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「引くという賭けに勝利」~2022.12.10 FIFA World Cup 2022 Quarter-Final モロッコ×ポルトガル マッチレビュー~

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■塩漬けプランは一定の効果を発揮するが・・・

 ベスト8の中で唯一W杯の制覇経験がないチーム同士の対戦となったこのカード。同じく制覇経験のないクロアチアがすでにアルゼンチンの待つ準決勝進出を決めているため、ベスト4は優勝経験国×未経験国の組み合わせが2つできることが確定である。

 わずかに変更点こそあるものの、基本的にはこれまでに近いメンバー構成で臨んでいる両チーム。そうした中で変化をつけてきたのはポルトガルだった。中盤の形はこれまで使い慣れていた逆三角形ではなく、トップ下+2CHの形。陣形としてはちょうどモロッコの中盤にプレスをかけやすい形である。

 すなわち、立ち上がりのポルトガルの狙いはハイプレスである。ポルトガルがハイプレスで狙いたい状況は主に2つ。1つはGKがボールを持った時、もう1つはサイドにボールがあり、CFが横パスを切ることができていた場合。ポルトガルのプレスにスイッチが入る時はこのどちらかを満たすことが多かった。

 ポルトガルとしては後ろにラインを背負っている状態であるならば、プレスがかかる手応えがあるということだろう。逆に言えば、CBがボールを持っているときなど、モロッコの選手が360°でのプレーが担保できている時は無理に出て行かない。そういう状況ではプレスにいっても捕まえられないため無駄という判断なのだろう。

 蓋を開けてみると、モロッコは背中にラインを背負っている状況でプレスを受けても難なくプレスを回避しており、ポルトガルのハイプレスでテンポを奪うという目論見は頓挫してしまった感があった。ホルダーを捕まえるということだけは粘ってできていたポルトガル。速攻こそモロッコに許しはしなかったが、彼ら自身がプレスを攻勢に変えることができなかったのは確かだろう。

 モロッコのプレス回避の中で効いていたのはウナヒ。フリーランでホルダーに延々とパスコースのサポートを行っていた。背負う前線にとっては彼の存在は大きな助けになっていた。

 ポルトガルの保持の局面ではネベスが最終ラインに加わる形で3-2-5に変形。ベルナルドが1列落ち、フェリックスとゲレーロは左サイドでレーン交換が可能。重心はかなり後ろに重く、ポルトガルのプランはボールと共に前に進む!という意識のものではないものは汲み取れた。むしろ、攻撃の起点になるのは左右に長いボールを振るネベスである。前線に当ててのセカンドにかけて長いボールを放り込む。

 これに対してモロッコは4-5-1のコンパクトなブロックを維持することを重視。降りていくネベスに関してはエン・ネシリが徹底無視していた。ポルトガルの列移動が配置の部分でモロッコに悪い影響を及ぼすようなことはあまりなかったように見える。

 ポルトガルは前進のルートは見えないが、ボール保持での安定感はある。何より、ボール保持を続ければモロッコの保持の局面を避けられる。モロッコはプレス回避はできるものの、プレス回避にチャレンジする状況自体を作ることができずに苦戦した印象だ。そういう意味ではポルトガルの塩漬け作戦は一定の効果を発揮していた。

 我慢比べが続いた感のある状況で徐々にモロッコが痺れを切らした感が出てくる。エン・ネシリがパワープレーに打って出たことで、モロッコはハイプレスに出るシーンが徐々に出るように。ポルトガルにとってはモロッコの陣形に歪みが生じ、空いたスペースから攻略できるまたとないチャンス。だが、ポルトガルはこの好機を活かすことができず、淡々と試合を進めてしまった印象である。

 膠着状態の展開の中で先制点は不意に訪れる。ゴールを決めたのは驚異の打点の高さを見せつけたエン・ネシリ。左サイドからのハイクロスに対してディアスが競り負け、コスタは出て行きはしたが触ることができなかった。エースの突然の一撃でモロッコはリードしてハーフタイムを迎える。

