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レビュー

ビルドアップの部分改良と全体への影響

 6点という大量得点と今季のホームでの公式戦の初勝利。ルヴァンカップの清水戦を経て、鬼木監督が下した決断はリーグ戦の序列の入れ替えである。ソンリョン、橘田、大南といった序盤戦にスタメンで固定されてきた選手たちをベンチに置き、このポジションではルヴァンカップでスタメンを務めた面々をずらりと並べた。

 テーマの1つは後方のビルドアップの安定だろう。バックラインは大きく開き相手のプレス隊に狭く守らせないかどうか?という部分は今季の川崎の保持において重要なポイントである。高井と車屋のCBコンビはそうした距離を取ることができるコンビだし、GKに入った上福元もその手助けができる存在と言えるだろう。

 後方の3人とCHの瀬古とシミッチを軸とした後方のビルドアップは浦和のプレッシングの誘導を外しながらバックラインがフリーでボールを持つことができていた。この部分は素直にポジティブなポイントと言えるだろう。浦和のプレスは無理に枚数を合わせにいくのではなく、トップがサイドを限定できた時のみギアを上げる。しかしながら、この試合ではそうしたギアが入る場面があまり見られなかった。

 川崎視点に戻すと、特に今季数多く見られていたGKorCB→CHの縦パスから無理な反転を挟んでロストするという場面はほとんど見当たらず。これはバックラインが前方の状況を認知しながら縦パスをつけることができているという証拠だろう。ボールを受けた中盤の選手はかなりスムーズにそのままターンできる状況を迎えていた。なお、前半にこのエリアで下手にロストをしたのは降りてボールを受けにきていた家長だった。

 この辺りは明確にメンバーを変えたことによるポジティブなポイントだったと言えるだろう。中盤中央でスムーズなターンができることで、川崎は中盤に起点を作ることができていた。

 だが、ビルドアップの安定という部分的な改良が「攻撃」という全体的な視点にどこまでいい影響を与えていたかと言われると難しいところである。アタッキングサードにおける川崎は前に迎撃する浦和のSBの背後を狙うことで前進を狙っていく。特に山根を監視する意識が強かった荻原の背後は積極的に狙っていた。

 荻原のいないスペースにパスを出すことで川崎はホイブラーテンをサイドに引っ張り出すことができていた。一見これは川崎がうまく相手を動かしているようにも見える。だが、浦和のこれまでの戦いを見ると、こうした動きのメカニズムはどちらかというと彼らの守備基準として基本のものとして組み込まれていると捉えてもいいように思う。

 川崎で言えば山根の背後をジェジエウがカバーするという仕組みは別にエラーでもなんでもないだろう。ジェジエウの広い守備範囲から設計されたものである。もちろん、山根が間に合うならそれに越したことはないけども。同じように浦和もホイブラーテンの広い守備範囲を生かして、荻原の背後をケアする仕組みを基本としているのだろう。

 つまり、川崎はホイブラーテンをサイドに引っ張り出すだけでは浦和の守備に対して、予測の域を出ないアクションしかしていないということである。序盤で川崎が浦和の予測の域を超えたと言える場面は8分の山根の抜け出しと小泉をハイプレスで潰したショートカウンターの場面くらいである。

 前者はようやく見られるようになった脇坂、家長、山根のトライアングルを生かした形、後者はこの試合のプレビューで触れた浦和のビルドアップの狙い目とした場面である。

 だが、どちらのシーンも仕上げのクオリティでは難がある。前者のシーンは抜け出した山根のクロスの質(このシーンのように大外にはもっとたくさん抜けていいように思うけど)。相手のバックラインを動かすことができた場面にしては結末が寂しすぎると言えるだろう。

 後者のシーンではマイナスのクロスの受け手がいなかったのが問題のように思う。そもそも浦和の最終ラインにふわふわした状況を強いているので、PA内にできたマイナスのスペースをつく人がいなかったのは勿体無い。ここはクロスの受け手の問題の方が大きいように思える。ルヴァンカップの浦和戦での課題は未だに健在ということだろう。

