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「祭りにすらならない」~2023.8.26 J1 第25節 川崎フロンターレ×北海道コンサドーレ札幌 レビュー

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レビュー

逃げ道を用兵で塞ぐ

 札幌戦のレビューの書き出しはいつだって同じ。「まずは札幌のマンツーの守備に対して川崎がどのように対応するか」である。2トップの浅野とスパチョークが川崎のCBをケアし、アンカーのシミッチには駒井がついていく。バックラインから人にアプローチするというお決まりのミシャスタイルはこの試合でも当然健在だった。

 というわけで「川崎がどのように対応するか」が次のポイントになる。結論から言えば、川崎はこの部分でほとんど札幌に抵抗ができず、主導権を完全に明け渡してしまった。プレビューでGKを入れ替えない限りはショートパスからマンツーではめてくる相手を外すのは難しいのではないか?と述べたが、実際にその懸念が出てきた形となる。

 札幌がマンツーではめてくることは両チームともにわかっていた流れだろうが、両チームの準備段階での差が展開にそのまま結びついてしまった感がある。札幌はマンツーの中でも取捨選択が明確だった。ソンリョンは完全に捨ててボールを持たせる、逆に奪い取れそうな大南には深くまで追い回す。中盤には馬場と荒野を起用し、ここ数試合中盤起用が多かった福森も駒井も使わない。中村の欠場が想定外だった可能性はあるが、中盤より敵陣側でボールを奪いにくる陣容をきっちり用意したという印象だ。

 川崎のバックライン、特にソンリョンと大南の取捨を明確にすることで札幌はプレスにメリハリをつけてきた。そういう意味では流れでソンリョンまで追いかけ回すことをしてきた広島戦よりも川崎は苦しい状況に追い込まれたと言っていいだろう。

 もっとも、GKまでプレスをかけてくる相手に高井と山村でもマンツー外せなかったのが広島戦なので、今の川崎のCBにはこの状況を打開できる選手がそもそもいないと結論づけることもできる。前節、ファインセーブでチームを救っていたソンリョンを外しにくい部分もあるし、バックラインの用兵では解決するのは難しかったかもしれない。

 しかしながら、この試合においてはバックラインでショートパスから繋げなかったから詰みというわけではない。川崎には十分に攻め手がある。広島に比べれば札幌はバックラインの強度が明らかに怪しい。特に今節は先に述べたように中村に変わって福森が入っている状況なので、ここ数試合に比べても強度は低めだ。

 だが、川崎の先発CFは小林だった。背負ってキープできるダミアン(おそらくゴミスも)、ロングボールから反転して縦に推進力を出していく山田、瀬川のような2列目を活かすためのスペース作りの裏へのランができる宮代。どの選手でも札幌相手にバリューが出せるように思えたが、その中で小林だけはボックスに近い位置で駆け引きをしてほしいタイプ。競り合いでボールを収めるという観点では翳りが見える11番に前進の役割を託すのは厳しい。ボックス内で勝負が持ち味の小林が前進を託されてロングボールを放り込まれる状況は孤立して当然だろう。

 よって、川崎は自由にボールを出せるソンリョンから前線に収まらないロングボールを延々を入れ込む時間が続いていくように。家長の出張、山根の絞る動きなどスポットで相手を乱す動きはなくはなかったし、配置的に相手を混乱させることはできてはいたが、実際のプレー精度のところがついてこなかった。家長に関しては出張の評価はその試合ごとにブレるイメージだが、この日の内容ではワイドに張っていようが左に流れようがあまり変わらなかったように思う。

 というわけで、リソースや仕組み的に解決できない後方と人選的に不可解なところがある前線により、川崎は前進の手段を見つけることができず。その結果が前半にシュートを一本も打てないという体たらくにつながることとなった。

痺れを切らす悪循環

 前半にシュートを打てなかったということはボール保持での前進だけでなく、非保持でのプレッシングもさっぱりうまくいかなかったということである。バックラインは岡村と馬場がCBに入って荒野と高木と共に菱形を形成、福森と田中がSBのように開くという全くもっていつもの札幌だった。

 プレスのスイッチ役としてはWGの瀬川が外を切りながら菱形を形成するCBにプレスをかけにいくことで担おうとしていたが、右サイドの大外に開く田中に頭上を通されたらおしまいという状況。SBの佐々木が出ていけないのは目の前のルーカスを考えれば当然だし、IHがスライドすれば、駒井が中盤にパスを引き取りに降りてくる。

