■アイデンティティをアイデンティティで封じる
EUROのグループステージ以来の再戦となった当カード。ちなみに当時の記録も残してあったのでご参考に。
ナショナルチームにアイデンティティを植え付けるのが難しい時代になって久しいが、この両チームはシステムも含めてそれぞれの国のアイデンティティを落とし込んでいるチームだと思う。
保持に特化したスペインの4-3-3も、強固なブロック守備をベースとしたスウェーデンの4-4-2もどちらもその国らしさが詰まったもの。この試合の展開も試合を見ていない人にも十分想像できる個性のぶつかり合いであった。
EUROでは強固な守備のスウェーデンに対して、スペインが攻めあぐねたという印象が強い。この試合もスペインの保持の局面が多くなった。スペインはCBとブスケッツを軸にサイドを入れ替えながら、サイドの突破からスウェーデン攻略に挑む。
この試合の保持局面におけるスペインは非常にオフザボールの動きを重視していることが読み取れた。特にクロスに対してスペースに入り込む動きが非常に活発。IHがエリア内に入ることで枚数も確保されており、高さのあるスウェーデンに対しての押し込んでの攻撃がEUROよりも準備されているように見えた。
とりわけ目についたのはフェラン・トーレス。シティでもそうなのだが、縦パスも含めてボールを引き出す動きだしが非常に上達しているように思う。早々に入った先制点も、クロスに対してトーレスの斜めの動き出しにアウグスティンソンが釣り出されたせいで、外側のソレールが空いた形。活発なフリーランで、スウェーデンのブロックに穴を開けてみせた。
しかし、即座にスウェーデンは反撃。ショートカウンターからイサクの俊敏性とダイナミックさを生かしたミドルですぐさま同点に追いつく。スペインとしては得意の保持の局面で、しかも得点を決めたソレールが絡んでのミスということでがっくりくる失点となってしまった。
イサクとクルセフスキの2トップはロングカウンターでも存在感。スピードもパワーも十分。スペインは広いスペースでDFが彼らと1対1で対峙してしまうと歯が立たない。ロングカウンターを成立させていたのは彼らのレベルの高さである。
定点攻撃においてはフォルスベリの貢献度の高さが光る。彼の保持と周りの追い越す動きで、スウェーデンのサイド攻撃を成り立たせていた。イサクとクルセフスキのフィジカルの強固さはここでも効いていて、単純な動き出しのスピードやターンの際のパワーにスペインは手を焼いていた。
スウェーデンの逆転弾はクルセフスキのターンがきっかけ。パスワークを軸に前を向く隙を伺うスペインに対して、パワーで引きちぎった感のあるスウェーデンのチャンスの作り方は非常に対照的だった。
70分くらいには徐々に運動量が落ちてくるスペイン。基本的には疲労しにくいスタイルだと思うんだけど、オフザボールで飛ばしていた分、終盤の尻すぼみが目立った。加えて、整えてから壊しにかかるスペインのスタイルは特に追う局面が苦手。パワー面を加味してアダマ・トラオレを投入するのは理解できる。
しかし、スウェーデンのブロックは最後まで崩せず。特に中盤のカバーリングは見事。CHがサイドに出ていった際によくあるのは、彼らが元いたバイタルが空いてミドルを撃ち込まれてしまうパターンなのだが、スウェーデンの場合は彼らが元いたスペースを使わせないのがとても上手。サイドに出ていったら折り返しをさせずに封じ込めた。
アイデンティティをアイデンティティで封じ込めた一戦で勝利を挙げたのはホームのスウェーデン。これでスペインの自力首位突破は消滅。スウェーデンはスペイン戦以外の勝ち点を落とさなければ、首位突破を決められることになった。
Pick up player:デヤン・クルセフスキ(SWE)
より直線的なイサクに対して、サイドに流れた際や局面が静的な場合でも力を発揮できる万能型。パワー、スピードだけでなくパスの精度も高く、緩急をつけながら味方の上がりを待つこともできる。スウェーデンの早い攻撃に異なる彩りを添えることが出来る選手。
試合結果
2021.9.2
カタールW杯欧州予選 第4節
スウェーデン 2-1 スペイン
フレンズ・アレナ
【得点者】
SWE:5′ イサク,57′ クラエソン
ESP:4′ ソレール
主審:アンソニー・テイラー