MENU
カテゴリー

「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~ウェールズ代表編~

目次

第1節 アメリカ戦

■ムーア投入と千両役者の躍動で巻き返したウェールズ

 イングランドがイランに圧倒的な差を見せてスタートしたグループB。イランを叩き、イングランドには苦しい戦いになることが既定路線となるならば、ウェールズとアメリカにとってはこの開幕節は2位争いのライバルとの対戦ということになる。勝った方が大きく優位に立つ重要な一戦だ。

 試合の構図としてはウェールズの5-3-2に対してアメリカがボールを持ちながら解決策を見つける試合となった。基本線となったのはバックラインのSBを片方上げる形での3バックにアンカーのアダムスが加わる3-1ブロックで後方を形成するパターン。5レーンに対して余剰な人員を1人加えることによって不確定要素を増やしていくこのアプローチでポゼッションをする側のチームが陥りやすい停滞感を回避していく。

 アタッキングサードにおいては、右サイドから裏抜けを図るウェアと左サイドに流れる形も作るIHのムサがプリシッチをサポートする形からチャンスメイク。両サイドから外を回る形でエリア内に迫っていく。だが、サージェント1枚ではややハイクロスだけでは物足りない。ビルドアップでの前進はスムーズだったアメリカだったが、高い位置での仕上げという意味ではもう一声欲しいという状況だった。

 一方のウェールズもボールを持つとじっくりとポゼッションに移行する。アメリカに比べるとボールを持つ機会自体は少なかったが、一度ボールを持つことができれば縦に急がずに前に進む手段を模索する。

 最終ラインでのボール回しは基本的には3枚。GKを組み込みCB2枚でGKを挟む形を作るか、3バックがベーシックに並ぶ布陣通りの並びの2パターンで最終ラインに3枚を用意する。

 サイドを経由しながらボールを回し、アメリカの3センターの背後を狙う形を作っていきたいウェールズ。しかし、3センターの背後でボールを受けても2トップのベイルとジェームズはあっさりと潰されてしまい何もできず。そもそもボールをクリーンに前進できる場面が少ない上に、敵陣に迫ると手段がなくなってしまうウェールズにとっては攻め手が乏しく苦しい状況となった。

 アメリカとすれば、ベイルとジェームズのところをボールの取りどころにしてカウンターに移行したかったところだが、早い攻撃においてはスピードアップしきれず。ウェールズの攻めの詰まりを生かしきれていたというわけではなかった。

 それでも、ボールを持った時に主導権を握ったアメリカは前半のうちに先制点をゲット。サージェントのポストから落としを受けた攻撃を加速させると、最後はウェアが決める。前半、もっとも綺麗な形で前進することができたシーンをアメリカがきっちりとスコアに結びつけて見せた。

 ビハインドとなり苦しい状況になったウェールズはハーフタイムにムーアを前線に投入。これが効果抜群。左右への動きだしとハイボールを収める力を発揮することができるムーアの登場で、ウェールズは明確に攻め手を作ることができるようになった。

 ウェールズは選手交代でセットプレーも強化。一気に得点の可能性を高める。オープンプレーにおいても、ムーアのポストからフリーで受けた選手が大きな展開からサイドの奥を狙う形を狙えるようになる。だが、こちらはサイドチェンジの精度がもう一つ。せっかくの好機につながりうる局面を台無しにしてしまう場面が目についた。

 苦しい状況になったアメリカ。ゴールマウスを守るターナーの奮闘でなんとかリードを守り続ける。右サイドからのクロスで反撃を狙っていくが、交代選手の働きはウェールズに比べると単調でアクセントを作るのに苦労していた印象である。

 優勢だったウェールズが追いつくチャンスを得たのは80分過ぎのこと。右サイドのスローインを素早くリスタートすると、ラムジーがエリア内に走り込みながらボールを引き取る。そのラムジーからのラストパスに入り込んだベイルがジマーマンに倒されてPKを獲得。これ以上ないチャンスを得る。

