■64年ぶりの偉業に導いた千両役者の左足
勝てばW杯出場決定。これほどわかりやすいシチュエーションもないだろう。ロシアの棄権によって決勝に駒を進めたウェールズの相手はスコットランドを下しての英国勢との連戦になるウクライナである。
試合は意気込みを前面に出してぶつかりあうような攻守の切り替えの早い展開というよりは、ミスなくジリジリぶつかりあうカップ戦の決勝のような流れ。一番、フルスロットルで入ったのは開始2分で2枚のイエローカードを立て続けに出した主審のマテウ・ラオスかもしれない。
ウクライナのボール保持は前節と同じ4-3-3を採用する。ウェールズはトップのムーアがアンカーのステパネンコを監視。WGは外からCBを切るようにプレッシャーをかけていく。ハイプレスの手綱を握っていたのがこのシャドー。特に左のジェームズがプレスをかけたタイミングに呼応するように、ムーアやベイルがハイプレスを行うといった場面が多かった。
序盤からペースを握ったのはウクライナと言っていいだろう。ウェールズはシャドーが監視する選手の数が多く、なかなかジェームズがプレスのスイッチを入れられない。ウクライナはジェームズとは逆である左サイドから進軍。ベイルを狙ったというよりは元々こちらが彼らのストロングポイントである。ジンチェンコ、ツィガンコフを軸とした移動からウェールズの1列目を綺麗に超えていくシーンを作り出す。
最終ラインの裏を取る動きでウェールズのバックスに後方を意識させたかと思えば、ヤレムチュクへの楔でライン間を狙うなど、保持における緩急の付け方も見事。ウクライナは保持の心得があるチームであることは明白だった。
とはいえウクライナにも付け入る隙があったのは確か。こちらも非保持になるとプレスには積極的に行かないスタンスなのだが、ウクライナはウェールズが縦にボールを入れてきた時へのホルダーへのタイトがやたらバラバラ。ウェールズがボールをつなぐことはそこまで難しくはなかった。
そういう隙がある時に仕事をするのが千両役者である。FKを取ったウェールズはベイルの左足から放たれたクロスがオウンゴールを誘発。どんなに試合勘が鈍っていても代表戦で仕事をするのだからベイルは恐ろしい。
オウンゴールをしてしまったヤルモレンコだったが、その後も時折笑顔を見せながら戦い続けていたのはとても好感。もちろん、ショックであっただろうが前向きに勝ちを狙い続けるスタンスには国を背負うプレイヤーとしての矜持を感じる。
後半はウクライナがウェールズを一方的に攻め立てる展開に。CBのキャリーを増やし、ウェールズのシャドーを引きつけてSBを確実にフリーにすることで、前進のパターンを作り出していた。
ウクライナはサイドにボールを持ち出すと斜め方向の楔を入れることで前進を狙う。しかしながら、ここはウェールズが待ち構えていた部分。挟む形でカウンターを発動する契機にしていた。ムーイがサイドに流れながらラムジーの攻め上がりを促すなど、個人の特性を活かしたカウンターの方策でウクライナ陣内までボールを運ぶ形を多く作る。
ベイル、そして左サイドでアクセントになったジョンソンには追加点の決定機も。しかし、これはウクライナがなんとか凌ぎ希望をつなぐ。
最終盤には畳み掛けるようにシュートの雨あられを降らしていたウクライナ。だが、ウェールズもGKのヘネシーを中心にPA内は死守。シュートブロックとセービングでなんとか耐え凌ぐ展開が続く。
90分を通して攻める機会が多かったのはウクライナだが、ワンチャンスを決めたウェールズが逃げ切りに成功。64年ぶりのW杯本大会出場という歴史的な快挙を成し遂げた。
試合結果
2022.6.5
カタールW杯欧州予選 プレーオフ 決勝
ウェールズ 1-0 ウクライナ
カーディフ・シティ・スタジアム
【得点者】
WAL:34′ ヤルモレンコ(OG)
主審:アントニオ・マテウ・ラオス