始。細かいやり直し等は少なく、ダイレクトな裏抜けか、あるい右の大外のカンセロからの侵入のどちらか。ツィエクとチュクエメカが中央を締めていたこともあるが、あまりシティらしくない単調さであまりチェルシーのゴールを脅かせてはなかった。
一方のチェルシーは序盤から誤算が連発。開始早々にスターリングが負傷し、トップ下起用の全容が不明なまま交代。左サイドのプリシッチも前半の内にいなくなり、オーバメヤンとチュクエメカが前半から交代で出て行くことになった。
ただ、それでもチェルシーはクリーンな前進が可能ではあった。シティのハイプレスはここ数試合と同じく省エネモードのまま。バックラインからショートパスでボールをつなぐことはチェルシーにとっては難しくなかった。プレス回避の主役はコバチッチとザカリアの両CH。相手の逆を取るドリブルで中盤に風穴を開けてボールを前に進めることが出来ていた。
DF-MF間でパスを受けてそのまま前を向いていたハフェルツも悪くはなかった。シティは中盤の守備もルーズであり、いくら何でも前を向かせすぎな場面が目立った。
しかし、そこから先がうまくハマらないのがこの日のチェルシー。サイドの攻撃はWGとSBのタンデムであり、中央のメンバーでのサポートは皆無。このあたりは気が利くマウントの存在が恋しい。WGとSBのコンビでは右サイドではできることは限定的。ツィエクの右からのカットインクロスもバレているケースが多く、精度もそこまで高くはなかった。
チェルシーはアタッキングサードで不満を抱えていたし、シティはボールの動かし方に難があった。どちらのチームも思い通りにいかない状況の中で試合はハーフタイムを迎える。
後半、シティは勝負に出る。リコ・ルイスとアカンジを投入し、普段の装いにチェンジしたシティは後半早々にプレスで畳みかけていく。前半とは別人のようなプレッシャーからチェルシーのバックラインから時間を奪い、ボールを即時回収。ハーフコートゲームにもちこみ、一方的に攻撃を続けていく。
サイド攻撃にもリコ・ルイスが加わったことで流動性がアップ。グリーリッシュ、マフレズの両WGのフレッシュさもアクセントとなり、アタッキングサードでもチェルシーに脅威を与えていた。前半は役割がふわふわしていたデ・ブライネもサイドに流れてのクロスを主体とすることでようやく役割が定まった感がある。
そして、後半にチェルシーの守備は決壊。シティは右サイドから横断するようにサイドを変えて、最終ラインの前でデブライネが前を向くと、サイドに待ち受けていたグリーリッシュがエリア内にラストパス。ファーのマフレズがこれを沈めて先制する。
ゴールエリアまで持ってこられる形はチェルシー目線からすればすでに悪かった。だが、それでもケパが飛び出していればマフレズがパスを受けるのを防げたようなボールだっただけに、がっくりきたチェルシーファンは多かったのではないだろうか。
さて、リードを奪われたチェルシー。前半よりも激しいシティのプレスに苦しんでおり、なかなかに攻略の糸口をつかむことができない。幸い両CHのプレス耐性は生きていたため、チェルシーはここから相手を剥がしての脱出が出来ていた。
だが、問題になったのはやはり攻撃の仕上げのところ。中央で相手を剥がしてもそのままスピードに乗ってゴールに向かうエネルギーが完全に欠如している。ギャラガー投入はそういった部分を補う意図だろう。とりあえず前に向けるエネルギーがなければ、ゴールまでボールは届かない。配置よりもガソリン的な意味でギャラガーはチェルシーの原動力になっていた。
しかし、馬力は何とかなってもシティのバックラインを越えてゴールに迫るのにはやや無理があった。終盤に再びシティがペースを落としたことでチェルシーに保持の機会は回ってきたが、若手主体のメンバーは得点を得ることが出来ず。後半頭の猛チャージでもぎ取った先制点を守り切ったシティがアウェイで勝利を手にした。
ひとこと
2回の交代機会と手薄なアタッカーを失ったチェルシーが敗れてしまうのは仕方ない。が、連戦はまだまだ続くという地獄は待ってくれない。両軍ともスカッド事情はあまり良くなさそうではあるが、1月に置いていかれるわけにはいかない。勝負の一カ月になるだろう。あと、ザカリアは怪我しなければ相当いい感じ。
試合結果
2023.1.5
プレミアリーグ 第19節
チェルシー 0-1 マンチェスター・シティ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
Man City:63‘ マフレズ
主審:ポール・ティアニー
第7節 フラム戦(A)
3分で失ってしまった勝利への道筋
エリザベス女王の崩御で延期になった第7節は年明けから合間合間に挟んでいく日程で消化していく形になった。その先陣を切るのはウェストロンドンダービー。昇格組のフラムが混沌のチェルシーを迎える一戦である。第7節に対戦していればベンチに座る指揮官はポッターではなかっただろうし、ジョアン・フェリックスがスタメンに名を連ねることもなかっただろうことは日程の妙である。
初スタメンとなったフェリックスは非常にのびのびとしたパフォーマンスだった。ハフェルツ、マウントも含め、この日のチェルシーの前線はいずれもボールを引き出す能力に長けていた。低い位置までボールを引き取りに行く動きとサイドに流れながら裏を取る動きを組み合わせてフラムのバックラインを撹乱。かつ、複数の選手が同時に動くことでフラムの守備の狙いを絞らせないようにしていた。単一ルートでボールの動線が簡単に読めていたFA杯のシティ戦に比べれば、かなりバリエーションに富んだ前進の設計図を書けていたと言えるだろう。
その中でもフェリックスは特に躍動していた。周りの味方との距離を適切に保ちながら、ワンタッチで落とす動きを入れ込みつつ、自らも反転しながら前を向くことで前進の原動力に。連携面、個人の動きのキレの両面で申し分なく、特に前進の局面では文句なしの働きと言っていいだろう。
あえて注文をつけるのならば、素直すぎるフィニッシュでレノを乗せてしまったことだろうか。この日のチェルシーが前半無得点に終わったのはレノを勢いづかせてしまったところによる部分も否めない。
前進の手段が豊富なチェルシーに対してもきっちり対抗できるのがフラムの今の強さでもある。チェルシーはバックラインの選手が足元に長けているわけではないので、プレッシャーをかければきっちり見返りがある。フェリックスを中心としたチェルシーのアタッカー陣に前進を許しながらも、勇気を持ってラインを上げ続け、中盤で跳ね返すというフラムの守備の理念を実施し続けたのは立派。チェルシーほど機会は多くないが、ミドルゾーンからのカウンターで相手を脅かすシーンもしばしばだ。
アタッキングサードにおけるパスコースの作り出しもこの試合のフラムの良かったポイントだ。ホルダーを適切なタイミングでサポートできる動き出しを2列目とSBがこなしており、ボールの出しどころに困るシーンは皆無。球持ちのいいウィリアンとの相性は抜群で、チェルシー陣内を枚数をかけながら攻め立てることができていた。
そのウィリアンからフラムは先制。右サイドからのクロスを引き取ったウィリアンはカットインからのシュートを沈める。チャロバーに跳ね返ったボールが吸い込まれるという幸運も手伝い、フラムはリードを奪うことを成功する。
チェルシーもハイラインでテンポよくプレーはできていたが、この日のフラムのパフォーマンスにより抵抗されてしまった感がある。前半のチェルシーの出来で気になるところは、今季要所で感じる後方のハイライン耐性の怪しさだろう。この試合で言えば、チャロバーが相手との間合いを掴めない場面がやたらと目立っており、高い位置でボールを奪い返すための障害になっていた。リズムを掴めない一因だったと言っていい。
後半、チェルシーはホールの突破で左サイドからファウルを獲得。これを直接狙ったマウントに虚を突かれたレノがなんとか掻き出したが、クリバリがこぼれ球を押し込み後半早々に追いついてみせた。
同点ゴールから勢いに乗りたいチェルシーだが、直後にザカリアが負傷。接触プレーがないところでの交代ということもあり、チームは暗いムードに。すると、この影に飲み込まれるようにジョアン・フェリックスが危険なタックルにより一発退場。わずか3分ほどの間にチェルシーは2人の優れたパフォーマンスの選手を失うことになった。
10人になったチェルシーはFA杯のように前進のルートが単一に。10人になってしまったこととフェリックスがいなくなったことの両面でチェルシーは問題を抱えてしまったように思う。それでも、ラインコントロールの面でアダラバイオが淡白なパフォーマンスをみせたこともあり、チェルシーには得点のチャンスがないわけではなかった。しかし、これをチェルシーのアタッカー陣が咎められない。
数的優位を得たフラムは右サイドからのクロスを軸に攻勢を強める。決勝点もこの右サイドのクロスから。ペレイラのボールにファーに流れるヴィニシウスが合わせる形で勝ち越しゴールを奪う。ヴィニシウスは前半もファーに逃げながらのシュートを枠内に持って行っており、不利な体勢からでもヘディングをねじ込めるスキルがある選手ということだろう。殊勲の働きであった。
チェルシー目線で失点シーンを見てみると、ケパの飛び出しの早さが悪い意味で目につく。だが、2人マークについているはずのヴィニシウスをチャロバーが簡単に逃したことを踏まえると情状酌量の余地はある。2人ついているならフィールドで解決したい状況ではあった。
ウェストロンドンダービーは順位が上のフラムが勝利。フラムが数的優位の状況を生かして勝ちきったことで、ポッターの立場はさらに危ういものとなった。
ひとこと
いい流れをスコアに反映できず、より大きな出来事に飲み込まれて台無しになると言うのは悪い流れのチームにはよくある話のように思う。続出する離脱者やフラムというタフなチームが相手だったことも含め、この日のチェルシーはいくつかの逆風に屈してしまったように思える。
試合結果
2023.1.12
プレミアリーグ 第7節
フラム 2-1 チェルシー
クレイブン・コテージ
【得点者】
FUL:25′ ウィリアン, 73′ ヴィニシウス
CHE:47′ クリバリ
主審:デビッド・クーテ
第20節 クリスタル・パレス戦(H)
新たな武器になる可能性を示したCBコンビ
ピッチの中では不振から抜け出せず、ついに順位は二桁に。しかし、ピッチの外では絶好調。移籍市場では主役の座は譲らないのが今のチェルシーである。前節はジョアン・フェリックスがデビュー、今節はムドリクのお披露目と話題には事欠かない。対戦相手のパレスはトッテナム、チェルシー、ユナイテッドと厳しい日程の真っ最中。敵地とはいえポイントはとっていきたいところだろう。
この日のチェルシーのフォーメーションは4-2-3-1に近い形。ただし、左右は非対称。左のSBのホールが高い位置を取り、大外レーンを担当。SHのマウントはインサイドに入りながらファジーに動き回る役割を担う。右の大外はツィエクが担当し、こちらはSHが幅をとる。ここはチャロバーとホールという2人のSBのキャラクターの違いを考慮しての非対称性だろう。
