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「Catch up Premier League」~Match week 23~ 2023.2.11-2.13

目次

ウェストハム【17位】×チェルシー【9位】

チェルシーの特性が良く表れた得点と失点

 流れとしては対照的な両チームである。今季なかなかパフォーマンスが上がらない中で前節ニューカッスル相手にきっかけをつかめそうな内容を見せたウェストハムと、巨額を費やしながらも決定的なブレイクスルーを掴めない状況が続いているチェルシー。共に上昇気流に乗りたいという点では共通しているロンドンダービーである。

 まず、ボールを持ったのはチェルシー。ウェストハムはCBにボールを持たせてOKというスタンスでスタートする。が、ウェストハムの守り方には難点があった。基本的には前3枚でプレスに行くのだが、後方がほとんどこれについていかないこと。前の3枚がCBにプレッシャーをかけようものならば、背後のスペースはあっさりと空いてしまいチェルシーは難なくボールを運ぶことができる。

 このウェストハムの慎重さはチェルシーの前線にとってはおいしい部分。降りてボールを受けたがるフェリックスや左の大外から背負ってからの反転で足の長いパスを送るのを好むムドリクにとってはウェストハムのバックラインの押し上げのなさは格好の的である。降りて受けて、彼らの足の長いパスから一気にチャンスを迎えるという形で序盤からチェルシーがゴールに迫る。エンソからのフェリックスのゴールはこの日のチェルシーの狙いが結実した形といえるだろう。

 が、そんなチェルシーも問題を抱えていることは明らかである。バック4に加えてCH、これにフェリックスやムドリクまで低い位置でボールを受けたがれば、必然的に後方は重くなる。先述の通り、ウェストハムはプレス隊に多くの人数を割かない上に、チェルシーの降りる動きに対してはほぼ無頓着。となれば、降りる動きが後方のスペースを作る動きの役には立っていない。

フェリックスやムドリクの縦への鋭いパスは武器としては威力は十分で、精度の高いものではある。だが、前線に人を送り込むシステムを伴わない一撃必殺型の武器であることも事実である。陣地回復の手段という観点ではチェルシーに足りないものがあるといえるだろう。

 チェルシーの陣地回復問題は非保持でも顕在化することになる。SHの守備のスタート位置が定まらない分、ズルズル下がってしまうのが彼らの非保持の難点である。特にムドリクはそうした傾向が強い。スペースを埋めることをサボらず勤勉なタイプではあるが、ラインを押し上げる動きやボールを刈りに行く動きには不満が残る。

 ウェストハムの同点ゴールのシーンなどはチェルシーの左サイドの消極的なクロスが原因になる。サイドでどこまでクロスを上げさせていいか?の話はインサイドの対空性能に拠るところもあるので、このシーンにおけるサイドの守備にどこまで責任を問うかは

難しいところだが、よりテンポが速いビックマッチにおいて、非保持での高い迎撃ができなければそれは足かせになりうるだろう。保持では存在感を放っているだけに早い段階での改善を求めたい。

 ウェストハムは前半の中盤からプレスの強度をあげることで相手のバックラインから時間を奪っていく。これが効くのだからチェルシーは難しい。後方を重くするビルドアップの正当性はこうした手詰まり感である程度証明されてしまうからである。ビルドアップの人数を減らして前に人を置こうぜ!というのは、少なくともこの時間帯のチェルシーを見る限りは難しい。

 後半も強気に出てくるウェストハム。ボールを奪った後に直線的にゴールに向かうアントニオはここ数試合の身体のキレの良さを維持していることを証明している。ソーチェクのあわやというゴールも含め、後半もウェストハムには得点のチャンスはあった。

 しかしながら、後半のチェルシーはポゼッションを増やしながら徐々に敵陣に押し込む時間を確保していく。ムドリク、マドゥエケという勝負できる両翼をポイントとして使えていたのは大きい。うまくいっていないと評判のムドリクとククレジャだが、WGのポジションがインサイドに絞るケースも後半はしばしばみられており、前半よりはうまくいっているという見立てもできるだろう。

 仕上げのポイントとなるのは裏への抜け出しというのは前半と同じ。左のSBに追い越す動きが得意なククレジャが入ってからはさらに活性化したことがこのポイントの重要さを裏付けている。

 終盤にはソーチェクのハンド疑惑という文句を言いたくなる場面もあったが、結果的にチェルシーはウェストハムのゴールをこじ開けられずに終戦。またしても勝ちを掴めないチェルシーは未勝利が続く中でCLのノックアウトラウンドを迎えることとなる。

ひとこと

 今のスカッドの強みも弱みも徐々に顕在化してきたチェルシー。どの特性がどこまで影響するのか、組み合わせにより増幅したり減衰したりするのかを早めに見極め、CLで適切な運用ができるように持って行きたいところだ。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
ウェストハム 1-1 チェルシー
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:28′ エメルソン
CHE:16′ フェリックス
主審:クレイグ・ポーソン

フラム【8位】×ノッティンガム・フォレスト【13位】

フォレストのプランが際立たせるフラムの強さ

 まず目についたのはノッティンガム・フォレストの並びである。通常であれば、トップ下+2トップの形で前線を組むことが多いチームだが、この試合では4-2-3-1で前方は4枚の形となっている。

