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「ベタな原点回帰でラスボス撃破」~2023.5.17 UEFAチャンピオンズリーグ Semi-final 2nd leg マンチェスター・シティ×レアル・マドリー マッチレビュー~

1st leg

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カマヴィンガの食いつきはポイントになる

 「攻撃を機能させるアイデアがある」とうそぶいていたグアルディオラだったが、少なくとも試合前に発表されたスターティングメンバーからはそのアイデアの痕跡を感じることはできず。マンチェスターに乗り込む側のマドリーも1st legで出場停止だったミリトンが復帰するという順当な形でメンバーを組んできた。

 1st legは後方警戒安全重視というスタイルでハーランドをゲームから締め出すことでシティの攻撃の機能性を下げることに成功したマドリー。2nd legでは高い位置からのプレッシングからスタート。シティの保持を積極的に阻害しにかかるという異なる毛色のアプローチを仕掛けた。

 マドリーの守備は中盤はマンツーマンの意識が強い。しかしながら、見かけ上は3センターで噛み合わせたとしても、中盤に最終ラインからストーンズが登場するため枚数が合わせきれない!というのが今季のシティと対峙する上でのあるあるである。列を上げるストーンズに対してはヴィニシウスが絞ることでマドリーは枚数を合わせる立ち上がりとなった。

 こうなると、構造上は余るのは右の大外であるウォーカー。先に述べておきたいのは、この試合のシティの保持はとにかく原則の徹底。オールドファッションなグアルディオラ・シティへの回帰であり、空いているところから地道な進撃と高い位置での旋回と裏抜けのコンボであった。

 よって、ヴィニシウスが絞るのであればシティは素直に前が空いているウォーカーから前進していく。ストーンズにはヴィニシウスを合わせても、最終ラインに対しては枚数を合わせ切らないマドリーのハイプレスをシティが撃退するという構図で試合はスタートする。

 そして、右サイドを軸にシティは敵陣攻略のフルコースを注ぎ込んでいく。大外のベルナルドでカマヴィンガの位置を決めて、このDFラインの背後を使う人、そして手前を使う人、並行サポートという選択肢を用意しつつ、この役割を循環させながら進めていく。

 エリア近くまで突撃していくロドリや左右にかかわらずボールサイドに顔を出すデ・ブライネはまさに王道パターンの一つ。逆サイドのグリーリッシュからの仕掛けという+αはこの王道パターンに今季新たに加わった形でもある。ヴィニシウスがウォーカーへの警戒を強めるようになった結果、ストーンズが攻め上がってミドルを打つというのもまさに「空いたところから」の原則に則った傾向と言えるだろう。

 それでもカマヴィンガがベルナルドに対して粘っていたり、ミリトンが対空性能でクロスを跳ね返していたり、何よりクルトワが鬼畜仕草を繰り返したりでシティがゴールネットを揺らせないまま時間が過ぎる。このまま、揺らせないと嫌な予感がすると裏読みが大好きなサッカーファンは誰しも思ったに違いない。

 しかし、そんな裏読みマンの思惑とは逆にシティはついに先制点をゲット。右サイドの4対4の旋回から抜け出したベルナルドがついにクルトワを撃ち抜いて見せる。

 守備においてヴィニシウスに迷いがあった分、シティがこちらのサイドを狙っていたのは妥当だったように思う。失点シーンは降りていくウォーカー(ヴィニシウスがマークすべき人)にカマヴィンガがついていったことからズレが決定的になってしまった。ちなみにカマヴィンガの食いつきから発生するズレが失点につながるパターンは2点目でもみられているがそれはもう少し後の話である。

 マドリーにとっての問題はハイプレスでシティを食い止められなかった以上に、自陣からのポゼッションで時間を作れなかったこと。特にマドリーの左サイド側はベルナルドのプレスバックが早く、頼みのヴィニシウスは早々と潰される展開が多かった。

 リーグ戦を見る限り、困った時のマドリーの方策はヴィニシウスに寄り添うこと。ロドリゴがヴィニシウスに近づくためにプレーエリアを中央に移すなどの工夫はあったが、そもそもそこにボールが届かないので効果は限定的。それであればという形でアンカーに入ったクロースが列を落ちてマドリーの自陣PAの手前付近を開け、このスペースを他の人がかわるがわる使いましょう!という形で少しずつ前進の隙を作っていく。

 しかし、ここから作っていこう!というマドリーにシティは得点で蓋をする。シティの2点目は左サイドから。エリア内に侵入するグリーリッシュを起点にパスを受けたギュンドアンのシュートをベルナルドが押し込んだ。

