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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~モロッコ代表編~

目次

第1節 クロアチア戦

■整備された守備の賜物か、最後の局面の整備不足か

 どちらのチームもフォーメーションは3センターが逆三角形型に並ぶ4-3-3。ミラーのようでミラーでないフォーメーションの組み合わせで両チームは対峙することになる。

 相手にボールを持つことをより許容していたのはモロッコの方。トップのエン=ネシリのプレスの開始位置はアンカーのブロゾビッチが中心。クロアチアのCBにはボールを持たせる格好になった。

 モロッコほどではないにしてもクロアチアのプレッシングもそこまで前がかりではない。中盤からモドリッチが飛び出して前線のプレスに加わるパターンはあるものの、この辺りは決まりというよりモドリッチにタイミングを託されたアドリブ色が強いもの。レアル・マドリーでも見られる「いけると思ったら行ってもいいよ」くらいの制約のものだと思う。

 よって、まずは問われるのは互いの保持による解決能力である。モロッコのプランは外からボールを回していく形である。どちらのチームも基本的にはインサイドを閉めて、外でボールを回されることは許容していく形だったので、モロッコがボールを回す形を作るのはそこまで難しいことではなかった。

 サイドの崩しの主役となったのは右サイドのツィエク。パス交換からの動き直しからフリーになり、クロスを上げる間を取りながらPAにボールを放り込んだり、あるいは逆サイドに展開したりなど攻撃の起点になっていた。同サイドには大外を駆け上がることができるハキミもおり、モロッコは明確にこちらのサイドが強みという格好になる。

 しかしながら、この縦関係を強みにするための整備にはもう少し時間がかかるように見えた。ハリルホジッチ解任まで代表から長らく離れていたツィエクにとっては少し猶予が必要だろう。長いボールを蹴ることを囮としながら、ハキミの推進力を活かす形を作ることができるのはまだ先の話になるはずだ。

 クロアチアの保持はそれでも固めている中央でズレを作ろうというもの。CBがボールを運びながらモロッコの中盤を引き出し、空いたスペースにクロアチアの中盤が入り込みボールを引き取る。

 このプランを遂行するにおけるクロアチアの強みは3CHが均質的な役割をこなすことができること。どの選手も低い位置からボールを引き取ることができるし、ポジションをサイドや高い位置に動かしてもプレーができる。その分、個人個人が移動距離を長くしても許容ができる。その分、モロッコの中盤は受け渡すかついていくかを悩む部分が出てくるようになる。

 クロアチアは非常に慎重に試合を運んでいたため、中盤の選択肢の優先度はロストをしないポゼッションだった。その分、高い位置で前を向くトライは控えめ。前線や高い位置のサイドとの連携は薄く、ポゼッションからチャンスを作るのは難しかった。彼らがチャンスを作ったのはむしろ高い位置からモロッコの保持を引っ掛けたカウンターからの方が多かった。前半終了間際の大チャンスはクロアチアとしてはきっちり決めたかったところだろう。

 スコアレスで迎えた後半の頭、高い位置からプレスに行くようになったのはモロッコ。プレスを受けてもなお繋ごうとするクロアチア。近い位置でショートパスを繋いでのトライはモロッコのプレスに引っかかり、なかなか自陣から脱出することができない。後半の立ち上がりはクロアチアが中盤で捕まるシーンが多く、モロッコは敵陣内でプレーする時間が長くなった。セットプレーも含め、後半の立ち上がりはモロッコに最も得点のチャンスがあった時間帯と言っていいだろう。

 しかしながら、後半の立ち上がりを凌ぐと徐々にクロアチアがポゼッションを取り戻していく。中盤の移動は前半以上に多く、特にアンカーのブロゾビッチの左右に顔を出すことが増えるようになった。

 時間帯が進んでもバックラインが高い位置のチェイシングをやめなかったのもクロアチアの方だった。敵陣でプレーする機会を増やすための手助けになった。モロッコは試合終盤はこのクロアチアのハイラインを打ち破るロングカウンターに専念することになる。

 前後半を通じて、敵陣までは迫ることができてもそこからこじ開けることができなかった両軍。それが両チームのアタッキングサードにおける整備不足なのか、はたまたバランスが簡単に崩れない規律正しい守備の賜物なのかは残りのグループステージで答えが出るはずだ。

試合結果
2022.11.23
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第1節
モロッコ 0-0 クロアチア
アル・バイト・スタジアム
主審:フェルナンド・ラパリーニ