 フォーメーション以上に特徴的だったのはフォレストのボールの循環の仕方である。今季の彼らはまずトップ下のギブス=ホワイトにライン間で受けてもらうとことから攻撃がスタートする。しかしながら、この試合においてはサイドの奥の深いところに後方からロングボールを当てる形でチャンスメイクを行う。

 このやり方はおそらくフラムの特徴であるミドルブロックのプレッシングを回避するためだろう。フォレストが使いたいライン間のギブス=ホワイトやそこに繋がる中盤への縦パスはフラムのプレッシングの得意分野である。そこを回避するために、左右の長いボールで中央のスペースを回避しながら前進を狙っていく。7分に両CBが一気に負傷交代したのも、彼らの安全策に拍車をかけた可能性もある。

 このやり方がうまく行っていたかは微妙なところ。フラムのボール奪取を阻害し、変なボールの奪われ方をしないという観点ではある程度成功したと言えるかもしれないが、自分たちが効率的に前進できていたかと言われるとまた別の話。どちらかといえば、自分たちが得意な形はどうせ封鎖されるので、せめて相手の得意な形だけは制限したいという意味合いの方が強いかもしれない。結局フォレストの効果的な前進は24分のようにライン間のギブス=ホワイトを起点にジョンソンが抜け出すといういつもの形だった。

 とはいえ、フラムがいつも通りのリズムを掴めなかったのも事実。それでも自陣の深い位置からリームという司令塔を軸にポゼッションから組み立てることができたので、フォレストほどの手詰まり感はなかった。

 そんな中でフラムはセットプレーから先制。ペレイラがオーリエから受けたファウルをきっかけとするFKからウィリアンが左足でスーパーゴールを生み出す。

 以降もペースを握ったのはフラム。ポゼッションからの組み立ての手段があることと、左サイドを起点としたアタッキングサードの侵入から追撃を狙う。フォレストはロングボールだけではニッチもさっちもいかないので、覚悟のショートパスでの繋ぎにトライするが、フラムのミドルプレスが徐々に刺さるように。危ういカウンターはフォレストになぜ彼らがロングボール主体のプランを選んだのかを思い出させた。

 後半もなかなか流れが変わらずに苦労したフォレストだったが、選手交代から徐々に流れを整えていく。シェルビー、デニス、アイェウとプレミア経験組を続々と投入し、ライン間と大きな展開を駆使しながら敵陣に侵入していく。セットプレーからのオーリエのあわやというシーンなど、フォレストは時折ゴールに迫る場面も出てくるように。

 フラムは後半頭はやや不安定。ウィリアンの負傷交代もあり、バックラインからのボールのキャリーはやや不安定なものになっていた。それだけに交代で追加点を決めたソロモンは非常に大きな仕事をしたと言えるだろう。後半、活性化している右サイドから侵入し、決定的な2点目を手にすることに貢献した。

 逆にこのシーンにおけるデニスはプレスをかけるフェーズにも関わらず、同サイドの封鎖にあっさりと失敗している。チームは徐々に上向いてきているが、彼自身は開幕からの低調を抜け出すことができていない。

 試合はフラムの完勝。昇格組同士の一戦ながらもフォレストに力の差を見せつけた。

ひとこと

 初めのフォレストのプランからして、フラムがある程度押し付けた感があるので、フラムはだいぶ強く警戒されるチームになったんだなと思った。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
フラム 2-0 ノッティンガム・フォレスト
クレイブン・コテージ
【得点者】
FUL:17′ ウィリアン, 88′ ソロモン
主審:アンディ・マドレー

レスター【14位】×トッテナム【5位】

幻の4点目がダイジェスト

 広くビルドアップするレスターに対して、強気でトッテナムがプレスをしてくるスタートとなる。バックラインからのビルドアップは左右に大きく振ることでチャンスメイクを行うレスター。狙いを定めることができたのはトッテナムの右サイド。新加入のポロは迎撃から相手を逃してしまう場面が多く、レスターの左サイドをスピードに乗せてしまうことが多かった。

 一方のレスターも非保持側に回れば強気のプレッシングになる。トッテナムよりもバックラインが積極的にボールを狩りに行く姿勢が目立っていた。しかしながら、レスターの迎撃はライン間のスペース管理はあまり行われておらず、ひっくり返すチャンスはトッテナムに残されていた。ケインのポストからペリシッチの抜け出しのシーンを演出したシーンなどはレスターが抱えるリスクが顕在化した部分だろう。

 どちらのものともいえない展開から先制したのはトッテナム。セットプレーからベンタンクールが押し込んで先制点を奪う。クリスティアンセンが懸命にクリアした次のCKからあっさりと失点してしまうのだからなかなかにハードモードである。

 先制したので落ち着いてローブロックを組むトッテナム。しかし、レスターはセットプレーをセットプレーでやり返すことに成功。ニアすらしをファーに

 押し込む形を何とか跳ね返したトッテナムだが、最終的にはメンディのスーパーなシュートで同点ゴールを決めて見せた。

 この同点ゴールを境にトッテナムの前線とレスターのバックラインのマッチアップのパワーバランスが変わる。レスターのバックラインの強気の姿勢にケインが気圧されてしまい、徐々にボールが収まらない状況に。前向きに相手を仕留めるファエスが高い位置からインターセプトに出て行くことでカウンターが発動。間延びしたトッテナムの守備をあっさり攻略し、バーンズが2点目を決める。

