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「プラスから組み立てた負債」~2023.3.18 J1 第5節 川崎フロンターレ×セレッソ大阪 レビュー

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レビュー

登里が保持にもたらす効果は?

 90分を通しての雑感を先に述べてしまうと、両チームとも今季の流れに沿った非常に苦しい試合だったという感じである。

 立ち上がりにボールを握ったのはホームの川崎の方だった。チャナティップ、橘田、シミッチという3人の組み合わせは中盤を通常の三角形にする4-2-3-1も逆三角形4-3-3にする形もあり得るが、この日の関係性でいえばよりフラットな4-3-3と表現した方がいいだろうか。

 後方のポジションはGKに対してCBが大きく開きながらポジションをとる。左のSBに入った登里は高さ的には最終ラインに落ちることもあるが、CBがスライドして明確に3枚になるケースはほぼなく、後方はCBの2人が担う形が多かった。むしろ、最終ラインで3人目を作る場合はシミッチが一列下げるケースが多かったと言えるだろう。

 CHに入る2枚は橘田、シミッチ、山根のうちの2枚。山根はインサイドに入ったり、アウトサイドでボールを受けたりなどポジションを変えながら振る舞っていた。

 川崎の保持の1stステップはざっくり分けると以下の2つのどちらかを達成することだろう。

  • 加藤と香川以外の3人目をプレス隊として引き出しそのプレスの矢印の根本を使うこと。
  • 加藤と香川の背後でシミッチが前を向いてフリーでボールを受けること。

 この1stステップを達成することに関してはこの試合の多くの時間で川崎は問題なくクリアできていたと言えるだろう。要因の1つは左サイドで今季初先発を飾った登里と田邉のコンビである。

 例えば、上側の「加藤と香川以外の3人目をプレス隊として引き出しそのプレスの矢印の根本を使うこと」という要素。代表的な例は8分である。田邉は降りてきたチャナティップにボールを出す。すると毎熊がインサイドに絞りながらこの縦パスに対応する。

 すぐにチャナティップは田邉にリターンパスを出す。この動きの間に田邉と並行なポジションに立っていた登里は大外の1列前に上がって田邉からボールを引き出している。

 最近、レビューで「プレスの矢印の根本を狙え」と狂ったように毎回言っているが、それはこういうボールの動かしかたのことである。縦パスで毎熊の矢印を内側に向ける。そうなったときに、登里が毎熊が元いた場所にポジションをとる。

 選手が降りる動きというのはこういう風に使うべきなのだ。降りることによって他の誰かから前に進むことができる。それができれば降りる動きをやる意味はある。チャナティップは降りすぎるという指摘を自分も含めて多くの川崎サポーターが普段していると思うが、それは自分で前を向こうとする意識が強く、低い位置でロストの要因になっているからである。今季これまでの川崎の悪い流れのときに脇坂や山根に起きていたミスも同じ文脈である。こう言う降りる動きであれば何の問題もない。

 ただ、この動きは縦にパスを入れる田邉と降りてくるチャナティップの2人では達成し得ない。毎熊の矢印の根本を狙って動く登里がいなければ成り立たないのである。今季の川崎はこの登里の動きができる選手がいなかった。強引なターン狙いは最終ラインと中盤のパス交換の結果からズレを生み出せなかった流れから行き着いたものなのかもしれない。

 このようにして登里がフリーでボールを運べれば松田の注意はマルシーニョと登里の2人に分散することになる。この試合では左サイドでマルシーニョが抜け出してヨニッチと対峙することが多かったが、これは田邉と登里を主体として毎熊と松田のポジションをある程度乱すことができていたということだろう。

 もう1つの「加藤と香川の背後でシミッチが前を向いてフリーでボールを受けること」という部分をクリアできたのは正直C大阪のプレス隊によるところが大きい。香川と加藤のコンビは川崎のCBから時間を奪うトライをするわけでもなければ、片方のCBを余らせて交互にアンカーを受け持つということもしなかった。前節の鳥栖戦も特にしていなかったので、C大阪の現状のプレスの仕組みがこうなっているということだろう。

