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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~ドイツ代表編~

目次

第1節 日本戦

スタメンはこちら。

■20分までの好感触の要因は?

 「2強2弱」と目されたグループEはドイツと日本の対戦でスタート。「2強」の一角であるドイツに「2弱」の一角の日本が挑む構図の一戦である。

 前半において最も頻度が高かったのはドイツがボールを持ちながら日本の攻略にトライする局面である。SBの性質が左右で全く異なるというドイツのバックラインの構成を考えても、ドイツが左SBのラウムを片上げする3バック変形をするチームというのは想像に難くない。よって、ポイントになるのは日本がどのようにプレスをかけていくかである。

 ドイツの保持が左右非対称であるならば、日本の非保持も左右非対称であった。特徴的だったのは1トップに入った前田の動き。右のCBであるリュディガーにボールが入った時はリュディガーの左足側から、久保とズーレの方向に追いやるように誘導する。

 ズーレにボールが入った際には鎌田もスライドし、CHのキミッヒをクローズしながら同サイドに閉じ込める形に。ズーレがボールを持っている時の日本は包囲網を形成している格好だ。包囲網が破られる形になるのは4分のようにキミッヒがフリーになるパターンである。ここを抑えることができるかどうかが、日本が同サイドにドイツの攻撃を閉じ込められるかのポイントであった。

 前田に誘導をかけられていたリュディガーとは対照的に、左のCBのシュロッターベックは比較的日本に放置されていた。前田と鎌田は逆サイドに注意を向けることが多く、同サイドのSHである伊東はWB化するラウムに注意を向けることは多かった。いわば非保持における5バック化である。

 持ち上がることでチームを押し上げるのはシュロッターベックにとっては日頃行っていること。ドイツ代表で言えばネーションズリーグでも度々見られた形である。それでも日本はシュロッターベックを放置する。

 理由は推測になるが、最終ラインがズレる形で受けるのを嫌ってのことだろう。伊東が前に出ていくならば、酒井はラウムとムシアラの監視を一手に引き受けることになる。その状態はリスクが高いと踏んだのだろう。

 シュロッターベックは自在にボールを蹴ることができるが、同サイドの裏へのボールは5枚揃っている状況であれば問題なくケアすることができる。遠藤がサイドに流れて確実に潰す場面もあり、同サイドの裏を取られる形は日本にとっては許容範囲内と言ったところだろう。遠藤がいなくなった中央にはミュラーが虎視眈々とボールが回ってくるのを待っている様子だったが、サイドで潰し切ってしまえば問題はない。

 少し話がズレるが、この試合における日本はドイツの選手を背中から捕まえられている時はほとんど自由な展開を許していなかったし、中盤で挟むことができればカウンターに移行することができていた。中盤での守備で後手を踏むことが少なかったのは、鎌田の献身的なプレスバックに加えて、遠藤の復帰が非常に大きい。

 日本が自由を与える対象をシュロッターベックにした理由の仮説はいくつか考えられる。最も素直なのはカウンターを想定してのもの。カウンターにおいて、日本にとって最もストロングポイントになるのは右の伊東である。シュロッターベックを高い位置まで引き出すことによって、裏を狙いやすくするということである。

 しかしながら、5バック化のために伊東はポジションを下げている。シュロッターベックを引き出すために伊東が位置を下げるのだから、この理由1つ!というのはやや考えにくい。5レーンを埋める形でドイツを封じようという非保持の意図は当然あったはず。ズレで前進することが多いドイツに対して、一人のフリーの選手を許容してでもズレを許さない!というスタンスだったのではないか。ゴリゴリと持ち上がるよりも配球で勝負するシュロッターベックであれば、1人でできることの幅が少ないと踏んだのではないか。

 もう1つ、外的要因も挙げておきたい。ここまでこの大会を見ていて思っていることなのだが、ほとんどのチームに共通してロングキックの精度が低いこと。サウジアラビア戦のリサンドロ・マルティネスもそうだけど、長いキックに自信がある選手が長いレンジのキックを蹴ることがあまりないので、ひょっとするとボールを長いレンジで蹴るフィーリングがあまり良くないのかなとか勝手に思っている。