 こうしたレスターの積極的な守備でトッテナムは攻め手を失ってしまった感がある。中央のユニットが積極的に前に出て潰しにいく分、サイドのクリスティアンセンが後方でカバーに走るのも好印象。ポストプレーがケインに偏るスパーズ相手であればこうしたバランスで十分に守備はなり立つ。

 先制したために落ち着いたはずのトッテナムは逆転まで持っていかれてしまい、やや混乱気味だったように思う。ローブロックからのギアチェンジに苦戦し、プレスのスイッチは入れにくく、レスターの保持に対してズルズルとポジションを下げてしまう。

 頼みのケインもレスターのバックラインにつかまり続け、攻撃の起点というよりもカウンターの温床になっていたといった方が正しいだろう。前半終了間際に決まったレスターの3点目も果敢なカットから出て来たカウンターである。

 反撃に出たいトッテナムだが、攻撃は恐る恐るのポゼッションと単発のカウンターに終始。前半の失点の仕方を見れば、この日のトッテナムが強引さに舵を切れないのは理解ができる。

 さらに直後のベンタンクールの負傷交代でこの日のトッテナムの勝ち目はほぼ消滅した感があった。キャリーに迎撃にプレッシングといろんなものを背負っていたベンタンクールの長期離脱はトッテナムの後半戦に暗い影を落とすものである。

 ベンタンクールの負傷で試合は再びレスターがボールを持ちながら攻略を行うターンになる。レスターがオフサイドで取り消された幻の4点目は今日のハイライトのようだった。トッテナムの前線のロスト、中盤で劣勢になり、レスターの左サイドに簡単に入れ替わられる。

 この瞬間には4失点目の屈辱を避けることが出来たが、その後バーンズのゴールで正真正銘の4点目をレスターに決められてしまう。2試合連続の4得点を決めたレスターが連勝。降格圏から一気に遠ざかるポイントの積み重ねに成功した。

ひとこと

 爆発力は本物感が出てきたレスター。試合運びの部分に難はありそうだが、この日のトッテナムのように迷いがあるチームは簡単に吹き飛ばすことができる勢いがあることを証明して見せた。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
レスター 4-1 トッテナム
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:23′ メンディ, 25′ マディソン, 45+4′ イヘアナチョ, 81′ バーンズ
TOT:14′ ベンタンクール
主審:マイケル・サリスベリー

アーセナル【1位】×ブレントフォード【7位】

9戦無敗の看板に偽りなし

 レビューはこちら。

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 前節、鬼門であるグディソン・パークで敗れたアーセナルは今季得意なホームのロンドンダービーという舞台で巻き返しを図る。だが、相手はロンドンどころかプレミアにおいても最も好調なチームであるブレントフォード。9試合連続負けなしが続く曲者相手の一戦でアーセナルは前節のリカバリーを目指すこととなる。

 立ち上がりはプレッシングに出てくる素振りもわずかながらあったブレントフォードだが、時間の経過とともにリトリートを重視した後ろ重心のスタンスに切り替えていく。アーセナルはトーマスがフリーでボールを持つ時間が増え、ボールを左右に動かすことができるようになる。

 サイド攻撃においても人員をかけることが出来たアーセナル。普段はややビルドアップのタスクにかかり切りな感じがするジンチェンコも、トーマスに全てを任せてOKなので高い位置でのマルティネッリのサポートをいつも以上に行うことが出来た。アーセナル側のWGのサポートの少なさという前節の課題は明らかに低減されているといえるだろう。

 しかしながら、5-3-2で構えるブレントフォードはサイドのトライアングルに対して守りを固めやすいシステムになっている。アーセナルからすると旋回に対しても相手はついてくるし、ストロングサイドでもある右はサカを起点に少し崩せたと思ってもベン・ミーが飛んできてカバーリングを行う。

 もちろん、クロスを上げるだけならば抜ききれなくても問題はないが、PA内を固めるブレントフォードのインサイドはリーグ屈指の高さ。ふわっとしたクロスでは得点になる可能性はほとんどない。ということはよりサイドでズレを作ることに注力しなければいけないということである。

 だが、アーセナルもブレントフォードのサイド攻略にばかり集中できるわけではない。トニーへのロングボールを軸としたブレントフォードの前進はアーセナルのバックラインも手を焼く代物。特にボールを拾ってからのサイドへの展開や裏抜けまでのスムーズさはアーセナルを苦しめた。決定機の数だけでいえば、試合を通してブレントフォードの前半が最も得点の匂いがする時間帯だった。

 しかしながら、後半は徐々にアーセナルがペースを迎える。ボールホルダー付近のプレッシャーが弱まったことで、徐々にアーセナルはサイド攻撃からクリティカルな敵陣へのラストパスを送ることができるようになる。抜け出してからの鋭いクロスも増えてきたアーセナル。移籍後初ゴールを決めたトロサールにおぜん立てした右サイドの崩しはこの日のお手本となるような崩しだった。