 瀬川は賢い選手なので、早い段階でこのプレスが無駄ということを悟ったのだろう。立ち上がりの一瞬以降は外切りでバックラインにプレスに出ていくことをしなくなった。そうなれば高い位置からのプレスは機能しないのは当然である。

 下がって守るのはそれはそれで大変である。夏場の中で連続出場が続いている家長にとっては福森をマークするためにワイドのポジションを取り直すのは大きなコスト。よりによって最も相手のバックラインで大きな展開ができる選手にはマークが甘くなるという状況になっている。そのため、川崎は出ていこうが出ていくまいが福森が自在に左足を使って大きな展開をすることを許してしまう状況だった。

 自在にサイドの深い位置を簡単に取られ続ける状況であり、ラインを上げられる気配もない。その上、ボール保持のターンで前進もできない。そうなれば、待っているのはジリ貧である。その状況におそらく痺れを切らしたのだろう。徐々に脇坂が単独で列を上げてバックラインにプレッシャーにいく。

 遅れて後方からズレる形でプレッシャーに出ていくというのは、シュートを直接打つことができるエリアでもない限りは相手に進んでスペースを明け渡すという悪循環につながることが多い。前節のマルコスを追いかけに行った高井はその代表例だろう。この脇坂のアクションもその例に漏れず。彼になんとかして前から捕まえたいという意思が見える以上の意味はなく、中盤にパスを入れるスペースを許しただけだった。

 自陣では今年非常によく見られるシーンである「ホルダー周辺に守備者がいる割に、選択肢を削げていない状況」が頻発。2失点目である駒井のゴールシーンを右サイドのルーカスがボールを持っているところまで遡る。ルーカスに寄っているのは佐々木と瀬川。しかしながら、2人の選手が矢印を向けているにも関わらず、ルーカスにとっては「佐々木の外側から裏に抜ける浅野への縦パス」と「真横でフリーになっている荒野」と言う選択肢が存在している。

 というわけでルーカスは横パスを選択。馬場までボールを到達したところで脇坂が「痺れを切らして」前に出ていく。

 その矢印が出たところで馬場はスパチョークにラストパス。そして、スパチョークは山根を交わしてエリア内にラストパスを出す。脇坂が出て行ったことの皺寄せを受けたのがスパチョークからラストパスにおける大南。実際にパスが出た駒井へのパスコースとマイナス方向の菅の二択を突きつけられて、ニアに決め打ちした結果、ファーを使われた。脇坂が馬場にプレスに出ていかなければおそらくシミッチと同じ高さまでは戻ってこれた可能性は高く、その場合は駒井へのグラウンダーのパスコースを大南が塞ぐことは可能だっただろう。

 脇坂がプレスに出ていかなければ、馬場はすぐにボールをリリースすることはなかったかもしれない。ホルダーを捕まえることが遅れることは確かに嬉しい状態ではないが、それは人数をかけたのにあっさり脱出させた川崎の左サイドが作り出した皺寄せということだろう。山根が止めていればという話は確かにその通りだが、撤退守備というのは幾重にも重ねたセーフティネットによって強固にしていくもの。山根が交わされたというのはこのシーンで簡単に破られてしまったセーフティネットの1つでしかないということだ。

 先にも述べたが、プレッシングはタイミングを誤れば相手にスペースや選択肢を献上することになりかねない。矢印を向けたにも関わらず、選択肢を取り上げられなかった瀬川と佐々木、遅れて出て行った脇坂などはプレーの選択により相手にスペースを供給しただけになってしまった。

 スパチョークの先制点における壁の作り方にも疑問は残る。ボックス内での数的不利、真横へのパスコース放置での壁6人という「直接FK決め打ちシフト」は結果的には的中したものの、偶発的に転がったスパチョークのミドルを防ぐことができなかった。福森が真横にパスしていればデザインできたミドルが偶発的に実現しただけである。

 そういうわけでオープンプレーとセットプレーの二面で川崎の守備は苦戦。あわや3失点をするか?という散々な状況でハーフタイムを迎える。

想定外の停滞感

 川崎はシミッチと瀬川に代わって瀬古とマルシーニョを投入。瀬古は脇坂、橘田を絡めた3センターの均質化による移動の増加でフリーの選手を作る目的、マルシーニョはもちろん物理的な移動速度でマーカーを振り切ってもらう役割が期待されることになる。