 橘田に比べると、シミッチは狭いスペースでのターンを得意としていない。よって、後方から受けたボールを持ってターンする動きはシミッチがアンカーの際にリスクが高まるプレーと言える。

 だが、この試合ではC大阪の2トップとMFのライン間も特にコンパクトではなかったので、シミッチがターンする隙もあった。序盤こそこの2列に挟まれてピンチを迎えていたが、それ以降はリスクが少ない状態で自ら前を向くことができていた。

 このシミッチが前を向くスペースを創出するという部分でも非常に登里は効いている。28:50のシーン。大外の山根とのパス交換でリターンを受ける際にラインを下げている。この動きに香川が釣られたことでC大阪は2トップとMFのライン間が広がり、シミッチが自ら反転する形を作ることができていた。図では表現しきれなかったのでぜひ映像を確認してほしい。

 川崎がこれまでの試合と異なり、相手の1stプレッシングを問題なく回避できたのはC大阪のプレッシングが抱える問題と登里の存在という川崎側の事情の両面によるところが大きい。

ジンヒョンからのボールを封鎖したとて・・・

 前進に関しては明らかにC大阪の方が苦労していた。川崎とC大阪の試合におけるC大阪の保持の王道パターンといえば、川崎の外切りのハイプレスをジンヒョンが頭を越すフィードで交わしてそこから前進するという形である。使い回しの下の図で言えば、瀬古にプレッシャーをかけに来た家長の頭を越すという形だ。

 しかしながらこの試合では川崎のWGがC大阪のCBに外切りの仕掛けることはなかった。彼らの注意は基本的にはSBに向いていた。ジンヒョンから松田や山中のフィードがほとんど通ることはなかったのは川崎側の事情である。松田へのフィードにマルシーニョが追いつくことができていたのは川崎が外切りでプレッシングを行っていない何よりの証拠だ。

 いくらジンヒョンのパスが鋭く正確なものであっても、空いていなければボールを受けてコントロールすることは難しい。そして、プレビューで触れた通り、C大阪は空いたスペースに正確にボールを繋ぐのはうまいが、相手を動かしてスペースを作り出すことはうまくはない。

 外切りのハイプレスは川崎からすればボールを取れるチャンスではあるが、C大阪からしてもボールを繋ぐチャンスであったということである。それが無くなった試合においては彼らはなかなか機能的に前進することができない。

 ここまでの記事を読むとあたかも川崎の攻撃はうまくいき、C大阪の攻撃がうまくいかなかったように思えるかもしれない。だが、実際はそうではない。川崎はアタッキングサードの攻撃に問題を抱えていたし、C大阪はアタッキングサードで十分なチャンスを作り出していた。前進の仕組みの部分では川崎が優勢だったが、試合トータルで見ればどちらが優勢だったかは判断が難しい試合になっていた。

 まずは川崎の攻撃の部分から。相手の矢印の背後+フリーになるシミッチで前進をすることができた川崎。こうした動きは後方の選手たちにより、前方に穴を開ける色が強い。川崎としては1つのパスで穴を開けたのであれば、連鎖的に相手の穴をつきたい。登里が毎熊の背中をついたのであれば、ケアに出てきた松田の背後にマルシーニョが入り込み、外に膨らむヨニッチの背後に誰かが入り込むということをワンプレーごとに行いたいのだ。

 しかし、川崎はこれができない。特に右サイドは顕著で、一度スピードダウンをするせいで相手の守備陣形を整う時間を与えてしまうのである。今の川崎の仕組みではSBが高い位置を取りにくくなっている。よって、従来の川崎の強みであるサイドのトライアングルの崩しが見られないようになっているのだ。家長-脇坂-山根の関係性が明らかに減っているのは後方で山根のタスクが増えているシステム上の弊害と言える。

