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「レビューは腸を潰すイメージで書くといい」〜川崎フロンターレ 個人レビュー2022-MF編

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3 塚川孝輝

■2年目も避けられなかったボタンの掛け違え

 脳震盪により満足な出場機会を得ることができなかった1年目の雪辱を晴らすべく、勝負の2年目に突入した塚川。しかし、外的要因に引っ張られるという部分では2年目も振り回されてしまった感がある。車屋、登里、ジェジエウなど負傷者が相次ぐバックラインの手当てとして活用されてしまっており、今季も本分である中盤でのテストは先送りに。

 浦和戦ではまさかの左SB起用という驚きの形を見せたが、意外と形になっていたのは驚きだった。江坂との間に空いた間合いを活用すると、ボール回しで浦和の陣形を崩すための起点として躍動した。今季の川崎における塚川のベストゲームを挙げるとするならば、自分は間違いなくこの試合を選ぶだろう。

 しかしながら、アンカーやCBでプレスを食らってしまうとまともにボールを捌けないという課題は昨シーズンから継続。左サイドは本職が戻ってくれば流石に分が悪く、バックラインの陣容が充実してくると出番がすっかりなくなってしまった。

 夏にはFC東京への移籍という運びとなる。加入してからの1年半で国内の公式戦はスタメン出場がなかった塚川。ACLを見据えたフィジカル採用だったのだが、肝心のチームがACLで躍進できなかったことも彼にとっては痛手だったはずだ。

 最初から最後までボタンの掛け違えという感じだった塚川と川崎の物語はこの夏で一区切り。それだけに、川向こうでレギュラーに定着し、実力を発揮しているのを見るのは嬉しい限りである。

6 ジョアン・シミッチ

放出候補から一転、後半戦はMVP級の働きに

 2022年開幕時にシミッチがレギュラーとして君臨していると想像していたファンはほぼ皆無だった。昨オフに放出候補筆頭だったのはもはや公然の秘密と言っていいだろう。FC東京との交渉がまとまらず、残留になったことで川崎の補強計画にはどれくらい影響があっただろうか。

 本人、クラブともに不幸せにしかならないのでは?という見立てで始まった2022年シーズンを変えたのは他でもない本人の努力だ。弛まぬ練習を続け、鬼木監督の信頼を勝ち取ると、チームに停滞感のあった柏戦でいきなりの先発起用。4-2-3-1の一角として安定感のあるパフォーマンスを見せた。

 シーズン後半戦はMVP級の働きと言っていいだろう。ハイプレス主体のチームに狙い撃ちにされていたバックラインからのパスの引き出しに関しては、強引なターンではなくワンタッチで捌きながらリズムを作り、前を向いて受けられるようにポジションを取り直す。相手がどこから来ているかを背中側でも把握している様はまるで仙人のようだった。

 非保持においてはロングボールを無効化する最終ライン前の防波堤として君臨。IHの脇坂、橘田という機動力にもついていける読みの鋭さで前がかりになるチームのハイプレスを支えた。もちろん、正確無比な左足は健在。ボールを持つアングルが限定されなくなったことで明らかに質が上がった一年になった。

 泥臭く出番を待ちながら、自分にできることを増やして、グレードアップした姿をピッチで披露する。川崎のアイデンティティとも言えるストイックなベンチ外メンバーからレギュラーに昇格した2022年は本人にとってもチームにとっても激動な一年だったと言える。

8 橘田健人

■躍進と充実の2年目もACLに課題を残す

 スーパールーキーとして昨年後半からレギュラーに定着した橘田。2年目となる今季は通年で絶対的な存在となった1年だった。開幕戦と出場停止となった清水戦を除けばリーグ戦は全試合に出場。怪我の少なさも大きな強みと言っていいだろう。

 特に光ったのはボールハント能力。抜群の機動力に合わせて、読みの鋭さも徐々に備わってきた橘田は地上戦だけならばシミッチを凌ぐフィルター能力を持っている選手。まがいなりにも終盤戦で昨季の後半戦のような4-3-3に回帰できたのは彼と脇坂がインサイドハーフに固定できたことが大きい。

 今季、特に本人が意識していたのはスコアリング能力。PAに入っていくタイミングと決め切るということをテーマとして掲げ、1年目では輝けなかった攻撃の最終局面でも存在感を見せていた。

