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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~イングランド代表編~

目次

第1節 イラン戦

■手応えと懸念が同居するイングランド

 ヨーロッパ勢で先陣を切るのはイングランド。グループBの初戦の相手はアジアの常連国であるイランだ。イランは予選においては4バックをベースにしてきたチームのようだが、この日のプランは5-4-1。イングランドは普段は3バックが軸ではあるが、逆に4-3-3でイランのブロック攻略に挑む格好となった。

 というわけでイングランドがボールを持ちながらイランの守備を壊すとらいが続くという構図になったこの試合。しかし、その構図の力関係が見える前にイランはGKのビランヴァンドが味方との接触で負傷交代。10分超の中断が発生する。

 想定外の交代となったイランに対して、イングランドは容赦なく襲いかかる。イングランドの大外の幅をとるのはSBのお仕事。WGとIHはレーンを変えながら自在にポジションチェンジを繰り返しながらエリア内に入っていく役割が多かった。5−4−1でボールを持たせてくるイラン相手だからそうなのか、はたまた今大会のイングランドがそういう仕様なのかは次節以降のお楽しみである。

 アタッキングサードにおけるマイナスパス→抜け出しのフィーリングは良好だったイングランド。セットプレーではことごとく優位を取れていることもあり、押し込むことができる状態はイングランドにとって有難い状況である。

 イランは5-4-1でローラインが基本ながらも、隙あらばラインアップしながら高い位置でのプレスを狙っていく。イングランドのバックラインは保持においてはトラップが大きくあまり安定しなかったので、この方向性自体は悪くはなかったように思う。だがイランはクリーンにボールを奪うことができず、ファウルを連発。高い位置からのプレスを攻撃に繋げることができない。この辺りは前日のカタールと似た課題を感じた。

 イングランドはそうした中で先制点をゲット。左サイドのクロスに飛び込んだのはベリンガム。ファーでケインが張っているのを囮にニアに入り込んだのはお見事である。低い位置でも高い位置でも顔を出すベリンガムの特性がうまく出たゴールと言えるだろう。逆に、こうしたローラインの守備に不安があるからこそ、イランは高い位置でプレスに出たと言えるかもしれない。格下のチームが人海戦術だけで勝てる時代ではないし。

 依然として押し込むイングランドの追加点はセットプレーから。CKで無双していたマグワイアのヘディングから、サカがスーパーシュート。アーセナルでも見たことのないドライブのかかったダイナミックなゴールを決めてリードを広げていく。

 ローラインのクロス対応、そしてセットプレー。イランの懸念を得点に繋ぎ続けたイングランド。次にターゲットにしたイランの懸念材料はスイッチを入れた際のハイプレス。中盤から人数を投入するスタンスのイランのプレスに対して、イングランドはバックラインを保持で一度脱すると、スカスカの中盤からスムーズに前進ができる。右に流れるケインの裏抜けからスターリングへのドンピシャのラストパスからあっさりと3点目を奪い、前半のうちにゲームを決める。

 後半、イランは前線にかける中盤の枚数を増やすことで活性化を狙う。フォーメーションもやや変わったようにも見えるが、それよりも陣地を埋める意識の守備から人を捕まえる意識の守備が強くなったのが大きな変化と言えるだろう。オーバーラップするイングランドの選手にも積極的についていく。

 プレスに引っかかることもあったイングランドだが、スターリングが中盤でターンを決めて脱出するなど、イングランドはイランのプレスを空転させる術は持っていた。サカがあっさりと4点目を決めるなど、後半も力の差を見せつけていくイングランド。

 しかし、スローインから抜け出したタレミが突然ゴールを奪う。得点の匂いがしないところから追撃弾をゲットしたイラン。ストーンズにファーを消され、ニアをピックフォードに立たれていたタレミにはニア天井の選択肢しか残されていなかったが見事に撃ち抜いて見せた。

 だが、イングランドは追撃弾を受けてもさらにダメ押し。ケインのキープから抜け出したラッシュフォードがファーストタッチでゴールを決める。右サイドのラッシュフォードは無敵のように相手を剥がしまくっていた。スターリングもそうだが、個々の選手のパフォーマンスに懸念がある選手が問題なく馴染めていたのもイングランドのいいポイントだった。6点目を演出したのはケインと交代で入ったウィルソン。こちらはリーグ戦の好調を持続する抜け出しからグリーリッシュのゴールをお膳立てしてみせた。