 これで大きなアドバンテージを得たアーセナルだが、ブレントフォードの空中戦はそれでもアーセナルを追いかけてくる。セットプレーからアーセナルのエリア内をどんどんとヘッドでつなぎ、最後はトニーが決めて同点になる。ちなみにこれは公式が認めるミスジャッジ。本来であれば、折り返したノアゴールがオフサイドで認められないはずのゴールだった。

 運のなさもあったのは確かだが、ブレントフォードの9戦負けなしという看板に偽りがないことを体感したこともまた確か。今季初のリーグ戦2試合連続未勝利でアーセナルはついに次節天王山を迎えることになる。

ひとこと

 プレス無理!から撤退するスピードの早さにアーセナルが強いチームになったことを実感した。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
アーセナル 1-1 ブレントフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:66′ トロサール
BRE:74′ トニー
主審:ピーター・バンクス

クリスタル・パレス【12位】×ブライトン【6位】

上位追走の絶好の機会だが・・・・

 ブライトンホームでの対戦が延期になっている影響で今季初めての開催となったM23ダービー。因縁のカードではあるが、試合はそうした因縁とは無縁の非常に落ち着いていて論理的な立ち上がりとなる。

 ボールを持つ機会が多かったのはアウェイのブライトンの方。クリスタル・パレスがバックラインにボールを持たせることを許容し、アイェウとマテタの2人でブライトンの2CHを塞ぐ動きを見せる。

 CHが封じられた様子を見て颯爽と動き出したのはグロス。2CBの右側に移動し、3バック化することでパレスがどのようなリアクションを取るかを観察する。結果から述べると、こうしたブライトンの選手の移動は非常に効いていたと言えるだろう。パレスの2列目は出ていくか行かないかで延々と悩み続けながらどうしたらいいのかわからない時間を過ごすようになる。

 2トップが痺れを切らしてプレスに出ていけば、中盤中央のスペースは空く。ウンダフ、マック=アリスターといった選手が降りてきてポストを行い、味方を前向きにさせるプレーを行う。このように中央のスペースから前進が見込めるメカニズムを構築することができた。

 右サイドもグロスの移動に伴いフェルトマンとマーチが移動。5バック気味に変形する形も4バックで守りたいクリスタル・パレスに対して基準点を乱す効果があったと言えるだろう。

 そしてネットを揺らすのに繋がったのは左サイドの移動。絞ったり低い位置に下がったりとうろちょろするエストゥピニャンにオリーズがついてくれば大外の三笘へのパスコースは開くことになる。左の絞った位置から大外の三笘を使ったワンツーでインサイドに侵入したエストゥピニャンはそのままエリア内に突撃。先制ゴール!かと思いきやこれはオフサイドで取り消しになった。

 失点は回避したものの、いずれにしてもパレスがブライトンの移動にお手上げ状態だったのは確かだろう。前線が降りての中央への起点づくり、右サイドの変形、左サイドのエストゥピニャンの侵入など多彩な侵略方法にパレスの中盤はプレスに出ていくきっかけを失ってしまった。

 それでも前半の中盤からパレスは腹を括った様子。前線に起点ができず、保持側に回ってもなかなか攻勢に出ていけないパレスの面々は非保持で覚悟を決めて、ど根性プレスでブライトンにプレッシャーをかけていく。このプレッシャーにより、ブライトンは徐々にミスが出るようになる。

 後半も同じ流れの試合となった。保持で解決策を探すブライトンの前進とプレスの覚悟を決めたパレスの非保持での応戦が続くことになる。

 もう一度きっちり保持でリズムを取り戻す!と決めたブライトンが試合を優勢に進める後半。クリスタル・パレスはCHのヒューズが負傷し、ロコンガを投入する。投入直後に素晴らしいインターセプトを見せて「やるやんけ!」と思った矢先に警告を受けたのは笑ってしまった。

 保持で優位に進めたブライトンは流れに乗って先制点をゲット。左サイドから虚をついたタイミングでクロスが上がってくると、待ち構えていたマーチが押し込んで先制。ミッチェルは絞りきれずに対応が遅れてしまった。

 この先制点でグッと勝利を引き寄せたかに思えたブライトン。しかしながら、マテタの根性から得たセットプレーでサンチェスが大ポカ。キャッチングをミスリ、トムキンスに同点ゴールを押し込む決定機を献上してしまうこととなった。

 終盤は勝ち越したいブライトンが猛攻を仕掛けるが、最後まで実ることはなし。マック=アリスターが複数回あった決定機を1つでも決めておけばというたらればを言いたくなるシーンもあったが、内容で圧倒しながらもライバル相手に勝ち点3を得ることができなかった。

ひとこと

 内容的に圧倒的にブライトンペースだっただけに、結果は悔やまれることだろう。上位との差を詰める決定的なチャンスをブライトンは逃してしまった。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
クリスタル・パレス 1-1 ブライトン
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:69′ トムキンス
BHA:63′ マーチ
主審:マイケル・オリバー

