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「Catch up FIFA World Cup QATAR 2022」~2022.11.22 Group C 第1節 アルゼンチン×サウジアラビア ハイライト~

■向こう数十年語り継がれる偉業達成の要因は?

 南米の雄、アルゼンチンは3日目に登場。開幕節はここまで散々のアジア勢からサウジアラビアが相対する。

 ボールを持つのはアルゼンチン。非保持のサウジアラビアは4-4-2と4-3-3のハーフアンドハーフという感じ。基本線は4-4-2ベースの守備ではあるが、8番のアル・マルキは高い位置まで出ていく形がかなり多かった。

 サウジアラビアの中盤は人にボールが入ったらついていく!というよりはおそらく、パスコースを消すためにバックラインにプレッシャーが必要!という場合にアルゼンチンのバックラインにプレッシャーをかけているのだろう。遅れ目にアル・マルキが出ていってインサイドが空きそうになった場合は右のSHのアル=ブライカーンが絞る形で中央のマーカーをチェックすることからもその傾向は伺える。

 つまり、この試合のサウジアラビアの守備の優先事項は明らかにライン間への縦パスの阻害である。コンパクトな陣形を維持するため、高いラインをとり続けるサウジアラビアのバックラインからもそのサウジアラビアのプランは読み取ることができる。裏へのパスは全力でオフサイドを取りに行く。オンサイドの抜け出しを食らったらそこでおしまい!というのが彼らのスタンスだった。

 裏パスは許容する!となった時に問題になるのはアルゼンチンのCBにプレスがかかっていないことだ。サウジアラビアはCBからのショートパスを咎めるスタンスではあるけども、ロングキックを蹴らせないスタンスではない。ハイライン勝負を仕掛けるにはホルダーを捕まえよう!という定石には逆らう形でアルゼンチンの前線とバックラインに挑んでいく。

 それでもアルゼンチンの裏抜けは完遂することはなかった。ラウタロは1人で試行錯誤はしていたが、ネットを揺らしたシーンはオフサイドでわずかにタイミングが合わなかった。裏抜け完遂不発の要因は強気のハイラインに対して、立ち向かうのがラウタロ1枚だったこと。アルゼンチンの2列目はどちらかと言えば、ボールを受けてナンボの選手ばかり。コパアメリカでフリーランに勤しんでいたニコ・ゴンザレスの不在は痛い。

 2列目の選手は後ろに下がりながらボールの出し手をやろうとするが、結局前を張ってラウタロと異なるタイミングで飛び出せる選手がいない問題の方が重くのしかかる。サウジアラビアが圧縮してきた中盤は完全に捨てた格好だ。それだけに早い時間にセットプレーからPKをもらったのはアルゼンチンにとって幸運だったと言えるだろう。

 一方のサウジアラビアの保持はサイドに人を集める形が軸。本来、1トップであるアルブライカーンを右のSHに起用したのを見ると、左サイドからクロスを入れる形が理想なのだろう。だが、この形は絵に描いた餅となり、実現することはなかった。前半は保持で敵陣に迫ることができなかったサウジアラビアだった。

 後半も試合の展開は同じ。ライン間圧縮し、裏抜けデュエルはかかってこいや!のサウジアラビアに対して、アルゼンチンが保持で解決策を探す展開だ。

 後半早々に試合を動かしたのはなんとサウジアラビア。ライン間のメッシへの縦パスを咎めると、素早いカウンターから最後はアル・シェフリ。アルゼンチンは抜かれた状況が悪いとはいえ、ロメロの遅らせる対応が命取りになった格好。多少ダーティでも潰す!というスタイルがロメロなのだが、このあたりは負傷明けというコンディションが影響していたのかもしれない。

 同点ゴールはサウジアラビアに勇気を与える。中盤のプレスは強気になり、プレス隊は前半は比較的放置していたアルゼンチンのCBにボールを持たせないようになった。アルゼンチンが59分に3枚替えを敢行した以降、サウジアラビアは再びハイプレスに出れなくなったことを考えれば(得点を挙げたせいかもしれないが)、早い段階で勝ち越しゴールを決めたのはサウジアラビアにとって大きかった。アッ=ドーサリーの殊勲のゴールは綺麗な軌道でマルティネスの手をすり抜けていった。

 以降はアルゼンチンが敵陣でプレーする時間がひたすら続く。サウジアラビアが4バックの時間帯は大外からラインを下げることで、危険な形でアルゼンチンはPA内に迫ることができていた。

 アルゼンチンの保持で気になったのは、サイドからのクロスで狙うのはライン側の選手ばかりであるということ。遅れて飛び込む選手(そもそもこの役割をできている選手がほぼいなかった)へのマイナスのクロスでサウジアラビアの最終ラインの狙いを外す選択肢を提示できれば、もう少しフリーでシュートを打つことができたはずだ。

 この辺りは前半から「裏勝負!」ということをアルゼンチンに刷り込んだサウジアラビアの作戦勝ちかもしれない。前半からアルゼンチンは愚直にサウジアラビアの用意した土俵で良くも悪くも戦い続けた。アルゼンチンにとっては勝ち目のない土俵ではなかったと思うけども。

 サウジアラビアがバックラインの枚数を増やすたびに、アルゼンチンはサイドからのつっかけでサウジアラビアの最終ラインの高さをコントロールするのが難しくなる。もっとも、コントロールできたとしても、それを活用できるマイナスのスペースに飛び込む選手がいなければ同じなのだけど。

 ライン際の選手にひたすらクロスをあげ続けるアルゼンチンのスタンスはなかなか実らないまま時間だけが過ぎていく。サウジアラビアが残り時間を凌ぐことができた要因は2つ。1つはボールを持った局面できっちりと敵陣に押し返すポゼッションができたこと。CHを中心にサイドの奥に走る選手に向けてボールを蹴り出し、アルゼンチンのボール保持のスタート位置を自陣側に追いやることに成功していた。

 もう1つはGKのアル=オワイスの落ち着いたプレー。不可抗力で自らと接触し負傷をしてしまったアッ=シャハラーニーの交代後も、少なくともプレーでは動揺していない姿を見せたのは勇敢だった。交代で入ったアル=アムリのスーパークリアも含め、バックラインの姿はサウジアラビアのイレブンに勇気を与えたことだろう。

 長かった追加タイムをしのぎきり、W杯史に残るアップセットを引き起こしたサウジアラビア。アルゼンチンの無敗記録をストップし、W杯においてアルゼンチン相手にアジア勢初勝利を挙げることに成功。8万人の観客の後押しを受け、向こう数十年以上も語り継がれる偉業を達成してみせた。

試合結果
2022.11.22
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第1節
アルゼンチン 1-2 サウジアラビア
ルサイル・スタジアム
【得点者】
ARG:10′(PK) メッシ
KSA:48′ アル・シェフリ, 53′ アッ=ドーサリー
主審:スラヴコ・ビンチッチ

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