 終了間際のイランへのPKはご愛嬌でもいい。だが、テンションが下がった後半にはイングランドの4バックがあっさり破られるシーンが増えたことは見逃せない。エースのアズムンにも決定機があるなど、後半のイランには十分な得点のチャンスがあった。前線の動きが好調というポジティブな材料と、垣間見えた懸念をどのようにフォーメーションに反映させるのか。サウスゲートの腕の見せ所になるのはここからである。

試合結果
2022.11.21
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第1節
イングランド 6-2 イラン
ハリファ・インターナショナル・スタジアム
【得点者】
ENG:35′ ベリンガム, 43′ 62′ サカ, 45+1′ スターリング, 71′ ラッシュフォード, 90′ グリーリッシュ
IRA:65′ 90+13′(PK) タレミ
主審:ラファエル・クラウス

第2節 アメリカ戦

■降りる選手を無効化する両チームの壁

 初ウェールズとドローで初戦を終えたアメリカの2戦目の相手はイングランド。英国勢との連戦という極めて珍しい状況である。激レアさん。一方のイングランドは連勝でグループステージ突破を決められる。アメリカに勝利し、突破一番乗りを果たすことができるだろうか。

 まず、目についたのはアメリカのフォーメーション。前節は似たメンバー構成で4-3-3だったのだが、今節は明確にウェアを前に出しての4-4-2でのプレッシングとなった。イングランドのCBには比較的自由にボールを持たせる形にしている。

 その分、アメリカが警戒するのは中盤にボールが入る形。FW-MF間にボールが入ればFWとMFで挟む形を作れるし、MF-DF間にボールが入ってもMFとDFで挟む形を作ることができる。これによってイングランドのトップの降りる動きはほぼ無効化されることとなった。

 獅子奮迅の活躍を見せていたのはアメリカのCHの2人。アダムスとムサの2人はどこまで前に出ていくか、後ろに挟みに下がるかの匙加減が絶妙。特にアダムスは抜群のパフォーマンスで前後半を通してピッチのあらゆるところに顔を出しながら、イングランドの前進を詰まらせることに貢献していた。

 となると、イングランドの前進のプランはプレッシャーのないCBからボールを前に運んでいくか、プレッシャーを受けてる選手たちが少ないタッチでコンビネーションを見せるかとなる。前者に関しては比較的絶望的だったので、期待がかかるのは後者。この日のフィーリングが良かったのは右サイド。トリッピアーの後方からのボールをベリンガム、サカが滑らかに繋いでチャンスを作ったシーンはこの日のイングランドの中でも有数の崩しであると言えるだろう。

 しかしながら、こうした連携が見られるのは数える程。アーセナルファン目線からすると、サカは独力でも破壊力はあるけども、味方と連携することでさらに強くなれる選手。ベリンガム、トリッピアーとの関係性を増すことが先のラウンドで更なる活躍を見せる鍵になるはずだ。

 降りる選手は捕まっており、時間をもらった後方の選手はその時間を使うことはできない。その上、裏抜けの動きが少ないとなれば攻撃の停滞は必然だろう。序盤の右サイドからの決定機以外はチャンスを作るのに苦心したイングランドであった。

 一方のアメリカも似たジレンマに陥っていたと言えるだろう。イングランドのプレスが降りてくる選手たちに厳しいのも同じ。ライスとベリンガムという非保持で大いに貢献できるCHがいるのも同じ。降りるアメリカの選手は簡単に時間をもらえる状況ではない。

 イングランドとアメリカの違いがあるとすれば、時間がもらえたCBがボールを運ぶことができたことである。主役となったのは左のCBであるリーム。バックラインからのドリブルでロビンソンと連携し、サカの前後のスペースを積極的に使っていく。

 ロビンソンにフリーでボールを渡すことができれば、アメリカの左サイドにはズレが生じる。スターリングに比べて、プリシッチが前を向く機会が多かったのは、そこに至るまでのビルドアップルートも大いに関係があると言えるだろう。

 左サイドから作った時間を使い右サイドに展開。ここからアメリカはクロスを上げていく。エリア内にボールを入れることができたアメリカだが、ここはイングランドのバックラインの強さが立ちはだかる。アメリカもまたアタッキングサードでは有効打を見つけられない状況が続いていた。