 ゴールから遡るようにみていくと、なかなか防げるポイントを見つけるのが難しいところ。ドリブルを仕掛けるグリーリッシュにカルバハルが足止めされるのはわかるし、裏抜けのタイミングを測るデ・ブライネのケアにクロースがかかりきりなのもわかる。クロースがサイドに引っ張られた分、ギュンドアンのケアが遅れたのも仕方ないだろう。

 となると、気になったのはグリーリッシュが前向きでドリブルを作れたというシーンができた構造。このシーンは流れの中でシティの左サイド側まで出ていったカマヴィンガがグリーリッシュのマークを誰にも渡さないまま自分の持ち場に帰ったシーンからである。よって、グリーリッシュは無理なく前向きの姿勢からカルバハルの足を埋めることができた。

 ファーのベルナルドが空いた分、カマヴィンガが逆サイドの出張に出ていたことを指摘する声もあるが、ギュンドアンのボールの跳ね返りがトリガーだったことや、ベルナルドがアラバの外のレーンではなく手前の位置で張っていたことを踏まえると、むしろカマヴィンガがすべきだったことは抜け出すギュンドアンを潰したり、グリーリッシュの受け渡しを済ませてから持ち場に戻ったりなど、出張に出ていたマドリー右サイド側での振る舞いにあったような気がしないでもない。

 リードを広げたシティは勢いに乗ってプレスに出ていく。クロースが空洞化させた中盤のスペースはここまではカマヴィンガが使うのが本命だったが、前半最後のプレーでこのエリアでロストしてしまったのがさらにマドリーの手詰まり感を助長させていた。

 迎えた後半、マドリーは保持から巻き返しを測る。まずはカマヴィンガがインサイドに入るアクションをやめて、クロースに寄り添うのはモドリッチかバルベルデの2択となった。SBが絞るのをやめたのはカマヴィンガ自身のパフォーマンスもそうだが、ベルナルドをこのエリアに引っ張ってこない方が得策とアンチェロッティは考えたのかもしれない。

 しかしながら敵陣までボールを運べてもサイドの攻撃をきっちり封鎖するシティに対して、マドリーは攻め手のきっかけを作ることができない。さらに、ボールを失った後に取り返す手段がないのもこの試合のマドリーの痛いところ。リードを得て、得点が急務ではないシティは縦に急ぐ理由がないので、マドリーに対して一番手応えがない局面であるハイプレスを引き出すことができる。

 シティは枚数をかけて自陣側にマドリーを引き出した後、ライン間に落ちるデ・ブライネから一気に加速していく。後方でビルドアップの枚数が確保されている分、シティのアタッカーは後方支援が期待できない状況ではあるが、グリーリッシュがいればあまり関係ないだろう。敵陣での1on1も請け負うことができるグリーリッシュにより、シティは澱みなくプレス回避をチャンスメイクに繋げることができていた。マドリーとしてはそれでも試合がオープンになる分、ヴィニシウスに安全にボールが渡るようになったので、得点のチャンスという意味では有り難い展開だったのかもしれない。

 しかしながら、シティの方が優位に進むという状況が変わったわけではない。セットプレーで生まれた3点目は決定的なものであった。アカンジの粘りがミリトンのオウンゴールを呼んで試合の決着をつけてみせた。

 残りの時間はシティのウイニングランと言えるだろう。ハーランドがいつまで経ってもゴールが決まらないにもかかわらず、投入後早々に結果を出すアルバレスには笑ってしまった。マドリーには試合を通してエリア内に侵入しての惜しいチャンスは一度だけだったと思うが、このシーンもエデルソンに防がれてしまい打つ手なし。

 衝撃的な完勝でエティハドの観客を魅了し続けたシティ。CLを庭に暴れ回るラスボスを圧倒し、悲願達成まで残すステップはたった一つである。

ひとこと

 グアルディオラが出した答えは原点回帰だった。今年はことごとくベタなのがグアルディオラである。ハーランドとの融合は原点回帰における課題ではあるが、そのハーランドだけは絶対点が取れない仕組みになっているのには笑ってしまった。別に足枷になっている感はなかったけども、アルバレスがあっという間に点をとる構図はそれをさらに際立たせていて無駄なストーリー性があるなと思った。でも、グアルディオラがベタでいれるのはハーランドやデ・ブライネが瞬間的な火力を有しているおかげかもしれないけども。

試合結果

2023.5.17
UEFAチャンピオンズリーグ
Semi-final 2nd leg
マンチェスター・シティ 4-0 レアル・マドリー
シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム
【得点者】
Man City:23′ 37′ ベルナルド, 76′ ミリトン(OG), 90+1′ アルバレス
主審:シモン・マルチニャク

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