 というわけで川崎はビルドアップの安定を手に入れはした。だが、そこから前に時間を送るアクションに繋げる頻度も、繋がった場合の仕上げも十分じゃなかったと言えるだろう。

予測の域を出ない保持側

 浦和もまた川崎と同じくバックラインが広がりながら、2CB+2CHでショートパスを軸にビルドアップを行っていくというスタンスだった。

 立ち上がりは基本的に高い位置からくる川崎のプレスをひっくり返せなかった。浦和の低い位置からのビルドアップは次にパスを出す選手が非常に読みやすく、浦和のホルダーがパスを出す前の時点で次の選手に狙いを定めて動き出すことができていた。

 川崎の高い位置からのプレスが決まるかどうかはロングボールによる攻撃を無効化できるかにかかっている。ここで脱出されると台無し。この試合では浦和が長いボールで興梠に逃げた場合、川崎はほぼそのロングボールを跳ね返すことができていたので、序盤のプレスは割と仕上がっていたと言えるだろう。

 立ち上がりの入りは浦和の方が悪かったように思えたが、時間の経過とともに少しずつ変化が見られたのもまた浦和の方だった。ショートパスを回す速度は徐々に慣れが出てきたのかスピードアップ。川崎のプレスを回避できることができるようになっていた。大久保がライン間で受けることで縦パスを引き出すことができたシーンはその一例だ。

 浦和のペースに試合の展開が流れるのを助長したのは川崎側の守備の問題がある。特に2人が出て行った結果、相手に素通りされるシーンが異常に多かった。

 典型例となるのは興梠のポストから決定機を迎えたシーンである。興梠のポストのシーンでは山根と高井が同時に興梠に矢印を向けたが、興梠はこのプレッシャーをあっさりと大外に横断を許す。山根はインサイドに釣られているので、大外が開くのは当然の道理である。

 川崎はこの場面のように2人が捕まえに行ってはすれ違われたり、あるいは前線の即時奪回がファウルになったりなど、守備から攻撃のリズムを作り出せず。浦和は時間の経過とともに広く攻撃をすることができていたが、だいぶ序盤はバタバタしていた。チャンスもそこまで多くはなく、前半はどちらも保持側が非保持側の予測を超える場面はあまりなかったと言えるだろう。

薄かった先制点の意義

 前半を見る限り、川崎が得点を獲る手段は大きく分けて2つに見えた。1つはSBの裏をとり、サイドに出てきたCBを超えること。もう1つは中盤のボールハント力を生かしてのショートカウンターである。

 個人的には後者の方が難易度が低いと思ったが、川崎が結果を出したのは前者だった。トランジッション気味に自陣の低い位置でボールを受けた瀬古から長いボールが荻原の背後の家長に。ホイブローテンとの1on1の状況を作った家長は正対からクロスを上げる隙を作ると、インサイドの脇坂にクロス。これをアクロバティックに沈めて川崎が先制する。

 ここまでは芳しくないパフォーマンスだった家長だったが、ホイブローテンをどうにかするというミッションはウルトラC。押し込むために飛び込んだ脇坂ともどもこの試合における評価を一気に見直さなくてはいけないワンプレーだった。

 この試合における得点は非常に大きい。なぜならば、浦和も川崎もハイプレスのようなゲームの強度を上げるようなアクションに手応えがなかった前半だからである。前半はその状況をお互いに許容していたように見えた。ただし、リードを許してしまったチームが出てくると話が違ってくる。そうしたチームは強度を上げなくていけないし、そうなればこれまでに見られなかった新たな綻びが見られる可能性がある。

 失点後はバタバタしていた浦和だったが、彼らは数分で落ち着きを取り戻す。どちらかというとゴール後のパフォーマンスが安定しなかったのは川崎だった。下手なロストからリズムを失うと、それを取り返そうとしたのか高い位置からプレスに行っては交わされてしまい、結局浦和にスペースを供給。川崎のスタンスは浦和のスピード感のある攻撃を助長していた。

