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「『できない』の除外が行き着く先」~2023.6.24 J1 第18節 浦和レッズ×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

先読み可能なボール回しを阻害し浦和が優位に

 トランジッションから始まったこの試合のスタート。川崎も右の家長を生かした速攻から押し込む機会を得るが、基本的には浦和ペースの立ち上がりだったと言えるだろう。高い位置からのボール奪取とトランジッションから攻め込む形で川崎のゴールを脅かす。

 トランジッションと一口に言っても川崎がボールを奪われる位置は様々。自陣側で危ういボール回しもあれば、敵陣に刺した縦パスをカットされてひっくり返される場合もある。だが、どれも川崎がボールを奪われる理由は同じであった。パスのコースを簡単に相手が予測できるような1つのルートでしかボールを回せていないからである。

 例えば、左サイド。登里-遠野のライン以外の人が顔を出さずパスコースが推測しやすくなっていたり、車屋の縦パスを狙われてカットされたりがその例と言えるだろう。

 右サイドで言えば大南-山根のラインにも同じことが言える。4分のように大南が高橋を引き寄せて山根をフリーにできれば問題なくパスを回すことができるが、山根が荻原に縦スライドで捕まってしまえば、このパスはいわゆる「ハメパス」になってしまい、受けた山根が出しどころがなくなってしまうことが多い。

 この2人にももちろん責任はあるのだが、周りの選手にも責任はある。前線の家長は特に荻原が前にスライドしている場合は裏を狙うランをして大南のパスに選択肢を増やすアクションをしてほしい。3:30のシーンは山根にインサイドのパスコースがあれば十分に脱出が可能だったシーンだ。右のCHでスタートした大島が高い位置にポジションを取り直すべきだと言えるだろう。

 こういったボールのサポートの動きがない分、浦和は簡単にトランジッションからチャンスを作ることができていた。ただし、浦和はカウンターからの攻撃の質に問題を抱えていた感がある直線的にゴールに向かう動きが多く、精度も伴わない。

 もっともここは川崎のバックラインを褒めてもいいだろう。ネガトラでは高い位置からの守備で奮闘。車屋はカンテにポストを許さず、サイドから裏抜けをする選手に対しては大南が内に入れないような守り方で最短ルートを寸断し、時間を稼ぐ。山根やシミッチも高い位置に出ていけばやり切るということを徹底できており、浦和陣内からの速攻はそれなりに防ぐことができていた。裏のスペースを埋める上福元も効いていたと言えるだろう。

 この日立ち上がりにチャンスを迎えた大久保は前半に2回決定的なシュートのチャンスを迎えたが、ネットを揺らすことができず。数字が欲しいタイミングだっただけに本人も悔しかったはずだ。

前線のスタンスとスタイルのギャップ

 浦和のペースで始まった試合だが、徐々に川崎はボール保持で勘所を見つけることでプレスを回避していく。キーポイントは浦和のプレスのスタンスである。浦和は4-2-3-1型のプレスは前線4枚が大きく動きながらプレスをかけていたものの、後方からCHが援軍として縦方向にスライドしてプレスをかけに出てくることはない。

 そのため、基本的には川崎の後方でのボール回しは全く出どころがないということはなかった。上福元を使ったビルドアップを行えば、浦和のベクトルをへし折ることができた。

 浦和の前線の守備のムラも川崎にとっては助かった。横にボールを動かすアクションをすると、髙橋はCBに食いついてくるし、安居もサイドのヘルプやCBのチェックに顔を出したがる。こうした動きは時に川崎には助けになる。中盤でCHがフリーで前を向くことができるからである。

 15:30のシーンの安居の振る舞いは川崎を助けた一例である。車屋が上福元にパスをつけた段階で安居はしミッチを捨てて大南の方向に向かうそぶりを見せる。このシーンは左サイドから大島の壁パスを使ってシミッチがフリーでSBが高い位置を取る右サイドに展開ができた。

 では安居はどうすれば良かったのか。端的にいうと、大南を捨ててしまえばいい話である。繰り返しになるが、この日の浦和は川崎のビルドアップの枚数にプレスの枚数を合わせる気はなかった。そのため、追いかけ回していく上でどこかは必ず空いてしまうのである。