左サイドはこちらもデビュー戦となったバディアシルが配球で存在感を発揮。大外のホールをシンプルに使う形で進撃をする。右サイドは中盤のギャラガーが降りる形でボールを引き取っていく。ギャラガーの降りる動きに対面のシュラップがついていくかは迷いどころ。背後をマウントやハフェルツが狙っているため、ついていけば背後を使われるリスクもある。その分、ギャラガーは自由を享受することとなる。
右サイドに人数をかける崩しを作ったチェルシーは同サイドのハーフスペースを起点としたクロスと逆サイドのホールへのサイドチェンジを織り交ぜながら押し込む。パレスがセットプレーに不安があるということを踏まえると押し込み続ける状況はチェルシーにとっては十分おいしい。序盤はチェルシーがゴールに迫る展開だった。
しかし、パレスも徐々に反撃を開始。チェルシーのライン間でのパスワークが乱れたり、パスコースが読みやすい時は受け手に厳しいプレッシャーをかけることでボールを奪い取りカウンターを発動。右のハーフスペースのオリーズとザハを軸に手早い攻撃を打ち込んでいく。前半途中からオリーズがトップ下から右のWGに移動したことを踏まえると、ホールの背後も狙い目と感じたのかもしれない。
いくつかあったパレスの決定機を封じるのに貢献したのはケパ。勇気ある飛び出しでバタバタしていたボックス内の対応を見事にカバーしてみせた。このパレスの攻撃を凌ぐと、再びチェルシーはペースを握る。右サイドの攻略は同サイドを攻め切ることでさらに奥行きを増した印象。右のハーフスペースの裏抜けを活用することでパレスの守備陣系を抉るように攻め込むことで再びチャンスを得る。躍動していたのはギャラガー。ポストの落としを受けての攻め上がりや、ハーフスペースの裏抜けなどは好調時のパフォーマンスを彷彿とさせるものである。
押し込むことでセットプレーのチャンスも再びついてきたチェルシー。こちらもグアイタがセーブでチームを救う。両守護神のファインセーブにより、試合は前半をスコアレスで折り返す。
迎えた後半は比較的均衡した状況に。ボールを持つのはチェルシーだが、パレスも問題なく攻撃を跳ね返すことができる。前半の終盤のようにラインの上げ下げまでチェルシーに支配されることはなく、無理のない受け方ができていた。パレスはカウンターから好機を狙うが、バディアシルがきっちりカウンターの芽を摘む。彼にとっては攻守に上々なデビュー戦になったはずである。
どちらも得点の糸口が見えない状況を動かしたのはセットプレー。ショートコーナーからハフェルツが合わせて先制ゴールを叩き込むことに成功する。
反撃に出たいパレスは積極的にプレッシングに出ていくが、ことごとく軽微なファウルを取られてしまいカウンターに繋げることができない。それでもなんとか終盤は押し込むことに成功したパレス。だが、放り込みに備えたチェルシーの強固な5バックが決定機を許さない。
結局、セットプレーからの1点を守り切ることに成功したチェルシー。1月15日にしてようやく2023年初勝利を挙げることができた。
ひとこと
バディアシルとチアゴ・シウバのバックラインは強力。最後の塹壕戦への耐久力も含めて強力な武器になる可能性を示唆した。ケパも含めてこの試合のバックラインは強固と言えるだろう。しかし、保持における無駄なロストの多さは気がかり。特にオーバメヤンと後半のギャラガーのロストは不要なピンチを招くことにつながっている。この辺りは新戦力のうちの誰かに新たなアクセントになってもらうことを期待したいところだろう。
試合結果
2023.1.14
プレミアリーグ 第20節
チェルシー 1-0 クリスタル・パレス
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:64′ ハフェルツ
主審:ピーター・バンクス
第21節 リバプール戦(A)
CL出場権はさらにおぼろげになる
ともに勝ち点は28。優勝争いどころかCL出場権にも黄色信号が点っている両チーム。負けてしまえば光はさらに儚いものになってしまう。なんとしても上を追撃する足がかりにしたい一戦と言えるだろう。
試合開始早々にネットを揺らしたのはチェルシー。セットプレーに反応した選手はことごとくチェルシー側という悪夢のようなセットプレーを披露したリバプール。この場面はオフサイドで許されたが、ブレントフォード戦の悪夢が蘇るような危ういセットプレーの守備で幕開けとなる。セットプレーに関してはこの場面以外にもリバプールの守備陣は何度もチェルシーの選手にフリーでのタッチを許しており、いつ失点のトリガーになってもおかしくない出来だったと言えるだろう。
ボール保持の局面はどちらもぐぬぬという感じだった。チェルシーのシステムは保持と非保持で大きく役割が変わる形であり、上記のフォーメーションがしっくりこない人がいても不思議ではないという感じ。ボール保持では左のSBのククレジャを高い位置まで上げて3バック化し、ジョルジーニョとホールが中盤で並ぶ。大外はククレジャとツィエクが担当し、ハーフレーンにマウントとギャラガーが入る形となっていた。
このチェルシーの可変に対して、リバプールは前節のブライトン戦と似た傾向を見せる。右のWGであるサラーがインサイドに絞って守備をするが、そのサイドの大外の選手(=ククレジャ)のケアが甘く、ここに誰が出ていくかが不明瞭。しかし、チェルシーはブライトンとは異なり、このサイドまでクリーンにボールを届けることができない。あるいは届けようとせず、フリーのククレジャを使おうという気がハナからなかった。
他に前進の手段があれば別にいいのだが、裏を狙うタイミングが少し早く、縦に速いボールはやや淡白さが否めない感じ。ブロックの外から精度の高いボールを蹴っていたツィエクのフィーリングは悪くなかったが、基本的には受け手が一杯一杯になっている場面が多かった。
対するリバプールの保持も苦しいところがあった。チェルシーの非保持はマウントが前線、ホールが左ワイド、中盤にジョルジーニョとギャラガーが並ぶ4-4-2であるが、前の6人の守備の間延びが非常に大きく、簡単にライン間のスペースを空けていた。
特にギャラガーの行動範囲の広さは気になる部分で、追いかけ回す割にはボールを奪いきれずにリバプールに空いたスペースを使った侵入を繰り返される羽目に。同サイドに圧縮しようとする意識が強かったチェルシーの中盤より前の守り方だが、リバプールはすり抜けながら逆サイドまで簡単にボールを運ぶことが多かった。
ただ、リバプールの課題はこの同サイドにおける崩しのバリエーションである。右のアレクサンダー=アーノルドがいないという事情は割り引かなくてはいけないが、外からクロスを狙う形はやや精度を欠く。サイドから押し下げてジョルジーニョを中央から引っ張り出すなど、バイタルが空いた場面こそあるが、中央へのパスが繋がらないため台無しになってしまう場面もしばしばである。
相手の守備の陣形の欠陥はあるが、そこを使おうとした時にため息が出るような簡素なミスが出てしまうというのはリバプールだけでなくチェルシーの保持に共通する難点。好調ではない分、目を瞑らなくてはいけないのだろうが、どちらも相手の守備ブロックのソリッドさを考えればもっとチャンスは多くてもいいはず。セットプレーではチェルシーの方が明確に有利だったが、流れの中ではどちらも残念さが先立つボール保持だった。
後半、リバプールは腹を決めたプレスで着火。チェルシーのビルドアップ隊はこれをかわし切ることができず、リバプールにハーフコートゲームを許してしまう。押し込みながら勝負に出るが、バックラインが体を張るチェルシー。低調な試合の中でもリズムを崩さないチアゴ・シウバは流石である。
55分が過ぎるとリバプールのプレスは徐々に弱まっていき、チェルシーが前進できるように。この時間に出てきたのがムドリクである。デビュー戦としてはサポーターに期待を持たせられるものだったのではないか。オープンスペースでのスピードで相手をおいていけていたし、エリア内での細かいボールタッチも苦にしていなかった。右サイドのツィエクからのクロスをファーで待ち構える形での2回のチャンスのどちらかを決めていればサポーターの心を掴んでいただろう。
ただし、ボールを持っていない時の顔を出すタイミング、消えるタイミングはどちらも難あり。連携には時間を要すかもしれない。また、守備は献身的ではあるが、ボールを狩りにいくプレーはシャフタールのCLではあまり見かけなかったので、チームがプレスからリズムを握ろうとする際には少し悪い意味で気になるかなというところ。もっとも、若い選手なのでこの辺りの向上はこれから見込める部分ではある。
リバプールで存在感を放っていたのはヌニェス。ロングカウンター、サイドにボールがある時の抜け出しのセンスは相変わらず抜群。シュートは確かにこの日も苦しい形だったが、いない状態ではシュートに持っていくのすら難儀だったので、リバプールからすれば明らかに必要な存在と言えるだろう。
交代選手の活躍で終盤に期待がかかる展開だったが、80分付近の互いに3人ずつ交代したあたりからは再び試合はトーンダウン。ともに勝ち点3を狙うチームとしてはやや寂しい迫力に欠けた終盤に。どちらも浮上のきっかけとなる勝ち点3は掴めなかった両チーム。CL出場権はまた少し朧げな存在になってしまった。
ひとこと
余裕を持った形での決定的なチャンスというのは流れの中ではあまりなく、引き分けは妥当。パスを繋ぎながらゴールまで水を運ぶ途中でこぼしてしまう!という感じのシーンの連続でどちらのチームも調子の悪さが浮き彫りになったと言えるだろう。
試合結果
2023.1.21
プレミアリーグ 第21節
リバプール 0-0 チェルシー
アンフィールド
主審:マイケル・オリバー
第22節 フラム戦(H)
新生チェルシーに立ちはだかるフラムのバック4
リーグ戦では不振を極めるが、冬の移籍市場で大暴れ。間違いなくピッチ外での欧州サッカーの主役は今チェルシーと言っていいだろう。対する相手は敵地で不覚をとったフラム。後半戦のリスタートには絶好の相手だろう。
どちらのチームも守備側は4-2-3-1がベースでアンカーを受け渡しながら守る形。よって、そこまで前からのプレッシャーが強い形でのスタートとはならなかった。まずは、保持側がこの状況にどのようにトライするかが問われる立ち上がりとなった。
チェルシーの保持はエンソをアンカー的に置く4-3-3がベースとなっていた。いつも言っているのだけど、一般的にアンカーは1人で前を向くべきポジションではない。この日のように受け渡しでマークがズレるのならば尚更である。
前半のチェルシーは周りがアンカーを助ける挙動が比較的できていた。チアゴ・シウバはロングボールを蹴り、バディアシルは持ち上がりからの配球で存在感を発揮。そうなれば、フラムはCBを完全に放っておくのは難しい。IHのマウントとギャラガーが降りてボールを受けるのも、エンソがフリーで受けるための手助けになっていた。