 イングランドは前半途中にサカがポジションを下げる選択をしたため、アメリカは序盤にできていたズレを享受することができなくなる。後半はより前半よりも静的なポゼッションから前進する目は少なくなったと言えるだろう。

 後半においてはトランジッションからチャンスを迎える両チーム。ライス、アダムスなど壁となる選手がより際立つ展開に。サイドにカバーに行くアダムスと折り返しのマイナスのクロスをことごとくカットしまくるライスは異なる形ではあるが両チームの壁として君臨していた言えるだろう。

 バックラインから厳しく追う!という状況は続いていた両チーム。アメリカの対応で少し気になったのはケインに対しても普通のプレイヤーと同じくらいの警戒度で接していたこと。マウントにワンタッチで落としたシーンのように、ケインは1人背負うくらいであれば、こうしたプレーが簡単にできる選手。アメリカは降りる選手に対しては挟んで対応が理想だが、当然間に合わない時もある。それでもケインに対しては2人で挟むというVIP待遇を継続したかったところではある。アメリカの平等さは悪い意味で気になった部分である。

 終盤、イングランドはグリーリッシュの投入でアクセントをつけていく。降りて受けて運ぶということに関して、少なくともイングランドのワイドアタッカーの中では最も優れている選手だろう。普段のプレーを活かして左サイドからチャンスを作っていく。なお、選手交代に関してはベリンガムを下げたことやフォーデンよりもラッシュフォードを優先したことには疑問の余地が残る人もいるだろう。

 アメリカの対応も素早い。即座にムーアを突っ込むことで再び高い位置から捕まえにいく意識をアップ。イングランドの起点を潰しに行く素早い応手と言えるだろう。

 両チームのCHを軸にしまった好ゲームとなったが、互いに決め手に欠いたのも事実。痛み分けという結果は内容を十分に反映したものと言えるだろう。

試合結果
2022.11.25
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第2節
イングランド 0-0 アメリカ
アル・バイト・スタジアム
主審:ジーザス・ヴァレンズエラ

第3節 ウェールズ戦

■入れ替わった両WGが隣国に引導を渡す

 ヘネシーの退場で10人に追い込まれた結果、イランに敗れてしまったウェールズ。ノックアウトラウンド進出に向けてあとがない状況で、目の前に立ちはだかるのは何の因果かイングランドである。W杯史上初の激突が突破の運命を決める一戦となる。

 ウェールズのフォーメーションは4-2-3-1。ここまでは3バック主体の彼らとしては、アタッカーを多めに配置する得点を意識した陣形を採用したと言えるだろう。

 それであるならば高い位置まででていくトライをしたいウェールズ。2トップでアンカーを管理しながらイングランドのボール保持を阻害する。中盤から3枚目が出てこないため、イングランドからすると比較的CBが時間を得る状態になる。

 あまり、イメージじゃないかもしれないが、プレッシングで枚数を割いてこない相手に対しては割とマグワイアは自信満々にキャリーする。自分の前が空いている時にドリブルでボールを運んでの攻撃参加はプレミアリーグにおいてもかなり見られる場面だ。

 よって、ウェールズの高い位置から守っていこうぜ!というスタンスはマグワイアから崩されることになる。相手を引き出すことに成功したら、サイドに配球。マグワイアの保持における役割はイングランドが押し上げながらプレーをする手助けになっていたと言えるだろう。

 ただ、ウェールズも気合が感じられる内容だった。4-4-2のリトリートは非常に素早くPA陣内を埋め尽くす。外を回った時の崩しのアイデアが乏しいイングランドの4-3-3はハイクロスに頼りがちだったが、ウェールズはこれをひたすら跳ね返し続ける。

 しかしながら、攻勢に出た時の出来は物足りない。ムーアへのロングボールを起点に何とか陣地回復を行いたいところだが、前を向いた際のクオリティが足りずにイングランド陣内に侵攻することができない。

 マグワイアが前に出るということはカウンターの際は彼が苦手な広い範囲の守備を行う必要が出てくるはず。だが、そうしたイングランドの弱みをウェールズはボール保持で揺さぶることができなかった。