 長いキックが得意なシュロッターベックにも同じく逆サイドに振るようなキックはなかった。この部分も同サイドの裏に狙いを定めることができるのも日本に風が吹いていたとも言えるだろう。どこまで計算通りなのかはわからないけども、これまでの試合を見て感じたことなので付け足していく。

 日本の対応をまとめるとドイツの右サイドはズーレ方向に誘導し、キミッヒがフリーにならなければOK。左サイドはシュロッターベックを放置し、深い位置でのケアは遠藤が流れて挟む。ボールを奪った後は右サイドを軸としたロングカウンターに移行するという流れ。開始20分ほどまでいい流れで向かうことができたのはカウンターも含めてドイツの保持をある程度想定内に抑えることができたからだろう。

■ミュラーの右サイド移動によりドイツが主導権を握る

 ボールはドイツにもたれているけども、展開としては悪くない状況だった20分までの日本。この状況を壊しに来たのはミュラーである。右サイドにミュラーが流れる状況がドイツに大きく針を傾けたと言っていい。

 日本の左サイドは久保はズーレに注意は向いているし、背後にスピードに不安がある吉田がいる中で長友はグナブリーを離すわけにはいかない。その状況でミュラーが右サイドに流れてくれば引っ張り出されるのは田中碧になる。2CHの一角である田中が引っ張り出されれば日本の中盤は空洞化する。ギュンドアンやキミッヒが中央に顔を出しても中盤は遠藤1人。鎌田がプレスバックしたとしてもムシアラがフラフラしている中央は分が悪いといえるだろう。

 こうなると迷うのは伊東純也。彼は左サイドにボールがある時にはWBになるが、非保持において常に5バックを形成しているわけではない。あくまでドイツの攻撃を右から脱出させないことに注力するならば、絞って中盤のケアに参加するというのもプランにはあるはず。

 その一方で自分のサイドまで展開されれば、ラウムをケアするという明確なミッションが彼にはある。その分の迷いがあったのだろう。中盤のズレを消し切るスライドにはどこまで行けばいいのか?という動きに注力することができなかった。戻り切れない伊東純也によって、野放しになったラウムが生きるようになったのがドイツの攻撃が躍動するようになった大きな要因だ。

 まとめると、右サイドにミュラーが流れることによって、田中が引っ張り出された日本の中盤は広いスペースを管理するリスクにさらされる。そこから伊東の管理外にあるラウムにボールを渡すことができればドイツはチャンスになる。まさしくPKのシーンはズレを使ったドイツの日本攻略の真骨頂である。外に流れたミュラーから中盤でフリーになるキミッヒにボールがつながり、逆サイドのラウムまで展開する形でドイツは権田のPKを誘ってみせた。

 日本からすると明らかに構造的に殴られている時間が続くことになる。ドイツが厄介なのは大外のラウム以外にも違うルートでゴールに向かうことができること。伊東が決め打ちでラウムに注力すればギュンドアンがミドルを放ってくるかもしれない。中央にいる選手はハフェルツ、グナブリー、ムシアラのうち誰で何人なのかもシーンによって違う画になっている。再現性があるようで、乱数が多く混ぜられているドイツの保持は日本に画一的な対応を許すことがなかった。

 というわけで祈るしかできない日本。前半の終盤にハフェルツがネットを揺らしたシーンでは意図してとったわけではないオフサイドとVARという「テクノロジー発動」に日本は救われることとなる。1-0で凌ぐことができたのに幸運の要素が絡まっていたのは検証するまでもない事実と言えるだろう。

■ズレてるのは日本の保持局面オンリー

 日本は後半に5バックにシフトする。この修正は明らかにこの試合のターニングポイントとなる。交代の目的の1つはドイツの保持に対する日本の手当である。前半に構造的不利を放置し、ハーフタイムまで日本が交代策を引っ張ったのにはいくつか仮説が挙げられる。

「WB伊東を常態化させるとあまりにもカウンターの枚数が少なくなる」「かといって交代回数を1回使ってまで5バックに移行するのは勿体無い」「オンプレー中はそうしたプランの変更が通りにくい」
「(選手たちの声を聞く限りたくさん準備に時間をかけたプランではないので)ハーフタイムにプランの明確な説明が必要」
「ハーフタイム後に交代をすることによってドイツに対策を打つ時間を減らす」