アタッキングサードにおいては右サイドが主役。全てが順調に運んでいれば今日ロンドンにはいないはずのツィエクを軸に、ギャラガーとジェームズが絡んでいく形。ただし、ジェームズはまだコンディション的に途上と言えるだろう。
ツィエクを起用する際はファーへのクロスは鉄板だが、ムドリクの抜け出しと噛み合わせるアイデアは面白かった。逆にいうと、ムドリクはそれ以外の形ではなかなか攻撃に絡めなかった。特にスピードがある割にはカウンター時に前を走れていないのは、彼の持ち味を考えると大きな減点ポイントになる。ネックになっているのはポジトラの強度の部分か、守備で下がり過ぎてしまう部分かあるいは両方か。いずれにしても今後解決していく必要があるだろう。
チェルシーのカウンターはリンク役となるマウントがスムーズさを欠き、フィニッシャー役となるハフェルツは精度が足りず、十分に相手に脅威を当てる形を連発できたとは言い難い。フラムは中盤のプレスバックが早く、ここで引っかかってしまうケースが多いのと、抜けてもマウントのところで詰まってしまう感があり、なかなかいい形が作れなかった。単発で決定機はあったが、物足りなさが先に来るのは確かだろう。
フラムのバックラインはチェルシーのカウンターの選択肢をきっちりと潰すことができていた。チェルシーはまだカウンターから複数の選択肢を突きつけるような形を作れていないので、一択となる選択肢をフラムがわかってても止められないところに作るか、相手のミス待ちかのどちらかになる。となると決定機の量産は難しい。
フラムの保持もバックラインからのボールの持ち運びでうまく相手を外すことができていた。急ぎ過ぎてしまうと、中央でエンソを軸とした網に引っかかってしまうが、サイドからキャリーできれば押し下げることができる。チェルシーとは異なり、ターゲットマンがいるフラムは大外からのクロスでOK。とはいえ、チェルシーも両CBを軸にクロスを堅実に跳ね返すことができていた。
チャンスの少ない前半が終わり、後半も堅実な展開は続く。フラムはミドルブロックからボールを引っ掛けてカウンターを発動するが、チェルシーもプレスの強度を上げながら対応していく。
チェルシーはHTに投入したマドゥエケが左サイドに登場。これに伴いククレジャはインサイドに絞りながら大外で1on1を作ることを優先するポジションをとる。大外の1on1であれば、現状ムドリクよりもマドゥエケということなのだろう。
ククレジャがインサイドに絞るアイデアは個人的には悪くなかったと思う。中央をプロテクトする形はカウンターの予防策になるし、2列目が降りて受けることを好む選手が多いフラムに対しては割と効果は高い。
フラムもきっちり中央を固めるチェルシーに対抗して、サイドから裏を取り直すなどカウンター時の工夫は十分。カウンターはチェルシーよりもスムーズさはあったし、プレスに出ていく余力も十分。フラムは後半も正面からチェルシーと向かい合うことができた。
更なるチェルシーの交代が攻撃を活性させたかどうかは怪しい。カウンターの先導役になっていたフォファナはともかく、スターリングの投入によるサイド攻撃のバランス再構築にはやや手を焼いたように見える。前半は司令塔的に振る舞っていたエンソも2トップ色の強い前線の構成や前への意識が高まるギャラガー(これはこれで効いていた)の助けを得られなくなり、なかなか保持で存在感を発揮できなくなる。
試合はスコアレスドローで終了。押し下げた先の解決策が見えなかったチェルシー。大型補強明けの一戦を勝利で飾ることはできなかった。
ひとこと
チェルシーに注目が集まる試合だろうが、フラムがタフな相手だったのは見逃せない。特にバック4の出来はスーパーでチェルシーのチャンスの芽を早い段階で積んでいた。チェルシーは兆しはあるが時間は必要。整理と構築を両方やらなければいけないポッターは重労働である。出場停止明けのジョアン・フェリックスには十分に見せ場を与えるチャンスは出てきそうだ。
試合結果
2023.2.3
プレミアリーグ 第22節
チェルシー 0-0 フラム
スタンフォード・ブリッジ
主審:スチュアート・アットウェル
第23節 ウェストハム戦(A)
チェルシーの特性が良く表れた得点と失点
流れとしては対照的な両チームである。今季なかなかパフォーマンスが上がらない中で前節ニューカッスル相手にきっかけをつかめそうな内容を見せたウェストハムと、巨額を費やしながらも決定的なブレイクスルーを掴めない状況が続いているチェルシー。共に上昇気流に乗りたいという点では共通しているロンドンダービーである。
まず、ボールを持ったのはチェルシー。ウェストハムはCBにボールを持たせてOKというスタンスでスタートする。が、ウェストハムの守り方には難点があった。基本的には前3枚でプレスに行くのだが、後方がほとんどこれについていかないこと。前の3枚がCBにプレッシャーをかけようものならば、背後のスペースはあっさりと空いてしまいチェルシーは難なくボールを運ぶことができる。
このウェストハムの慎重さはチェルシーの前線にとってはおいしい部分。降りてボールを受けたがるフェリックスや左の大外から背負ってからの反転で足の長いパスを送るのを好むムドリクにとってはウェストハムのバックラインの押し上げのなさは格好の的である。降りて受けて、彼らの足の長いパスから一気にチャンスを迎えるという形で序盤からチェルシーがゴールに迫る。エンソからのフェリックスのゴールはこの日のチェルシーの狙いが結実した形といえるだろう。
が、そんなチェルシーも問題を抱えていることは明らかである。バック4に加えてCH、これにフェリックスやムドリクまで低い位置でボールを受けたがれば、必然的に後方は重くなる。先述の通り、ウェストハムはプレス隊に多くの人数を割かない上に、チェルシーの降りる動きに対してはほぼ無頓着。となれば、降りる動きが後方のスペースを作る動きの役には立っていない。
フェリックスやムドリクの縦への鋭いパスは武器としては威力は十分で、精度の高いものではある。だが、前線に人を送り込むシステムを伴わない一撃必殺型の武器であることも事実である。陣地回復の手段という観点ではチェルシーに足りないものがあるといえるだろう。
チェルシーの陣地回復問題は非保持でも顕在化することになる。SHの守備のスタート位置が定まらない分、ズルズル下がってしまうのが彼らの非保持の難点である。特にムドリクはそうした傾向が強い。スペースを埋めることをサボらず勤勉なタイプではあるが、ラインを押し上げる動きやボールを刈りに行く動きには不満が残る。
ウェストハムの同点ゴールのシーンなどはチェルシーの左サイドの消極的なクロスが原因になる。サイドでどこまでクロスを上げさせていいか?の話はインサイドの対空性能に拠るところもあるので、このシーンにおけるサイドの守備にどこまで責任を問うかは
難しいところだが、よりテンポが速いビックマッチにおいて、非保持での高い迎撃ができなければそれは足かせになりうるだろう。保持では存在感を放っているだけに早い段階での改善を求めたい。
ウェストハムは前半の中盤からプレスの強度をあげることで相手のバックラインから時間を奪っていく。これが効くのだからチェルシーは難しい。後方を重くするビルドアップの正当性はこうした手詰まり感である程度証明されてしまうからである。ビルドアップの人数を減らして前に人を置こうぜ!というのは、少なくともこの時間帯のチェルシーを見る限りは難しい。
後半も強気に出てくるウェストハム。ボールを奪った後に直線的にゴールに向かうアントニオはここ数試合の身体のキレの良さを維持していることを証明している。ソーチェクのあわやというゴールも含め、後半もウェストハムには得点のチャンスはあった。
しかしながら、後半のチェルシーはポゼッションを増やしながら徐々に敵陣に押し込む時間を確保していく。ムドリク、マドゥエケという勝負できる両翼をポイントとして使えていたのは大きい。うまくいっていないと評判のムドリクとククレジャだが、WGのポジションがインサイドに絞るケースも後半はしばしばみられており、前半よりはうまくいっているという見立てもできるだろう。
仕上げのポイントとなるのは裏への抜け出しというのは前半と同じ。左のSBに追い越す動きが得意なククレジャが入ってからはさらに活性化したことがこのポイントの重要さを裏付けている。
終盤にはソーチェクのハンド疑惑という文句を言いたくなる場面もあったが、結果的にチェルシーはウェストハムのゴールをこじ開けられずに終戦。またしても勝ちを掴めないチェルシーは未勝利が続く中でCLのノックアウトラウンドを迎えることとなる。
ひとこと
今のスカッドの強みも弱みも徐々に顕在化してきたチェルシー。どの特性がどこまで影響するのか、組み合わせにより増幅したり減衰したりするのかを早めに見極め、CLで適切な運用ができるように持って行きたいところだ。
試合結果
2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
ウェストハム 1-1 チェルシー
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:28′ エメルソン
CHE:16′ フェリックス
主審:クレイグ・ポーソン
第24節 サウサンプトン戦(H)
敵陣に人と時間を送り込む手段が欲しい
リーグ戦でなかなか結果が出ないチェルシー。頼みのCLでも敵地で得点を奪えずに敗戦するなどポッターに対する風当たりは増すばかりである。そうした中で迎えるのはネイサン・ジョーンズを解任に踏み切ったサウサンプトン。一向に良くなる兆しが見えないまま最下位をさまよう姿にフロントは今季2回目の監督交代を決断する。この試合では暫定監督のルベン・セベスが指揮を執る。
馴染みがあり、サウサンプトンによく似合う4-4-2でセベスはスタンフォード・ブリッジに挑む。これに対して、チェルシーはサイドに大きくボールを振りながらサイドの高い位置にポイントを作りながら攻撃の糸口を探る。
馬力と縦パスで攻撃を前に押し出していたチェルシー。ただ、裏を返せばなかなかポッター就任以降に人とボールを同時に前に送る手段を持っていない。ここまではエンソ、ムドリクといった縦に早いパスへの依存度が高く、ボールは前に送れても人を前に送るのに苦労している。
この日、推進力を見せたマドゥエケもどこか根性でボールを運んでいる感が否めなかった。右大外レーンはサウサンプトンの4バックがプロテクトしにくい外といえば外だし、構造的に殴っている!と言い張られればそれまでなのだが、マドゥエケのドリブルは味方が追いつく間もなくゴール方向に向かっており、スピードを緩める動きも少ない。よって、ゴールまで行ききれるかどうか?それでも咎められるかの2択に終始している感じが強い。
このマドゥエケの動きは今までのムドリクにより足の長いパスがドリブルに変わっただけという見方もできる。後方の列落ちによる数的優位の確保がボールと人を同時に前進させることにつながらないというのは難点である。