 ファインセーブでアメリカのゴールに鍵をかけてきたターナーと、ウェールズをW杯に導いた立役者のベイルのPKはかなり画になった。このPKはベイルに軍配。コース、速度ともにGKにとっては事実上ストップ不可能なPKをこの場面で蹴って見せるベイルはやはり千両役者。いつだってウェールズを救ってきたのはベイルである。

 ここまでワンサイドゲームややや緩んだ雰囲気が多かった試合が多かった今大会において、ようやく訪れた手に汗握る好ゲーム。前半に主導権を握ったアメリカとムーアの投入で反撃に出たウェールズはともに見せ場を作り両軍のサポーターを沸かせてみせた。

試合結果
2022.11.21
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第1節
アメリカ 1-1 ウェールズ
アル・ライアーン・スタジアム
【得点者】
USA:36′ ウェア
WAL:82′(PK) ベイル
主審:アブドゥルラフマン・アル=ジャシム

第2節 イラン戦

■4枚残しが与えた隙がイランの突破の望みを繋ぐ

 2周目スタート!トップバッターとなるのは初戦でイングランドに大敗して後が無くなったイラン。迎えるのはベイルの獅子奮迅の活躍でなんとか勝ち点を拾ったウェールズである。

 どちらもプレッシングには積極的である。5-3-2のウェールズに対して、イランは2トップの脇にポイントを作り前進を狙っていく。だが、ウェールズはここの2トップ脇に立つイランの選手にもIHが積極的にプレッシングをかけていく。

 プレッシャーを受けたイランはバックラインでボールを回しながらフリーの選手を作り、ロングボールを蹴りに行く。このイランのプランは比較的うまくいったと言えるだろう。まず、システムを前節の1トップから2トップに変えたことで的が増えたこと。そして、収めるスキルが高いアズムンが先発に起用されたことが大きい。

 加えて、ウェールズ側の守備の事情も関係してくる。ウェールズはプレス時にMFが高い位置から追いかけるものの、DFがそれに伴ったラインアップができていないため、プレスに行くときにDF-MF間が間延びする。このスペースにイランの2列目は狙っていく。アズムンへのロングボールを拾うようにSHのアリ・ゴリザデ、ハジサフィとCHのノールッラヒーが前がかりに入り込んでいく。前がかりになるウェールズの裏をかく格好で前進する。

 ウェールズ視点でもイランの非保持の仕組みにも狙いどころはあった。4-4-2のブロックではあるが、基本的にイランはこの陣形を維持することに無頓着。高い位置からのプレスを逐次的に行なっており、4-4-2らしい形状をキープせずにマンマーク色を強めることで相手へのプレッシャーを優先した形になる。

 近くの相手を潰すためにプレス隊を続々投入するというスタンスのため、イランは大きい展開に弱い。ムーアへのロングボールや、大きくサイドを帰るボールなど縦と横に大きく振るボールを蹴ることができればウェールズは前進ができる。

 しかしながら、ウェールズの前進はイランに比べると詰まることが多かった。理由の1つはショートパスでの繋ぎに固執したこと。イランは後方のスペースを犠牲にしてでも突撃していたのだが、ウェールズは近め近めのスペースにショートパスを繋ぐことが多かった。

 もう1つ、大きな展開において受け手のサポート役を作れなかったこと。長いボールは滞空時間が長い分、非保持側の選手もプレーの予測がしやすい。よって、ボールを受けた選手が意外と時間がないことが多い。そのため少ないタッチでボールを預けられるサポートやくは必要だ。

 実際にムーアへのロングボールにウィルソンの抜け出しを合わせる形は良かった。少ないタッチで味方に繋ぐことができればウェールズはより良い形でチャンスを作ることができたはずだ。

 ウェールズは相手を横に揺さぶる過程でも技術的なミスが出ていた。ロバーツの横パスミスからボールをかっさらったアリ・ゴリザデがショートカウンターを発動。2トップとの連携でネットを揺らしてみせたが、これはオフサイドでゴールを認められず。ウェールズからすると助かった場面と言えるだろう。

 スコアレスで迎えた後半、ウェールズはサイドからクロスを上げようとポゼッションを増やしていくが、その過程がミスが出る。イランのメインはカウンター。ウェールズのミスを起点にポジトラ勝負で一気に敵陣のゴールまで進んでいく。