第2節 ベルギー戦

■後半に機会ごと取り上げたモロッコがベルギーを完全制圧

 勝てばフランスに続いて2チーム目のグループステージ突破が決まるベルギー。強豪国が軒並み突破を決めることに苦しんでいることからも、2節目で通過を決めることができれば大きなアドバンテージになる。開幕節でクロアチアが手を焼いたモロッコは難敵ではあるが、なんとか連勝を決めたいところである。

 ベルギーのフォーメーションは4バックを採用。2CB+2CHが基本でCHの2人は縦関係に変形したり、最終ラインに入り込んだりもする。2-2も3-1もある形だ。モロッコはこのビルドアップ隊の動きを1トップとIHの2人で対応していく。降りる動きが基本になっているため、深追いしすぎずに受け渡したり放置することも重要。守備ブロックのコンパクトさの維持を優先していた。

 ベルギーはSBがビルドアップに関与することもしばしば。だが、そうした枚数調整に対してもモロッコは柔軟に対応。サイドにはきっちりと枚数を合わせることで自由を許さなかった。

 低い位置までデ・ブライネが降りていくことでさらに+1を作ろうとするベルギー。だが、モロッコのブロックに対してデ・ブライネがボールを運ぶスペースを作ることができておらず、フリーで持っても何も行わない状況が続く。ホルダーについていくところと守備ブロックのバランスの匙加減がモロッコはお見事だった。

 一方のモロッコはサイドからのカウンターが主体。右サイドのツィエクを先導役として、大外からベルギーのゴールに迫っていく。機会はそこまで多くなかったけども、停滞感のあるベルギーのボール保持に比べれば得点の期待感はあったように見える。

 ポゼッションにおいても相手を動かしながらスペースに入り込んでいくことはできていたモロッコ。非保持だけでなくボール保持においてもモロッコは安定した戦い方を見せたと言っていいだろう。

 前半終了間際にはセットプレーからネットを揺らしたモロッコ。ツィエクのクロスに見事に合わせたかのように思えたが、これはオフサイドで取り消し。ベルギーはなんとか命拾いする格好である。

 巻き返したいベルギーだが、後半はそもそもボール保持の時間がモロッコの方が長かった。モロッコの方がボールを持つことができたからといって、ベルギーがカウンターから勢いを取り戻す!ということも特になく、得点のきっかけを掴めないまま時間だけが経過していくことになる。

 後半も優位に進めたモロッコはベルギーに反撃の糸口を与えることはなかった。苦しいベルギーはなんとか得点を決めたいところだが、先制したのはモロッコ。角度のないところからのFKをサビリがゴール方向に蹴り込み、これをサイスがわずかに触って押し込む。クルトワの裏をかくという形での失点はベルギーにとって最後の砦をこじ開けられたガッカリ感が強かったはずだ。

 得点後、モロッコは素早く5-4-1に移行。スペースを消して逃げ切り体制に移行する。ローラインで迎え撃つモロッコに対して、ベルギーはガンガンクロスを放り込み、外から力技で叩き壊すやり方で対応。ルカクにとってはなかなかシビアな復帰戦になった。

 最後までベルギーの攻撃を跳ね返したモロッコは終盤に追加点をゲットし、ゲームを完全に制圧。手痛い一敗を喫したベルギーは次節のクロアチア戦にプレッシャーがかかる結末となってしまった。

試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第2節
ベルギー 0-2 モロッコ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
MOR:73′ サイス, 90+2′ アブカウ
主審:セザール・ラモス

第3節 カナダ戦

■序盤の勢いと手札の豊富さを見せたモロッコ

 2位と3位は直接対決の潰し合い、目の前の対戦相手はすでに敗退が決まっているカナダ。明らかにグループFのポールポジションに立っているモロッコは非常に立ち回りが難しい立場である。グループ首位という立場に慣れている国ではないという経験値的な側面でも尚更舵取りがデリケートである。

 突破を十中八九手にしたモロッコが選んだプランは非常にアグレッシブなものだった。カナダの4バックに対して、立ち上がりから思いっきりプレスをかけていく。いきなりエネルギーを燃やすプレスを仕掛けてくるチームが少ない大会だけにカナダは面食らったのだろう。バックラインにCBが少ない4バックを採用したこともあり、モロッコのプレッシングはかなりカナダに刺さる。

 そして、生み出されたのは先制点だ。カナダの連携ミスからあっさりと先制したモロッコ。時間がないバックパスを受けたGKのボージャンが貧乏くじをひき、パスミスしたところをツィエクが無人のゴールに押し込んでみせた。