 川崎の今のバックラインにおいて、最もフリーにしたときに怖さがないのは大南だろう。狭いスペースを通るスキルはまだないし、マーカーがついている選手に強引にパスを出してはロストに繋がることもある。逆にシミッチは最も空けたくない選手。この辺りはきっちりと優先度をつけるべきだ。

 カンテは運動量こそないが、こうした優先順位をつけることははっきりしていた。横のコースを切ることで川崎が最短ルートでサイドを変えることをきっちりと防ぐ。ボールを刈り取ることはできないが、川崎が焦ったくなるようなコースの切り方ができていた。

 もちろん、状況が違えばプレスに行くか行かないかの正解はひっくり返る。43:20の付近の髙橋の大南のプレスはとてもいい。上福元にカンテがプレー方向の制限をかけていて、安居がシミッチを捕まえて他に選択肢もない。髙橋が大南を追い込めれば、捨てることすらできるか怪しい場面。いわば、これは先ほどまでのように優先度をつけてボールを持たせるシーンではなく、刈り取りに行くシーン。これだけ状況が整えばむしろプレスはいかなくてはいけない。

 ただし、浦和は枚数が合わせることが常態化していない分、前線のCBへのプレッシャーが正解になるケースは少ない。要は「刈り取る」ことよりも「優先度をつけて追い込む」ことを優先するスタイルだった。よって安居や髙橋の振る舞いはこうした浦和のスタンスとややギャップができるシーンもあったように思える。

 川崎は先ほどのシミッチのように中盤中央でフリーになる選手を作ることはできていた。気がかりなのは大島。対面の相手の逆を取ることでボールをプロテクトする部分は増えてきてはいるので、少しずつコンディションは上向きなのだろうが、パススピードが足りないせいでせっかく相手を外せても浦和の守備のスライドが間に合ってしまうシーンが非常に多い。

 終盤の瀬川へのスルーパスはとても良かったが、あのシーン以外でレンジの長いパスやミドルシュートを積極的に狙う場面は少ないのは気がかり。やはり、ボールを少ないタッチで強く蹴り出すことに不安があるのではないのだろうか。先ほど、川崎で最もフリーにしたくないのはシミッチといったが、本来であればこの部分は大島が君臨もしくは比肩して欲しいところ。そう言う意味では大島から攻撃を加速できない寂しさはあった。

押し込んだ時の課題が見られる両チーム

 ビルドアップはなんとか解決策を見つけることができた川崎。もう一つの問題である左サイドの攻撃の詰まりは家長の出張によって打開を図っていく。家長の出張の収支は毎試合変動するものと捉えているのだが、この試合の査定はなかなか難しい。

 8分のように明らかに出張した弊害と言えるような歪なカウンター対応を強いられることもあるが、この日の川崎の左サイドのメンツを考えると、左サイドに彼が顔を出さなければ変化をつけることは難しい。この辺りは運動量に不安のある大島を低い位置でスタートさせる弊害でもあるし、大外に張って力を発揮するタイプではない遠野を使っていることによる制約でもある。

 結局この日は家長がいるサイドでしか時間を作れなかったのが実情なので、左で崩そうと思えばサイドチェンジを捨ててでも家長が左に顔を出すことは理にかなっているように思う。ただし、やはりクロスになると飛び込む時に逆サイドからの圧力がないのは厳しい。浦和のバックラインは躊躇なく絞るアクションを見せることができる。

 そもそも浦和の守備ブロックが高いのに加えて、左サイドからのクロスが逆サイドから飛び込める選手がおらず、右サイドからのクロスには遠野や登里という高さがない選手しか飛び込むことができない。最近はこの問題を左サイドで宮代を起用することで解決してきたが、小林やダミアンの不在で宮代をCFにスライドさせなければいけない状況であり、この試合ではそれができなかった。

 そんな川崎の攻撃の光明はポジトラだろう。浦和が即時奪回に来たタイミングにおいて、相手の逆をとって浦和を背走させる形の速攻を成立させるのがうまかった。脇坂のターンやパスワークはこの面においては別格と言えるだろう。CKはなかなか刺さらず苦労しているのは相変わらずだが。