 ウェールズはボール保持において割とIHが移動を行うので、中盤手前でのロストからの被カウンターの状況には弱かった。特にDFの前のスペースでフリーの選手をイランに作られることが前半以上に多く、最終ラインは前も後ろも気にしないといけない状況に陥っていたのは厳しかった。

 イランの誤算はアズムンが元気なうちに得点を奪えなかったこと。ロドンに対して、動き出しで明らかに優位を取れていたので先制点を奪う前に負傷交代してしまったことは計算外だったはず。後半はカウンターを使うイランのほうが優勢だったが、アズムンの交代で試合は再びフラットになってしまう。

 その試合の流れを再び変えたのが退場劇。今大会初めての退場はPA内から飛び出して出ていったヘネシー。相手選手との衝突は一発退場をとられウェールズはこれ以降10人でプレーすることに。

 しかし、強気のスタンスを崩さなかったウェールズ。途中から採用していた4-2-3-1から4-4-1にシフトすることはなくベイル、ムーア、ジョンソン、ジェームズの4枚を前に残す強気の采配で勝ち点を狙いにいく。

 イランが焦っておりやや一本調子になったことはウェールズにとっては幸運だった。左サイドからの単調なクロスはなんとか防ぐことができていたウェールズ。このまま凌ぐことができるかと思われたが、最終的には劇的なミドルシュートで決壊。イランがチェシミの決勝ゴールで先行する。やっぱり、アレンの隣に誰か置かないのは無理というのがウェールズの4枚残しの結論である。

 終盤にさらに追加点を挙げてスタジアムを狂気の渦に巻き込んだイラン。最終節のアメリカ戦まで初のグループリーグ突破の望みを繋ぐことに成功した。

試合結果
2022.11.25
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第2節
ウェールズ 0-2 イラン
アフメド・ビン・アリー・スタジアム
【得点者】
IRA:90+8′ チェシミ, 90+11′ レザイーアン
主審:マリオ・エスコバル

第3節 イングランド戦

■入れ替わった両WGが隣国に引導を渡す

 ヘネシーの退場で10人に追い込まれた結果、イランに敗れてしまったウェールズ。ノックアウトラウンド進出に向けてあとがない状況で、目の前に立ちはだかるのは何の因果かイングランドである。W杯史上初の激突が突破の運命を決める一戦となる。

 ウェールズのフォーメーションは4-2-3-1。ここまでは3バック主体の彼らとしては、アタッカーを多めに配置する得点を意識した陣形を採用したと言えるだろう。

 それであるならば高い位置まででていくトライをしたいウェールズ。2トップでアンカーを管理しながらイングランドのボール保持を阻害する。中盤から3枚目が出てこないため、イングランドからすると比較的CBが時間を得る状態になる。

 あまり、イメージじゃないかもしれないが、プレッシングで枚数を割いてこない相手に対しては割とマグワイアは自信満々にキャリーする。自分の前が空いている時にドリブルでボールを運んでの攻撃参加はプレミアリーグにおいてもかなり見られる場面だ。

 よって、ウェールズの高い位置から守っていこうぜ!というスタンスはマグワイアから崩されることになる。相手を引き出すことに成功したら、サイドに配球。マグワイアの保持における役割はイングランドが押し上げながらプレーをする手助けになっていたと言えるだろう。

 ただ、ウェールズも気合が感じられる内容だった。4-4-2のリトリートは非常に素早くPA陣内を埋め尽くす。外を回った時の崩しのアイデアが乏しいイングランドの4-3-3はハイクロスに頼りがちだったが、ウェールズはこれをひたすら跳ね返し続ける。

 しかしながら、攻勢に出た時の出来は物足りない。ムーアへのロングボールを起点に何とか陣地回復を行いたいところだが、前を向いた際のクオリティが足りずにイングランド陣内に侵攻することができない。

 マグワイアが前に出るということはカウンターの際は彼が苦手な広い範囲の守備を行う必要が出てくるはず。だが、そうしたイングランドの弱みをウェールズはボール保持で揺さぶることができなかった。