サウサンプトンのボール保持はいきなりロングボールからスレマナがバディアシルが抜け出す形を作るなど、期待感がある立ち上がりだった。チェルシーは前からボールを阻害しに来ていたが、サウサンプトンはバックラインが広がることとCHがズレを作ることで簡単に相手を外すことが出来ていた。チェルシーはハイプレスの機能性に問題があるかもしれない。加入以降苦しんでいたトップのオヌアチュもチルウェルをターゲットにするというぱっと見ズルっぽい作戦でようやく起点になれていた感じである。
チェルシーの守備で気になったのはサウサンプトンの選手の降りていく動きについていかないにも関わらず、後方に余っている陣形で守備がうまく守れている感がないことである。アスピリクエタが犯した自陣でのファウルはその典型例といえるだろう。このファウルからウォード=プラウズのお家芸といえる直接FKでサウサンプトンは先制ゴールを決めることとなる。
後半、チェルシーの保持は外循環を使うことで安定しつつあった。その一方でマドゥエケのところは対面のプローが対応に慣れたことや、マドゥエケ自身の体力の問題からか徐々にトーンダウンしていくこととなった。
そのため、ハイプレスにチャレンジするチェルシーだが詰まるくらいなら捨てるというスタンスがはっきりしているサウサンプトンに対してはカウンターで攻め込むきっかけをつかむことが出来ず。
後半のサウサンプトンで目立っていたのはメイトランド=ナイルズ。左サイドで快足勝負を仕掛けてくる相手に健闘したといえるだろう。今季はなかなか貢献できていないシーズンだが、ここから調子を上げていきたい。
ボール保持における局地的なデュエルを繰り返すチェルシーと、カウンターを繰り出して対抗するサウサンプトンという構図は試合の終盤まで続く。最後の最後で奮闘したのはバズヌ。シュートストップで役目をはたし、チェルシーに立ちはだかる最後の砦となった。
試合はウォード=プラウズのFKで得たリードを守り切ったサウサンプトンの勝利。チェルシーは最下位相手のホームゲームもリーグ戦未勝利の沼を脱出するきっかけにすることが出来なかった。
ひとこと
チェルシーは何よりも確実な陣地回復の手段を考えるところからだと思う。ハイプレスでもビルドアップでもいいので、人とボールが敵陣に多くある状況をより能動的に作りたい。
試合結果
2023.2.18
プレミアリーグ 第24節
チェルシー 0-1 サウサンプトン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
SOU:45+1‘ ウォード=プラウズ
主審:デビッド・クーテ
第25節 トッテナム戦(A)
ほんのり優位をきっちり反映
立ち上がりから落ち着かない展開の応酬で幕を開けたロンドンダービー。まず、目についたのはトッテナムにビルドアップに対するチェルシーの対応である。4バックでトッテナムの3バックに対応するにはどこかでズレを作らないといけないが、この試合ではデイビスに対してツィエクが下がり、最終ラインに入り込む形で数を合わせていた。
チェルシーは前からのプレスの意識は高いが、ツィエクを引く位置まで下げている分、なかなか右サイドに圧力がかからなかった。そのために上下動できるロフタス=チークが右にいるのだろうが、長い距離を出ていって捕まえられないシーンも多く、結果的に中央に残るエンソが広範囲をカバーしなければいけなくなる状況になっていた。よって今日もチェルシーのハイプレスはハマらない展開が続くことになった。
トッテナムは敵陣深くまでボールを繋ぐことができていたが、ロスト後の被カウンター耐性が脆い。チェルシーは速攻から数的優位の状況でカウンターを打つことができる。しかしながら、この日は前線のプレーのフィーリングが悪い。特に気になるのはフェリックスで、味方へのパスが合わない場面が目立ち、いつもの鋭いプレーは鳴りを顰めていた。
バックラインからのビルドアップにおいてはチェルシーの守備陣のパススピードの遅さが際立つ。スタジアムの芝が長いのか、全体的にパスのスピードは遅かった。その中でもクリバリの窮屈そうなプレーはトッテナムのプレスの狙い所になっていた。
全体的に見ればビルドアップの精度と出足の良さの部分でトッテナムはやや優勢だったと言える。ただ、それ以上に接触プレイや負傷者の続出で試合にテンポが出ないことの方がはるかに目立った。前半の見どころは終了間際の乱闘と言っても差し支えないくらい、両チームともサッカーの面では苦労していたと言えるだろう。
後半、先制攻撃を成功させたのはトッテナム。左サイドからの流れるようなパスワークを逆サイドまで繋ぎ、エメルソンのシュートからのクリアを拾った二次攻撃をスキップが成功させる。刺さるようなミドルシュートでトッテナムが先制する。チェルシーは決定的なミスというのはなかったけども、断続的に悪いプレーがいくつも積み重なることで失点まで辿り着いていた感があった。
チェルシーは前半よりは中央での細かなパス交換が見られるなどわずかながらも崩しの兆しが見えた。しかし、エンソのタッチダウンパスは多発しすぎていてトッテナムに見切られてしまっていた。あんまり乱発すべき類のパスではない気もする。
だが、そうした飛び道具がないとまともに進めないのが今のチェルシーとも言える。トッテナムは低い位置に構え、ロングカウンターで陣地回復し、カウンタープレスでチェルシーのビルドアップを詰まらせるというやり方で敵陣に進撃していった。
そして決定的な追加点はCKから。ニアでスラしたダイアーのラストパスをファーでケインが押し込んで勝負あり。オーバメヤンとムドりクの投入直前にトッテナムが完全に試合を決めてみせた。
試合はそのまま終了。ほんのり見られた優位をきっちりスコアの差に反映したトッテナムがダービーを制した。
ひとこと
チェルシーの辛い現状は続行。ボールと人を前に送れないという状況をチアゴ・シウバの負傷がさらに悪くしている感じ。代役のフォファナのパフォーマンスも穴を埋めるのに十分とは言い難く、暗い状況を打破するきっかけはなかなか見えない。
試合結果
2023.2.26
プレミアリーグ 第25節
トッテナム 2-0 チェルシー
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:46′ スキップ, 82′ ケイン
主審:スチュアート・アットウェル
第26節 リーズ戦(H)
長いトンネルをようやく越える
リーグ戦での最後の勝利は1月15日のクリスタル・パレス戦。チェルシーはもう1カ月半以上もリーグ戦の勝利から遠ざかっている。それどころかリーグ戦での最後の得点は2月11日のウェストハム戦。この試合を逃せばチェルシーはリーグ戦で1ヶ月ゴールがないことになってしまう。
加えて、チアゴ・シウバを失うという苦境に陥っているチェルシー。この試合でひねり出したのは3バックの採用だった。後ろに重くなりがちという問題点は今更であるし、この試合はフォファナとバディアシルという足元に自信がある2人がワイドのCBを務める。チェルシーはここ数試合の中では落ち着いてビルドアップを進められたといえるだろう。
バックラインに加えてエンソとコバチッチもビルドアップに参加。3CBに加えて5人のビルドアップ隊は左右にボールを散らしながら前進する。前後分断気味になるのはご愛敬だが、ここも4バックのリーズが大外を空けていたので効果的な配球だった。フェリックスの降りる動き、チルウェルの抜け出しなどこれまでの武器(前後分断気味だけど)も絡めながらチェルシーはうまく前進が出来ていた。
リーズはチェルシーの保持に対してどういう対策を取りたいのかはあまり見えてこなかった。2トップが無理にプレスに行かないといえば聞こえはいいが、プレッシャーのかからない中で外に展開されて危ないクロスまで入り込まれているのだから、我慢した結果の先に何も残っていないじゃないか!と言われても仕方ない状況ではあった。
奪ったら縦に早くという意識は悪くなかったとは思う。サマーフィルの突破はファウルを奪えていたし、アダムスとマケニーの中盤のデュエルも分は悪くない。
だが、カウンターでハフェルツが決定機を迎えるなど、チェルシーも早い展開はもってこい。後方のCBから中盤のデュエルに援軍が素早く来ることも踏まえると、リーズは速い攻撃で明確に主導権を握れたわけではなかった。
守備ブロックにおいてはクリバリの存在感が光った。加入当初の壁感のある守備でリーズの攻撃を次々とシャットアウト。ゴールに迫らせることはなかった。
迎えた後半も優勢だったのはチェルシー。ライン間のフェリックスから狭い幅を攻略し切ると最後はスターリングが決定機を迎えるなど、徐々にゴールに近づいている予感はしていた。
そしてゴールが決まったのはセットプレー。1か月弱ぶりとなる待望のゴールを決めたのはフォファナ。ようやくチェルシーが前に出ることに成功する。
リーズは失点以降はボールを持てるように。ただし、失点してもなかなかテンポが上がらない。ラターとアーロンソンの2人がプレスでスイッチを入れられないことが大きな要因に見える。これまでは放っておいてもプレスに出て行ったリーズの面々がビハインドでこれだけ動けないというのはあまり記憶にない。
それでもニョントとジョゼフの投入から徐々に前線に動きが出てくるようになったリーズ。終盤はチェルシー陣内で攻め込む時間を多く作れるように。チェルシーの交代選手はなかなか保持で存在感を発揮することが出来ずに苦しんでいた。
最後はメリエの枠内シュートまで飛び出したが、なんとかケパを中心にクリーンシートを死守。クリスタル・パレス戦以来1か月半ぶりとなる勝利で長いトンネルの脱出に成功した。
ひとこと
課題はあるし、リーズの出来の悪さに助けられたのも確か。それでも長いトンネルを抜けたことには意味がある。チアゴ・シウバの負傷を乗り越える手ごたえのある3バックが一定の成果を出したのは大きい。守り切るのはなんとかなる公算が付いたが問題はいかに得点を奪うか。ドルトムント撃破のポイントはここにかかっているだろう。
試合結果
2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
チェルシー 1-0 リーズ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:53’ フォファナ
主審:マイケル・オリバー
第27節 レスター戦(A)
骨が折れる守備ブロックで我慢する
互いに5バック同士の組み合わせとなった一戦。立ち上がりは非常に慎重な姿勢だったと言えるだろう。5バックはバックラインへの張りつきが優先。チェルシーはワイドのCB→WBのところからボールをスムーズに運ぶことができていたし、レスターはチェルシーのインサイドのパスワークをカットすることでカウンターの機会を持つことができていた。順調に前に進むことができていても、やはりパスワークのスピードが落ちてしまうところがチェルシーにはある。