 ざっとこんな感じだろうか。とはいえ、ご覧の通り前半のうちに2失点目を喫していた可能性は否定できないし、それがミュラーの移動というおそらく個人単位で対応できる変化で持たされたものであることは明白。なので、手を打てなかっただけ!という考え方もわかる。もちろん、森保監督が賭けに勝ったという見方も当然できる。いずれにしても、外からどの仮説が正しいかを考えることは不毛だし、結果は当事者のみぞ知ることなので、ここではピッチ上の現象にフォーカスして考えることにする。

 さて、冨安の投入により日本は5バックにシフトした。とは言っても前半よりも迎撃の意識は強め。前半のようにドイツが使いにくるであろうスペースをあらかじめ埋めるスタンスというよりも、マンマークで強気にプレスにいくための3-4-3。ズレを作らせない対人守備ではある程度やれた!という手応えがそうさせたのかもしれないし、1点ビハインドという状況がこのプランを後押ししたのかもしれない。いずれにしても前半に比べると「強気に」「恒常的に」「マンマーク」で行う3バックにシフトしたと言えるだろう。

 これにより日本はプレー位置を敵陣に押し返す。ドイツの左サイドのユニットはズレを作れるとうまいけど、前が塞がっていると厳しい。伊東と酒井でシュロッターベックとラウムをだいぶ追い詰めることができていた日本だが、ここに登場するのがムシアラである。わずかな隙でターンをすることができるムシアラが降りていく動きからボールを受けると、前を向いて敵陣に進軍。詰まりがちなドイツの左サイドの手助けになっただけではなく、ボールを運んでゴールを脅かす役割までやってのけた。ここも日本にとってはなんとかなれ!と祈るしかない部分だったと言えるだろう。

 先にも述べたように、ドイツは基本的に保持でズレを作る志向が強いチーム。ラウムを片上げし、実質的に3-4-3になり、そこからミュラーの動きでズレを作り、主導権を握ったのが前半のドイツ。わずかなズレを作れるムシアラの存在は怖いとはいえ、前半にドイツが享受していた構造的な優位は消えたと言えるだろう。

 システム変更により、少なくとも押し込まれる機会は減らすことに成功した日本。だが、システム変更の恩恵はボール保持にも及ぶ。ドイツは日本のボール保持においては4-2-3-1に戻るが、日本は保持と非保持の両面で基本システムを3-4-3にした。そのため、日本がボールを持った局面においてはシステムのズレが継続することになる。つまり、日本にとっては保持の方向だけズレの優位をいかせている形になる。

 加えて、ポイントになったのは日本の選手交代。WBに三笘を投入したり、酒井の負傷で南野を投入したりなど、徐々に前線の選手は攻撃色が強くなってくる。すると、敵陣の深い位置で5レーンそれぞれに人が立つ形になる。特に存在感を放っていたのは左の大外に立っていた三笘。この対応にズーレが流れることにより、ドイツはSB-CBの間のスペースが開くようになる。

 このスペースを狙っていたのは南野。同点ゴールのシーンにおいては大外の三笘からのボールをハーフスペースの裏で受けた南野が堂安の同点ゴールに繋がる折り返しを決める。決めたのは堂安。逆サイドから絞ってフィニッシュをもぎ取ってみせた。

 おそらく、これにとっては日本にとってはワンチャンスと言える形。2分後に同じように南野が左のハーフスペースから裏抜けした場面では、三笘を他の選手が監視し、南野の裏抜けを予測したズーレが完全に潰し切っていた。同じ形のチャンスメイクは期待できなかっただけによくワンチャンスで決め切ったように思う。

 ドイツからすると非保持での対応が後手になったのが後半に苦しんだ直接要因になる。ホフマン、ラウム+3CBでの5バック形成はネーションズリーグでもやっていた形なので、ホフマン投入のタイミングでズレを消す5バック移行はできるかなと思ったのだが、スムーズに対応することができなかった。そのあたりは代表戦ゆえの難しさだったり、システム変更がオンプレー中には難しいという環境要因もあるのだろう。

 同点にした時点で日本の意識は基本的には後ろを埋めることを重要視するようになる。5バックは自陣で相手を迎撃するスタンスにシフト。三笘が冨安の横でロングボールを跳ね返し続けるという姿を予測できたファンはおそらくいないはずである。南野、堂安のシャドーコンビのプレスバックも効いており、三笘と伊東も明確に負けることはなかったため、サイドがウィークポイントにならなかったのは非常に大きかった。