サウサンプトン【20位】×ウォルバーハンプトン【15位】

スローだと落ちつかない

 立ち上がりに勢いを見せたのは最下位のサウサンプトンの方だった。ウルブスのバックラインに対して力強いプレッシングを仕掛ける。5-3-2では手薄になりやすいサイドにおいてもWBが出て行くことで高い位置から塞ぐ意思を見せる。

 ボールを奪った後はラビアを軸に素早く縦に進撃。押し込む機会を増やしつつ、セットプレーからあわやというシーンを作って見せた。

 5分経過したくらいでウルブスはサウサンプトンのプレッシングに慣れた感じがあった。レミナ、ネベスの位置を下げて最終ラインの数を増やし、サウサンプトンの2トップが追いかけまわすべきターゲットを増やす。ボールはサイドからの裏を狙う形で安全に敵陣深くまで運んでいく形である。

 幅を使うポゼッションをすることにより、まずウルブスはサウサンプトンの1列目のプレスを越えることができる。2列目となる3センターが出てくれば積極的にサイドチェンジを行い、3センターの届かない位置にボールを運ぶ。

 保持でロジック重視の解決策を見せるウルブスに対して、サウサンプトンは強度重視。こうした展開をされる前にボールを奪い、縦に早く動かしていく。異なる理念でぶつかり合う両チームだったが、先制したのはサウサンプトン。プローが受けたファウルからセットプレーでアルカラスが押し込んで先制。

 さらに、ウルブスは3分後におそらく抗議により2枚目の警告を受けたレミナが退場。1点のビハインドを背負いながら10人での残り時間の戦いを強いられることになる。4-3-2へのシフトを選んだウルブスは序盤に見せたような幅を使うポゼッションが消滅。保持で落ち着くのが難しくなる。

 苦しい状況になったウルブスだが、幸運だったのはサウサンプトンが試合を制御する術を持ち合わせていなかったことである。リードを奪い、1人多い状況というのは試合をコントロールするのに適した条件といえるのだが、強度で押していくサウサンプトンにとって、テンポを落としてプレーすることはむしろ戸惑いが生まれるものだった。

 プレスにどこまでいったらいいかという迷いをかけながら時計の針を進めるサウサンプトン。後半はウォード=プラウズのセットプレーなど、さらなる追加点の匂いがする展開を作れており、悩みつつも何とか試合を運ぶことができていた。

 ウルブスは4-4-1にシフトし、何はともあれサイドを広く使うことを優先したようだった。膠着状態が後半に入ってもしばらく続いたが、右サイドのトラオレから徐々に打開策を見つけていく。

 トラオレに押し込まれることでどこまで出て行けるかが完全にわからなくなったサウサンプトンは自陣での時間が増える。ラインを上げよう!としたところでウルブスが的確に裏抜けを挟んでくるのがニクイ。サウサンプトンの即興性が高いバックラインはこのウルブスの裏抜けについていけないシーンが目立った。

 左右から押し込まれたサウサンプトンは72分にベドナレクがオウンゴール。相手のボールを処理しきれずにゴールネットを揺らしてしまう。すると85分にはサウサンプトンの味方同士の衝突からこぼれ球を拾ったゴメスが貴重な勝ち越し弾を手にする。

 10人ながら保持から解決策を見出したウルブス。逆に相手の数的不利と先制点を生かせなかったサウサンプトンはこれがネイサン・ジョーンズ監督のラストマッチとなってしまった。

ひとこと

 冬の補強も積極的に動き回った分、伸びしろはあるサウサンプトン。時間がなく、ライバルも強力という難しい状況で残留争いをどの指揮官に託すのか注目である。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
サウサンプトン 1-2 ウォルバーハンプトン
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:24′ アルカラス
WOL:72′ ベドナレク(OG), 87′ ゴメス
主審:ジャレット・ジレット

ボーンマス【19位】×ニューカッスル【4位】

安全性が担保になる流動性

 トッテナム、ブライトンとトップ4のフォロワーが前の時間帯でことごとく勝ち点を落としている土曜日。最後の時間帯に試合をするのはそのトップ4の立ち位置を守る側のチームであるニューカッスルだ。勝ち点はなかなか得られない状態が続くボーンマスだが内容は悪くない。なんとかニューカッスルに一泡吹かせたいところだ。

 立ち上がりはボーンマスは積極的にボールを狩りにいくスタンスを見せていた。この辺りは前節のブライトンに仕掛けたように陽動的な部分もあるだろう。ニューカッスルはボール保持できっちりとこのハイプレスを退ける。ここまでは悪くない流れだった。

 ただ、前節の反省を生かしてなのか今節はアンカーのロングスタッフの周りにジョエリントンが常駐。なんなら高い位置に出ていくのは明らかにロングスタッフの方が多いくらいであった。こうしたポジションバランスの不可思議さは2列目にも波及。多くの選手が普段より持ち場を離れながらボール保持を行っていた。

 ニューカッスルがアンカーのところに流動性を持たせるのはおそらくギマランイス不在の展開力不足を補うためだろう。人もボールも動くというやり方を持ち味にしているチームは確かにこの世にはあるが、ニューカッスルのような定点攻撃と実直さを売りにしているチームとはややテイストが違う感じもある。アンカーの背後のスペースをボーンマスに延々と使われていたのを踏まえると、こうした流動性をなかなかポジティブなものとしては捉えにくいだろう。

