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「Catch up UEFA Europe League」~2023.3.9 UEFA Europe League Round 16 1st leg スポルティング×アーセナル ハイライトレビュー

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3-2-5の維持と破壊

 グループステージの首位通過を果たしたアーセナルのラウンド16の相手は守田英正が所属するスポルティング。日本人対決となったカードはまずはポルトガルで1stレグが行われる。

 まず、目についたのはアーセナルの配置である。右サイドのポジションバランスがいつもと違って見える。非保持の局面ではサカが相手のWBであるレイスについていく形で5バックを形成。枚数を噛み合わせる形で合わせた格好である。

 アーセナルのボール保持においては3-2-5という雛形をかなり大事にしているようだった。3-4-3をベースのフォーメーションにしてくるスポルティングに対しては、かなりはめ込みやすい形の変形ではあったが、スポルティングは常時プレスをかけまくるわけではなく、撤退守備とプレスを使い分けてくるチームだったので、噛み合わせる形の変形が大きな障害にはならなかった。

 後方の3枚はキヴィオル(彼のスタメン起用も後方3枚固定の一因かもしれない)、サリバ、ホワイトが務める。その前の2枚の選手はやや流動的。ジョルジーニョは固定されていたが、残りの1枚はジャカかジンチェンコが入ることが多かった。前線の5枚は中央はマルティネッリ、左大外はネルソンが入ることが多かったが、構成人員によって配置が入れ替わることはしばしばあった。スポルティングはマンツー気味に相手を追いかける意識はなかったので、こうしたポジションの入れ替えが相手にズレをもたらす場面はあまり多くはなかった。

 では、アーセナルの攻め筋はどこだったか。おそらく、メインで考えていたのは2箇所。1つはジョルジーニョとジンチェンコからの縦パス。いわば「2」の位置からの刺すパスだろう。彼らに守田やゴンサウヴェスがついていけば、背後のスペースは空く。スポルティングはそこまでバックラインが押し上げながらライン間を潰す動きがなかったので、降りていくアーセナルの前線のハーフレーンに立つ選手が縦パスを引き出すことは難しくない。むしろ、後方が引っ掛けないか心配だったが、そこはジンチェンコとジョルジーニョを信頼しているということだろう。引っ掛けてはいたが、その分リターンがある縦パスもあった。

 もう1箇所の攻め筋は右サイドである。前半のアーセナルの右サイドの攻撃構築はいつもと雰囲気が違った。3-2-5という形をベースで考えるときに、ホワイトには積極的に攻撃の支援を期待するのは難しい。実際、この日のオーバーラップは控えめで高い位置で受ける37分のようなシーンの方が珍しいくらいだった。

 それであるならば、右サイドは攻撃を2人で完結する必要がある。3人での攻撃をベースで考えるならば、ホルダー、後方支援、裏抜けがざっくりとした構成として考えられるが、2人でやりきるべき今回は裏抜けを削るケースが多かった。その分、ディフェンスラインの手前からインスイングでファーにクロスを落とす形を狙っていた。

 ファーへのクロスというのは流れの中でも割と狙っている形ではあるが、今回はより構造的に意図したものになっていた。ファーで待ち受ける人数はいつもよりも多かったし、ここを狙って抜け出す形を使うことが多かった。

 ただし、こうした静的な狙いよりも試合はバタバタしたトランジッションからのチャンスが多かった。特に縦パスをカットしてから素早く縦に進んでいく意識が強かったスポルティングの方が、よりこの傾向は強かった。

 調子の良さそうなエドワーズを軸にスポルティングは押し込んだ局面から攻撃を完結する力は十分。さらに押し込んだ局面における即時奪回の意識も高かった。こうしたスポルティングの即時奪回への高い意識と、攻め込まれても早いリスタートで密集にスローイングでボールをつけたがるターナーの相性は非常に悪かったと言えるだろう。GKとしては一度落ち着けて間を取るアクションがあってもいいように思う。

 ターナーの課題が出たのは失点シーンにおいてもだ。CKに直接合わせられての失点だったが、あのコースはGKが飛び出してパンチングするのが理想。マーカーを離したのはマルティネッリだったが、ターナーの出ていけないアクションの方が個人的には気になった。

 同点で迎えた後半、アーセナルはホワイトとジンチェンコが大外で攻撃関与する頻度を大きく引き上げた。サイドにおける3人目の登場であり、3-2-5の仕組みから解放する形で攻勢をかけましょうというスタンスになった。これにより、前半に見られたファーへのインスイングのクロスは大きく優先度を下げることに。ホワイトが外を回るのであれば裏を見せることができるし、3人いればやり直しもできる。

 要はいつものアーセナルに戻ったというイメージである。前半はよそ行き、後半はいつも通り。後方を3-2ブロックにするというのは被カウンターにおける強度を維持する意味もあった。だが、後半のように後方の枚数を減らすプランを採用しても、押し込む機会を増やすことで間接的に被カウンターの危機を回避しており、収支はプラスに触れたと言っていいだろう。

 それだけにブロック守備が間に合っていたスポルティングの2失点目は反省点である。背中を取られたキヴィオルにとっては大きなレッスンになった。ちなみにリーグ戦を見る限り、3-2-5の形からCHを務めるゴンサウヴェスが飛び出すというプレーはスポルティングの鉄板パターン。彼らもまた3-2-5からの崩しの術をアーセナルとは異なる形で身につけているチームである。

 アーセナルの二度目の同点ゴールは運が良かった。マルティネッリの裏パスに対して反応した守田にとっては散々な夜だった。オウンゴールにサスペンション。悔いが残る1stレグだったはずである。

 ジンチェンコを冨安に代えてもなお攻守のバランスに変更はなかったアーセナル。後方にトーマス、ガブリエウを入れることで同じ仕組みの中でブロック耐久度を上げていくことで徐々にスポルティングの攻め込みを封殺するように。

 冨安のプレーはとても良かった。大外でのアイソレーションとインサイドでのゲームメイクのどちらも高水準でこなしつつ、ストッパーとしての役割を真っ当。マルチな役割を高いレベルでこなせる冨安らしいパフォーマンスだった。

 試合は2-2で引き分け。タイスコアで勝負はロンドンに持ち越されることになった。

ひとこと

 引き分けも視野に入れていた+キヴィオルのスタメン起用という状況に対して3-2-5を崩さずに攻略のプランを用意した前半の戦略は好感が持てる。人によって柔軟にプランを変えるっていうのはこういうことだなと思えた。杓子定規にスタメンにこだわり続けた2年前のアルテタの采配はELにおける大きな課題だったが、ひとまずその部分の第一関門はポジティブな形で突破できたと言えるだろう。

試合結果

2023.3.9
UEFAヨーロッパリーグ
Round 16 1st leg
スポルティング 2-0 アーセナル
エスタディオ・ジョゼ・アルバラーデ
【得点者】
SPO:34′ イナシオ, 55′ パウリーニョ
ARS:22′ サリバ, 62′ 守田英正(OG)
主審:トビアス・スチュイラー

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