 イングランドが攻め立てるが、ウェールズが跳ね返す。前半45分はざっくりとこの言葉一つに集約できなくもない内容だった。

 迎えた後半、両チームとも布陣をいじって残りの45分に挑む。大勝負に出たのはウェールズ。ここまで大一番でことごとく結果を出してきたベイルを下げて、運動量を計算できるジョンソンを起用。ゲームのテンポを上げて自分たちの方にペースを引き寄せるために大エースを外すという荒療治を仕掛けてきた。

 一方のイングランドの修正は小規模。左右のWGを入れ替えてフォーデンとラッシュフォードをそれぞれ順足サイドに配置してみせた。

 結果を出したのはイングランドの方だった。左サイドでフォーデンが受けたファウルで得たFKを決めたのはラッシュフォード。GKのウォードは逆を取られてしまい、一歩反応が遅れてしまった。

 先制点のゴールをきっかけにイングランドは一気に畳み掛けていく。高い位置からのラッシュフォードのチェイシングからボールを引っ掛けると右サイドからケインが鋭いグラウンダーのパスを入れる。グループステージのイングランドにおいてはお馴染みになりつつある右に流れたケインの鋭いクロスを左サイドからフォーデンが叩き込んでみせた。配置変更がどこまで効いていたかは微妙なところだが、後半はサイドを入れ替えた両WGが活躍したことは間違いない。

 3点目を決めたのもラッシュフォード。ここまでスターターだったメンバーと入れ替わった選手が結果を出すというのはビックトーナメントにおいては非常に重要な要素と言えるだろう。

 高い位置からプレスに行く勝負に出たウェールズだが、この賭けはイングランドに返り討ちに合うことになる。追い込まれての英雄外しも奏功せずウェールズのW杯はここで終了。順当な首位通過を祝うイングランドとくっきりと明暗が分かれる形となってしまった。

試合結果
2022.11.29
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第3節
ウェールズ 0-3 イングランド
アフメド・ビン=アリー・スタジアム
【得点者】
ENG:50′ 68′ ラッシュフォード, 51′ フォーデン
主審:スラヴコ・ビンチッチ

Round 16 セネガル戦

■安定したビルドアップと斬れ味抜群のカウンターで完勝

 ここまでは全て首位通過した3チームが勝利しているノックアウトラウンド。B組首位のイングランドは列強に続けるかどうか、エクアドルとのしばき合いを制したセネガルとの一戦に臨むことになる。

 どちらのチームに関してもまず目立ったのはボール非保持。中盤より高い位置でボールを奪い、敵陣の方向にボールを押し込んでいく意識が強く見られた。

 イングランドはWGが積極的なプレッシャーをかけて、セネガルのバックラインから時間を奪っていく形を狙っていく。セネガルのバックラインはプレス耐性が弱く、イングランドのプレッシングにうまく対応ができない。サカの外切りプレスに対して、頭を越すパスをつけることができれば反撃はできるのだが、そうした足元の技術をセネガルのバックラインに求めるのは酷。GKのメンディが思ったようにパスをつけられないのはプレミアではお馴染みの光景である。

 そうした時にロングボールを使って前線の身体能力に任せることができれば大きいのだが、セネガルの前線はなかなかイングランド相手のバックラインに対して優位が取れない。イングランドはマグワイアのところが崩れかけるシーンもあるのだが、セネガルの前線の選手たちはゴリっと反転を狙うので、抜かれたとしても遅らせることさえできれば周りのカバーでなんとかなることが多かった。

 前進のメカニズムがより整っていたのはイングランド。2CBにウォーカー、ライス、ショウの3人が2-3の形で並びセネガルの前4枚に対して数的優位を作る。キーになるのはウォーカー。セネガルの2トップがハメてくるならば、ラインを1列下げることでCBと並んでボールを引き出すし、2トップがアンカーを受け渡すならば1列前に入る。

 ややインサイドに絞ることができれば、ヘンダーソンが外に開いてボールを受けることも。ウォーカーの列調整もヘンダーソンの外流れもクラブでお馴染みの光景である。2-3と3-2を使い分けるウォーカーの器用さはビルドアップに非常に役に立っている。

 セネガルに対してビルドアップ隊は基本的に数的優位を維持。バックラインからの組み立ては非常にスムーズでイングランドは前進をすることができていた。同サイドにボールを追い込んでシスのところでボールを奪い取ることができればセネガルにもショートカウンターの目があるが、イングランドはそうしたルートに頻繁には追い込まれずにビルドアップをすることができていた。