 後ろに重きを置いたプランにおいて得点までは難しいかな?と思ったファンは多かっただけに、浅野の勝ち越しゴールはまさに僥倖。マッチアップ相手がこれまで前田と浅野のマッチアップを潰し続けていたリュディガーではなく、シュロッターベックだったのは幸運と言えるだろう。一方で抜け出しからのシュートの一連はまさしく浅野の技術の賜物。インサイドに進路をとるトラップに加えて、実質ニア天井一択のシュートをノイアー相手に決めてみせたのだから、この男は恐ろしい。

 大男がズラッと並ぶドイツのセットプレーには冷や汗をかかされたが、ラストプレーにおける権田のハイボール飛び出しからのパンチングには痺れた。1-0局面の連続スーパーセーブしかり、彼もまたこの試合の主役の1人ということに疑問の余地はない。

 日本のW杯史上初の逆転勝利はなんとドイツ相手。前日のサウジアラビアと同じくアジア勢として大仕事を果たした日本がグループEの幕開けに特大の波乱を巻き起こした。

あとがき

■10回に1回を引き出した勝負師ぶりとと引き上げる努力継続を感じる90分

 前半に2-0になっていればゲームオーバーだった展開の中で、凌ぐことができたのは幸運だろう。ポストに弾かれたギュンドアンのシュートやハフェルツのオフサイドなど、幸運の助けがなければ今はドイツには勝つことはできないし、それが今の日本の実力である。

 追いかける際のプランはリスクも隣り合わせのものだったが、格下のチームが追いかける展開になるのだからリスクが出てくるのは当然とも言える。修正しなければ一本調子にタコ殴りにされる展開もありえた中で、修正と選手交代に成功した森保監督の勝負師としての才覚には脱帽するばかりである。

 同時にドイツとの力関係は10回やれば1,2回くらいは勝てるかもくらいの肌感覚であるとも自覚できる一戦でもあった。そうした部分はその日のプラン1つでおいそれと埋められる差ではない。代表選手の日常の引き上げしかないだろう。そうした差に自覚的であることと、今回の勝利を祝う気持ちは同居することはなんら不自然なことではない。日本の勝利に心躍り、この大会の先行きに期待を膨らませつつ、次にドイツと当たる時には、日本代表がよりがっぷり組み合えるチームになっていることもまた期待したい。

試合結果
2022.11.23
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第1節
ドイツ 1-2 日本
ハリファ・インターナショナル・スタジアム
【得点者】
GER:33′ ギュンドアン
JPN:75′ 堂安律, 83′ 浅野拓磨
主審:イヴァン・バートン

第2節 スペイン戦

■プレスの開始位置が主導権を決める

 グループEどころか、グループステージ48試合の中でも最注目と言っていいカード。ドイツにとっては日本がコスタリカに敗れたことで、予選突破に再び希望が灯った形での一戦となった。

 立ち上がりからボールを持ち続けたのはスペインの方である。アンカーのブスケッツこそ、常にギュンドアンにマークされる状況ではあったが、その分CBには時間がある形。バックラインからボールを繋ぎ、サイドにおいては三角形を形成。ドイツ陣内の深い位置までポゼッションを行いながら、ボールをロストすると即時奪回。ずっと自分たちのターンを続けてみせる。

 スペインのハイプレスのポイントはドイツのホルダーに対してマイナス方向に帰陣しながらきっちりと挟むことが多かったことである。一般的に即時奪回の目的でまず挙げられるのは素早いショートカウンターへの移行。高い位置で奪うということで、敵陣深い位置で相手の守備者が少ない人数の中で素早く攻略をしてゴールを陥れるという方向性になることが多い。

 ただ、スペインに関してはハイプレスはボールを握り直すことや、相手の進撃を止める意味合いが強い。無理にショートカウンターまで行かなくても、ボールを奪い返しさえできればきっちりと自分たちのサッカーに持っていくことができるということだろう。その分、人数をかけても奪い返す。アタッカーが前に残らなくてもボール奪取後にポジションを整える時間を作れば問題がない。