立ち上がりのセットプレーでのチャンスは明暗が分かれた。クリバリの折り返しをダイナミックに沈めたチルウェルは「明」で、マディソンの絶好のFKをヘディングで枠外に飛ばしたアマーティが「暗」であることは言うまでもないだろう。
レスターは失点以降はプレッシングを強めて勝負に出る。その分、マンツー気味になった負荷は後方に託される。チェルシーは中央の選手が降りて起点を作り、推進力のあるWBに展開して強気のプレスをひっくり返すことができたこともあり、おとなしく撤退してまずは構えるスタンスをとっていた。降りてからドリブルしつつ再加速できる足の長い縦パスを送れるのはチェルシーの前線の強みでもある。チルウェルやロフタス=チークとの相性はいい。
レスターは保持から、チェルシーはカウンターからそれぞれチャンス構築ができている時間帯だったが、得点を決めたのはレスター。ダカのミドルで同点に追いつくことに成功する。以降も前半はレスターペース。右サイドの裏取りから得点後もラッシュを継続。チェルシーはケバのセービングに救われる場面もあった。
だが、試合の流れと裏腹に前半終了間際に勝ち越しのゴールを決めたのはチェルシーだった。エンソのタッチダウンパスから抜け出したハフェルツが冷静にシュートを流し込むことに成功。ほぼ、前半のラストプレーで再びチェルシーが前に出ることに成功する。
後半、立ち上がりに強襲したのはチェルシー。セットプレーからフォファナが決定機を迎える形で反撃に出たいレスターに襲いかかる。
ただ、後半のチェルシーは基本的には保持で粘る形を徹底。ワイドのCBにはある程度ボールを持たせつつ、後方では相手を逃さないようにきっちりと捕まえる。前半は裏抜けからラインを押し下げることができたレスターの右サイドも後半はギャップを作れずに苦しむこととなる。
PA内での守備は今のチェルシーの持ち味である。サイドでのマッチアップが多少ズレてもクリバリがスライドして飛んでくる。ゴールマウスを守るケパの出来も万全。チェルシーは押し込んでからも攻略するのに骨が折れるチームである。
これを受けてレスターは3枚替えで4バックへ移行。陣容を大きく攻撃に傾けて戦うように。4バックとの噛み合わせの落とし所が見つからなかったチェルシーは対応に戸惑い気味で後手に回ることに。デューズバリー=ホールのシュートタッチがよければ、この時間帯にレスターは同点に追いついていたことだろう。
チェルシーも同じくすぐに選手交代で4バックに移行。サイドでの守備にきっちり枚数を割く形で手当をする。さらにはカウンターから脆弱になったレスターの守備ブロックへの攻撃も開始する。
レスターはある程度はリスクを負うのは覚悟だろうが、アンカーのスマレの出来はあまりにも悪かった。パスはずれるわ、前から刈りたいIHにプレスで連動できないわで攻守でわかりやすい穴に。強引にチャレンジに行きすぎて退場になるファエスもファエスだが、スマレがあまりにも無関心であればそれ相応のツケが回ってくるのは当然だろう。
10人への減少したレスターと3点目ともぎ取ったチェルシーは最終盤に試合は再び明暗がくっきり。チェルシーは連勝を飾り上位陣の追走に成功した。
ひとこと
PA内を守らせたら今のチェルシーはプレミアでもなかなか上の方にくるチームだと思う。WBとフォファナが今の躍進を支えている感があるので、怪我での離脱は避けたいところだが。
試合結果
2023.3.11
プレミアリーグ 第27節
レスター 1-3 チェルシー
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:39′ ダカ
CHE:11′ チルウェル, 45+6′ ハフェルツ, 78′ コバチッチ
主審:アンドレ・マリナー
第28節 エバートン戦(H)
保持での平定は難しい
未勝利沼から脱出後、連勝を飾ったチェルシー。ドルトムントも下し、徐々に自信を取り戻しつつある。
この日も復調のトレードマークの3-4-2-1を採用。気になったのはエバートン側の対応である。彼らはベースとして4-5-1で組まれることが多い。だが、この試合においてはドゥクレがトップにスライドし、2列目が4枚で組まれるケースが非常に多かった。
前から積極的なプレスで行こう!という意識を持っているのはわかる。だが、エバートンのそのプレッシングの意識がうまく働いているようにも思えない。3-4-3に対して4-5-1→4-4-2へのシフトは逆効果だろう。ドゥクレが前に出て行ってもチェルシーのバックラインに対して枚数を合わせることはできない。
その上、エバートンはチェルシーの前進を助けているWBに蓋をするのも遅れてしまう。よって4-4-2への変形によってあまりエバートンにとっていいことが起こらない格好になっている。
エバートンは徐々にプレッシングを自重するようになってくるが、そうなると今度はチェルシーの前線がエバートンのサイドの裏を狙い撃ちにする。フェリックスは左右を動き回りながらエバートンの陣形を押し下げるように。エバートンはとにかく帰陣を早めることでエリア内を固めることで対応する。
序盤は裏抜けのギャップからチャンスを作れていたチェルシーだったが、徐々にエバートンが下がった形がデフォルトになり膠着。かといってエバートンが特にチャンスを作れるわけでもなかったため試合は小康状態に。スコアレスのままハーフタイムを迎える。
後半の立ち上がりは打って変わって撃ち合いの様相。エバートンにも十分にチャンスはある展開になったが、その分チェルシーにもスペースがある状態でボールが前に運べるようになる。
この展開の恩恵をまず受けたのは動きが欲しかった方である。WBのラインブレイクに徐々に無理な対応が続いていたエバートンのバックライン。エンソの裏へのロブパスでラインを下げてしまうエバートンのDFに対して空いたバイタルに入り込んだフェリックスが技ありのゴールでようやく先手を奪う。
エバートンはそれでもタイトにチェックをしながらボールを追いかけ回す展開を選択。チェルシーは引き続き後方にスペースがある状態で攻撃をできることになるが、エバートンの猛烈な勢いを保持で落ち着けることもできなかった。
その結果、セットプレーから同点ゴールを奪ったエバートン。もはや、エバートンのセットプレーのトレードマークになりつつある「ファーのターコウスキ」からの折り返しをドゥクレが決めて追いつく。
振り出しに戻った試合だったが直後にチェルシーはジェームズがPKを獲得。ハフェルツがピックフォードの動きを見つつ、冷静に流しこみまたしてもリードを奪う。
エバートンは終盤はやや焦り気味だった。強引に裏へのパスを狙ってはゴールキックになり、相手のボールからリスタートを許すという悪循環に。このままのスコアで終わるかと思われた90分手前に試合は動く。得点を決めたのは途中交代のシムズ。裏抜けからクリバリを剥がし切り、貴重な同点ゴールを奪う。
終盤に追いつかれて逃げ切りに失敗したチェルシー。公式戦の連勝で積み重ねた勢いは一旦落ち着いてインターナショナルブレイクを迎えることになる。
ひとこと
前進するのはスムーズになったチェルシーだったが、展開を落ち着かせるのは難しかったチェルシー。泥に引き摺り込むのがうまいエバートンに終盤に絡め取られてしまった。
試合結果
2023.3.18
プレミアリーグ 第28節
チェルシー 2-2 エバートン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:52′ フェリックス, 76′(PK) ハフェルツ
EVE:69′ ドゥクレ, 89′ シムズ
主審:ダレン・イングランド
第29節 アストンビラ戦(H)
無風の9位争いを制したビラがポッター解任の決め手に
優勝争い、欧州カップ戦争い、残留争いのどれかに大体のチームが巻き込まれている熾烈な終盤戦を迎えているプレミアリーグ。そんな中でこのカードはどの争いにも属さない片手で足りるほどのチーム同士の対戦である。勝てばフラムを抜いて9位になるという順位変動は伴っているけども。
立ち上がり、3バックから積極的にボールをキャリーしていくチェルシー。3バックでは不動の存在になっているフォファナがいないワイドのCBはSB色の強いジェームズが務めることになる。ビラの守備は4-4-2ベースであり、かつ特に相手に合わせたポジションの取り方もしないため、チェルシーが特に前進で苦労をするところはなかったといえるだろう。
ただし、中央はコンパクトなので強引に縦パスを付けようとするとカウンターの網に引っかかる。外を循環すれば問題なく押し下げることができるので、チェルシーは左サイドに人を下ろしながら丁寧に前進の起点を作っていくことに。ここから同サイドの裏かもしくは対角のパスで右のWBにボールを届けることでビラのブロックを横に広げるアクションを続けていく。
エメリのアストンビラのスタンスは引き込んでの擬似ロングカウンターがいつでも理想である。だが、深い位置からのロングカウンターはこの試合ではそこまで有効ではなく、どちらかといえばチャンスはチェルシーが時折中盤で引き起こす横パスのミス由来からのミドルカウンターになることが多かった。
先制点となるシーンもチェルシーのミス由来だった。ククレジャのクリアが不十分なことで抜け出したワトキンスがループでケパとの1on1を制して先制ゴールをゲット。少ないチャンスを生かしたビラが前に出る。
先制したとは言え低い位置でのブロック形成もそこまで得意ではないアストンビラ。外循環のチェルシーによって押し下げられると、PA内でかなり危険なシーンに直面することに。特にムドリクには試合を決めるチャンスが十分にあったといえるだろう。前半終了間際にはエンソのフライングスルーというお決まりのパターンからチルウェルがネットを揺らすが、これはファウルの判定でゴールは認められる。
ビラはミス待ちの様相でOKというスタンスを終始貫く。チェルシーはそうしたビラの受け身なスタンスをゴールで崩すことが出来ず、試合はハーフタイムを迎える。
ハーフタイムを迎えたビラは警告を受けていたカマラに代えてチェンバースを投入。5バックにシフトすることで、後方の受けを強化する選択をする。当然後ろが重たくなるリスクを背負うが、ビラは長いパスからカウンターで完結させる能力は高いし、そもそも人数をかけて前に出て行ける場面は4バックでも少なかったので、特に問題はなさそうであった。
そして、その前に出て行ける少ない機会を生かしてビラはリードを広げることに成功する。プレミアファンにはおなじみのマッギンのミドルシュートがネットに突き刺さりリードは2点差に。スタンフォードブリッジの観衆を黙らせる追加点がビラに入る。
後半も当然攻勢に出る機会が多かったチェルシーだが、数多く迎えたチャンスを誰一人決めることが出来ず。幅を取ったWBからはビラが5バックに移行してなおチャンス構築が出来ていたが、この日のチェルシーにはそれを沈める選手がいなかった。
9位の座をかけた一戦はビラに軍配。チェルシーはこれがポッターのラストゲームになってしまった。
ひとこと