 前方に人数を多くかけられないのであれば、1つの穴を広げるようなパスを繋ぎ続けるしかないだろう。後方でビルドアップに人数をかける理由はそのきっかけとなる穴作りでしかない。しかし、今の川崎は穴ができても使う前に閉じられてしまっている。だから前進できても思ったようにチャンスにならないのだ。そして、その状態をなんとかできるほどの素晴らしいパスを通せる選手も多くない。

 初手の部分でC大阪の動きが変わったことも川崎にとっては見逃せない。C大阪は20分過ぎには為田と毎熊が横幅を狭く守るようになり、中央に降りてくる川崎の選手を集中的にケアするようになる。要はシミッチが前を向けていた2トップとMFのライン間のスペースを狭くするという方向に守備の仕方を変えたということである。

 シミッチが右サイドに頻繁に降りるようになったのも、ライン間に立っていては前を向けないからということである。サイドに降りることで、為田が自分に来るかどうかを試していた感がある。

 この中盤をコンパクトにするというケースの餌食になっていた感があったのはチャナティップ。降りて自分で反転しようとする動きを狙い撃ちにされたせいでC大阪のカウンターのきっかけになっていた。C大阪が自陣からスペースを作った前進ができなくともチャンスを作れた要因の1つである。

 もう1つ、C大阪側がチャンスを作れた要因は川崎の守備ブロックの強度の低さが要因である。前からのプレスを辞めることで相手にスペースを与えないことに成功した川崎だったが、特にその代わりにプレスのスイッチとなる捕まえどころを設定できているわけではない。よって、川崎はスペースを与えないながらもズルズルとラインを下げることになる。

 自陣側にボールを押し込まれるようになった川崎に問題としてのしかかってきたのは右サイドの守備の問題である。前提として、C大阪のアタッキングサードにおける現在の最大の武器は山中から放たれるクロスだ。川崎の右サイドはC大阪の攻撃における最大の脅威と対峙するポジションということになる。

 家長がこのサイドに入っていることを踏まえると、パス交換からのポジションチェンジで山中のマークを外してしまうことは珍しいことではない。香川の降りる動きに家長が釣られることも多く、山中を解放するのに役に立っていた。

 さらに山根の守備の方針も山中が自由になる要因の1つ。田邉と大南のコンビがPAの中で相手と同数になることを嫌ったのか、山根の大外へのチェックの消極性は非常に目立った。為田や山中がサイドからチャンスメイクできたのは山根の外側への守備の判断が甘かったことも一因である。

 ちなみに、この試合ではなぜだかわからないけどもチャナティップが右のSHに入って非保持を担当することもあった。おそらくであるが、トップ下として自由に振る舞う家長にチャナティップが気を利かせていたのだろう。だが、チャナティップは気を利かせたところで山中に簡単において行かれてしまう。戻っての守備であればおそらく家長の方が強度が高い。

 守備で困った部分をもたらせてしまう選手を2人起用する悩みがここにある。家長のヘルプを頼みたいのであれば、チャナティップを遠野に置き換えれば比較的スマートに右のSHとしての役割を担うことができるだろう。しかし、チャナティップはこの試合におけるアタッキングサードにおけるベストプレイヤーと言ってもいい。雨でもプレーの精度は落とさず、多くの選手が苦戦していた長いボールのコントロールも良かった。

 この現象にまつわる話として別の切り口から考えさせられるのはハイプレスの是非である。結局、外切りのハイプレスをやめても川崎は山中に危険なクロスをあげられているのである。「ジンヒョン→SBへのパスを封じること」は守備における有用な方針ではあるが、目的ではない。C大阪に有効打を打たせないための手段に過ぎない。なので、山中にクロスを上げさせている時点で余り意味がない。