 先制後もモロッコはプレスの手を緩めない。カナダはプレスに対してたじたじな状況が続きミスを連発。右サイドに追い込まれて苦しいパスの選択から相手にボールを渡してしまったり、中央のパスを刺すことを誘発させられ、モロッコのカウンターの餌食になるなどカナダにとってはどうしようもない時間帯が続く。

 モロッコがカウンターに転じた際にもカナダは間合いの合わないタックルを連発。ボール保持における混乱は最終的にボールを奪われた後にも伝播してしまったようなカナダのパフォーマンスだった。

 カナダは中盤を最終ラインに落とすことで徐々に保持の落ち着きを取り戻していく。モロッコもリードを奪ったことにより、プレッシングのテンポは徐々に落としていく。

 そうなればカナダにも十分に攻め手はある。サイドでのスピード感は手応え十分でモロッコの最終ラインの裏をとり、ゴールに迫っていくこともしばしばだった。プレッシングも敵陣深くから前線が追いかけ回す積極策を披露。今大会の初勝利のために、カナダはアグレッシブなスタンスでモロッコに対峙する。

 そうしたカナダの姿勢をモロッコは利用。高い位置からのプレッシングをひっくり返すように長いボールから抜け出して追加点をゲット。エン=ネシリのゴールでリードはさらに広がることになった。

 プレッシングでカナダのポゼッションの心を折り、ロングカウンターでカナダのプレッシングの心を折る。前半のモロッコは面白いようにプランがハマり、完全に主導権を握る。カナダが左サイドから幸運なオウンゴールで追い上げるが、全体的にモロッコが試合を支配していることに疑いの余地はないだろう。

 後半、カナダは攻めに打って出る。敵陣深い位置まで攻め込むことに加えて、インサイドへのパスのチャレンジを積極的に行っていく。大外のスピード以外の武器も積極的に使っていこう!というのがカナダのプランである。

 しかしながら、モロッコは落ち着きながら対応。引き締まった撤退守備でカナダの攻勢を許さない。インサイドへのパスはカウンターの起点するような前半の流れは見られなかったが、本当に通されたら嫌なところには通させないというスタンスだった。

 そんなモロッコにとって面倒だったのはセットプレー。CKからカナダは決定機を生み出し、モロッコはあわや追いつかれてしまいそうな場面が出てくるように。3枚替えでさらに勢いに乗るカナダ。一方的に攻め続けて同点とするチャンスも十分にあった展開と言えるだろう。

 だが、モロッコはカナダに同点ゴールを許すことはなかった。高い位置からのプレス、ロングカウンター、そして後半の撤退守備。90分であらゆる戦い方とプランへのコミットを見せつけたモロッコが順当な勝利でグループFの首位通過を決めてみせた。

試合結果
2022.12.1
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第3節
カナダ 1-2 モロッコ
アル・トゥマーマ・スタジアム
【得点者】
CAN:40′ アゲルド(OG)
MOR:4′ ツィエク, 23′ エン=ネシリ
主審:ラファエル・クラウス

Round 16 スペイン戦

■モロッコのIH周辺を巡る駆け引き

 ベルギーとクロアチアの叩き合いを横目で見ながら無敗でグループFを首位通過したモロッコ。隣の死の組からはコスタリカをどれだけ殴れたかでドイツを追い落としたスペインがやってきた。

 ボールを持つことになったのは当然スペイン。モロッコはミドルゾーンにプレスを構えながら、スペインを迎え撃つ。モロッコの守備は決まり事がはっきりしていた。アンカーのブスケッツはトップのエン・ネシリが徹底マークでついていく。プレスに出ていくのはIHの2人。CBがボールを持った時には彼らが前に出ていき、片方が下がることで4-4-2気味の変形を行う。

 モロッコの中盤が気をつけていたのはプレスに出ていきすぎないこと。例えば、降りて相手を釣ろうとするペドリは徹底的に無視。動いていくのはある程度範囲を決めている感じ。動かされるのではなく自分で動いていく!という形である。

 モロッコは構えたところからツィエクへのカウンターを狙う形で入る。この辺りはグループステージでやったパターン。ボールを持つスペインと持たれるモロッコという構図で試合がスタートする。

 ボールを持ったスペインだが、やや攻めあぐねていたのも事実。ミドルゾーンでなかなか呼吸ができない。そうした中でキーになるのはSB。大外から押し下げる形を作り、敵陣深くまで入り込む。ジョレンテの起用の狙いはこの辺りにあっただろう。ボールタッチがややもたつき、非保持では危うさもあったが、起用の意図は理解できるものではある。