チェルシーにワトキンスみたいな選手居たらいいのにねと思った。
試合結果
2023.4.1
プレミアリーグ 第29節
チェルシー 0-2 アストンビラ
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
AVL:18‘ ワトキンス, 56’ マッギン
主審:アンディ・マドレー
第8節 リバプール戦(H)
暫定監督率いるチェルシーが大幅TOのリバプールを追い込むが・・・
ついにポッターの解任に踏み切ったチェルシー。なんでこのタイミングなのかはわからないが、ひとまずこの試合ではブルーノ・サルトールが指揮をとり、リバプールを迎え撃つ。ランパードが就任するのはまだ先の話である。
ポゼッションを握るのはホームのチェルシーだった。3バックはボールを持ちながら、リバプールのプレスの様子を伺う。リバプールのプレッシングの肝はトップのプレスに中盤が連動するかである。大幅にメンバーをターンオーバーしたこの試合では中盤が間延びしてしまい、前線と中盤の距離が空いてしまう。
チェルシーはこのリバプールの前線と中盤の繋ぎ目をつくことで前進のきっかけを掴む。コバチッチは単独でボールを引き取れる場所を見つけてはボールを前に進めるアクションを繰り返すことでリバプールのプレッシングを無効化していた。
間延びしているスペースの中でチェルシーの中盤は比較的余裕を持って縦にボールをつけることができていた。エンソ、コバチッチなど縦にボールをさせる選手は十分に多い。
サイドから経由して中盤をフリーにする形もOK。3バックで外を回し、低い位置に降りてきたWBから中盤にボールを落として前進の道筋を敷くパターンもあった。
やや裏に前進の形が偏っていた部分もあったが、この日のリバプールはラインを上げているため、裏をきっちり取ることでシュートまで迎えていたので問題はなさそうだった。むしろ、問題はその先。ゴールにシュートを叩き込む決定力の方。この日のチェルシーはゴールを決めることができなかったり、あるいは決めても取り消されてしまったりなど1点が遠かった。
リバプールはボール保持に回ってもあまり手応えのある出来とは言えなかった。CBはややボールを持たされた感があったが、どこからボールをつければいいかがわかっていなかった感じ。特に前線にサラーがいない影響は大きく、幅をとるアクションがほぼなし。直線的に攻め切るための縦パスで押し切ろうとするが、前方向にめっぽう強いチェルシーの3バックに阻まれるシーンが目立つように。
よって、チャンスは偶発的なカウンター。つまり、直線的な動きが生きる状況がそこにある場合がなければリバプールの攻撃陣はあまり機能していなかった。
後半も展開は変わらずリバプールにとっては苦しい状況が続く。中央密集というとフィルミーノが効く展開のようにも思うのだが、縦に速い形が多いせいかあまり効果的なプレーが多くない。
チェルシーも裏パスを使いながらのチャンスメイクは継続。しかしながら、こちらの方が中盤でフリーマンをきっちり作るアクションを行なっていたので精度は高かった。ハフェルツのハンドのシーンなどはメカニズムはうまくいっている証拠だろう。
リズムが変わったのはサラーの登場。幅をとれるようになったことでリバプールはサイドを使った通常営業の攻撃を繰り出すようになる。押し返すことができるリバプールはプレスを再開するが、チェルシーは再びこのプレッシングを撃退。試合は再び敵陣に押し返したチェルシーのペースになる。
だが、最後までネットを揺らすことはできず。ターンオーバーしたリバプールを終始攻め立てるが勝ち点3獲得には至らなかった。
ひとこと
ターンオーバーの意図も効果も微妙だったリバプール。これでリーグ戦3試合未勝利。特にボーンマス戦とチェルシー戦での出来はやや問題がある。得意のホームでリカバリーできるか。
試合結果
2023.4.4
プレミアリーグ 第7節
チェルシー 0-0 リバプール
スタンフォード・ブリッジ
主審:アンソニー・テイラー
第30節 ウォルバーハンプトン戦(A)
下馬評通りの苦戦スタート
ポッターに別れを告げたチェルシーがたどり着いた結論はレジェンドの期間限定再登板。今季末までチェルシーの指揮を取るのは、開幕の時点ではエバートンの監督であったフランク・ランパードである。
ランパードは4-3-3を採用。バックラインからボールを持ちながら打開を探っていく。エンソは最終ラインの間に落ちてサリーしつつ、後方から一気にワイドや裏を狙っていくスタンスであった。配置としての決まり事はそれになりに整理がされている感がなかったわけではないが、何せ動きがなくボールが動くことによる変化がない。ということで、最終的にはアタッカーそれぞれが頑張ろう!という個人戦に持ち込まれそうな空気だった。
連携が期待できそうなサイド攻撃はウルブスの同サイドの圧縮によって無効化されてしまった感じ。こちらもあまり有効打にはならなかった。
一方のウルブスもバックラインからボールを繋いでいく形を重視。チェルシーはウルブスのバックラインには制限をかけることはしなかったので、ウルブスはゆったりとボールを持つように。どちらのチームもゆったりとボールを持つことができる攻守の切り替えが少ない展開になった。
中盤はいつものように縦関係を形成するウルブス。中央では縦関係のポストプレーから打開を図っていく。サイドでも蓋をするのが遅れるチェルシーの守備のギャップをつくことができており、ゆったりとした攻めに関してはチェルシーよりも手応えがある試合の進め方ができていた。
優勢に進めていたウルブスの先制ゴールはなかなかにパンチがあるものだった。左サイドから攻め立てた攻撃の跳ね返りを右サイドのヌネスがスーパーボレーで仕留めて見せた。逆サイドのネットに突き刺さった強烈なシュートでウルブスが先行する。
後半はチェルシーがボールを持ちながら反撃に出るトライを行うように。ウルブスはロングカウンターから好機を狙っていく。すれ違ってしまったエンソによって大チャンスができるなど、十分にこの形でも手応えはあった。
それでも徐々にボール保持の機会を増やしながらウルブス陣内に押し込む時間を増やしていくチェルシー。だが、ウルブスのナローな4バックがペナ幅に入り込みひたすら跳ね返し続ける。
膠着した展開を打破することができないチェルシー。最後はウルブスに封じ込められて沈黙のまま終了。苦戦が予想された第二次ランパード政権は黒星スタートという苦しい船出となった。
ひとこと
ヌネスの怪我が心配。
試合結果
2023.4.8
プレミアリーグ 第30節
ウォルバーハンプトン 1-0 チェルシー
モリニュー・スタジアム
【得点者】
WOL:31’ ヌネス
主審:ピーター・バンクス
第31節 ブライトン戦(H)
前進を一手に引き受けた三笘が逆転のキーマンに
4月の公式戦では未だにノーゴール。ランパード政権の船出は想像通り厳しいものになっている。欧州カップ出場権争い真っ最中のブライトンを相手に回してどこまでやれるかどうかという一戦となる。
正三角形の中盤を採用し、ギャラガーとスターリングでブライトンのバックラインに強気でプレスをかけている。ブライトンは三笘にボールをつけて反撃。外を追い越すエストゥピニャンからいきなりチャンスを作ってみせた。
速い攻撃に対する対応がうまくなかったチェルシーだが、保持に回ればそれなりにやれていた感がある。特に躍動していたのはムドリク。高い位置をとるチルウェルを相棒において、ムドリクが降りる動きを見せてボールを引き出すことで縦にボールを進める。
先制ゴールもこの形だった。エンソから縦にボールをつけるとムドリクは反転。横断しながらドリブルするムドリクにブライトンのバックラインは方向を制限することができず。ギャラガーのシュートは跳ね返る方向という運もあったが、ブライトンがムドリクのプレー方向を決めることができないことで逆を取られてしまった感があった。
ここからブライトンは猛チャージ。ボールを運ぶ役割を三笘に集約。左サイドからボールをキャリーして反撃に出る。先程のような追い越すエストゥピニャンを使うパターンや、自らが縦に抉って再加速する形、そして横ドリからの逆サイドへの展開など豊富な持ち手から都度方策を変えながら敵陣に進んでいく。
完全にこちらのサイドはチェルシーが後手に回っていた感。チャロバーはもちろん、フォファナやバディアシルもかなり三笘に振り回されることとなった。20分を過ぎるとチェルシーはだいぶ保持から時間を作れずに苦しくなっていく。試合はブライトンの一方的な攻めるタームに移っていく。
その成果が実ったのは前半終了間際。右サイドからのクロスをファーで2人にマークされたウェルベックが仕留めてゴール。試合を振り出しに戻す。
後半は前半以上にブライトンペース。三笘のサポートに左のハーフスペース付近までエンシソかウェルベックが流れながら同サイドの崩しに注力。ザカリアが同サイドの最終ラインにカバーに入る機会が徐々に多くなっていく。
左サイドからの崩しを軸にブライトンは一方的に攻め立てると、決め手になったのはエンシソ。同サイドにマーチが流れていた分、逆サイドへの展開という選択肢を捨てることができたのは彼にとって幸運だったはず。迷わず振り切ったミドルシュートでついにリードを手にする。
一方的に攻め立てられ、シュートにすら辿り着くことができなかったチェルシー。カウンターから何度かあった機会で敵陣に攻め込めなかったのはシンプルに相手との差を感じる部分である。
終盤はブライトンのバックラインが怪しいミスをしていたため、同点に追いつけるチャンスがないわけではなかった。しかしながら、最後までゴールを沈めることはできず。
三笘を軸として崩しにこだわったブライトンがチェルシー相手にダブルを達成。欧州カップ出場権争いにおいて大きな3ポイントを手にした。
ひとこと
ポッターが監督だったダービーでしたね。
試合結果
2023.4.15
プレミアリーグ 第30節
チェルシー 1-2 ブライトン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:13′ ギャラガー
BHA:42′ ウェルベック, 69′ エンシソ
主審:ロベルト・ジョーンズ
第33節 ブレントフォード戦(H)
苦境に立たされたまま幕を閉じた4月
トップハーフとボトムハーフの境界線にいる2チームによるロンドンダービーである。両チームとも3バックのフォーメーションを採用。いずれも重心は低く、後ろに重たい5バック型の形で非常にもっさりとした立ち上がりとなった。
両チームとも共通して守備は後ろに余る状況を作っているので、前線は簡単にフリーにはなれない。よって、どのように敵陣に侵入していくか?という設計の部分が重要になってくる。
率直に言って、両チームともこの部分がうまくいっていたとは言い難かった。チェルシーは4バックにシフトする形でビルドアップを行っていく。チャロバーとシウバがGKの脇を挟むように立ち、フォファナはSBのロールを務める。