 先制点はイングランド。数的優位の左サイドのビルドアップ隊にケインが絡んできてポストプレーを行う。追い越す形でポストを受けたのはベリンガム。一気に攻撃を加速させてゴール前まで入り込むと、マイナスで待ち構えていたのはヘンダーソン。両IHの攻撃参加によって先手を奪う。

 2点目も主役になったのはベリンガムだ。セネガルの中盤からボールを奪うと、カウンター発動のための密集を脱出したのが彼である。ボールを前に運ぶと、フォーデンにボールを渡して最後はケインがゲット。前半のうちに追加点まで奪う。

 セネガルからすると中盤のシスの前がかりなロストが想定外。この時間帯は右サイドのサールがウォーカーとのマッチアップで可能性を見せていただけに、2失点が重たくのしかかることとなった。

 2点リードを奪ったイングランドは淡々と試合を運んでいく。セネガルが3枚ハーフタイムで選手を代えようと、システム変更的な対応はしてこないため、ボール保持を優先としたプレー選択をすることができれば、時計の針は問題なく進めることができる。

 攻撃においてもセネガルは傾向は変えることができず。独力で突っ込んで行っては跳ね返されてしまい、カウンターを食らうことになる。決め手となった3点目は比較的早く決まることとなった。セネガルの攻撃を受け止めると、ショウの縦パスからカウンターが発動。ケインのポストからフォーデンにボールがつながり、最後はサカがゲット。セネガルの気持ちを完全にへし折る追加点を決めてみせた。

 どうにかして一矢報いたいセネガルだが、きっかけを掴むことができない。前半は攻めのきっかけとなっていた左サイドのサールも、交代でラッシュフォードの登場から2枚で対応されるように。前線が献身的にプレスバックをすることができる選手が揃っているのはサウスゲート就任以降のイングランド代表の強みである。

 最後までセネガルに壁になり立ちはだかったイングランド。攻撃を受け止めての切れ味抜群のカウンターでセネガルに完勝。一段上の試合運びでベスト8に駒を進めた。

あとがき

 セネガルからすると相性が悪い相手だったなと思う。GSで見る限り、彼らの強みは相手が敷いている網に引っかかった場合の強引なぶち破り方である。強度自慢のイングランドというのはくじ運が悪かったように思う。多少システマティックな相手でも馬力で勝れるチームならワンチャンスはあったかもしれない。

 イングランドはそうした馬力勝負に耐えれたことに加えて、クラブで学んでいることをビルドアップで還元できているのはいい流れである。この試合で言えばヘンダーソンやウォーカー、フォーデンはそれに当たると言えるだろう。選手の入れ替え方も理想的でライスとケイン、ショウ以外の戦力はプレータイムを分割しながら勝ち進めることができている。次ラウンドのフランス戦ではいよいよその力の真価が問われることになる。

試合結果
2022.12.4
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
イングランド 3-0 セネガル
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ENG:38′ ヘンダーソン, 45+3′ ケイン, 57′ サカ
主審:イヴァン・バートン

準々決勝 フランス戦

■WGはズラされる前提で

 ベスト4の最後の一枠をかけた試合はイングランド×フランス。ブラジルがいなくなった今、この試合に勝利したチームが本命に躍り出ることになるだろう。

 立ち上がりはフランスのボール保持で試合が進む。左右のサイドでスピードを生かしたトライアングルを形成しての攻略はイングランドを十分に振り回すことができていた。

 しかしながら、立ち上がりのようにフランスがボール保持でイングランドを攻略していく!という場面自体は非常に限定的。試合はイングランドの保持とそれに対抗するフランスのカウンターに集約されながら進むことになる。

 イングランドのボール保持はバックラインがゆったりとボールを持ちながらスタートする。セネガル戦でも見られたようにウォーカーは枚数調整役。3人目のCBとしてバックラインに加わるか、列を越えて受けるかでビルドアップの枚数を管理する役割である。

 対面がムバッペということもあり、この日のウォーカーは高い位置でボールを受けることには慎重だった。その分、ヘンダーソンが右サイドに流れながらムバッペの背後を狙っていく。ただし、この動きは立ち上がりに流れた後のプレーをカットされてからはあまり見られなくなってしまった。