 ボーンマスの攻撃を支えていたのはCFのソランケ。めちゃくちゃボールが収まる上に動きながら起点になれるという大車輪の活躍を見せる。キープする位置を作ることができたら、左サイドを中心にクロスから決定的なシーンを作っていく。そしてセットプレーから先制点をゲット。ニアのワッタラのスラしにファーに走り込んだセネシが合わせて先制点をゲットする。

 ウィロックの負傷交代で中盤にゴードンが入ったニューカッスル。自由度の高さはそのままに流動的な攻撃はキープ。そうした中で自由な動きをみせていたロングスタッフの攻め上がりが収支プラスに傾くのだからサッカーは難しくて面白い。

 後半、追いついたニューカッスルはまずはきっちりと押し下げるところから始めていく。立ち上がり早々はボーンマスも食らいついていくようにプレスに行っていたが、少し時間が経つとそんなプレッシングも落ち着くようになった。

 前半は積極的な移動を見せていたCHも徐々に落ち着きを見せるように。押し込んだ時限定で前への飛び込みを解禁するなど後半は制限をかける形でプレーをすることができていた。

 ただ、前半終了間際のゴールのようにこうしたバグ的な要素がニューカッスルの得点を呼び寄せていたのも事実である。そもそもギマランイスがいない故に始まった感がある移動でもあるので、こうしたバグがなくなると攻めあぐねるシーンも増えていくようになった。

 そんなチームの中でバグとして機能していたのがサン=マクシマン。左サイドからのカットインを軸に、後半はバグを作り出すソリストとして存在感を放つ。ゴードンもサポート役として効いていた。

 だが、そのサン=マクシマンが負傷交代してしまうと試合は沈黙。終盤は限られた決定機をモノにできなかったニューカッスルがボーンマス相手に2ポイントを落とすことになってしまった。

ひとこと

 果敢な戦いが続くボーンマスは今節もなかなかのパフォーマンスを披露。勝てないと低迷中みたいなレッテルを貼られるだろうから、そろそろ勝利という結果を手にするところを見てみたいのだけど。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
ボーンマス 1-1 ニューカッスル
ヴァイタリティ・スタジアム
【得点者】
BOU:30′ セネシ
NEW:45+2′ アルミロン
主審:スチュアート・アットウェル

リーズ【16位】×マンチェスター・ユナイテッド【3位】

今日のユナイテッドの試行錯誤

 3日前のオールド・トラフォードでの激闘はかなりプレミアファンの記憶に残るところだったはず。日曜の夜にエランド・ロードに舞台を移し、リーズとマンチェスター・ユナイテッドは再び対戦する。

 まず、目についたのはユナイテッドのバックラインの移動である。立ち上がりはマラシアが内側に絞る動きが目立ったが、逆サイドのダロトにも似たようなタスクが課されているようにも見えた。基本的にはボールサイドと逆側のSBが絞っての3-2を形成することが多かった。

 前節のテン・ハーグのアプローチを踏まえると、アントニーのいないサイドにおいては基本的には人数をかけて保持を解決したいという思想が見てとれる。フレッジとブルーノをフリーにしたまま同サイドでのフォローにSBを駆り出したいので、ボールサイドでは大外に張ってもらう。

 だけども、そのまま放置するとトランジッションにおけるザビッツァー周りの不具合が晒されるという前節の難点が出てくる。そこを逆サイドのSBが絞ることによって解決するのがテン・ハーグの発想だろう。ちなみに、フレッジがサビッツァーの隣まで降りてくるとSBは大外でのシンプルな仕事に戻る。

 前節の反省を踏まえると、悪くないアプローチだろう。課題を踏まえたいいテストのように思う。ややユナイテッド側の誤算だったのは、リーズのプレスが激しかったことだろう。SBの移動距離は長くなるので、リーズが強気にプレスにくると、外にパスコースを確保する前にCBにプレッシャーをかけられてしまう。特にマグワイアはボール保持においては晒されてしまい、リーズのプレスにつかまり続けていた。ユナイテッドの配置の移動が間に合わないという構造的な問題と移動までの時間稼ぎをすることができないというユニットの個人スキルの問題の合わせ技をリーズがきっちりとついた格好になる。

 テン・ハーグのユナイテッドのキーワードの1つは現実主義なので、蹴っ飛ばして逃げるというのが現象に対する回答の1つになる。リーズの激しいプレッシャーもあり、試合の中で多くのチャンスはセットプレーから生まれた。どちらかといえば、よりいいポイントでファウルを貰っていたのはバックラインに対するプレッシャーが十分にあったリーズの方である。

 後半、ユナイテッドは後方の3-2ブロックの移動を減らし、どこにボールがあっても、ある程度固定しながら動かすことが増えた。状況によって誰がどこに入るかの流動性は残してはあったが、ボールの循環と共に瞬間的な移動を減らすことで「移動間に合わない問題」を解決したいように見えた。

 しかし、それでも後半の頭に主導権を握ったのはリーズ。構造でハメるというよりは個人の時間を奪うことでエラーを誘うタイプのプレスは相変わらずユナイテッドのバックラインに混乱を引き起こしていた。テン・ハーグがリサンドロ・マルティネス投入というエスケープボタンを押すことになるのはある意味当然の帰結だろう。