 面白かったのはブスケッツ。自らにエン・ネシリがマークについていることを利用し、中盤で吸収されながら消えることでエン・ネシリのプレーエリアを低くすることを選択。他の選手に組み立てを任せつつ、CBがプレーするエリアを確保していた。

 大まかな方針としては日本戦と同じだろう。崩しの決め手は見つからないけども、ボールを持ちながら支配しており失点はしなさそうな状況。だが、誤算だったのはモロッコがボールを持つことを確保できたことだ。

 バックラインはスペインのハイプレスにも関わらず、少ないタッチ数のパス回しを繰り返し前を向く選手を作ってボールを前に進めることができていた。中盤のフォローもさることながら、目立ったのはGKのボノを活用するビルドアップ。積極的にボールを受けると、ストンと落とすようなロブパスでSBのマズラヴィにボールを届ける。多彩なボールを蹴れるのか怪しくない?とか、左サイドにしか届けられないのでは?といった気になる部分もあるのだが、勇気を持ったビルドアップのスキルはモロッコのボール保持を助けるものだった。

 自陣からミドルゾーンまでボールを運ぶことと、逆サイドからの展開を引き取り大外に展開したマズラヴィと配球力と相手を背負ってもキープできる部分で存在感を見せたアムラバトの存在もビルドアップが安定した一因。

 敵陣深い位置ではブファルが好調で、対面のジョレンテを圧倒しつつ味方の攻め上がる時間を稼いでいた。ブファル、ツィエクというチャンスメーカーをワイドに抱えていたモロッコはスペインよりもゴールに迫るという部分ができていたように思える。

 健闘していたモロッコだが、後半はスペインが再びペースを握りなおす。モロッコの4-1-4-1→4-4-2へのシステムが変わる瞬間を狙いながら、モロッコのIHの背後のスペースを突いていた。特に機能していたのが左サイド。前半とは左右を入れ替えてこちらサイドを主戦場にしていたガビが、この位置で相手を惹きつけては出ていき、そのスペースにオルモが入っていくということを繰り返すことで穴を開けるシーンが出てくるように。

 スペインのこうした旋回に対して、徐々にモロッコは手を打てなくなってくる。循環をさせながら前を向く選手を作ることができていたスペインは前半以上にモロッコ相手にペースを支配する。

 少し気になったのはガビ→ソレールへの選手交代。出たり入ったりを高頻度で繰り返していたガビがいなくなることでスペインの旋回の頻度は低下。モラタの裏抜けとニコ・ウィリアムズの突破からモラタとオルモをターゲットにしたクロス主体のPAの迫るなどと少しテイストが違う攻め筋を見せるようになった。ソレールが入ってからは非保持が4-2-3-1気味になり、ソレールがアムラバトを捕まえるようになったのでモロッコの保持への対応なのかもしれない。だが、個人的にはその前の時間帯の方が攻め筋のフィーリングが良かった感じがするので、いい流れを手放してしまったかのように思えた。

 一方のモロッコも選手交代で機能性がやや低下。交代選手たちも奮闘してはいたが、左サイドでタメを作ることができるブファルの不在は痛かった。スペインのバックラインがハイラインに見事な対応をしていたことや、モロッコのプレスバックでスペインに速攻を許さなかったりなど、大概の守備陣の対応が見事だったこともあり、試合はスコアレスのまま延長戦に突入する。

 延長戦はスペインがボールを持ちつつ、モロッコがカウンターで応戦するという後半の流れが続く。この辺りでモロッコにボールを持たせなくなった!というのは流石のスペインではある。モラタの裏抜けでのデュエルも負傷交代者続出(サリスは最後まで残っていたが)のモロッコの最終ラインにとっては悩みの種だった。

 試合はスペインが支配するが、モロッコがカウンターで抵抗。決定的なゴールチャンスは両チームそこまで変わらずという展開は延長戦も継続。GKが両者好調だったこともあり、120分間両チームにゴールが生まれないまま試合はPK戦を迎える。

 PK戦ではワンサイドな展開だった。スペインとしてはPK戦要員として入れたであろうサラビアの失敗は痛かった。コースとしては際どいところを狙うことができていたが、シュートはポストに弾かれる。サラビアはPK戦突入直前に試合を決める決定機を僅かに外してしまっていたので、そうしたメンタル面での影響はあったのかもしれない。

