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「グレートエスケープには足りない」~2023.4.21 プレミアリーグ 第32節 アーセナル×サウサンプトン レビュー

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レビュー

背中を見せるアーセナル、襲いかかるセインツ

 配置を確認し終わる前に失点を喫する。おそらく今季2回目の感情である。アーセナルは非常にあっさりとサウサンプトンに対して先制点を明け渡すスタートとなった。強引な縦パスを選んだラムズデールに対して、アルカラスはゴールという形で選択を咎めてみせた。

 失点した時のリアクションというか、あるいはゲームの入りというべきなのかはちょっとよくわからないが、いずれにしてもアーセナルの立ち上がりは先制点から目を背けたとしても褒められたものではなかった。バックラインのパスミスというメンタル的に対応が難しい類の失点だったこともあり、序盤はやや後方の選手たちがポゼッションの感覚を確かめるようなシーンがあった。

 サウサンプトンからすればそうした様子見のスタンスは絶好の咎め時である。背中を見せたアーセナルに対してウォルコットやアルカラスは容赦なくボールを追い回していく。

 アーセナルはハイプレスからロングボールを蹴らせることでリズムを掴もうとしていたが、中盤のセカンドボールの奪い合いは序盤はサウサンプトンが優勢。蹴らせることができていても回収することができなかった。この辺りはジャカの不在を色濃く感じる部分だ。

 序盤の振る舞いを見る限り、ラムズデールは平時に比べるとリスクを取るパスの選択を避ける傾向が見てとれた。そうなれば、CBは距離を狭めざるを得ないし、トーマスはラインを落とす機会も増えていく。それに伴い前線の選手たちは続々と降りて受けようとする。ウェストハム戦のように、ボールを大事にしたいあまり降りるアクションが供給過多になっているように見えた。

 サウサンプトンの2点目も背中を見せたアーセナル相手にプレスを仕掛けていったところからだった。この試合のサウサンプトンは隙あらばラインアップを目論んでおり、その部分がどっちの目にも転がることがあったが、ことボールを奪うということに関してはこの部分はプラスの目に転じていたと言えるだろう。

 ボール奪取から素早くアルカラスに繋げたサウサンプトンは外から裏に抜けるウォルコットにラストパスを繋ぐ。失い方が悪かったという前置きは必要ではあるが、この場面はガブリエウの対応ミスだろう。アルカラスからのパスを通されるのだとしたら自分の外をボールが通るようにしないといけない。というか、外を通されることは許容してでも内側のコースは切らなければいけない。

 ノーセレブレーションでアーセナルに敬意を払ったウォルコットだが、このゴールのダメージは甚大。アーセナルは2点を追う厳しい流れになってしまった。

2つの救いとヴィエイラの懸念

 アーセナルにとって救いだったのは2つ。まずは大外の優位をきっちり示せたことである。サウサンプトンは2列目に前からの意識が強かった分、SBが晒されてしまうことが多く、アーセナルのWGと1on1になることが多かった。

 序盤はマルティネッリがウォーカー=ピータースを圧倒し、時間の経過とともにサカが追随する。両サイドで1on1の状況さえ作ることができれば、サウサンプトンの最終ラインの高さを上下に揺さぶることができるというのは大きなアドバンテージになる。

 もう1つはジンチェンコがスタメンに間に合ったことである。後方の選手の縦パスのミスによるスタートを切ったアーセナルにとって、必要なことはまずは縦パスへの恐怖心を取り除くことになる。その部分で、恐れずにライン間の縦パスを入れ続けたジンチェンコがこの試合にフィットしたことは非常に大きかった。

 サウサンプトンはライン間自体は比較的管理がルーズなチーム。だが、その一方で隙あらばラインを上げたがるチームなので、早い段階でサイドにつけてしまうと、高めのラインを維持したまま食い止められてしまう可能性がある。