 開始直後は見事な配球を見せていたユナイテッドだったが、時間の経過とともになかなか安全にボールの脱出口を見つけられずに苦労している感があった。解決策になったのはザビッツァーの対角パスだった。この試合でも何回か見られたトライだが、リーズのトランジッションの温床になるなど効果的な手段に昇華できなかった感がある。左サイドの余ったところからのクロスをきっちりしとめたラッシュフォードがまたしても大仕事を果たす。

 なかなか目立たなかった解決策がゴールにつながるという構図は2点目も同じ。ベグホルストの繋ぎは見事にガルナチョの追加点を後押しして見せた。

 時間が奪われた中で解決策を見出すことに成功したユナイテッド。リマッチを制し、上位追走に弾みをつけた。

ひとこと

 テン・ハーグのテストとトライは最近見ていて面白いなと思う。ユナイテッドは今踏んでいるステップを知っておきたいチームの1つである。

試合結果

2023.2.12
プレミアリーグ 第23節
リーズ 0-2 マンチェスター・ユナイテッド
エランド・ロード
【得点者】
Man Utd:80′ ラッシュフォード, 85′ ガルナチョ
主審:ポール・ティアニー

マンチェスター・シティ【2位】×アストンビラ【11位】

際立つのはシティのメンバー構成よりも・・・

 正直にいうと流れがモノトーンすぎて、あまり記事に書くことがない試合だったように思う。シティのバックラインのメンバー構成は確かに珍しいものではあった。だが、3人のCBの前に2人のCHを置くという座組は特に保持においては通常のシティ通りといっていいだろう。リコ・ルイスやウォーカーがやっている役割をベルナルドがCHに固定しながら行っているだけである。ベルナルドが流れの中でロドリの横に並び立つこともこれまでの試合の中であったのでこちらも目新しいことではない。

 それだけにアストンビラが何も工夫がないまま4-4-2でのミドルプレスを組んだのはとても残念であった。前線と中盤はボールを捕まえるきっかけを見つけることが出来ず、ラインがズルズル下がっていく。4バックを採用したアストンビラはマンチェスター・シティの5トップ型の動きに対しても後手を踏み、効果的な対策を打つことが出来なかった。

 シティはサイドからは問題なくボールを運ぶことができるし、ビルドアップとアタッキングサードの両面で数的優位を確保できる状況である。セットプレーからの先制点がなくとも、シティが先制するのは時間の問題だったといえるだろう。3失点目のPKのように縦パスの2つでPA内に侵入されるような守備ではシティ相手に守るのは厳しい。

 先制したこともあり、シティのポゼッションはゆっくりと。ビラがしびれを切らして前に出てくるタイミングで縦パスや裏へのボールで加速することができれば、シティはハーランドを軸に攻撃を一気に進めることができる。シティの追加点は裏への素早いボールが起点となっていた。

 アストンビラは保持でも時間を作ることが出来なかった。長いボール一本でのカウンターが中心ではあるが、縦方向に一辺倒だったのでボールが読みやすく時間を作るのは難しい。いつもに比べればシティのプレスが積極的でビラのバックラインは苦しかったかもしれないが、ショートパスでも長いボールでも起点がろくに作れないのは非常に苦しい。

 保持を無限に続けるシティに対して、後半に見せたビラの守備の整理は理に適っていたもののように見える。前半は無秩序にラインを下げていたSHの役割を整理。ボールサイドは最終ラインに加わって5バック化し、逆サイドのSHは絞りながら中盤に加わり3センター化。ボールサイドのCHがよりスライドしやすいようにシフトする。

 正直に言えば、この手打ちは遅くとも20分には見たかったし、できれば失点前に見たかったところ。ハーランドを下げた直後のワトキンスの追撃弾は可能性を感じさせないものではなかったが、焼け石に水感が否めない。

 試合は3-1でシティの勝利。安全運転による勝利と主力の休息の両方を手にしたシティがアーセナルとの天王山に弾みをつけた。

ひとこと

 事前に予見できるトラブルの放置、遅い対応策、そして対策持っていたやん!というところまで、エメリ期のアーセナルに自分が感じていたストレスの詰め合わせのような試合だった。

試合結果

2023.2.12
プレミアリーグ 第23節
マンチェスター・シティ 3-1 アストンビラ
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:4’ ロドリ, 39‘ ギュンドアン, 45+1’(PK) マフレズ
AVL:61‘ ワトキンス
主審:ロベルト・ジョーンズ

リバプール【10位】×エバートン【18位】

出足の良さを象徴する見事な先制点

 近年はリバプールの圧倒的な優位で迎えることが多かったマージーサイドダービー。だが、今回の雰囲気は少し違う。4試合勝ちなしで苦しむリバプールに比べると、むしろ監督解任で前節首位撃破に成功したエバートンの方が上向きなムードを感じる。アンフィールドといえどエバトニアンが期待できる流れである。