基本的にはバックラインはブレントフォードの2トップの脇でボールを持つことができるが、これが中盤の助けになっていない。コバチッチやエンソはブロックの外でしかボールを持つことができず、全身の助けにならない。
ようやくエリアに侵入できたのは13分。ギャラガーとのワンツーで抜け出したチルウェルがイェルゲンセンを出し抜くことができたシーンである。右の大外がアスピリクエタでいいのかも問題で、より押し上げることができていた右サイドも決め手不足を露呈した印象が強い。
ブレントフォードのボール回しは外に循環する形が重心。いつものようにセットプレーで泥臭くチャンスを作っていくスタンスである。こちらも綺麗なエリアの侵入が成功したのは29分のオンエカの侵入まで待たなくてはいけなかった。
指を咥えていてはいけないと思ったブレントフォードは徐々にプレッシングを強化。攻め込む機会を増やしていくと、セットプレーから先制。アスピリクエタのオウンゴールを誘発し、攻めきれない前半に貴重な先制点を奪い取る。
追いかけるチェルシーは後半にシフトチェンジ。大外にスターリング、ムドリクの2人を置く形で大外からクロスの有効打を見つけることで追撃を狙っていく。
ブレントフォードはきっちりと受けに入る役割を果たした。外ではデュエルを受け入れ、インサイドはきっちりと閉じるという優先度の付け方でチェルシーの攻撃を受け切る。
外からの武器がはっきりした分、攻勢に出ることができたチェルシー。後方が押し上げることができていた右サイドから主導権を握りながら攻め込んでいく。
だが、結果を出すことに成功したのはブレントフォード。カウンターから右に流れたムベウモから追加点をゲット。ワンチャンスからチェルシーをさらなる苦境に追い込む。
そのままチェルシーは無得点で終了。チェルシーはこれで4月のリーグ戦は未勝利かつ、得点もブライトン戦の1得点だけという苦しい状況になった。
ひとこと
ランパード、辛いね。
試合結果
2023.4.26
プレミアリーグ 第33節
チェルシー 0-2 ブレントフォード
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
BRE:37′ アスピリクエタ(OG), 78′ ムベウモ
主審:アンディ・マドレー
第34節 アーセナル戦(A)
より沼の浅いチームが未勝利を脱出
レビューはこちら。
シティに敗れてしまい優勝争いの主導権を明け渡してしまったアーセナル、そしてランパード就任以降公式戦での連敗が続いているチェルシー。どちらのチームも厳しい流れの中で迎えるビッグロンドンダービーである。
試合はその両チームの勢いを反映しているかのような重たい立ち上がり。アーセナルのプレッシングは鈍いが、チェルシーのボール保持のパススピードは上がらず、アーセナルを左右に振ることが出来ても相手を外すことができない。アーセナルがボール保持に回った場合もミスが目立ってしまい、リズムのいい崩しを生み出すことができない。
それでもやはり両チームの出来を比べればアーセナルの方が上だといえるだろう。ボールを失った後の即時奪回の部分は錆びておらず、自分のターンを確保するのに苦労はしていなかった。一方のチェルシーは前線の選手たちのボールタッチの悪さが不調に輪をかけていた印象だ。特にスターリングはこうした流れの中で全く貢献することが出来ず前線のブレーキになってしまっていた。
保持から崩す機会を得ることは出来ていたアーセナル。チェルシーは非保持においてはマドゥエケに自陣までのプレスバックのタスクをかけることによってジャカを封鎖するタスクを託していた。しかし、規律の部分でも攻撃に打って出ることを考えてもマドゥエケにジャカをマークさせるために低い位置まで戻らせるのは効率が悪い。
結局、アーセナルの先制点はマドゥエケをジャカが離してしまったところから。ウーデゴールのミドルという全く同じ出口でアーセナルは早々に2点を手にする。
さらにはアーセナルは前半の内にジェズスのゴールでもう1点を追加。チェルシーに対してセーフティなリードを奪うことに成功する。
しかし、アーセナル側も後半はなかなかピリッとしなかった。左右からのクロスで攻勢をつよめてあわや4点目というシーンを作れたのは良いのだが、両SHを軸にプレッシングとリトリートに置ける規律があまり整っておらず、チェルシーに落ちついてボールを持たれた時はピンチになる。
そして、チェルシーに反撃弾となるゴールを許してしまうことに。マドゥエケに簡単に抜け出しを許してしまったジンチェンコも良くなかったが、ホルダーの受け渡しに失敗し、コバチッチに悠々とパスを通させたジェズスとウーデゴールもよろしくなかった。
それでもチェルシーに残り2点のビハインドを覆す勢いはなし。不振の沼がより浅いアーセナルが試合を殺し、久しぶりの勝利とビッグロンドンダービーのシーズンダブルを達成した。
ひとこと
どちらのチームも良くはなかったが、より良いチームが勝利を手にした一戦だった。
試合結果
2023.5.2
プレミアリーグ 第34節
アーセナル 3-1 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:18′ 31′ ウーデゴール, 34′ ジェズス
CHE:65′ マドゥエケ
主審:ロベルト・ジョーンズ
第35節 ボーンマス戦(A)
惜しくも逃した12位チャレンジ
勝てば12位を確保できるのはシックスポインターというのかはわからないが、勝った方が上の順位を見据えることができる近い位置にいる両チームの一戦である。
ボールを持つターンになったのはチェルシーの方だった。この日のチェルシーは4バックを採用。いつもよりもSBが低い位置からゲームメイクに参加してくという姿勢を見せていた。2トップの脇からボールを持つサイドから前進していくというのがチェルシーのイメージだろう。
ボーンマスはこれに対して高い位置からのプレスで相手の保持を積極的に阻害していく。ただ、CBにプレスに行く意識が強かった分、時折エンソを逃がしてしまうシーンも散見された。ここでフリーでボールを受けられてしまうと、チェルシーは一気に攻勢に出ることができる。
エンソがフリーでボールを持った先の受け皿になっていたのは右サイド。大外のマドゥエケを軸としたトライアングルから攻撃を構築していく。
一方のボーンマスはCFのポストプレーを積極的に活用していくアプロ―チ。左右に動くビリングが基準点となり、ポストから前を向く選手を作りながら前進していく。
イメージとしてはチェルシーはアタッカーが前を向いた時の出力勝負。そしてボーンマスはアタッカーに前を向かせる仕組みで勝負といったところだろうか。
前半はそれぞれが狙っている攻撃の形から得点を取り合う展開だった。先制したのはチェルシー。右の大外に開いたカンテから上がってクロスを決めたのはギャラガー。徹底的に攻略していた右サイドからの攻撃が結実したゴールだった。
一方のボーンマスは左サイドに流れるソランケのポストからビニャが侵入。ややサイドに流れてのポストもこの試合でボーンマスが狙っていた形だったといえるだろう。
後半もチェルシーは変わらず右サイドの攻略を主戦場として戦っていく。微妙にマイナーチェンジを加えたのはボーンマス。2列目の配置を微妙にいじることでサイドの選手のカラーを少しずつ変える形になった。
左サイドに移動したワッタラはこのハーフタイム以降に存在感を増した1人。左サイドからマドゥエケの背後を持ちあがることで陣地回復に貢献していく。
前半に比べれば明らかにボーンマスは押し込む時間が増えたといえるだろう。ソランケへのチェルシーのタックルにレビュー映像が差し込まれたり、あるいはビニャのオーバーラップの抜け出しからシュートまで結び付けるシーンがあったりなど、前半よりも明らかにゴールに近づくシーンが増えていく。
しかし、後半先に得点にたどり着いたのはチェルシー。セットプレーからゴールを決めたのはバディアシル。後半、なかなかつかめなかった得点の機会をようやくモノにする。
このゴールで勢いがついたのかチェルシーはさらに追加点。スターリングが左サイドからフェリックスのゴールをサポートして3-1に。
接戦の末、終盤に差が付いた両チーム。ボーンマスはチェルシーを上回るチャンスを惜しくも逃すこととなった。
ひとこと
終盤のボーンマスの盛り返しはとてもよかっただけに後半早めの時間帯にゴールが欲しかったところだ。
試合結果
2023.5.6
プレミアリーグ 第35節
ボーンマス 1-3 チェルシー
ヴァイタリティ・スタジアム
【得点者】
BOU:21′ ビニャ
CHE:9′ ギャラガー, 82′ バディアシル, 86′ フェリックス
主審:ジョン・ブルックス
第36節 ノッティンガム・フォレスト戦(H)
磐石な弱者の戦い方
エバートン、リーズと残留争いのライバルが続々と息を吹き返している現状はフォレストにとっては有り難くはない。自身もサウサンプトンとの叩き合いを制して大きな勝ち点3を手に入れたが、何もかかっていないチェルシーが相手であるならば、さらなる勝ち点を積みたいところである。
予想通り、試合はチェルシーがボールを持ちながらのスタート。いつものようにナローに守るフォレストの3トップに対して、彼らが開けているサイドからボールを運ぶことで深さをとる。
しかしながらここから進めないのが今日のチェルシー。前線への縦パスは受け手が相手に捕まってしまったままでボールを入れてもフリーで十分にコントロールすることができず。チェルシーはフォレストが許容している守備ブロックより深い位置には侵入を許されない状況である。
フォレストは自陣の低い位置からロングカウンターから反撃に打って出る。直線的な鋭さはあったわけではないが、この日のフォレストは十分に勝負が可能。右サイド側にはチルウェルとククレジャ不在で先発しているホールがいるし、逆サイド側もマドゥエケとチャロバーの連携が危うくトップが流れるアクションに対応できないでいた。
フォレストはこのサイドからあっさりと先制点をゲット。左サイドのクロスから決めたのはアウォニィ。見事なゴールでフォレストを押し上げる。チェルシーからすると、ふわりとした人を目掛けたクロスだっただけになんとか仕留めたかったところ。チアゴ・シウバとバディアシル、そして飛び出して触れなかったメンディにはそれぞれの反省がある形の失点となった。
以降も十分にフォレストはチャンスを作り出す。サイドからの突破の糸口を作るアクションとセットプレーでの空中戦強度。ボールを持たれながらもチャンスを作るというオーダーはほぼ完璧にこなした前半と言えるだろう。
チェルシーもチャンスがないわけではない。好調の右サイドはマドゥエケを基準にギャラガーが同サイドに抜け出すなど動きをつけられており、PA内にスペースを作るアクションはできている。
一方で左サイドには物足りなさが残る。スターリングはワローとの抜け出しの駆け引きは残念な形で終わってしまったし、フィニッシャーに近い動きを求められがちな左のSBに入ったホールもよどみないシュートまでの道筋を描けるわけではない。