 サイドで勝負を仕掛ける形を作るにはその前の段階として中央に起点を作ることが必要。ジンチェンコの縦パスはその部分で非常に効いていたと言える。ここにパスに入れる勇気がなければ外から押し下げる難易度も上がっていたはず。メンタル的にタフな状況でもインサイドにきっちりと差し込むというのをプレーで示せる選手がいた点はアーセナルにとっては救いだった。

 アーセナルの追撃弾はこの2つの要素が見事にミックスしたものだった。インサイドに入り込むジンチェンコからウーデゴールへの縦パスが通ったことで、アーセナルは右サイドのサカから勝負を仕掛けることができた。エンドラインを抉る形でマイナスにパスコースを創出すると最後はマルティネッリ。アーセナルはこのゴールで1点差に迫る。

 このゴール以降はサウサンプトンはSHがリトリート時に早めにラインを下げてWGに2枚で対応する形を基本形とした。仕掛けられなかったWGからバックラインに戻すパスが出ればラインアップをするのは継続。つまりはいいとこ取りの作戦である。

 アーセナルの左サイドはこのいいとこ取りの作戦に屈したように見えた。大外のマルティネッリがボールを持った時に周辺の選手たちが彼にマークが集まる状況をうまく活用できず。戻してはラインを回復されの繰り返しとなっていた。

 ファビオ・ヴィエイラは降りて受けなければいけないシーンはあまり多くはなかったが、奥をとるアクションでサウサンプトンに後方を意識させたり、縦パスを引き出しきれなかった部分においては不満が残る。マルティネッリが時間の経過とともに序盤のようなインパクトを残せなくなったのは、左サイドで相棒となるべき彼が十分な働きを見せられなかったからだ。

 右サイドはそうしたポジションチェンジに関しては流麗であり、アーセナルの攻め手は失われていなかったと言えるだろう。サウサンプトンはリトリートの意識を高めたので、ラインを下げる機会も増加。それに伴い攻撃の脅威は減っていた。

 それでも中盤のデュエルに対する不安や、サイドでの細かいパスミスなどでサウサンプトンに流れを受け渡すこともしばしば。立ち上がりに比べれば安定した試合運びになったアーセナルだったが、こうした平常運転に戻るまでに多くの失点と時間を使ってしまった印象の前半だった。

ミドルシュートが最適解な理由

 後半、サウサンプトンはリャンコを入れて5バックに移行。前半の段階ですでにベドナレクの負傷交代でチャレタ=カーを投入していたため、サウサンプトンはすでにありったけのCBをピッチに投入したことになる。

 サウサンプトンが採用したのは5-3-2の形。前に2トップを残すことで得点を奪うという目線をきっちりと残しておきたいということだろう。だが、アーセナルはすぐに左右に振りながらサウサンプトンの3センターを振り回す。

 おそらく、5バックの採用の意図の1つはサイドのケアを手厚くすることだろう。しかしながら、3センターのヘルプが間に合わないせいで、あまりサイドを封鎖するという意味合いで機能していなかった。ウォルコットがベンチとコミュニケーションをとって5-4-1に移行するのには5分ほどしかかからなかった。

 サウサンプトンが5-4-1にしてからはサイドの封鎖が間に合うようになる。これにより、アーセナルはサイドからサウサンプトンのラインを上下動させられないようになる。アーセナルの攻撃はマイナス方向のカットインからファーに向けてラインの裏に入り込むようなクロスに寄っていくように。

 このクロスの行き先は5バックにおいてファーサイド側のCBが担当すべきエリアである。そのことを踏まえればサウサンプトンの5バック移行は意義は十分にあっただろう。ただし、カードを持っていたとはいえ前半に大活躍したアルカラスを下げるべきだったか?と言われると疑問ではあるが。

 ファーへのクロスが跳ね返されるアーセナルのチャンスメイクはセットプレーと難易度の高い縦パスからの連携に徐々に変容していく。中央に苦も無く立ち向かっていくトロサールが入って以降は特にこの傾向は顕著になった。