 反対に挫折となったのはACLだろう。ボールを受ける部分では潰されて、カウンター対応ではフィルターになりきれず、攻守ともに不完全燃焼なパフォーマンスになってしまった。SBに回った時の対人守備でも弱みを見せたが、こちらは本職ではないぶん、ややチーム側の無茶振りになった感が強い。モーベルクやルーカス・フェルナンデスのようなゴリゴリのアタッカーには明らかに後手を踏んでいた。

 今後、仮に海外に行くとしたらサイズの問題がつきまとうアンカーでは難しいように思う。攻守で運動量を生かして活躍できるインサイドハーフが現実的だ。そのためにはスコアリング能力は切っても切れない要素になるはず。2022年で開きかけたその能力をさらに引き出すことができれば、海外への扉は開けてくるはずだ。

10 大島僚太

■『大島じゃなきゃダメ』の再確立が必要

 昨シーズンは長く故障に悩まされた1年になった大島。シーズン前のインタビューも気合いは十分で、捲土重来にかける2022年となったが、今季も2回の長期離脱でシーズンの大半をフイにしてしまった。

 2年連続のプレータイムの少なさは、出た時のプレー精度にも影響。さすがは大島僚太!と言いたくなるプレーは時折見えるものの、ボールを前に進める仕事に関しては継続的に出場機会があったシーズンには遠く及ばない。非保持における強度以前に、ボールを持った時の縦パスの入り方が物足りず、実効性の部分で本来大きな寄与が期待できる攻撃においてすら大きなインパクトをもたらすことができていないのが現状だ。

 ただでさえ、現状の川崎のプレーモデルの中で大島の特性というのはなかなか活かしにくくなっている。中盤に求められるのは攻守に動き回れる豊富な運動量だ。それを持たない大島にとっては代わりの長所の部分は見えてこなければ、さらに活躍は難しくなってくる。そのためには継続してプレーをする必要があることは明白。非保持の強度で無理が効かない中で「大島を起用する意味」を見出すパフォーマンスを見せたい。またチーム側も大島を活かせるような静的に試合を支配する形を習熟させたい。ホームの鹿島戦の後半のパフォーマンスはヒントになるように思うけども。

 コンディション面では終盤2試合で見せることができたプレッシングとシュートブロックに体を投げ出す大島の姿は光明とも言えるはずだ。まずはプレータイムを伸ばした時にこうしたパフォーマンスを見せることができるかどうか。そして、ボール保持において上積みになるスーパーな存在であることを川崎サポに再認識させるための2023年にしたいところだ。

14 脇坂泰斗

■交代を引っ張られる存在になれればもう一皮剥ける

 今季の川崎において通年でハイレベルなパフォーマンスを果たした選手の1人と言えるだろう。橘田と共に通年で川崎のレギュラーに君臨したパフォーマンスを発揮した1年だった。

 基本的にはプレー水準が周りの選手と比べて1,2段高いイメージ。ボール保持におけるプレッシャーの逃し方、ハイプレス時における貢献度、トランジッション時の攻撃参加、ミドルシュートによる得点力など川崎のCHに求められる要素をかなり多く兼ね備えている完成度の高いMFだと言えるだろう。

 中でもセットプレーのキック精度はピカイチ。今季最多の10アシストという数字は彼の高いプレースキッカーとしての才覚を示していると言える。苦しいシーズンで接戦が増えている中でのセットプレーの精度は例年以上に重要。重責を立派に果たしたと言えるだろう。

 E-1では日本代表としてインパクト十分の活躍を披露。得点には絡めなかったアピールとしては上々だ。その反動か、終盤は一時期パフォーマンスを落としていた時期もあったが、終盤には橘田、シミッチと共に川崎の反撃を支えるスリーセンターを形成してみせた。

 基本的には欠点の少ない選手という認識だが、プレータイムをもう少し伸ばせれば理想的。試合終盤にも必要とされる選手に変貌することができれば、川崎の中でのステータスもさらに一ランク上がるはずだ。

16 瀬古樹

■軽いプレーを減らして信頼感を高めたい

 他クラブで活躍した大卒選手を移籍金を払って購入する。これまでの川崎にはなかった珍しい方向性で川崎にやってきた瀬古。おそらく、早すぎる大卒選手の海外流出に備えた川崎のフロントの一手だったはずだが、瀬古自身は残念ながら2022年シーズンは大輪の花を咲かせたとは言い難い。

 連敗を喫した5月には「うまくいかないチームの雰囲気を自分は知っている」と横浜FCファンにめっちゃ怒られそうながらも頼もしい発言をしていたので、後半戦に期待するファンもかなり多かったはず。だが、本人の意気込みとは裏腹に後半戦も思うようにプレータイムは伸びなかった。