 1人目が失敗したことでスペインは勢いに乗れず。経験豊富なブスケッツまで雰囲気に飲まれてしまった。1本目のスペインの失敗でボノが自信を持ってセーブできるようになったからだろう。試合を決めたハキミのキックに代表されるようにPKを先に決めたことでモロッコはキッカーが軒並みリラックスして試合に臨むことができていた。

 スペインは3人すべて失敗という衝撃的な結果で終戦。PK戦を制したモロッコが史上初のベスト8進出を決めるという快挙を達成した。

あとがき

 いかにもスペインらしい散り方だったと言えるだろう。ボールを持つ、相手の攻める機会を取り上げる、だけども決め手がない。日本にリードされた後もそうだし、モロッコ戦の後半以降もそう。かといって崩し切ることを捨ててアバウトに傾倒したとて、得点の確率が上がることがないのは辛いところ。ワイドで勝負できるアタッカー不在とモラタ以外のストライカーの計算が立たなかった!というリソース面での不安があることは補強ができない代表にとって不安である。とはいえ、良くも悪くも彼らはブレないだろうけども。

 モロッコはミドルゾーンでスペインの保持を迎え撃ったというプランは日本と同じ。日本とやや違ったのは深追いするかどうかで焦れずに普通にラインを下げていたことである。先制点を奪われていたとはいえ、日本はスペイン相手でも前に出ていかなくては!という鎌田とそれ以外でギャップができていたのが気になった部分だった。

 モロッコがその部分に迷いがなかったのはボール保持でも陣地回復できる余裕があったからだろう。他局面での優位が違う局面での落ち着きをもたらすという意味で興味深かった。

 先のラウンドにおいては負傷者が気がかり。バックラインが代わった分の危うさは感じるパフォーマンスだったので、輝かしい活躍を見せた中盤より前がこの試合のように攻撃面で展開を牽引することでカバーができるかがポイントになる。

試合結果
2022.12.6
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
モロッコ 0-0(PK:3-0) スペイン
エデュケケーション・シティ・スタジアム
主審:フェルナンド・ラパリーニ

準々決勝 ポルトガル戦

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■塩漬けプランは一定の効果を発揮するが・・・

 ベスト8の中で唯一W杯の制覇経験がないチーム同士の対戦となったこのカード。同じく制覇経験のないクロアチアがすでにアルゼンチンの待つ準決勝進出を決めているため、ベスト4は優勝経験国×未経験国の組み合わせが2つできることが確定である。

 わずかに変更点こそあるものの、基本的にはこれまでに近いメンバー構成で臨んでいる両チーム。そうした中で変化をつけてきたのはポルトガルだった。中盤の形はこれまで使い慣れていた逆三角形ではなく、トップ下+2CHの形。陣形としてはちょうどモロッコの中盤にプレスをかけやすい形である。

 すなわち、立ち上がりのポルトガルの狙いはハイプレスである。ポルトガルがハイプレスで狙いたい状況は主に2つ。1つはGKがボールを持った時、もう1つはサイドにボールがあり、CFが横パスを切ることができていた場合。ポルトガルのプレスにスイッチが入る時はこのどちらかを満たすことが多かった。

 ポルトガルとしては後ろにラインを背負っている状態であるならば、プレスがかかる手応えがあるということだろう。逆に言えば、CBがボールを持っているときなど、モロッコの選手が360°でのプレーが担保できている時は無理に出て行かない。そういう状況ではプレスにいっても捕まえられないため無駄という判断なのだろう。

 蓋を開けてみると、モロッコは背中にラインを背負っている状況でプレスを受けても難なくプレスを回避しており、ポルトガルのハイプレスでテンポを奪うという目論見は頓挫してしまった感があった。ホルダーを捕まえるということだけは粘ってできていたポルトガル。速攻こそモロッコに許しはしなかったが、彼ら自身がプレスを攻勢に変えることができなかったのは確かだろう。

 モロッコのプレス回避の中で効いていたのはウナヒ。フリーランでホルダーに延々とパスコースのサポートを行っていた。背負う前線にとっては彼の存在は大きな助けになっていた。

 ポルトガルの保持の局面ではネベスが最終ラインに加わる形で3-2-5に変形。ベルナルドが1列落ち、フェリックスとゲレーロは左サイドでレーン交換が可能。重心はかなり後ろに重く、ポルトガルのプランはボールと共に前に進む!という意識のものではないものは汲み取れた。むしろ、攻撃の起点になるのは左右に長いボールを振るネベスである。前線に当ててのセカンドにかけて長いボールを放り込む。