 モロッコリードで迎えた後半も展開は同じ。ポルトガルが保持でモロッコのブロック攻略に挑み続ける構図だった。前半と比べて異なるのはポルトガルのCBの裁量が増えたこと。ネベスが列落ちを我慢し、CBが運ぶシーンが増えるようになった。モロッコのプレスの優先度から考えると当然の対策のように思う。

 早々にロナウドを入れての4-4-2シフトを選んだポルトガルの狙いは明確。シンプルな空中戦の競り合いを仕掛けていく形を頭に置いていたのだろう。

 モロッコにとって不運だったのは守備の要であるサイスがこの時間に負傷交代してしまったこと。この交代はモロッコにとっては大きかった。DF-MF間のコンパクトさを徐々に緩み始め、ラインを高くキープするのが難しくなる。ロナウドの投入も相まって、最も失点の可能性が高い時間帯だったと言えるだろう。

 この様子を見て迷うことなくレグラギ監督は5バックにシフト。前線の柱であるエン・ネシリを交代し、20分以上を残して塹壕戦での逃げ切りを決意する。結果的にこの決断はポルトガルを苦しめることになる。撤退したモロッコに対して。ポルトガルはパワープレーに上手く転じることができず。5-4-1になってなお、中盤の押し上げをサボらないこともポルトガルの悩みの種。モロッコに対して、ポルトガルは前進に力を使う場面が目立った。

 前進に力を使う→後ろに人数を使う→前に人が足りなくなるの悪循環にハマったポルトガル。左右からのチャンスメイクも厳しいものだった。左はレオン、右はブルーノ(最後はSBをやっていた)の2人はニアをきっちり超えるクロスを上げ続けることができず。ダロトの負傷によりSBにコンバートされたブルーノも、おそらく普段と役割が違うレオンにも同情の余地はあるが、彼らがサイドからファーを狙うクロスを上げることができれば展開は違ったのかもしれない。

 終盤のポルトガルには攻め疲れ感があった。85分付近はだいぶボールが持てないように。押し込めているならば、即位奪回はセットにしておきたかったところ。5-4-1の割にアムラバトを中心にきっちり陣地回復してくるのもモロッコの不気味なところである。

 当初は無謀かと思われた5-4-1の塹壕戦という賭けに勝ったレグラギ。最後は10人になり冷や汗をかいたが、なんとかポルトガルのクロスを凌ぎ切って完封。スペイン戦に続いてのアップセットでアフリカ勢初のベスト4に駒を進めた。

あとがき

 90分を振り返った時にポルトガルのどこに勝ち筋があったか?と考えると、モロッコが焦れて前に出てくるという選択をした前半の終盤だろう。相手の良さを取り上げて均衡に引き摺り込むことができたのだが、相手が試合を動かそうとリスクの高い動きをした時にリアクションできないのは勿体ない。逆にこの時間に失点を喫してしまったのは痛恨。立ち上がりのプレスも含め、試合を動かすプランがやや足りていなかったのは事実。やればできる選手揃いなので、監督とロナウドの去就も含めて次のプランが気になるところである。

 モロッコがアップセットを演じたのは確かだが、シンプルに正面衝突でポルトガルを上回った印象が強い。その実力をもう疑う人はいないだろう。ブファルという武器を封じられ感があったのもなんのその。前半はプレス回避に走ったウナヒ、終盤は1人で時間を作り出していたアムラバトが異常。彼らが涼しい顔で非保持においては4-5-1ブロックに加担しているのがモロッコの強さである。

 ここまで来れば行けるところまで行ってみよう!精神になるだろう。10人になっても、最終ラインに負傷者が続出しても止まることのないモロッコはアウトサイダーから今やどのチームも当たりたくない存在に変貌しつつある。

試合結果
2022.12.10
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
モロッコ 1-0 ポルトガル
アル・トゥマーマ・スタジアム
【得点者】
MOR:42′ エン・ネシリ
主審:ファクンド・テージョ

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