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「派手さより老獪さで勝負」~2022.12.10 FIFA World Cup 2022 Quarter-Final イングランド×フランス マッチレビュー~

■WGはズラされる前提で

 ベスト4の最後の一枠をかけた試合はイングランド×フランス。ブラジルがいなくなった今、この試合に勝利したチームが本命に躍り出ることになるだろう。

 立ち上がりはフランスのボール保持で試合が進む。左右のサイドでスピードを生かしたトライアングルを形成しての攻略はイングランドを十分に振り回すことができていた。

 しかしながら、立ち上がりのようにフランスがボール保持でイングランドを攻略していく!という場面自体は非常に限定的。試合はイングランドの保持とそれに対抗するフランスのカウンターに集約されながら進むことになる。

 イングランドのボール保持はバックラインがゆったりとボールを持ちながらスタートする。セネガル戦でも見られたようにウォーカーは枚数調整役。3人目のCBとしてバックラインに加わるか、列を越えて受けるかでビルドアップの枚数を管理する役割である。

 対面がムバッペということもあり、この日のウォーカーは高い位置でボールを受けることには慎重だった。その分、ヘンダーソンが右サイドに流れながらムバッペの背後を狙っていく。ただし、この動きは立ち上がりに流れた後のプレーをカットされてからはあまり見られなくなってしまった。

 そもそもフランスはムバッペの背後は取られる前提の設計をしていた感がある。同サイドへのスライドは非常にスムーズで後方は4-3ブロックで守っても強度は十分。WGの背後を取られれば普通のチームはズレが見られるものだが、フランスに関して言えばそうしたズレはあらかじめ埋められていたと見ることができる。

 フランスの守備で効いていたのはそうした違和感のないスライドの主役となっているラビオと即時奪回でイングランドの攻撃を阻害するグリーズマン。ムバッペが前に残り、カウンターの脅威を突きつけることができるのは彼らの存在があるからである。

 イングランドはムバッペの背後である右サイドを軸に攻撃を組み立てていく。主役となっていたのはサカ。カットインを軸に対人に不安のあるフランスの左SBのテオを攻め立てていく。右サイドに流れることが多いケインとサカの相性は好調。サカ→ケインの斜めのパスからケイン自身がPAに侵入することや、リターンを受けたサカがカットインするなどでチャンスを作っていく。

 だが、この右サイドの攻撃には3人目が絡んでくることができない。よって、フランスはプレーの予測を立てやすい。サカのインサイドへのカットインは可能性を感じる反面、カウンターのリスクを表裏一体。ましてや、通常のロストを縦に速い攻撃からの決定機に変えることができるフランス相手ならば、尚更リスクになる。

 フランスの先制点もこのイングランドの右サイドの攻撃を防いだところから。もっとも、イングランドの帰陣は十分に早く、この場面においては速攻からゴールに直線的に向かう動きは阻止できたかに思われた。しかし、ムバッペがライスを交わし逆サイドに展開したことで、イングランドの最終ラインを押し下げると、この恩恵を受けたチュアメニが強烈なミドルシュートで先制。多少寄せが甘くなった部分はあるが、シンプルにこれは打った方を褒めた方がいいと言える場面だろう。

 ビハインドになったイングランドにとっては悩ましいところである。攻撃のテコ入れをするのならば、ヘンダーソンを代えたいところ。ただ、右サイドの3枚目としてヘンダーソンはなかなか上手く絡めていないが、CBがボールを運ぶ部分に不安があるイングランドとしては中央でボールを引き取る役割は助かる部分もある。バランスを崩してでも攻撃に傾けるかは難しいところである。

 ハーフタイムのサウスゲートの判断は選手交代を見送るというものだった。しかし、メンバーはそのままでも後半のヘンダーソンは右サイドに流れてサカのプレーの補助に入るようになる。立ち上がりの右サイド深く走り込んだサカのフリーランは前半には見られなかった部分である。

 ケイン以外のサポートを得られるようになったことで後半のサカは躍動。ニアに入り込んだベリンガムのフリーランにより、カットインするスペースを享受したサカはチュアメニに倒されてPKをゲット。これをケインが決めてイングランドが後半早々に追いつく。

 試合のスコアが動こうと、イングランドの攻め筋の手応えが変わろうとフランスは淡々としていた。中央に甘いパスをつけてきたらカウンターを発動し、素早く攻め切るということを徹底。後半においてもそうしたスタンスは揺らぐことはなく、縦に速い攻撃から一発を狙う展開が続いていた。

 均衡した展開を分けたのはセットプレーである。CKからの二次攻撃から左サイドでボールを受けたグリーズマンがピンポイントでジルーに合わせて勝ち越しゴールをゲット。点で合わせる精度でこの日2つ目のアシストを決めて見せた。

 直後にイングランドは同点のチャンスを迎える。中盤から抜け出したマウントがテオに倒されて再びPKを獲得。だが、これをケインが枠外に外してしまい、イングランドは追いつく絶好の機会を逃してしまう。

 これ以降、選手交代もなかなか機能しなかった。右サイドに入ったスターリングは前向きな意識が見られずにカットインの頻度が減少。左サイドはショウの攻撃参加が増える一方でクロスそのものには焦りの色が見られる部分があった。決定的なチャンスとなったのはセットプレーからのマグワイアくらいのものだろう。グリーリッシュをもっと早めに投入し、異なるアクセントをつけるのもありだった。

 ラストチャンスとなったFKを託されたのはラッシュフォード。これが枠からやや上に逸れたところで終了のホイッスル。接戦を制したフランスがイングランドを下し、ベスト4最後の椅子を掴み取った。

あとがき

 ボールを持ちながらトライする機会は確保することができたイングランドだったが、効果的に攻め筋を見つけられた時間は少なかった。後半頭からサカが下がるまでの間くらいだろうか。前半のうちに有効打を多く打てなかったこと、後半のビハインドに対しての手打ちがかなり後手になってしまったことは反省点になるだろう。手堅いが自分たちのリズムを紡ぐのが得意ではないイングランドらしい敗退の仕方とも言える。

 勝利したフランスはここまではムバッペを軸とした破壊力抜群の攻撃が前に出ていたが、この試合ではラビオやグリーズマンの老獪さが光った。これまでも同じように彼らは試合の中で効いていたのだけども、この試合においてはそうした働きの効果がより前面に出たと言える。ムバッペが暴れ回らなくてもフランスは強いということを示すことができたという点では意義の大きい勝利ではないだろうか。

試合結果
2022.12.10
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
イングランド 1-2 フランス
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ENG:54′(PK) ケイン
FRA:17′ チュアメニ, 78′ ジルー
主審:ウィルトン・サンパイオ

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