 両チームのスタメンで目につくのは故障者の存在。リバプールはチアゴ、エバートンはキャルバート=ルーウィンの穴をいかに埋めるかが重要になる。

 序盤、保持に回ったのはリバプール。IHに入ったバイチェティッチは低い位置に降りながらゲームメイクを行う。逆サイドのヘンダーソンも時折降りることがあったため、チアゴがいない分、IHのゲームメイクの意識は高く、いつもよりもプレーエリアも後方だたかもしれない。

 その分、今日もマティプは持ち上がる。前節は無理に突っ込んでいってる感があったマティプだが、今節はIHのポジションが比較的深かったことや、1トップ脇からの突撃にエバートンがやや戸惑っていることもあり、比較的高い効果を得られていたと言えるだろう。サイドからの攻撃においてはワンツーがほぼ読まれていたリバプールにとって、後方からマティプが支援する形は悪くはなかった。自陣でのボール処理の空振りにはゾッとしたけども。

 エバートンのプレスは初動でバックラインに圧力をかけて相手を止めるというよりは、相手がやり直しに出て行った時にラインアップして捕まえにいく形が多い。リバプールは良くも悪くも相手陣に突っ込んでいくことでやり直しは少なかったため、エバートンはラインアップのタイミングを掴むことができなかった。その分、リバプールの敵陣攻略の成功率も高くはない。クロスをファーで待ち構えるヌニェスのアクロバティックさがなければ、少なかったチャンスはさらに減っていてもおかしくはない展開だった。

 キャルバート=ルーウィンがいなくともいつも通り振る舞おうとしていた保持面のエバートン。シムズへのロングボールはスピードを生かすようにより左右に振りながらの配球にするなど工夫は見られていたが、さすがに連戦連勝を重ねていたキャルバート=ルーウィンほどの起点になることは見込めない。

 かといってグラウンダーで繋ごうとすれば粗が出る。ハイテンポで気持ちよくプレーできる時のリバプールはヘンダーソンがプレスのスイッチ役として機能することが多いのだけど、この日のリバプールはそうだった。バイチェティッチ、ファビーニョも含め、リバプールの中盤は堅実な働きを果たした。

 キャルバート=ルーウィンという前進の武器を失ったエバートンは徐々に重心を下げざるを得なくなる。イウォビ、マクニールは守備の時に取る位置が深くなる。撤退守備も前節と異なり、陣地回復はセットではないのでリバプールの押し込む機会が単純に増えることになる。

 優位に進めていたリバプールは前半の内に先制点をゲット。アーセナル戦を彷彿とさせるファーでのターコウスキの折り返しはクロスバーに当たる。すると、難を逃れたリバプールはCKのカウンターから一気に攻め上がり、最後はサラー。カウンターでチーム全体が見せた素晴らしい推進力はこの日のリバプールの出足の良さを象徴するものだった。一方のエバートンは安易に出て行ってしまって入れ替わられたコールマンの対応がまずかった。カウンター迎撃に出ていくならば、最悪ファウルでも止めるべき場面で素通りさせてしまった責任は重たい。

 リードを奪ったリバプールは後半早々に追加点をゲットする。イウォビのところでボールを奪うと、逆サイドにボールを大きく展開してカウンターを発動。やや時間がかかったかに思われたが、アレクサンダー=アーノルドのクロスはファーのガクポまで通り、リードをさらに広げることに成功する。

 このプレーにおいてはコーディにはクリアのチャンスがあった。ピックフォードとの連携面か、ファーにおけるガクポやコールマンの位置関係の把握のところかはわからないが、コーディが周囲の認知を誤っており、正しい判断ができなかった可能性が高い。

 守備面では貢献度が高かったターコウスキも保持においては中央に危険なパスミスを繰り返しており、安定感のあるプレーとはいえなかった。個々人のパフォーマンスが悪かったというのもあるが、高い位置に起点がなかったことでボールの失い方が悪かったり、苦手なショートパスでの繋ぎにトライした結果、エバートンにとって悪い方向に流れていくみたいな展開が多かった。

 押し上げられないまま単発で追う機会が増えたエバートンの中盤は、プレスの食いつきの良さがむしろマイナスに作用するランパード時代に逆戻りした感があった。彼らの背後を狙うガクポの存在もまたエバートンにとっては厄介だったはずだ。

 終盤、エバートンには単発で追撃弾を決めるようなチャンスが訪れたがモノにできず。特にファーでクロスを折り返したデイビスは試合の流れを変える機会があったと言えるだろう。

 セーフティリードをキープするリバプールはジョッタ、フィルミーノと長期離脱組のコンディション調整に交代枠を活用。今後を見据えた運用も含めてほぼ完璧なゲームプランと言っていいだろう。久しぶりのリーグ戦の勝利はマージーサイドダービー。後半の大目標であるCLに向けて戦力が整いつつあるのも大きな収穫である。

ひとこと

 一つがうまくいかなくなると、良かった部分も悪い方向に流れてしまうのが今のエバートン。きっかけはもちろんキャルバート=ルーウィンの不在だろう。得意な方向性は限られているチームなので、その方向性が出せないときにどう受け身を取るかも残留争いにおいては重要なファクターになる。

試合結果

2023.2.13
プレミアリーグ 第23節
リバプール 2-0 エバートン
アンフィールド
【得点者】
LIV:36′ サラー, 49′ ガクポ
主審:シモン・フーパー

今節のベストイレブン

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