前半終了間際のフェリックスの振る舞いを見ればわかるようにチェルシーにとってはフラストレーションが溜まる展開だっただろう。持たざる者の理想な試合運びを実現したフォレストがリードしてハーフタイムを迎える。
後半も試合は同じ構図でスタート。チェルシーがボールを持ちつつ、フォレストがそれを跳ね返す形。右サイドを軸にハーフスペースの裏を取る形で攻撃を続けていく。フォレストは時折バックラインに圧力をかけつつ、弱者としてこのゲームの主導権を狙いに行くことを忘れていなかった。
流れの綱引きの中で次に点を獲ったのはチェルシー。右サイドで大外に合わせてのチャネルランを披露したのはチャロバー。根性でマイナスの折り返しにつなぐとこれを仕留めたのはスターリング。狙った形が意外な組み合わせでようやく実り、チェルシーが同点に追いつく。
勢いに乗るスターリングはさらに追加点をゲット。左サイドからのカットインをそのまま沈めてチェルシーはついにリードを奪う。しかし、スターリングが2ゴールを奪うのであれば、先制点を奪ったアウォニィも負けてない。4分後にゴールを決めて試合を振り出しに戻す。
追いつかれたチェルシーは終盤までゴールを狙っていくが、最低限の1ポイント確保に舵を切ったフォレストを前に攻め切ることができず。試合は2-2のタイスコアで幕を下ろすこととなった。
ひとこと
フォレストは弱者の戦い方ができていただけに2失点目のスターリングに対してフェリペが簡単にすれ違ってしまったのはいただけない。
試合結果
2023.5.13
プレミアリーグ 第36節
チェルシー 2.2 ノッティンガム・フォレスト
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:51′ 58′ スターリング
NFO:13′ 62′ アウォニィ
主審:ポール・ティアニー
第37節 マンチェスター・シティ戦(A)
若手が先陣を切り、主力がクローズ
アーセナルがノッティンガム・フォレストを下したことにより、試合前に優勝が決まったマンチェスター・シティ。エティハド・スタジアムの一戦はアウェイのチェルシーがガード・オブ・オナーで王者に敬意を払った。
王者は称えられるにふさわしい落ち着いた試合運びだったといえるだろう。左右に揺さぶりながら空いているゾーンから前進していく形で試合をゆったりと進めていく。
落ち着いた形になってしまうと、少し停滞感が出てきてしまうことが懸念されるのがサイドの打開力である。しかしながら、グリーリッシュの代役として左サイドを任せられたパルマーはボールの落ち着けどころとアスピリクエタとの1on1を任せるのに十分な力を持っていることを証明する。
さらにはインサイドではフォーデンが縦パスを引き出して加速。チェルシーの警戒を外だけに集中させない。
押し込まれた状態で苦しんでいるチェルシーは自陣からのつなぎでシティのプレスから脱出できずに回収される状況が続く。中盤で何とか根性でつなぐ場面もあったにはあったが、結果的にはフォファナのパスミスから失点。カウンターからアルバレスが今日も見事に仕事をやってのけた。
反撃に出たいチェルシーはつなぐよりも一発で局面をひっくり返す方が糸口を見せられる感じ。裏への抜け出しがこの日非常に冴えていたのはスターリング。CHのエンソからの裏への一発のパスを使うことでチャンスを作っていく。クロスに飛び込むフィーリングも悪くなかったギャラガーともどもこの日のシャドーの出来はそこまで悪くはなかった。
後半頭、チェルシーはハイプレスからテンポをつかむ。スピーディーな展開に好調なチェルシーのアタッカーにも相性が良かったといえるだろう。できればもう少し左のWBのホールには素早い攻め上がりからサポートが欲しかった。
しかしながら、試合は時間の経過とともにシティの手中に。ストーンズを投入し、プレス耐性を得ることで時間を作り出すと、徐々にチェルシーのプレッシングはトーンダウン。ロドリ、デ・ブライネと次々と普段着に戻していくシティに対して、だんだんとチェルシーは反撃の糸口を見いだせなくなってしまう。
今年のシティらしくしっとりとしたゲームクローズで逃げ切ったシティ。チェルシーは悪くない内容だったが、相手が悪かったといえる一戦だった。
ひとこと
パルマーみたいに出番が限られていてもあれだけやれるのはえぐい。主力でクローズはもっとえぐい。
試合結果
2023.5.21
プレミアリーグ 第37節
マンチェスター・シティ 1-0 チェルシー
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:12′ アルバレス
主審:マイケル・オリバー
第32節 マンチェスター・ユナイテッド戦(H)
カゼミーロに導かれCL圏内を確保
この1戦でチェルシー相手に勝ち点を取ることができれば、ユナイテッドの4位以内は確定。これをもってCL出場枠の4枠目の椅子は彼らのものになる。
対するランパード政権は苦戦の真っ最中。就任以降の試合では多くが敗戦に追い込まれており、かつ勝ち点を取ったのはノッティンガム・フォレストとボーンマスの昇格2チームだけ。ある程度覚悟をしていたとはいえ、欧州カップ戦はおろかトップハーフすら届かない目標となっている。
試合はボールを持つユナイテッドに対してチェルシーが4-4-2でプレッシングをかけていくスタイル。CBにはそこまでプレスに行くことはできず、押し込まれることは覚悟の上という感じだろう。ユナイテッドがショウを3人目のCBのように使うのもチェルシーのプレスのずれを作るのに役立っていた。これによりチェルシーは自陣の深い位置で守りに入るアクションが増える。
カウンターでは十分好機がありそうなチェルシー。スターリングは前節からの好調を維持しているし、ホールは前節遅れ気味だったオーバーラップのサポートのスピードが改善する。
しかし、先制点はユナイテッドが手にする。押し込むことで増えたセットプレーを生かしてカゼミーロが先手を奪う。こちらもスターリングと同じく前節と遜色ない仕事を果たす。勝負強さはやはりマドリーの血といったところだろうか。
反撃に出たいチェルシー。ファストブレイクには兆しがありそうな感じだが、ポゼッションモードに入ると、一気に得点のムードは下がってしまう印象。右サイドのトライアングルもユナイテッドにコンパクトに封鎖されてしまい、実効性は低いものになってしまった。
順調だったユナイテッドに水を差したのはアントニーの負傷。比較的大きそうなけがであり、なかなか彼の不在を簡単に任せられそうな人材もいない。来季の出遅れがないといいのだが。
後半は試合展開がテンポアップ。より直線的な動きでさらなる追加点を目指して両チームが鎬を削る。この展開はどちらかといえばチェルシーの方が得点を取るためにきいてきそうな交代であった。
しかしながら早い展開を生かしたのはまたしてもユナイテッド。フォファナにつっかけたブルーノがPKを獲得すると、これを自ら決めて3点目を奪う。
さらにユナイテッドは5分後にハイプレスからさらなるゴールをおかわり。ラッシュフォードがゴールラッシュの最後をまとめて見せた。
終盤にはフェリックスが一矢報いるも反撃はここまで。またしても敗戦を重ねてしまったランパードのチェルシー。ユナイテッドはCL出場権を確保することに成功した。
ひとこと
タイトルとCL出場権の両立。テン・ハーグ政権は順調な1年目だったと総括できるだろう。
試合結果
2023.5.25
プレミアリーグ 第32節
マンチェスター・ユナイテッド 4-1 チェルシー
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
Man Utd:6′ カゼミーロ, 45+6′ マルシャル, 73′(PK) ブルーノ・フェルナンデス, 78′ ラッシュフォード
CHE:89′ フェリックス
主審:スチュアート・アットウェル
第38節 ニューカッスル戦(H)
免れた不名誉な記録
こちらも消化試合の一戦。あえて意味を見出すとするならば、チェルシーには敗れてウェストハムと順位が入れ替わることがあると、ロンドンで最も下位のチームとなってしまうという不名誉な記録が待ち受けていることくらいだろうか。
より積極的な姿勢で試合に入ったのはニューカッスルの方だった。ボールを奪ったら縦に早くファストブレイクを狙っていく姿勢は今季の彼ららしい。
非保持においてもWGのアルミロンとサン=マクシマンが外切りからのハイプレスを敢行。積極策でチェルシーのバックラインにプレッシャーをかける。
外切りのハイプレスの時に空いてしまうSBのところにはニューカッスルはSBがスライド。IHが出ていくことを特に求められていなかったのでWG→SBの受け渡しが間に合わず、チェルシーのSBは結果的にボールの落ち着けどころに。そういう意味ではニューカッスルのハイプレスは見た目ほどの効果を生んでいたかは怪しい。
それでも先制点を決めたのはニューカッスル。左サイドへの対角パスからクロスオーバーでゴードンにボールが渡って先制。ゴードンにとってはうれしい移籍後初ゴールとなった。チェルシーからすると、アスピリクエタとロフタス=チークの対応力が気になるところであった。
先制したためニューカッスルは4-5-1ブロックでのリトリート重心の守備に切り替えていく。プレスを下げることができたチェルシーは少しずつブロックの外からエンソが得意のタッチダウンパスを狙っていく。
そして、チェルシーはセットプレーから同点。右サイドのスターリングの切り返しからオウンゴールを誘発し、タイスコアに持ち込む。
勢いに乗るチェルシーはマドゥエケのファストブレイクなど、カウンターからもチャンスが出てくるように。相手のプレスを退けてからはペースを握ったのはチェルシーだった。
後半もチェルシーは保持からチャンスを作る。起点となるのは両サイドのWG。サイドのフォローにはベースポジション関係なく多くの選手がサポートに。きっちりとクロスを上げきることを念頭に置きながら攻撃を完結させていく。
ニューカッスルは前半ほどのプレスの出力は出せないが、マーフィーやウィルソンといったアタッカー陣をリフレッシュして勝ちに行く。だが、なかなか序盤の勢いは出せず、チェルシーを攻め立てることができない。
チェルシーもニューカッスルの強固なブロックを前に苦戦。スターリングやロフタス=チークがズリズリとポストから前進していくが、試合を決める2点目を得ることはできず。
結局試合は引き分けで終了。チェルシーはこの勝ち点1でロンドン最下位という不名誉な記録から免れることとなった。
ひとこと
強度面でニューカッスルと渡り合えたのはチェルシーにとっては良かった部分のように思える。
試合結果
2023.5.28
プレミアリーグ 第38節
チェルシー 1-1 ニューカッスル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:27′ トリッピアー(OG)
NEW:9′ ゴードン
主審:ジャレット・ジレット