 ドイツはなかなか自陣から脱出できない立ち上がり。ボール保持に関してもバックラインにプレスがかかっている状態で前進する隙を探るかきっかけを見つけることができない。日本戦でも見たようにムシアラなどは前を向ければ多少強引でも前進はできるが、スペインの即時奪回はそれを許さない立ち上がりだった。

 しかしながら、ドイツにもチャンスがなかったわけではない。ドイツ陣内に押し込んだ時のボール保持に関しては明らかに分があったスペインだったが、自陣側でのボール保持は思ったよりも余裕がない。特にサイドからウナイ・シモンにボールを戻す際には時間がないことが多く、苦し紛れのキックがドイツに渡りショートカウンターになることも多かった。

 よって、この試合の優劣を決めるのはスペインがプレスを受けるエリアである。スペインが一度敵陣にきっちり押し込めば、バックラインを活用してもドイツが簡単にボールを奪うことはできないが、スペイン陣内でドイツがプレスのスイッチを入れた時には一気に苦しくなる。前半の終盤は敵陣後方でボールを奪うことができていたドイツのペースだったと言っていいだろう。

 後半もメインとなるトピックスはドイツのプレスの開始位置である。ドイツが敵陣深くでスイッチを入れてマンマークで追いかけ回すことができるか、スペインがCBがオープンでボールを持てる状況まで押し返すことができるか。その部分のせめぎ合いであった。

 後半で少し気になったのは前線にボールが入った時のスペインのプレーである。特にアセンシオにボールが入った時にアバウトでもゴールに向かう動きを挟むようになった。不確実なゴールチャンスより、確実なポゼッションを選ぶ方が彼らのスタンスからすると自然。アセンシオのこの立ち上がりのスタンスはスペイン基準で言うとやや不自然なものだったと言えるだろう。

 よって、この時間帯はやや縦に速いプレーの応酬が見られるようになった。試合のテンポが早くなったら躊躇なく敵陣までスピーディにボールを運ぶようになったドイツからすると、この部分では十分に勝算があるということだろう。

 陣取りゲームの様相で不利になりかけたスペインは前線にモラタを投入。右サイドの裏抜けを中心に、陣地の押し下げに貢献する。モラタはフィニッシャーとしても活躍。フリーになったブスケッツから左サイドを加速させるパスが通ると、最後は折り返しをモラタが押し込む。ズーレに対して明らかに一歩先の動き出しができており、オフザボールの動きに定評があるモラタのスキルとスペインのポゼッションとが見事に融合したゴールと言えるだろう。

 スペインは以降はボール保持を優先。ドイツは失点シーンにも代表されるように先発メンバーで引っ張り続ける中盤のプレスの機能性がやや低下したように思えた。フレッシュなトップが前に出ていっても、中盤がついていけないシーンが目立つようになる。

 しかし、交代したアタッカーが躍動するのはスペインだけではなかった。ドイツの交代選手の中で目立ったのはザネ。右サイドからの横ドリブルに裏抜けを合わせる形でゴールへの導線を切り拓く。同点ゴールのシーンでこの動きを見せたのはこちらも交代で入ったフュルクルク。相手の背中を取る動きと豪快なフィニッシュの組み合わせで試合を振り出しに戻してみせる。

 スペインからするとラポルトのキャリーがミスになったのは痛恨。フリーでボールが持てていた選手からの不安定な展開で、連勝を逃したことは彼らにとっては苦しいところだろう。

 保持で試合を殺しきれなかったスペインに牙を向いたドイツ。依然グループ最下位ながらも、最終節に向けての逆転突破が十分視界に入る勝ち点1を奪い取ることに成功した。

試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第2節
スペイン 1-1 ドイツ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ESP:62′ モラタ
GER:83′ フュルクルク
主審:ダニー・マッケリー

第3節 コスタリカ戦

■共にオープンであれば力の差は明瞭

 他会場次第で突破条件がかなり複雑になっているグループE。明快なのはコスタリカ。勝てばOK、引き分けならば日本が負ければOK、敗れればノーチャンスである。一方のドイツは勝っても敗退の可能性がある状況。勝利は最低条件で、場合によっては勝ち点が並ぶ日本とスペインを得失点差で越えなければいけない可能性が出てくる。ドイツは大量得点を狙いにいくのか?いくならどのタイミングで?というのは難しい舵取りになる。

