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「時間経過とともに洗練された5バック攻略」~2022.11.12 プレミアリーグ 第16節 ウォルバーハンプトン×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■予想通りのブロック守備に潜んでいた予想外

 ウルブスの先発メンバーには3人のCBの名前が。ゴメス、キルマン、コリンズが同時に先発メンバーに名前を連ねるのは初めてのこと。そして、3人のCBを起用したのは第3節のトッテナム戦以来今季2回目。奇しくもノースロンドン勢には3バックで立ち向かうということになったウルブスである。

 ウルブスの5-3-2のプランは明白。アーセナル相手にブロックを組み、撤退からのロングカウンターを狙うというやり方である。というわけで問題なくボールを持てるアーセナル。試合はボールを持ったアーセナルがウルブスのブロックを崩せるかどうかを争点として進んでいくことになる。

 だが、そんなアーセナルに立ち上がり早々にアクシデント。キックオフして2分も経たないうちに、ジャカが座り込んでしまう。一度はピッチに戻ってはきたものの、15分過ぎには交代。かなり不可解な交代の経緯であることや、ワールドカップも控えていることを踏まえると、嫌な予感が頭をよぎった人も多かったはず。しかし、試合後のアルテタのコメントによると、単なる体調不良ということで一安心である。

 今後を見据えての話に関しては「具合が悪いだけだって!」で済む話なのだが、この試合の話に関してはジャカがいない状態でなんとかしなくてはいけないアーセナル。アーセナルは今季チームを引っ張ってきたジャカを失う形でブロック攻略に挑むこととなった。ヴィエイラが左サイドに入るが、やや普段と違う並びということもあり、序盤のアーセナルには戸惑いがあったように思う。

 ウルブスの中盤から前は3-2のブロックでアンカーであるトーマスを幽閉。素早い左右の展開ができるアーセナルのキーマンを機能不全に追い込むプランである。守備側からすると、アンカー幽閉の懸念点はサイドの守備が手薄になることである。特に保持側のWGへのパスの動線を消しにくいという難点がある。

 アーセナルからすればWGが単騎で勝負しやすい環境はなかなか美味しい。サカとマルティネッリは今やアーセナルの確固たる強みである。

 ウルブス側の対応として意外だったのはウルブスがWGとWBの1on1を許容する形をとっていたことだ。アーセナルのWGにボールが入った時に、ウルブスのWBへのフォローは結構少なかった。モウチーニョなどはサカにボールが入った時に割と近くまで寄ることはあるものの、ダブルチームで挟むような対応はしてこない。

 そうした状況であればかなりの割合でアーセナルは優勢に。プレビューでも触れた通り、ウルブスのサイドの守備者は攻め上がりに持ち味がある選手が多く、対人守備で受けに回った時に強みを出しにくいタイプである。

 しかし、この日のウルブスのWBのパフォーマンスはそんなにやわなものではなかった。特に左のブエノのパフォーマンスは出色。対面のサカを食い止めることができていたため、アーセナルは大外の打開点を見出すことができない。

 ならばインサイドから起点を作りたいアーセナルだが、ウルブスの中央のプロテクトは強固。アーセナルが得意な狭いスペースへの楔は、ウルブスのブロックに吸収されてしまい、カウンターの餌食に。ボールを失って危ないカウンターを受ける場面もあった。

 工夫としてジンチェンコの絞る動きが見られてはいたが効果は限定的。そもそも中央に密集している陣形を組んでいる相手に対して、密集地に突っ込んでいく動きはあまり効果的ではない。絞る動きは相手に影響を与えたり、マーカーにマークされている選手を助けたりするためのもの。スペースごと潰されている場所に突っ込んでいくことは逆効果だ。

■マルティネッリの成長を感じるプレーとは?

 一般的に5-3-2をどのように攻略するか?ということを考えた時、大事にしたいのは3センターのIHとワイドのCBをどれだけ揺さぶることができるか?彼らを動かすことができれば、攻略のためのスペースに穴を開けることができる。

 例えば、IHを外に引っ張り出したり、あるいはワイドのCBの背後を狙ったり、こういう動きを強いることができれば、守る側のスペース管理にギャップを生み出すことができるはずだ。

 先に挙げたアーセナルのWGとウルブスのWBの話。仮にウルブスがサカやマルティネッリを2人の挟むように対応をしたならば、WBの援軍にやってくるのはワイドのCBかIHの2択である。つまり、大外でサカがボールを持つだけで相手のブロック守備のキーマンを動かすことができるということである。