 浦和は対角のパスとSBの攻撃参加を生かしてのチャンスメイクでリスクを冒すように。川崎にはサイドからひっくり返すチャンスがあったが、先述の理由で特にこの機会を活かすことができなかった。

 浦和の攻撃に注文をつけるとすれば左サイドだろうか。荻原のオーバーラップは悪くはなかったが、利き足がはっきりしている選手な分、川崎としては守らなければいけないアングルがわかりやすかった。関根がインサイドで効いていたのはわかるが、もう少しアウトサイドからのカットイン成分が欲しかったのも事実だ。

 川崎は交代策から方針が見えなかった。大島の投入は「2点目を取りに行くため」ということだったが、浦和のプレスに触発されてロングボールが増えた川崎のバックラインの振る舞いを見ると、本当に大島の投入が2点目の投入につながるかは疑問である。さすがに大島を投入したのであれば、ポゼッションを増やして浦和の攻撃頻度を下げることは最低限求めたいところ。この日のように、後半に上がった強度についていけない展開はなかなかに寂しくなる。

 中盤に橘田が登場してからは大島はトップ下に移行。かからないプレスを懸命に行っている姿を見て、先に挙げた「この試合で先制した強み」という部分を川崎は全く活かせていないように見えた。

 70分の興梠のPKは幸運にも咎められなかった川崎だが、その10分後に決壊。左サイドに交代で入った早川を軸に浦和はリンセンのゴールで追いつくことに成功する。

 川崎は酷い失点だった。まずは車屋。サイドに出ていく必要はないし、出ていくのならば潰し切るのはマスト。最低限、インサイドへのパスコースは切る角度を作りながら出ていけば、切り返しの少ない荻原を外に追いやるのはそこまで難しいことではない。こうしたサイドへの飛び出しをカジュアルに行った結果、インサイドを空けるというのは車屋の積年の課題。今季が悪いというよりも、ずっとこうである。

 ただし、この失点シーンでは車屋以外も悪い場面が目立った。出て行ってはすれ違う山根、2人ついていきながら通行を許すシミッチと高井。酷いプレーを積み重ねての失点だ。そして、そうした多くの人数や過度に前向きのプレスを果たしてそもそもする必要があったのか?というところから考えなければいけない失点である。上福元のセーブに言及する以前にこれだけの課題がある。早川の一連のプレーは素晴らしかったことも付記しておきたい。

 終盤、川崎は大南を投入して5バックに舵を切ったことで、浦和は終盤に攻めの主導権を覚悟。押し込むがネットを揺らすことは最後までできず。川崎はまたしても本拠地で勝利を飾れず、浦和はACL前最後の試合に勝ち切ることができなかった。

あとがき

 潰しに出ていってかわされる山根、ボールを預けても失う家長。今季の川崎は今までの当たり前が通用しないのだなと思う。そうした中で悪い部分だけは持ち越されているのが悲しい。

 これまで、終盤にわちゃわちゃ展開になるのを疑問視するレビュー記事がなかったのは、そもそも終盤は追いかける展開や勝ち越しを狙う展開がほとんどだったからだ。勝っているのであれば本来はもう少し落ち着いてボールを持っていきたい。が、大島を投入した後にトランジッションが増えたという結果を見れば、今のチームにはそうした戦い方ができないのだろう。

 60分を過ぎると手の平からゲーム運びの要素がガッツリと抜けてしまうのだが、それは自分たちがあえて引き起こしたというよりも結果的にそこに帰着するだけというのがこの日分かったこと。それであれば、終盤はトランジッションが強めの交代カードを入れてみてもいいのかもしれない。なお、そうしたサッカーの行き着く先に大島僚太の生きる道があるのかどうかは今のところよくわからない。

試合結果

2023.4.23
J1 第9節
川崎フロンターレ 1-1 浦和レッズ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:47′ 脇坂泰斗
浦和:81′ ブライアン・リンセン
主審:谷本涼

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