 そもそもフランスはムバッペの背後は取られる前提の設計をしていた感がある。同サイドへのスライドは非常にスムーズで後方は4-3ブロックで守っても強度は十分。WGの背後を取られれば普通のチームはズレが見られるものだが、フランスに関して言えばそうしたズレはあらかじめ埋められていたと見ることができる。

 フランスの守備で効いていたのはそうした違和感のないスライドの主役となっているラビオと即時奪回でイングランドの攻撃を阻害するグリーズマン。ムバッペが前に残り、カウンターの脅威を突きつけることができるのは彼らの存在があるからである。

 イングランドはムバッペの背後である右サイドを軸に攻撃を組み立てていく。主役となっていたのはサカ。カットインを軸に対人に不安のあるフランスの左SBのテオを攻め立てていく。右サイドに流れることが多いケインとサカの相性は好調。サカ→ケインの斜めのパスからケイン自身がPAに侵入することや、リターンを受けたサカがカットインするなどでチャンスを作っていく。

 だが、この右サイドの攻撃には3人目が絡んでくることができない。よって、フランスはプレーの予測を立てやすい。サカのインサイドへのカットインは可能性を感じる反面、カウンターのリスクを表裏一体。ましてや、通常のロストを縦に速い攻撃からの決定機に変えることができるフランス相手ならば、尚更リスクになる。

 フランスの先制点もこのイングランドの右サイドの攻撃を防いだところから。もっとも、イングランドの帰陣は十分に早く、この場面においては速攻からゴールに直線的に向かう動きは阻止できたかに思われた。しかし、ムバッペがライスを交わし逆サイドに展開したことで、イングランドの最終ラインを押し下げると、この恩恵を受けたチュアメニが強烈なミドルシュートで先制。多少寄せが甘くなった部分はあるが、シンプルにこれは打った方を褒めた方がいいと言える場面だろう。

 ビハインドになったイングランドにとっては悩ましいところである。攻撃のテコ入れをするのならば、ヘンダーソンを代えたいところ。ただ、右サイドの3枚目としてヘンダーソンはなかなか上手く絡めていないが、CBがボールを運ぶ部分に不安があるイングランドとしては中央でボールを引き取る役割は助かる部分もある。バランスを崩してでも攻撃に傾けるかは難しいところである。

 ハーフタイムのサウスゲートの判断は選手交代を見送るというものだった。しかし、メンバーはそのままでも後半のヘンダーソンは右サイドに流れてサカのプレーの補助に入るようになる。立ち上がりの右サイド深く走り込んだサカのフリーランは前半には見られなかった部分である。

 ケイン以外のサポートを得られるようになったことで後半のサカは躍動。ニアに入り込んだベリンガムのフリーランにより、カットインするスペースを享受したサカはチュアメニに倒されてPKをゲット。これをケインが決めてイングランドが後半早々に追いつく。

 試合のスコアが動こうと、イングランドの攻め筋の手応えが変わろうとフランスは淡々としていた。中央に甘いパスをつけてきたらカウンターを発動し、素早く攻め切るということを徹底。後半においてもそうしたスタンスは揺らぐことはなく、縦に速い攻撃から一発を狙う展開が続いていた。

 均衡した展開を分けたのはセットプレーである。CKからの二次攻撃から左サイドでボールを受けたグリーズマンがピンポイントでジルーに合わせて勝ち越しゴールをゲット。点で合わせる精度でこの日2つ目のアシストを決めて見せた。

 直後にイングランドは同点のチャンスを迎える。中盤から抜け出したマウントがテオに倒されて再びPKを獲得。だが、これをケインが枠外に外してしまい、イングランドは追いつく絶好の機会を逃してしまう。

 これ以降、選手交代もなかなか機能しなかった。右サイドに入ったスターリングは前向きな意識が見られずにカットインの頻度が減少。左サイドはショウの攻撃参加が増える一方でクロスそのものには焦りの色が見られる部分があった。決定的なチャンスとなったのはセットプレーからのマグワイアくらいのものだろう。グリーリッシュをもっと早めに投入し、異なるアクセントをつけるのもありだった。

 ラストチャンスとなったFKを託されたのはラッシュフォード。これが枠からやや上に逸れたところで終了のホイッスル。接戦を制したフランスがイングランドを下し、ベスト4最後の椅子を掴み取った。