 しかしながら、先に述べたようにウルブスのこの日のアーセナルのWGへの対応はWB1枚が基本。よって、サカやマルティネッリにボールが入っただけでは、ウルブスの陣形にズレが発生しない。仮に1枚剥がすことができれば、こうした状況を動かすことができるが、ウルブスのWBの奮闘によって粘られてしまった形である。

 そうなった際にアーセナル側のSBのフォローの動きが必要になってくる。右のホワイトはサポートのタイミングがとても良く、マイナス方向に立ちながらサカのパスのレシーバーに。ファーを狙ったPA内のクロスを通していた。

 ホワイトはそもそも足元に定評がある選手だが、密集地帯でどうこうしてもらうよりは、前のスペースが空いている状態で運んだり、長いフィードを蹴ることができる余裕があったほうが持ち味が出る選手である。よって、この日のウルブスの5-3-2のように、SBにマークをつけにくい陣形はうってつけである。ホワイトの持ち味が出しやすいマッチアップだったと言えるだろう。

 逆に左のジンチェンコは高い位置での仕事をもう少し増やしたい。インサイドに絞っての仕事は1列目を超えるのに苦労していたり、トーマスがマークにあって苦しんでいるならば有効だが、この日のウルブスはアーセナルのCBから時間を奪うアクションもしてこなかったし、トーマスはスペースごと潰されていた。それならば、マルティネッリとともにサイド攻略を行うタスクに集中して欲しかったというのが本音である。

 それでも左サイドではマルティネッリの動きからチャンスを作ることができていた。特に効いていたのが大外から中央にカットインする動き。マルティネッリ自身がシュートに持っていくことができなくても、崩しの手段としてこの内側へのドリブルを使えるようになったのは今季の成長である。

 例えば、35分手前のジェズスがクロスバーにシュートを当てたシーンはその一例。縦パスを受けたマルティネッリが内側に旋回をしながらサカにパスを渡す。ジェズスはマルティネッリが相手を引きつけたおかげで開けた左サイドでフリーになり、シュートまで持っていくことができた。

 39分のファーサイドでジェズスがクロスを合わせたシーンも同様。左サイドからインサイドにドリブルをするマルティネッリが逆サイドに素早く展開することでクロスのスペースを作り出す。3センターはボールサイドに寄ると逆サイドの守りはおそろかになるので、このシーンのマルティネッリのような素早いサイドチェンジは効果的。サイドチェンジに対して、逆サイドからのスライドが間に合わないことも「IHを動かす」ことに当てはまると言っていいだろう。

 しかし、こうしたチャンスメイクはやや単発に終わっていた印象。アーセナルはなかなかゴールに迫る決定機をコンスタントに作ることができずに苦戦する。

 一方のウルブスの保持はロングカウンターの代名詞と言われるアダマ・トラオレの使い方が大事。彼1人に行ってこい!でカウンターをフィニッシュまで持っていくのはやや無理がある。アーセナルの最終ラインは手打ちが早く、大体カウンターで加速する前に囲まれてしまい持ち味が出ないのである。

 理想としてはサイドに流れながら裏を取り、インサイドに並行で走る選手にラストパスを送る形。ジンチェンコが持ち場を離れることが多く、競り合いにも弱いので、ウルブスからするとこちらのサイドが狙い目。ゲデスがサイドに流れる形でのフリーランでの貢献度が高く、カウンターでアーセナルを脅かしていた。

 しかしながら、ウルブスは保持の機会を確保するのに苦労。自陣からのショートパスのビルドアップはハイラインのアーセナルを脅かすことができず。中盤より手前で跳ね返されるケースがほとんどだった。

 カラバオカップのレビューで述べたが、アーセナルがメンバーを入れ替えた時に最も気になるのは即時奪回のクオリティの低下。ブライトン相手にそれを露呈する形になったが、この試合ではその部分はきっちり存在感を示した。この辺りは流石のレギュラーメンバーである。

 強気になったアーセナルの守備に手を焼いたウルブス。決定的なチャンスとなったサリバのバックパスミスという千載一遇のチャンスもガブリエウに阻まれてしまい、先手を奪うことができなかった。