 浦和の保持はトランジッションが成立しなくても問題なく押し込むことができていた。主な狙いは遠野の背後のスペース。外切りの意識が強く前に出ていきがちな遠野を手前に引き出し、明本のオーバーラップを活用し、大久保とともに登里を挟み込むことができるのが理想。先に挙げた大久保の開始直後の決定機も遠野を出し抜いた形で明本がオーバーラップをしたことがトリガーになった。

 遠野がショルツにプレスに行ってもボールは頭を越されてしまう。左のCBであるホイブラーテンも積極的に対角パスを狙うことで積極的に明本と大久保が登里を挟み込めるシーンを作っていた。

 浦和はこの状況を作ることができればチャンスを作れる空気はあったが、この状況を作れないと一気に敵陣の攻略は詰まる。遠野は早々にCBまでボールを借りに行っては無駄と判断したのだろう。明本のマークに集中してからは浦和のチャンスができる頻度はグッと減る。

 カウンターでのプレーの精度に加えて、サイドの打開のメカニズムが確立できないのは浦和の攻撃の課題。ハーフスペースの裏へのランを活かすパスをうまく活用できない。おそらくこれは裏へのランを囮として表側の選手を使うことができないからだろう。浦和は裏に抜けた選手を使う決まりになっている感があったので、川崎はかなり先読みした対応が可能になっていた。ここに変化をつけられれば川崎の対応も後手を踏んだだろう。直近で似たサイドの攻め方をしてくる広島と対戦できたのも川崎にとっては幸運だった。

 浦和の攻撃のアクセントになっていたのはショルツ。右の後方支援役が基本のショルツが持ち上がって出ていくと川崎の対応は後手に回る。まさにサイド攻撃の最終兵器という感じ。やり切ることは絶対条件になるが、この日の浦和のサイドの詰まり方を見れば、彼が顔を出すのは妥当だろう。

 両チームとも押し込む局面で想定通りの攻撃の課題が吹き出す形に。試合はどちらもゴールを奪えず、スコアレスで後半を迎える。

ハイテンポがもたらした結末は

 後半の頭、ペースを握ったのは浦和。前半よりも幅を使う攻撃を意識し、右サイドで大久保のアイソレーションを整える。登里のマッチアップでは優勢だった大久保からのクロスにはHTに交代で入った関根が飛び込みあわやというチャンスを作り出す。

 浦和は前半よりも高い位置からのプレスで川崎からボールを刈りに来る。川崎は逆を取ることができる中盤を軸に浦和のプレスに対抗。ひっくり返す形で敵陣に攻め込んでいく。

 強気なぶつかり合いの中で先手をとったのは浦和。2トップに裏抜け気味のロングボールを狙った西川のフィードに上福元が飛び出して対応したが、こぼれ球を関根がロングシュートで無人のゴールに押し込む。

 山根がプレスに出て行ったにも関わらず正確なボールを蹴った関根がうまかったというのは前提ではあるが、この場面は川崎がある程度予防措置をとることができたシーンではあるだろう。飛び出した後の処理というよりはそもそも飛び出さないという判断は可能だったように思う。DFライン最後方の車屋は安居より川崎ゴール側に体を入れられていたし、上福元はもう少し様子を見てもいい場面ではないだろうか。

 もちろん、飛び出しての処理が彼の持ち味なのは理解できるが、やはりゴールマウスが空いてしまうのは相当なリスクでもある。出ていかなければいけない状況の判断はもう少しシビアにしてもいいように思う。川崎は前半の守備の良かった点が失点に結びつくこととなってしまった。ちなみに西川のこの質のフィードはゴール以降も狙い目として行われることとなった。

 リードを許した川崎は10分もしないうちに試合を振り出しに戻す。ビハインドの分、高い位置からのプレスに出ていく覚悟が出た川崎。ハイプレスに対して、浦和は保持時の悪癖が出る。降りていくCHを活用したポゼッションである。

 背中に相手が近づいている岩尾にパスを出した西川。パスを受けた岩尾は両サイドのCBにパスをつけるチャンスはあったが、宮代と脇坂が気になったのか西川にパスを戻す選択をする。このボールを西川が処理ミスし、浦和はオウンゴールを献上する。