あとがき

 ボールを持ちながらトライする機会は確保することができたイングランドだったが、効果的に攻め筋を見つけられた時間は少なかった。後半頭からサカが下がるまでの間くらいだろうか。前半のうちに有効打を多く打てなかったこと、後半のビハインドに対しての手打ちがかなり後手になってしまったことは反省点になるだろう。手堅いが自分たちのリズムを紡ぐのが得意ではないイングランドらしい敗退の仕方とも言える。

 勝利したフランスはここまではムバッペを軸とした破壊力抜群の攻撃が前に出ていたが、この試合ではラビオやグリーズマンの老獪さが光った。これまでも同じように彼らは試合の中で効いていたのだけども、この試合においてはそうした働きの効果がより前面に出たと言える。ムバッペが暴れ回らなくてもフランスは強いということを示すことができたという点では意義の大きい勝利ではないだろうか。

試合結果
2022.12.10
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
イングランド 1-2 フランス
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ENG:54′(PK) ケイン
FRA:17′ チュアメニ, 78′ ジルー
主審:ウィルトン・サンパイオ

総括

■プレータイム管理の域を出ないターンオーバー

 イランをボコボコにするというロケットスタートで好調な滑り出しを決めたイングランド。次節のアメリカ戦ではドローながらもほとんどノックアウトラウンド進出を確定させると、ターンオーバーをしながらウェールズを蹴落として堂々首位でのグループステージ通過を決めた。普段から競争力では世界トップクラスのプレミアリーグで鎬を削る選手たち中心に構成されたメンバーはグループBでは別格だったといえるだろう。

    前線は軸として完全に君臨しているケインとの関係性を2列目が構築しながら攻撃を組んでいく。右に流れることが多かったケインに対してはサカがかなり良好な関係を築いていた。ボールの預けどころとしてもおとりとしても使えるケインを軸にワンツーからの抜け出しや、インサイドのカットインを使い分けつつ侵攻する。IHではベリンガムがサカの相棒を務めていた。ホワイトがいなくても、サカが攻撃面で躍動できたのはケインとベリンガムの存在に拠るところが大きい。

 左サイドのメンバーはフィニッシャーとしての関与が多かった。左に流れるケインからラストパスとして鋭いクロスがやってくるのを仕留める役割。前線への飛び出しという点ではスターリングの動き出しは悪くなかった(繋ぎの局面ではもう少しインパクトが欲しい)し、ベリンガムはここでも別格であった。

 バックラインに目を向けると、プレータイムがクラブで稼げていなかったマグワイアの出来はイングランドの懸念だった。そんな彼が比較的安定したパフォーマンスを見せることが出来たのは中盤で君臨するライスのおかげだろう。バックラインを強力にプロテクトする用心棒の存在はチームの大きな助けに。マグワイアとストーンズをPA内に専念させることができたのはイングランドにとっては大きい。

 質の高さでグループステージを突破したイングランドはノックアウトラウンドの初戦でセネガルと激突。力業一辺倒のセネガルは自分たちの土俵の中で対応可能。実力というよりも相性の面でやりやすい相手を引くことが出来たのは幸運だったといえるだろう。

    互いに順調に勝ち上がった中で激突したフランスとの試合で彼らの真価が問われることになる。PK2本でフランスに食い下がるチャンスを得たイングランドだったが、2つ目のPKをケインが外してしまい優勝候補に一歩及ばずに敗戦してしまう。

 試合の展開を動かすことができなかったという点では他の敗退国と近い部分はあるが、ことイングランドに関してはベンチに十分にジョーカーたりうるメンバーがいたため、十分に生かし切れなかったサウスゲートの責任を問う声は大きい。大事なフランス戦で動けないのであれば、ウェールズ戦やセネガル戦の終盤のメンバー入れ替えは単なる疲労のマネジメントの域を出なかったということだろう。

 若いスカッドと豊富なタレントを見れば十分に4年後も優勝候補に名前を連ねるタレント力はあるだろう。だが、豊富な人材をどう生かしていいかわからない!という壁を乗り越えられるかどうかは現段階では未知数と言えそうだ。

Pick up player:ハリー・ケイン
PKを外そうと今のイングランドのエースはあなた。僕自身がアーセナルファンだからといってこれを否定してしまうのはあまり誠実ではない。クラブシーンであれば応援することは決してないが、また4年後に愛する国のエースとして君臨し、イングランドを勝利に導いてほしい。

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