 これに対してモロッコは4-5-1のコンパクトなブロックを維持することを重視。降りていくネベスに関してはエン・ネシリが徹底無視していた。ポルトガルの列移動が配置の部分でモロッコに悪い影響を及ぼすようなことはあまりなかったように見える。

 ポルトガルは前進のルートは見えないが、ボール保持での安定感はある。何より、ボール保持を続ければモロッコの保持の局面を避けられる。モロッコはプレス回避はできるものの、プレス回避にチャレンジする状況自体を作ることができずに苦戦した印象だ。そういう意味ではポルトガルの塩漬け作戦は一定の効果を発揮していた。

 我慢比べが続いた感のある状況で徐々にモロッコが痺れを切らした感が出てくる。エン・ネシリがパワープレーに打って出たことで、モロッコはハイプレスに出るシーンが徐々に出るように。ポルトガルにとってはモロッコの陣形に歪みが生じ、空いたスペースから攻略できるまたとないチャンス。だが、ポルトガルはこの好機を活かすことができず、淡々と試合を進めてしまった印象である。

 膠着状態の展開の中で先制点は不意に訪れる。ゴールを決めたのは驚異の打点の高さを見せつけたエン・ネシリ。左サイドからのハイクロスに対してディアスが競り負け、コスタは出て行きはしたが触ることができなかった。エースの突然の一撃でモロッコはリードしてハーフタイムを迎える。

 モロッコリードで迎えた後半も展開は同じ。ポルトガルが保持でモロッコのブロック攻略に挑み続ける構図だった。前半と比べて異なるのはポルトガルのCBの裁量が増えたこと。ネベスが列落ちを我慢し、CBが運ぶシーンが増えるようになった。モロッコのプレスの優先度から考えると当然の対策のように思う。

 早々にロナウドを入れての4-4-2シフトを選んだポルトガルの狙いは明確。シンプルな空中戦の競り合いを仕掛けていく形を頭に置いていたのだろう。

 モロッコにとって不運だったのは守備の要であるサイスがこの時間に負傷交代してしまったこと。この交代はモロッコにとっては大きかった。DF-MF間のコンパクトさを徐々に緩み始め、ラインを高くキープするのが難しくなる。ロナウドの投入も相まって、最も失点の可能性が高い時間帯だったと言えるだろう。

 この様子を見て迷うことなくレグラギ監督は5バックにシフト。前線の柱であるエン・ネシリを交代し、20分以上を残して塹壕戦での逃げ切りを決意する。結果的にこの決断はポルトガルを苦しめることになる。撤退したモロッコに対して。ポルトガルはパワープレーに上手く転じることができず。5-4-1になってなお、中盤の押し上げをサボらないこともポルトガルの悩みの種。モロッコに対して、ポルトガルは前進に力を使う場面が目立った。

 前進に力を使う→後ろに人数を使う→前に人が足りなくなるの悪循環にハマったポルトガル。左右からのチャンスメイクも厳しいものだった。左はレオン、右はブルーノ(最後はSBをやっていた)の2人はニアをきっちり超えるクロスを上げ続けることができず。ダロトの負傷によりSBにコンバートされたブルーノも、おそらく普段と役割が違うレオンにも同情の余地はあるが、彼らがサイドからファーを狙うクロスを上げることができれば展開は違ったのかもしれない。

 終盤のポルトガルには攻め疲れ感があった。85分付近はだいぶボールが持てないように。押し込めているならば、即位奪回はセットにしておきたかったところ。5-4-1の割にアムラバトを中心にきっちり陣地回復してくるのもモロッコの不気味なところである。

 当初は無謀かと思われた5-4-1の塹壕戦という賭けに勝ったレグラギ。最後は10人になり冷や汗をかいたが、なんとかポルトガルのクロスを凌ぎ切って完封。スペイン戦に続いてのアップセットでアフリカ勢初のベスト4に駒を進めた。

あとがき

 90分を振り返った時にポルトガルのどこに勝ち筋があったか?と考えると、モロッコが焦れて前に出てくるという選択をした前半の終盤だろう。相手の良さを取り上げて均衡に引き摺り込むことができたのだが、相手が試合を動かそうとリスクの高い動きをした時にリアクションできないのは勿体ない。逆にこの時間に失点を喫してしまったのは痛恨。立ち上がりのプレスも含め、試合を動かすプランがやや足りていなかったのは事実。やればできる選手揃いなので、監督とロナウドの去就も含めて次のプランが気になるところである。