 ジンヒョンがSBにパスを通せなくても、最終的に山中にフリーでクロスを上げれるのであればC大阪は問題ない。というか、ジンヒョン→SBのパスよりも山中のフリーでのクロスの方が明らかにC大阪はゴールに近づいている。おそらく、川崎はリトリートすればそうしたシーンを防げる公算があったのだろうが、その目論見は外れたということなのだろう。川崎の守備は機能しているようで機能していないのである。だから、後方のスペースをつかれても川崎はハイプレスという手段を捨てきれないのだ。

現在地を受け入れた後半

 後半の両チームの振る舞いは互いの現在地を受け入れたかのようだった。川崎は前に人数をかけなければ崩すことができない。よって前半以上にシミッチやチャナティップが自由に動き回りながら攻撃に参加する。

 チャナティップが降りる動きが減ったことにより自陣深い位置でのロストが減ったことは好材料ではあるが、シミッチが攻撃参加した時のロストが致死性のカウンターを受けることは川崎にとっては大きなリスクである。だが、そのリスクを取らなければ川崎は得点に近づけないと判断としたのだろう。

 C大阪は無理に保持やプレスで色気を出さずに我慢する方針を優先した。川崎の人数をかけた攻撃を受け止めればロングカウンターからスペースが余りまくっている攻撃を繰り出せると判断したのだろう。ボール保持でのスペース創出や、プレッシングからのボール奪取ができないという今のC大阪の現在地を踏まえた判断と言える。

 よって、攻撃の機会自体は明らかに川崎の方が多かった。しかし、川崎はこの日はサイドからのクロスの精度が酷い。雨と言い訳したいのだが、山中があれだけ蹴れてしまうと言い訳がしにくい。無理があるクロスを上げている場合もなくはないが、フリーでもニアを超えられないこともしばしばなのでここはキッカーの精度が先にくる話だろう。

 ちなみに中に入る選手も動きが少なく、クロスに入る動きの整理は切迫した課題と言える。ダミアンや小林が戻ってくればいいのかもしれないが、山田や宮代が出番を得るためには必要がスキルである。あとはマルシーニョも頑張って欲しいところだ。

 C大阪のカウンター対応は田邉が奮闘していたが、度々水を漏らしてしまうことも。大南(ハンドとられなくてよかたね)とソンリョンは頼もしく彼をカバーすることができていたのは救いである。

 2トップに移行した川崎は終盤にギアを1段階あげた攻撃を見せるが、最後まで得点を決めることができず。試合はこのカードでは珍しいスコアレスドローで幕を閉じた。

あとがき

 どちらのチームもできることが少なく、後半はできることの中で何をしたらいいかを整理した結果そこに辿り着いたという感じだった。その結果が無得点というのはどちらのチームにとってもなかなかに寂しい結果である。C大阪にしても川崎にしてもできることを増やさなければなかなか厳しい。

 川崎の話をすれば攻撃の停滞感ゆえにここでプラスをもたらす存在から起用しなければいけないというジレンマに陥っているように見える。チャナティップは降りてのロストや守備での強度の問題はあれど、アタッキングサードにおけるプラスから逆算するのであれば使いたい。これまでよりこの試合のプレータイムが長かったことはこうした葛藤の裏返しのように見える。その結果生まれる問題はプラスから組み立てた負債というか。

 プレッシングに関するジレンマもそうだ。出ていくにせよ、出て行かないにせよ今の川崎にはネックがある。みんながジンヒョンほど足元は上手くないので、そういうチームに対しては前に出ていくとかそう言った形でスタンスを使い分けることで1つずつ増やしていくしかない。

 なお、保持におけるメカニズムづくりが今の川崎における明らかな最重要課題なので、登里の重要度は言うまでもない。基準ができることで合わせることもできるし、成功例ができればやる意義も見える。彼の復帰はチームにとって大きい。

試合結果

2023.3.18
J1 第5節
川崎フロンターレ 0-0 セレッソ大阪
等々力陸上競技場
主審:岡部拓人

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