 岩尾が西川に押しつけた最後のパスが爆弾パスだったのは間違いないだろう。ただし、岩尾も西川のパス以外もリスクを背負うプレーしか選択できなかった場面。リードしているという状況を踏まえれば、そもそも西川が初手で岩尾につけるのではなく蹴っ飛ばしても良かったと思う。

 両チームともGKが関与する形で得点が決まったため、試合はここからハイプレスハイのテンションのスイッチが入った格好となった。その分、中盤は間延びし攻守にボールが行き来する展開が続くようになる。川崎はポジトラ時の相手の外し方、浦和はサボらない裏へのランとそれぞれの良さを出しながら打開策を狙っていく。もちろん、一番の決定機は大島のスルーパスに瀬川が抜け出したシーンだったが、瀬川は逆足でシュートをミートすることができなかった。

 この早いテンポについていけなかったのは途中交代の小塚。初手であっさりとボールを奪われると、投入から4分後にショルツへのタックルで退場。押し込む局面が優勢な場面ではアクセントになる選手だが、トランジッションゲームの様相を呈するこの試合は不向きだったと言えるだろう。

 この退場を受けて川崎は4-4-1にシフト。自陣でのプロテクトを優先しつつ、少ない手数で前を向くチャンスを狙っていく。中盤での逆を取るアクションに加えて、右のWGに入った山田へのロングボールを活用。明本が負傷した代わりに左サイドに登場した大畑であればマッチアップは優勢だろうという判断なのだろうが、途中からホイブラーテンが初手でスライドしてからマッチアップするようになってからはまるで収まらなくなった。自陣でのパスワークでフリーマンができづらくなったことも含めて、川崎は苦しいやりくりを強いられる。

 浦和も敵陣に攻め込みはするが、なかなか決定機と言える場面は作ることができない。やはり4-4ベースの守備を崩すのが課題なのだろう。興梠のポストは大南相手でも平気で収められていたのはさすがだったが、ゴールまで前線の起点をつなくことができない場面が目立つ。

 川崎が避けるべきだったのは後半追加タイムに見られた瀬川の無理なチェイシング。浦和はズレを作るのに苦労していたのに、無理筋なプレスを行うことで自らズレを差し出すのは10人のチームがやることではない。先ほどの決定機ミスを取り返したい気持ちはわかるが、まずは前残りやハイプレスではなく我慢を優先して欲しい場面。大ごとにならなくて本当に良かったシーンだった。

 試合はどちらも決勝点を奪えないまま終了。川崎は10人ながらも勝ち点1を埼スタから持ち帰ることができた。

あとがき

 広島戦で述べたように川崎はこの精度の自陣での守備ができれば簡単に負けるチームではなくなったということである。だが、4-4ブロックでのサイド封鎖を前提に組まれる試合ではなかなか難しいところが出てくるのも確かである。

 チャンスの少なさは難しさの一端になるだろう。サイドの攻撃は家長なしには成立せず、なかなかサイドを変えて幅をとることもできない。CHが低い位置での守備と高い位置での攻撃参加を両立できれば4-2-3-1でも攻撃は成立するのだろうが、大島にその要求は難しいだろうし、より運動量がある瀬古や橘田にしてもタスクの多いこの役割を託すには心許ない。

 結局、ハイプレスができないから4-4-2でのローブロックに行き着いているのだから、ある程度制約がつくのは仕方がない。高い位置からボールを奪う手段を放棄するのであれば、この試合のように少ないチャンスの中で1つの決定機の成否が全てを分ける試合になるだろう。実際広島戦もそうだった。それでも今の川崎にとってはそれが最良手段であるならば、愚直にやり続けるしかない。最良手段は相手次第ではあるけども。

 10人で奮闘した頑張りと同じくらい、できないことを削った先にあるもののスケールの現実感を感じた試合でもあったと言えるだろう。

試合結果

2023.6.24
J1 第18節
浦和レッズ 1-1 川崎フロンターレ
等々力陸上競技場
【得点者】
浦和:53′ 関根貴大
川崎:59′ 西川周作(OG)
主審:今村義朗

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