 モロッコがアップセットを演じたのは確かだが、シンプルに正面衝突でポルトガルを上回った印象が強い。その実力をもう疑う人はいないだろう。ブファルという武器を封じられ感があったのもなんのその。前半はプレス回避に走ったウナヒ、終盤は1人で時間を作り出していたアムラバトが異常。彼らが涼しい顔で非保持においては4-5-1ブロックに加担しているのがモロッコの強さである。

 ここまで来れば行けるところまで行ってみよう!精神になるだろう。10人になっても、最終ラインに負傷者が続出しても止まることのないモロッコはアウトサイダーから今やどのチームも当たりたくない存在に変貌しつつある。

試合結果
2022.12.10
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
モロッコ 1-0 ポルトガル
アル・トゥマーマ・スタジアム
【得点者】
MOR:42′ エン・ネシリ
主審:ファクンド・テージョ

準決勝 フランス戦

バレていても狙うのはムバッペの背後

 決勝で待つアルゼンチンの対戦相手を決める準決勝2試合目。ブラジル不在のトーナメントで本命に躍り出たフランスは2大会連続のファイナル進出がかかっている。対戦相手となるモロッコはある意味今大会の主役となっているチームといっていいだろう。アフリカ勢初のベスト4進出を決めて、驚異的な快進撃を見せている。フランスには胸を借りる形にはなるだろうがスペイン、ポルトガルに続く大物食いのチャンスを狙うことになる。

 どちらのチームともメンバーには一部変更があった。フランスは蔓延している風邪の影響でウパメカノとラビオがスタメン落ち。コナテとフォファナをリプレイスする形で4-2-3-1を維持する11人を送り出した。一方のモロッコは最終ラインを増員する5-4-1を採用。負傷を抱えているレギュラーCBであるサイスとアゲルトは共にスタートメンバーに名前を連ねてはいたが、アゲルトは試合直前でメンバーから外れることに。アリが代わりに3バックの一角に入ることになった。

 立ち上がりは両チームとも相手にボールを持たせる格好になる。フランスはそもそもプレスをかけてテンポを上げていくタイプのチームではないし、この日のモロッコはまずは後ろを固めることを重視するフォーメーション。前から捕まえに行くことを優先せずにまずは構えて受け止めることを重視した形である。

 そのため、前日のアルゼンチン×クロアチアのようにジリジリした展開が予想されたのだが、先制点が入ったのは思いのほか早かった。フランスは縦パスを収めたグリーズマンからDFをかわして穴を空けると、そこからモロッコの守備対応はドタバタ。フランスは最後にファーに余ったテオ・エルナンデスが高い位置でのボレーを決めて先制点を奪う。

 モロッコからするとDFのヤミークの飛び出しが甘かった。飛び出すならば入れ替わられてはいけないし、サイスもカバーしなければいけなかった。ただ、実質負傷持ちのサイスにそこまでをお願いするのは酷だろう。20分で限界を迎えて負傷交代をしたことからもこの試合におけるサイスに人の手助けをする余裕はなかったように思う。実質、飛び出したヤミークがうまく対応する以外にモロッコが陣形を崩さずに守り切るための手はなかった。。

 明らかにプランが崩れる先制点を奪われてしまったモロッコ。しかし、前進の形を明確に作れている分、先制点により希望が完全に途絶えてしまったということはなかった。

 モロッコの攻め筋はいつもと比べると少し風情が異なった。右サイドのツィエクと左サイドのブファルを軸に両サイドからバランスよく攻撃を仕掛けるのが彼らのスタイル。しかし、この日のモロッコは狙いをフランスの左サイドに集約した感があった。フランスの守り方の定番といえば、ムバッペの背後のラビオがカバーし4-3型に変化する形。ラビオがフォファナに入れ替わってもそうしたフランスの守備のバランスは変わらなかった。

 まず、フランスが狙うのはこのムバッペの背後のスペース。ここから数珠つなぎでフランスの攻略を狙うモロッコ。次に狙うのはムバッペのカバーに出て来たフォファナの背後である。ここから仕上げになるのはテオとコナテの間のスペースへの裏抜けである。

 ムバッペの背後→フォファナの背後→テオとコナテの間という形で段階的な狙い目を定めたモロッコはフランス陣内に攻め込むことが出来ていた。同サイドを徹底的に攻略するために、ブファルが右に流れる機会が多かったのもモロッコのプランがいつもと違ったことの証明になっている。