 コスタリカのプランは日本戦とほぼ同じ。5-4-1でのミドルブロックで相手のバックラインにはボールを持たせてOK。ラインを上げつつ、陣形はコンパクトにしつつも人数的な重心は後ろにあるという状況だった。

 そうしたコスタリカ相手にドイツは序盤から容赦なく襲いかかっていく。ラインを上げるということは裏へのスペースがあるということ。ワンツーからの抜け出しで積極的に背後を狙っていたのはグナブリー。左サイドを切り裂いて、エリア内に危険なボールを入れていく。

 左サイドで言うとムシアラも相変わらず強力。狭いスペースを細かいタッチを繰り返しながらスルスル進み、対面する相手の選手に飛び込む隙を与えない。左サイドを拠点とするこの2人に対して、コスタリカはかなり厳しかった。

 ドイツはPA内に人数をかけていたとはいえ、コスタリカの守備陣の方が人は多い。しかしながら、クロスに合わせるドイツの選手にコスタリカはマークをつけられないことが多い。スペースに入り込んでクロスに合わせる動きについていけないのであれば人数など意味がないのだなと言うのがこの試合の学びである。

 ドイツは早い時間に先制点をゲット。左サイドでボールを奪ったドイツが開いたラウムに繋ぎ、仕上げはグナブリー。あっさりとコスタリカの守備ブロックを破ってみせた。

 コスタリカとしては0-0で進めると言うプランが崩れてしまった点でこの失点は重くのしかかる。その上、この失点の起点となったボールロストはキャンベルによるもの。日本戦で低い位置でボールを受けてはぬるっとしたドリブルから突破やファウルを奪い取ったキャンベルがボールの預けどころとしてはちっとも通用しなそう!と言うのもここから先にドイツと戦う上で頭が痛い部分だと言えるだろう。

 コスタリカのボール保持には停滞感があった。ボールを奪い返したらショートパス主体のスタイルに移行するコスタリカだが、キャンベルという預けどころが潰されたままのショートパスは行先不明感が漂っている。下手なパスを中央に刺せば、簡単にカウンターを食らうという恐怖心もあるだろう。ドイツは前に出たコスタリカの攻撃を止めるところから素早く縦に攻撃に打って出ることができるチームである。

 低い位置においてもボールが収まらないことがわかったキャンベルは試合途中で前線に位置を変更。ロングボールを増やしながら押し上げを狙うが、アバウトな選択を早い段階で取る方針はドイツが攻める機会を誘発しているとも言える。オビエドが高い位置でボールを持てるくらいまでいけば、ひとまずショートカウンターの脅威は薄まると言えるが、コスタリカがここまで保持を持っていける機会は数えるほどだった。

 ほぼ、ドイツペースで進んでいる試合の中で前半のコスタリカの唯一のチャンスを生み出したのはフレール。日本戦でワンチャンスをものにしたミラクルボーイがドイツを慌てさせる場面が、コスタリカの前半の最大の見せ場だった。

 後半、ドイツはキミッヒを中盤に移動し、SBにクロスターマンを起用。さらに攻撃を意識し、得点を取りにくるための交代と言えるだろう。中盤でボールの預けどころを増やしたドイツだが、ゴレツカが下がった分中盤のデュエル強度は低下。前半はからっきしだったコスタリカが中盤でもボールを収める機会がだんだんと出てくるようになった。

 徐々にカウンターを受ける機会が増えてきたドイツ。3バック化していた日本戦と異なり、後方はCBが2枚残るという状況もコスタリカのカウンターを潰しにくい要因と言えるだろう。コスタリカの同点弾はまさしくリュディガーとズーレをオーバーフローさせた形での失点だった。

 同点になり明らかに混乱が見られるドイツ。守備陣は広いスペースへの対応を整理できないまま、攻撃陣が前に前にという状況で前後の分断が生まれる。その混乱に乗じて、コスタリカはセットプレーから追加点。エリア内でのデュエルにことごとく勝ち、逆転となるゴールを押し込んで見せた。

 直後にドイツはゴールで落ち着きを取り戻す。ハフェルツの氷のようなフィニッシュは展開と異なり、氷のようにクールなフィニッシュだったと言える。点を決めた後は相手とがっつり喧嘩していたけども。