 イングランドが攻め立てるが、ウェールズが跳ね返す。前半45分はざっくりとこの言葉一つに集約できなくもない内容だった。

 迎えた後半、両チームとも布陣をいじって残りの45分に挑む。大勝負に出たのはウェールズ。ここまで大一番でことごとく結果を出してきたベイルを下げて、運動量を計算できるジョンソンを起用。ゲームのテンポを上げて自分たちの方にペースを引き寄せるために大エースを外すという荒療治を仕掛けてきた。

 一方のイングランドの修正は小規模。左右のWGを入れ替えてフォーデンとラッシュフォードをそれぞれ順足サイドに配置してみせた。

 結果を出したのはイングランドの方だった。左サイドでフォーデンが受けたファウルで得たFKを決めたのはラッシュフォード。GKのウォードは逆を取られてしまい、一歩反応が遅れてしまった。

 先制点のゴールをきっかけにイングランドは一気に畳み掛けていく。高い位置からのラッシュフォードのチェイシングからボールを引っ掛けると右サイドからケインが鋭いグラウンダーのパスを入れる。グループステージのイングランドにおいてはお馴染みになりつつある右に流れたケインの鋭いクロスを左サイドからフォーデンが叩き込んでみせた。配置変更がどこまで効いていたかは微妙なところだが、後半はサイドを入れ替えた両WGが活躍したことは間違いない。

 3点目を決めたのもラッシュフォード。ここまでスターターだったメンバーと入れ替わった選手が結果を出すというのはビックトーナメントにおいては非常に重要な要素と言えるだろう。

 高い位置からプレスに行く勝負に出たウェールズだが、この賭けはイングランドに返り討ちに合うことになる。追い込まれての英雄外しも奏功せずウェールズのW杯はここで終了。順当な首位通過を祝うイングランドとくっきりと明暗が分かれる形となってしまった。

試合結果
2022.11.29
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第3節
ウェールズ 0-3 イングランド
アフメド・ビン=アリー・スタジアム
【得点者】
ENG:50′ 68′ ラッシュフォード, 51′ フォーデン
主審:スラヴコ・ビンチッチ

総括

■リベンジの機会を得るためには

 64年ぶりのW杯へのチャレンジはなかなかにハードなものに。今思えば、アメリカと引き分けた開幕戦が実質今大会のハイライトになってしまった。

 以降はイランに退場者を出して敗れてしまうと、宿敵のイングランドに力負け。いいところなく大会から姿を消すことになってしまった。

 気になったのは一本調子な戦い方である。特にボール保持の局面が気になるところ。アメリカと引き分けた試合の転換点となったのは前線へのムーアの投入だった。長いボールを収められる彼のおかげでボールは前に進めるようになった。

 しかしながら、逆に言えば彼への長いボール以外に明確な前進の手段がないということでもある。ムーアへの長いボールから前進を狙いながら、途中からジョンソンを投入しオフザボールの運動量を増やすというのが彼らのお決まりのパターン。これ一本で勝負する武器としてはあまりにも弱い。

 残念だったのはベテラン陣の存在感の薄さ。ラムジー、ベイルとここ10年のウェールズを代表するタレントはアメリカ戦でのベイルのPK奪取を除けば、ろくに存在感を示すことができず。勝つしかないイングランド戦においてはベイルはハーフタイムで交代させられる有様だった。

 保持の面での物足りなさがあるのにも関わらず、他の部分で勝負できるポイントを見出すことができないのが彼らの予選敗退を招いたと言ってもいい。高いラインでイランに守りきれず、前進の手段も持ち合わせていないとなれば、自陣に引いても高い位置から追い回しても難しいのは当然である。

 プレーオフを勝ち抜いてのW杯出場は大きな経験になったのは間違いない。だが、ベイルとラムジーの後を見据えることができなければ、4年後のリベンジの舞台に立つことが自体が難しくなる可能性がある。

pick up player:ギャレス・ベイル
 流れの中でうまくいかなくても、アメリカ戦のPK奪取と蹴り込んだPKはそれだけで千両役者の存在感を見せたとも言える輝かしい場面だった。ウェールズがここまでこれた道のりを考えても彼らには欠かせない存在と言えるだろう。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次