 前にスペースがある時のドリブルやパスなどの精度はなかなか目を見張るものはあったものの、プレッシャーを受けた時のボールコントロールに難がある。また、SBなどの後方のポジションを任されることが多かったものの、安易に守備機会を人に任せることが多く、その判断のせいから多くのピンチを招いたことも見逃せない。プレータイムが増えるほどの信頼度を勝ち取れなかったのはこうした軽率さも相まってのことだろう。

 来季は勝負の2年目になる。本職の中盤と本格的なバックアッパーが不在の右のSB、いずれにおいても存在感は欲しいところ。プレースキッカーとしての持ち味がある選手でもあるので、脇坂に負担が一点集中しているセットプレーのキッカーとして結果を出すことも定着の道筋と言えるだろう。

17 小塚和季

先発のチャンスを活かせず、中盤の構成の煽りを受ける

 2021年の天皇杯の大分戦では敗れながらも存在感を示したことで2022年の期待が大きく高まっていた小塚。シーズン序盤はその期待も相まって、コンスタントなベンチ入りと交代からの出場機会を得ていた。

 とりわけ、追いかける展開における強心臓なプレーぶりは見ているこちらがビビってしまうほど。リスクのあるターンを終盤であっさり決めてしまうあたりは天才肌の彼らしい部分。アウェイのG大阪戦などは彼のその冷静さに助けられた感じがあった。

 しかしながら、満を持して先発起用に踏み切ったアウェイの広島戦での出来は満足できるものとは言い難いものだった。とりわけ非保持においてはかなり広島に振り回されてしまった感がある。

 この試合を境に徐々に小塚はプレータイムが少なくなる。シミッチがアンカーに固定されたことで、橘田がインサイドハーフに起用されたことでベンチ入りが厳しくなってしまった感があった。そして攻撃的なオプションとして推進力がもたらせる遠野が常に先に起用。ボールを落ち着かせる役割としては終盤は大島が優先されたこともあり、起用される局面がかなり限定されてしまった。

 昨季と比べれば、プレータイムは増えはしたが到底満足ができるものではないだろう。清水戦の終盤では家長のワントップに小塚のトップ下というクローズが見られたのは感慨深かったがそれはそれ。年齢的にも現実的に残留を勝ち取れるかは怪しいところがある。外部加入選手にとって重要な加入2シーズン目だが、彼にとっては大きな成果を上げることはできなかった一年だった。

18 チャナティップ

■爆発力の活かし方と付きまとうリスクのバランスが難しい

 2022年の目玉補強と言っていいだろう。当時は札幌の社長だった野々村さんの言葉が本当ならば、川崎は歴史的な額をチャナティップにかけたことになる。

 そうした破格の取引条件に比べるとシーズンの中におけるチャナティップの活躍は限定的だった。中盤で反転してからの推進力のあるドリブルは大きな武器だが、密集で行ってしまうと被カウンターにおける大きなリスクにもなる。チャナティップはそうしたリスクをあまり考慮せずにピッチのあらゆるところでもそうしたプレーを行ってしまうのは減点材料。シーズン中盤にはだいぶ使いどころが定まってきた感があったのは良かったけども。

 守備面でも課題は多い。序盤はカードを連発し、3月の広島戦ではすでに累積警告による出場停止。クリーンなボール奪取に課題が残る。終盤はプレスバックの精度が上がったものの、リトリートしてからのラインアップが遅れてしまい、相手をフリーにしてしまう機会が多かった。

 そして少なくない負傷も懸念である。しかしながら、これに関しては札幌でのプレー履歴を見ればフルシーズン稼働が難しいことはわかるので、既知の事実という感じだった。

 トータルで見れば期待通りとはいかなかったシーズン。ただ、ハマった時の爆発力を垣間見えた部分もある。一方で、負傷や被カウンター、守備強度などリスクが多い分、起用できる用途は限定される要素も大きい。ジョーカーとして期待される割にはゲームチェンジャー的な使い方も模索できなかったのは懸念にもなる。こうした懸念を来季に払拭できるかどうかは気になるところである。

25 松井蓮之

■川崎での将来を決める2023年になる

 法政大から期待されて入ってきたルーキーは厳しい1年目を過ごした。起用されたのはACLと天皇杯のみ。J1クラブ相手の試合には起用されないままの1年間となってしまった。