 さらに悪いことにアーセナルはセットプレーから追加で失点を許してしまう。ニアで跳ね返せなかったホールディングが失点におけるもっとも大きな責任があるだろう。プレスに捕まったトーマスのロストから迎えたフリーキック、そしてセットプレーでエラーを引き起こすロールプレイヤー。まるでウェストハム戦のエッセンスを抽出したかのような失点だった。

 攻撃においても難易度の高いプレーに傾倒していた分、アーセナルの攻撃がクリティカルに刺さらない時間が続く。アーセナルが後半に迎えたチャンスは右サイドからスルスル入り込むジェズスとエンドラインを割りながらも左サイドからマイナスの折り返しを見せたマルティネッリくらいのものだろう。結局、サウサンプトンのラインを下げることができたアプローチである。

 よって、サウサンプトンが5-4-1でサイドを塞いだこと、そして、サイドの浅い位置からのクロスを跳ね返せるところにCBを増員したことは悪くないのだろう。しかしながら、サウサンプトンのブロック守備は完璧なものではなかった。マーカーはいるのだが基本的にボール保持との距離が遠く、ホルダーにプレーの方向における制限がかけられていない。よって、周りの選手もどちらの方向にパスが出るのかはわからない。すると、プレスが遅れる。そして次の選手もわからず遅れるといった具合に。

 相手のラインを上下動させるのには苦労していたが、ホルダーには自由がある。アーセナルに与えられたのはそうした状況だった。その結果、出力されるのはミドルシュートのゴールというのはある意味自然な流れのように思える。人はいるが、次のプレーが予測できずにホルダーがフリーの状況を生かすのに、ミドルシュートは非常に有用な手段だ。

 このウーデゴールの得点も右サイドでサカと2人で3人のサウサンプトンの選手を相手にパス交換からあっさりとフリーの状況を作り出している。サウサンプトンにとっては次のプレーが予測できない状況だったのだろう。彼らが用意した数の論理はアーセナルに破られてしまった。

 「2点差からの追撃弾は流れを変える」ということを今のアーセナルより身をもって実感しているチームは世界を探してもいないかもしれない。このゴールで流れに乗ったアーセナルは左右の深い位置からのクロスからサウサンプトンのエリア内にチャンスを創出するように。エリア内でピンボールのように繋がったボールをサカが押し込んだのはウーデゴールのゴールから2分のことだった。

 8分間残された追加タイムがあれば、1-3から勝ち点3を掬い上げるグレートエスケープには十分に思えたエミレーツ。だが、最終盤に生み出されたチャンスを活かすことができず。アーセナルは3-3のドローで3試合連続の勝ち点1。アドバンテージを使い切りエティハド決戦に臨むことになる。

あとがき

 アーセナルが喰らうダメージに見合った幸福がサウサンプトンに訪れたとは言い難い結果だ。エミレーツでの1ポイントは試合前であれば嬉しいのだろうが、この展開と彼らが陥っている状況を踏まえるのであれば、3ポイントが欲しかった気持ちが上回ってもおかしくはない。彼らにとってもまたグレートエスケープには物足りない1ポイントと言える。

 アーセナルからすれば3試合連続の失望を伴う試合となった。3試合とも異なる切り口での力不足。どうせ、水曜日は別次元のところに放り込まれるのだから反省点を振り返るのはもう少し後でもいい。これでアーセナルは挑戦者としての立場でシティに臨むことになる。

 エティハドでの一戦は負けられないものから、勝たなければいけないものになった。強いクラブはきっとこうした経験を重ねてさらに強いクラブになるのだろう。エミレーツでの失望は一旦脇において、エティハドでの頂上決戦にフォーカスしたい。

試合結果

2023.4.21
プレミアリーグ 第32節
アーセナル 3-3 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:20′ マルティネッリ, 88′ ウーデゴール, 90′ サカ
SOU:1′ アルカラス, 14′ ウォルコット, 66′ チャレタ=カー
主審:サイモン・フーパー

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