■理詰めの先制点で均衡を破る

 後半も試合のストーリーは同じ。アーセナルが保持で相手の守備ブロックを崩せるかどうかを軸として話が進んでいく。

 前半に比べればアーセナルの保持は相手をどう動かすかにフォーカスすることができていた。アーセナルのSBはウルブスの2トップの脇に立ちウルブスのIHを手前に引き出すためのアクションを増やしていく。

 前半はあまりフィットしていなかった感があったヴィエイラも裏に抜ける動きを増やすように。ジンチェンコが低い位置での仕事を減らしたこともあり、後半は左サイドの動きは円滑になったと言えるだろう。

 先制点のシーンはまさに理詰めで5バックを壊した場面である。右サイドに流れていたマルティネッリが左に大きくサイドチェンジ。サポートに出たジンチェンコから大外のジェズスにボールが送られる。

 素早いサイドチェンジとジンチェンコのフォローでIHのブバカル・トラオレにバックラインのケアのヘルプに行かせなかったアーセナルのボール回し。まずは第一関門突破である。

 次が裏を取る動き。この場面ではヴィエイラがワイドのCBのコリンズの背後を取る形で裏に走り出す。ここで重要なのはジェズスのカットインの動きとヴィエイラの裏への動き出しを絡めること。ジェズスが横にドリブルすることによって、つっかけられる形になったコリンズは裏のヴィエイラへの動きをケアすることができない。いわゆる足が埋まった状態になったコリンズに対してジェズスは裏のヴィエイラにパスを送る。

 抜け出したヴィエイラはレフティー。抜け出してからスムーズにインサイドに折り返すことができる。順足の選手の抜け出しのメリットを最大限に活かしたプレーと言っていいだろう。

 ビハインドになったウルブスは攻守に前のめりになっていく。70分手前には選手交代からフォーメーション変更を実施。モウチーニョからポデンスに変更した中盤はトップ下+2センターに変更。CBにプレスをかける2トップと合わせてトップ下のポデンスはアンカーのトーマスにマンマークに出ていく。

 余談にはなるが、こうした状況であれば前半のジンチェンコのようなアンカーの隣に立つような動きは有効。実際にはこの試合の後半ではウーデゴールが降りてビルドアップを手助けしていたけども、絞るSBの使い所はこの試合で言えば間違い無くこの時間帯だ。

 もう一つのウルブスの変更点はWBをセメドからレンビキサに交代したこと。プレーは見たことなかったが、攻め上がりへの積極性を見る限りおそらく攻撃的な交代なのだろう。ビハインドという状況を考慮すれば打ち手としては理解できる。

 しかし、この交代がアーセナルの追加点の引き金に。レンビキサからボールを奪ったマルティネッリはそのままカットインして外にスペースを作る。このスペースに入り込んだジンチェンコを止める選手は不在。中まで抉ったジンチェンコのラストパスを起点とした攻撃を仕上げたのは1点目と同じウーデゴール。

 跳ね返りが多く事故的な得点であるが、あれだけサイドをえぐればそうした事故は簡単に起こりうるということ。そういう意味ではレンビキサを手玉に取ったマルティネッリが非常に見事だったシーンと言える。

 追加点を奪ったアーセナルは、4バックでさらなる攻勢を仕掛けるウルブスを振り切りゲームクローズに成功。連勝を止めることなくW杯期間に入ることができた。

あとがき

■ハッピーなクリスマスがやってくる

 ジリっとしたスタートにはなったが、90分で見ればウルブスの5バックを攻略するために必要なことを実施できた。しかも、試合が進むにつれて、そのメソッドを洗練させていったのも非常にスマート。開幕時の爆発力とはまた違う形ではあるけども、チームの力を感じる勝ち方だったのは満足である。

 開幕から連勝街道を突き進んでいた時に「優勝争いのことはクリスマスになったらまた考えよう」と決めていた。けども、いざクリスマスに首位!という事実に直面するとどうしたらいいのかわからない部分もある。シティと直接戦っていないというのもあると思うけども、まだまだタイトル最有力と胸を張るのはちょっと早いかなという感覚もある。

 個人的な印象としては目の前の試合を一つ一つ積み重ねるという考え方がアルテタのアーセナルには合っているようにも思う。W杯明けはまた別のコンペティションになる可能性もあるが、毎年大変な年末の過密日程から再び一つ一つ積み重ねる日々を再開させたい。

試合結果
2022.11.12
プレミアリーグ 第16節
ウォルバーハンプトン 0-2 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
ARS:55′ 75′ ウーデゴール
主審:スチュアート・アットウェル

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