 それでも序盤は苦戦が続く。マルシーニョは前を向けない状況が続き、バックラインは相変わらず外すことができない。車屋にしても大南にしても、ボールを出した後に動き直しのアクションが少ないのが苦しい。ボールを持った時に何ができるかよりも、ボールを持っていない時に何をできるかのフォーカスはもっとしていいと思う。特に少ない時間でボールを扱うことが苦手な大南はここに力を入れてほしいところである。

 そんな状況でも背後に走ることができればマルシーニョは仕事をする。岡村のファウルはDOGSO要件を満たす位置関係が成立するかは微妙(馬場のカバーリングが間に合うかが争点)だったが、岡部主審は一発退場を宣告した。

 数的優位を享受した川崎だが、そのメリットを活かせたとは言い難い。札幌のプレス隊は大南を放置することでズレを作ることを防いでいたし、大南自身も自分がフリーになったことを活かすような素振りを見せなかったため「札幌相手に自陣で捕まらない」というマイナス要因の解消以上のものを川崎はなかなか見せることができなかった。65分の車屋の列上げサポートでようやく数的優位の実感が湧いたという感じであった。

 それでも前進することができれば十分に戦えると思ったのだが、その前提を打ち砕くような後半の出来だった。敵陣に押し込んだ後の攻略として最も信頼がおけるユニットは家長-脇坂-山根のトライアングルだが、まぁこの試合ではここからのチャンス供給がほぼない。これは個人的には完全に誤算だった。

 いかにも加入間もないGKと途中投入のCBのコンビっぽい連携ミスから脇坂がゴールを奪ったり、元気なマルシーニョから左サイドを打破した流れで佐々木がゴールを決めるなどスコアの上では同点で追いついた川崎。しかしながら、押し込んでの手応えのある崩しはどうしても単発であり、「札幌相手に10人」という看板に比べれば迎えたチャンスは乏しい。得点を決めた佐々木にしてもゴールシーン以外の貢献度は低い。守備では後手を踏み、攻撃ではルーカス相手に壁を破れないシーンが多く、終始苦しいマッチアップである。

 その佐々木が負傷をしたことで川崎はSBに橘田をスライド。なぜか、10人の札幌が明確に使えそうなマッチアップが生まれてしまうのは登里がいないこの日のスカッドの歪みだろう。それでも、明らかに正対してこれからルーカスに1on1を仕掛けられるだろうということが想像できる橘田を放置するのは切ない。数的優位なんだからヘルプに行ってあげてほしい。戦術とかプランとか関係なく当たり前にやってほしいところができなくなっているあたりは余裕のなさを感じる。

 10人になった札幌も11人のままのはずの川崎も毎回恒例のチャンスの応酬を引き寄せる気力も体力もない終盤戦。まさしく痛み分けという言葉がふさわしいドローだろう。

あとがき

 前半はチーム状況とスタメンから想定できる課題に直面し、後半は押し込める状況からこれまでできていたことができなくなっていることに失望したという90分だった。札幌というJ1で最もプランを想像しやすいチーム相手に機能しそうなポイントを作らずに攻め続けられた前半と、川崎が強みと考えていた右サイドのトライアングルの崩しはもはや強みではないのかもしれないと突きつけられた後半のどちらかが失望感が大きいかは人によるだろう。

 札幌戦の恒例のオープンな展開で局面での評価が難しくなる終盤を迎える前にプロセスでの進歩を感じる内容が見れるのがこの試合の理想。実際のところは不均衡な状況で迎えたオープンな終盤でチャンスを掴むことすらできないのが今の立ち位置ということだろう。2点差を追いついたとはいえ、勝ち点3でさえ背けられない内容の乏しさなのだから、勝ち点1で覆い隠せるわけもない。攻撃も守備も課題だらけで正直どこから手をつけるのかが想像つかないレベルだが、できていなかった部分の一部はこれまでできていた部分なのは確かなので、何かきっかけを掴んで事態が反転することを祈るしかない。

試合結果

2023.8.26
J1 第25節
川崎フロンターレ 2-2 北海道コンサドーレ札幌
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:67′ 脇坂泰斗, 71′ 佐々木旭
札幌:27′ スパチョーク, 35′ 駒井善成
主審:西村雄一

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