 後半は裏の会場で日本が逆転というこの2グループにとっては有り難くない状況が発生する。追い落とす対象がスペインに切り替わったことで、コスタリカ、ドイツともに得点が必要な状況になる。

 ともに得点が必要というシチュエーションは明らかドイツに有利なものだった。オープンでの打ち合いになれば両チームの攻撃の威力の差は明らか。コスタリカのPA内での対応の拙さを思い出すようなハフェルツのゴールで逆転すると、最後はサネの抜け出しにフュルクルク。タレントの差であっさり押し切ってみせた。

 得点をとり、後は吉報を待ちたいドイツだったが、他会場からの嬉しい報告はなし。同じ勝ち点4で並んだスペインとはコスタリカをどれだけ叩けたか?という部分で差がつくことになってしまった。

試合結果
2022.12.1
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第3節
コスタリカ 2-4 ドイツ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
COS:58′ テヘダ, 70′ ノイアー(OG)
GER:10′ グナブリー, 73′ 85′ ハフェルツ, 89′ フュルクルク
主審:ステファニー・フラッパート

総括

■紙一重の敗退で気になったズレとの付き合い方

 やってしまった!!!!2強2弱と目されたグループでありながら日本にまさかの逆転負けを喫してしまうとスペインには粘りの引き分けで望みをつなぐ。「スペイン頼んだで!!!」と臨んだ3試合目にスペインに裏切られてしまい終戦。2強2弱のグループなのに2強が走らなかったことで割を食ってしまった。

 なんで敗退したの?と言われると難しいところではある。負けたとなると何事も悪いこと探しから始まってしまうと思うが、270分を要素還元的に振り返ってみれば、明らかに悪い過ごし方をしたのは日本戦の後半45分くらいのものだろう。むしろ、スペインとの一戦は非常にレベルが高い鍔迫り合いであり、グループステージの中においてはベストバウトといっても差し支えがない内容だった。基本的には強いチームだなというのが正直なところである。

 ということは敗退の要因は日本戦の45分に詰まっているということになる。日本に対応された理由はズレに頼りすぎている部分が大きいからだろうか。相手をずらすということができていた前半45分は明らかに日本を圧倒することができていたし、後半45分はハメられてしまい手詰まりになってしまった。

 サッカーのレビューを書いていると度々図を使って説明をしたくなるズレみたいなシーンは試合の中で登場する。ただ、正直な話、試合はそういったこと以外で決まることが多い。例えばミドルシュートがいかに強烈かを伝えるためにフォーメーション図はいらないし、ドリブルの技術の高さを図で表現するには限界がある。

 欧州予選やEUROでドイツ代表を見てきて思ったのは、そうしたチームの中ではドイツは図で使える事象で勝因を説明しやすいチームであるということだ。盤面でのズレに頼りすぎている感はそうした部分から出るのかなとなんとなく思う。

 それでも、ドイツは5-4-1型の撤退に対して崩す手段がないチームというわけではない。コスタリカ戦をみれば敵陣に押し込んだ相手に対しては明確な解を持っているチームだし、ハフェルツのように背中を取れるアタッカーも存在感を放っていた。グナブリーは左サイドを制圧したし、日本戦同様に暴れ回ったムシアラに至っては図で示せないような「バグ」を作り出せる選手と言えるだろう。

 コスタリカに比べれば日本の5-4-1は明らかに強度が高かったが、その日本戦においてもシュートがボール1個内側だったり、オフサイドラインを一歩超えなかったりと紙一重で変わった部分である。逆に日本戦の逆転はDFラインのわずかなミスが命取りになった。

 今回の敗退を糧にするならズレとの付き合い方になるだろう。誰がどこに入っても機能するスペインのような均質性はない一方で、ブラジルやフランスほどバグを作り出せる選手は多くはないのが少し気になるところだ。

Pick up player:ジャマル・ムシアラ
 細かいタッチでDFに飛び込むことを許さず、何人もの相手を抜き去った怪物。期待にそぐわないことが起きた強豪国はビックトーナメント以降の舵取りは不透明な傾向がある。だが、ドイツがどの道を選ぼうとそこにムシアラがいることだけは間違いない。そんな思いを抱かせる圧巻のパフォーマンスだった。

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