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「後手に回るプラン構築」~2023.5.20 プレミアリーグ 第37節 ノッティンガム・フォレスト×アーセナル レビュー

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レビュー

課題の一端は解決した配置変更

 直前の時間帯に行われたエバートンとウォルバーハンプトンの試合は引き分け。よって、この試合にホームチームが勝てばノッティンガム・フォレストの残留とマンチェスター・シティの優勝がダブルで決まることとなった。

 予想通りのフォーメーションを敷いてきたフォレストに対して、ややメンバー選考で変化球を加えてきたアーセナル。残りシーズンの全休が明言されたマルティネッリのところにトロサールが入ることは順当だろうが、意外だったのは最終ラインの並び。ジャカが左のSBというのがストレートな起用かと思われたが、バックラインは右からトーマス、ホワイト、ガブリエウ、キヴィオルの4枚。ガブリエウ以外は今季あまりテストされてこなかったポジションでの起用となる。

 おそらく、この最終ラインの配置変更の狙いとなるのは右サイドの押し上げだろう。サリバの離脱以降のアーセナルで、右のCBに入ったキヴィオルとホールディングはSBを押し上げることができず、右サイドの重心が下がってしまうという問題があった。よって、ボールを保持しながら高い位置を取ることに慣れているホワイトをスライド起用することで、右サイドの重心を高く保とうということだろう。

 ノッティンガム・フォレストが前からプレスをかけてくる意識がリーグで最も低いレベルのチームということは考慮しなければいけないが、いずれにしても大きくサイドに開くことができるホワイトのCB起用はサイドの押し上げに一定の効果があったと言えるだろう。右サイドの押し上げがCBのポジションのせいで効かないシーンはだいぶ減ったように思う。

 右のSBに入ったトーマスはジンチェンコほど極端ではないが、インサイドに入るアクションを時折見せていた。プレビューでも触れた通り、フォレストの3トップは横幅をナローに守ってきていたが、CBが横幅を担保できていたので、やや広がらざるを得ないパターンも。トーマスがインサイドに入り込む形で中央が極端に窮屈になることはなかった。

 ただ、フォレストの3トップは前への意識が強く、5バックは後ろへの意識が強い。よって、フォレストはダニーロの後ろ、ロディの前、マンガラの横のスペースがあくことになる。アーセナルはここのスペースをボールの安全な逃しどころして機能させていた。

 このスペースでボールを受けることが多かったのはトロサールとウーデゴール。大外レーンから下がりながらサカがボールを受けることも多かった。

 マンガラ横のスペースを誰が使うかは流動的だったし、トーマス自身がインサイドに立つか、アウトサイドに立つかという部分も含めて右サイドはそれなりに変化をつけながらのポゼッションはできていたと言えるだろう。ホワイトを右のCBに起用した意義はそれなりに可視化はされていたように思う。

高まる自由度を制御できず

 ある程度変化をつけることができていた右サイドと比べると、左サイドは沈黙が保たれることが多かった。SBに起用されたキヴィオルば右に比べると外に張るアクション自体は多かったが、高い位置を取ることは難しい。

 そもそも前で基準点になって欲しいトロサールは右への出張やインサイドへの絞りを連発している分、あまりこちらのサイドの崩しに注力していないように見えた。その分、増えていたのはインサイドの選手に差し込むような縦パス。ジェズスをはじめとする前線の選手に向けた楔のパスが増えていた。

 これまでもインサイドへの縦パスは積極的に活用していたアーセナル。この試合のアーセナルが普段と何が違っていたかと言えば、インサイドで「相手を背負っている選手」に対して、積極的に縦パスをつけていたケースが多かったことである。

 ジェズスが得意なのはサイドに流れたり、インサイドに降りることでフリーでボールを受けること。相手を背負っている状態でのポストを積極的に狙うことはそこまで多くはなかった。

 だが、この形はあまり効いていないように見えた。理由はいくつかある。まずは縦パスを受ける選手へのサポートがあまりできていなかったこと。背負っている選手からすれば、早い段階で受ける選手にボールを落としたいところ。自ら反転ができるのならばそれでもいいが、ニアカテやフェリペといった屈強なフォレストのCBはそれを簡単には許してくれなかった。ならば、縦パスを受けた選手に対するサポートはもう少し欲しかったところだろう。

 それでもサカのように背負いながらプレーできることがいるはず。そういった選手たちの躍動を防いでいたのはフォレストの中盤のプレスバックである。マンガラがあっという間に挟むことで、サカの勢いをきっちり防ぐ。サカが背負って(というか半身で)受けながら外すのが上手いのは相手がいない手前側のスペースを使うのが上手いから。このスペースを挟み込むように消されてしまっては横のドリブルからのラストパスを促すことができない。

 マンガラのこの試合のパフォーマンスは圧巻だった。中央とサイドの挟み込みの強度が高く、縦パスを受けた選手がことごとく窒息。アーセナルの前線の選手に自由を与えなかった。

 最後に縦へのパスを出す側のスキル。単純にズレることが多く、収めることに特化した体幹の強い選手もいない(フォレストが軒並み屈強なだけかもしれないが)ため、一発でカットされることもしばしばあった。

 このうち、どうにかなりそうなのはポストプレーの落としを素早く受ける選手を作ることくらいだろう。だが、この日のアーセナルは誰がどこを使うかという部分に自由度を持たせすぎたように思う。トロサール、ウーデゴールは低い位置に降りる自由を与えられており、高い位置に止まることは義務付けられておらず、誰もジェズスのサポートができなかったこともしばしばあった。