 しかし、フランスからするとムバッペの背後を突かれるというところは想定内。逆に、きっちり同サイドに閉じ込めながらコナテに早めに潰しに出てくる形に持っていければ攻め込まれたとしても問題はない。特にツィエクが抜け出す形はほぼ抑え込まれていた感じ。逆にハキミやウナヒのような選手の飛び出しにはワンテンポ遅れることが多く、エン・ネシリもフランスのDFの前に入ることが出来ていたので、ぴったりとクロスが合えば得点できる形は作ることが出来ていた。

 だが、失敗すればフランスはカウンターから反撃を行うことができる。撤退してても受けるのが難しいフランスのアタッカーにスペースが加わるのだから、止めるほうもさらにピンチになる。それでもモロッコは勇敢にそのリスクを受け入れる。サイスの負傷に伴い4バックにシフトし、いつも通りの布陣に戻すなど1点ビハインドという状況から強引に引き戻すためのプランを打って見せる。

 敵陣深くまで攻め込んでからのロストが多かったこと、そもそも5バックでもそこまで堅く守れていなかったことなどを踏まえるとモロッコの4バックシフトによる急激な失点のリスクの上昇は避けられたといってもいいだろう。たまにフランスの想像を超える形でのチャンスメイクが出来ていたことも含め、モロッコの失点後のリアクションは軒並み優れたものだったといえる。それでも失点のリスクをロングカウンターで突きつけることができるフランスは恐ろしいのだけど。

 後半、フランスはより手堅いプランに移行する。まず、ムバッペのプレーエリアを気持ち下げることで左サイドの守備を強化。フォファナはムバッペのスペースを埋めることから解き放たれ、最終ラインが出て行った時のカバーに入れる高さまで位置を下げるようになる。

 逆サイドではグリーズマンが3センターの一角まで位置を下げる。PA内での跳ね返しに加わることで盤石の態勢を構築する。グリーズマンは前向きの状況でも守備で貢献。後半はブファルの右サイド流れを減らしつつ、左サイドからの攻撃も狙っていきたかったモロッコだが、下がるのをサボらないデンベレとグリーズマンが延々とスペースを消し続けるためどうしようもなかった。

 モロッコが光を見つけることが出来たのは大外アタックのところ。アッラーはクンデを時折出し抜くことが出来ていたし、右サイドではハキミがオーバーラップを欠かさないことでウナヒ、ツィエクとトライアングルを形成する。フランスが手を打った後半も右サイドからの攻め手が死ななかったのはSBハキミが終盤もオーバーラップの量が減らなかったことが大きい。

 ゴールに迫るシーンもいくつかあったモロッコ。だが、ロリスのスーパーセーブとフランスDF陣のシュートブロックに遭いまくり、なかなかごーるまでたどり着くことができない。

 フランスはジルーに代えてテュラムを投入し、左サイドの守備のさらなる強化とロングカウンターにおける人員の増加を図る。この交代から徐々に押し返す機会を増やすと、最後はムバッペの左サイドの突破から転がったボールをコロ・ムアニが押し込んで決着をつける。

 モロッコの激しい抵抗をなんとか振り切ったフランス。連覇という偉大な記録への挑戦権を手にし、メッシが待つファイナルに駒を進めることに成功した。

あとがき

 このトーナメントは格上と目される方が余裕を持って入ったものの、追いつかれたりなかなか点が入らなかったりした際にギアチェンジが出来ずに苦しむところがある。クロアチアに敗れたブラジルはその代表例といえるだろう。

 この試合のフランスも同じ展開に陥る可能性もあったが、モロッコの猛攻をしのぐ守備陣の奮起とデシャンの手当てで流れを取り戻すあたりが今のフランスの強さである。デンベレやグリーズマンや4年前のポグバなど攻撃的なタレントに守備における高負荷な仕事を押し付けることができるのはデシャンのチームの特色である。グリーズマンはほぼシメオネのおかげだけど。

 モロッコに関しては言うことはほぼない。手負いの状態でフランスと立ち向かい、できることはほぼやった。最終ラインが万全なメンバーならという悔いは残るが、それはアンダードックの宿命でもある。

 低い位置でのブロック守備とハイプレスに対するプレス回避、そして敵陣でのトライアングルアタックなど現代の代表チームにおいてほしい要素をコンプリートしており、今のモロッコは代表チームが目指すべき要素の詰め合わせといっていいだろう。そこにアムラバトをはじめとするタレントの個性も乗っける形で質を上乗せしたモロッコは間違いなく今大会のベストチームの1つだ。

試合結果
2022.12.14
FIFA World Cup QATAR 2022
Semi-final
フランス 2-0 モロッコ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
FRA:5‘ テオ・エルナンデス, 79’ コロ・ムアニ
主審:セサル・ラモス

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