 結果的にアーセナルの右サイドは動く位置が被ってしまったり、低い位置に人が多くなりすぎてしまうなど交通整理ができていない状態に。自由度の高い配置で相手も混乱したかもしれないが、自分たちも整理ができていなかったように見えた。

 この辺りはマルティネッリの欠場の影響もあるのだろう。アーセナルは多くの時間に置いて両サイドのWGを大外に固定しつつ、他のポジションを動かしながら相手を気ままに動かしていたように見えた。しかし、この日のアーセナルにその基準はない。左サイドに大外に立つ基準がなくなってしまったことで、アーセナルは自由度の高める賭けにでざるを得なかったのだろう。基準に対して、実直に動き回っていたジャカがこの試合では混乱気味だったのがとても印象的だった。

 右サイドではSBがホワイトではなくトーマスであることの懸念も徐々に顕在化。追い越して3人目になるタイミングを逃してしまい、サカの出力を最大化することができず。結局、アーセナルのチャンスは右サイドでサカが1枚外すところから始まっていたように思える。

 早い時間にウーデゴールのミスからカウンターで先制点を決めたフォレストとすれば、不用意にリスクを冒さずに堅実な試合運びに集中できる理想的な展開。先制点以降はシャドーもきっちりとポジションを下げながら自陣をプロテクトすることに専念していた。

動かしても回復される

 後半も試合の展開は同じくアーセナルがボールを持ちながらフォレストの陣内を攻略するトライを見せていく。変わったところと言えば、SBがきっちりと外側に張ること。中盤にトーマスが入り込むことはほぼなくなり、左右ともSBは大きくタッチライン側まで開くことでボール保持を行うことになっていた。あとはトロサールと入れ替わる形でジェズスが左サイドに張るようになったことだろうか。

 中央はジョルジーニョが一人で切り盛りが基本線。サポートをするのは左右のCBという形になっていた。よって、サイドにおいてはSBの高い位置での振る舞いが真っ先に問われる展開になる。この試合から締め出されていたジャカとともにキヴィオルが真っ先に交代することになったのは、致し方ない展開と言えるだろう。

 しかしながら、サイドのメンバーが変わってもなかなか相手のベクトルを裏切るようなアクションは見られなかった。SBとしてより高い位置を取れるティアニーだったが、この試合でクロスを上げた場面はほとんどが相手と正対してのもの。

 大外レーンを駆け上がりクロスを上げるのが得意なティアニーではあるが、突破力があるわけではない。レーンの棲み分けという観点では左の大外を使う選手は欲しかったが、相手に捕まった状態でクロスを上げ続ける形が理想だったかと言われると微妙なところである。

 このように、後半のアーセナルは相手のサイドの守備との駆け引きに苦心していた。ハーフスペース付近に楔を刺せば、相手のワイドのCBを引き寄せることはできる。だが、そこから一手、二手先のプレーをなかなか打てないため、フォレストは元通りの陣形を保つまでの時間を稼ぐことができる。

 さらにはフォレストのカウンターもアーセナルの波状攻撃を分断することに役に立っていた。アウォニィは得点以外にもアーセナルのCBやジョルジーニョとの競り合いで優位な状況を創出。ファウルを引き出したり、カウンターの起点となることでアーセナルを自陣側に押し下げることに大きく寄与したと言えるだろう。

 スピード型のジョンソンもその役割をうまく引き継いだ。左右のSBの背後を強襲する動きでアウォニィとは異なる形でアーセナルのDF陣を苦しめたと言えるだろう。

 攻め続けるアーセナルだが、陣形を動かしては回復されるという手順の繰り返し。エンケティアとジェズスという2枚のターゲットになったインサイドに早い段階でクロスを放り込んでもあっさりと跳ね返される。GKとして飛び出すケイラー・ナバスの判断もことごとく的確。この辺りはマドリーだけでなく、コスタリカ代表として押し込まれる時間帯を多く経験してきたレジェンドなのだなと思う。

 今節での残留という目的達成が間近という状況に迫ってきたザ・シティ・グラウンドのサポーターはワンプレーごとに選手を後押し。試合終了が近づくにつれて、アーセナルの選手につまらないミスが増えたのはこうした外部からのプレッシャーと関係があるかもしれない。

 長い追加タイムも見事に切り抜けたフォレスト。15試合連続失点の先にあったクリーンシートでの勝利は今季の残留とマンチェスター・シティの優勝を決める大きな1勝となった。

あとがき

 基本的にはスポルティングに敗れた時点で今季のアーセナルはプランAで押し切る路線を追及する形になったのだろう。FA杯やELも含めた試合数をこなすのであれば、シーズンを進める中でこうした部分に手をつける、あるいはつけざるを得ない状況に追い込まれる可能性もあったが、そういうことにはならなかった。

 マルティネッリ、サリバという2人の主力がいなくなったこの試合はアーセナルが負傷者によって「強いられた」プラン変更を行ったが、不発に終わったと言えるだろう。能動的にどうこうというよりはやらざるを得なかったのである。その結果、左サイドの基準不在による機能不全と、押し上げた右サイドでのホワイト不在という異なる問題点が見えた結果になった。

 こうした変化を能動的に使い分けながら行っていくのが来季の目標になるだろう。優勝争いにおける今季のアーセナルの立ち位置を考えれば、こうしたプランを複数使い分けながら進むことは難しかっただろう。アルテタの方向性は支持できる。だが、来年同じ問題に直面するようであれば、より苦しい1年になることも示唆された一戦だったように思う。

試合結果

2023.5.20
プレミアリーグ 第37節
ノッティンガム・フォレスト 1-0 アーセナル
ザ・シティ・グラウンド
【得点者】
NFO:19′ アウォニイ
主審:アンソニー・テイラー

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