 しかも、起用ポジションはSB。本来のポジションである中盤ではなく、山根のターンオーバー役での出番獲得となった。オーバーラップ時に斜めにエリアに入り込む動きは独特のもので攻撃のアクセントになってはいたが、やはり対人強度には不安。ノーファウルでボールを奪うことができないシーンを見てしまうと、リーグ戦で使えないという鬼木監督の考えはよくわかる。

 試合でのプレーが少ない分憶測になってしまうけども、中盤でのプレーがなかったということは窮屈なスペースでのボールスキルに難があったということだろうか。いずれにしても来季は勝負の年。大卒のリミットである2季目をどのように迎えるか。2023年は生き残りをかけた一年になる。

26 永長鷹虎

■チームの課題解決にどこまで絡んで来れるか

 出場した唯一の試合は札幌大学との天皇杯。後半から出場すると、小気味いいドリブルから存在感を発揮。デビュー戦でゴールも果たした。

 カットインからのシュートが得意パターンであるようなので、起用は右サイドの方が良さげ。札幌大学相手にはスピードに割と差があったため、簡単に千切ることができたが、プロ相手でどこまでアクセントになれるかどうかはまだ未知数。ちなみにホームの清水戦は山村の同点ゴールが決まらなかったら、3枚替えの一角として投入される準備をしていた。

 札幌大学戦でもクロスの入り方やパスを受けるための動き直しなど課題は散見。この辺りは来季以降のテーマになるだろう。右サイドの強化はチームとしても大きなテーマになるが、家長の後継者としてはまだ時間がかかるか。手元に置いて鍛えるか、それともローンで修行させるかは悩みどころである。

31 山村和也

■万能性とセットプレーは武器だが懸念も増えた1年に

 センターラインならどこまでできる当代屈指のオールラウンダーは今年も重宝された一年だった。前線に置いて小林の2トップのパートナーを務めれば、負傷者が絶えなかったバックラインに入ってのスタメン起用と幅の広い活躍をこなしてみせた。MF登録だけど、多分MFとしてのプレータイムが一番少ないと思う。

 バックラインにおけるボール保持のセンスはやはり抜群で、右サイドからの持ち上がりからの中距離パスや高い位置での攻撃参加はビハインド時におけるアクセントにもなった。

 セットプレーにおける得点力は今年も健在。高さのある打点から正確無比なコースを射抜くヘディングはまさに名人芸。今年も土壇場のところで救われた。

 その一方でCBとして守る部分のパフォーマンスに翳りが見えるのは事実。スピード不足で裏を取られる部分は仕方ないとしても、サイドに釣り出されては潰しきれないという車屋と似た課題を露呈してしまう。

 だが、最も大きな懸念だったのは長所である空中戦での競り合いでの守備で勝ちきれなくなるシーンが増えること。相手に背負われるシーンも増えており、被保持に回るとスピード面以外の物足りなさを感じる場面は前年より明らかに増えてしまった。この辺りをどう捉えるか。バックラインに入った若手の取り扱い次第では新天地を求める結末になってもおかしくはない。終盤にベンチ入りを逃す機会が増えたのは気がかりだ。

41 家長昭博

■思いの続きは翌年に

 実質MVP級の働きをした一年だったと言えるだろう。過去と比較してもかなり厳しい過密日程の中で、プレータイムはソンリョン、谷口、橘田、山根に次いで5位。ベテランにも関わらず、前線ではマルシーニョと2人で年間を通してフル稼働してみせた。

 鉄板のキープ力からチームを押し上げる働きは健在。正直、ベテラン勢のプレー精度の低下が気になるシーズンだったが、その中でも家長はほとんど加齢による衰えが見られなかったのは驚きである。このパフォーマンス水準ならば、来季もプレータイムが大きく減ることは考えにくい。

 今年は得点に関与する頻度も増加。アクロバティックな魅せるシュートやチームを救う重要度の高いシュートでチームを何度も救ってみせた。PKでの安定感が復活したのは好材料。昨年、蔚山戦でまさかの失敗をしてしまったが、今年は多くのPKを決めてスキルの高いPKキッカーであることを証明してみせた。中でも神戸戦では優勝の可能性を繋ぐためのプレッシャーのかかるキックを成功。本人も「蹴りたくなかった」というシュートを沈めてみせた。悪い話をすれば、今年と同じく優勝を逃した2019年は家長個人のパフォーマンスをからっきしだったことを考えると、むしろ2022年には依存度が上がっていると捉えることもできなくはない。

 流石に守備面では無理が効かない試合も増えてきたが、要所では誰よりも汗をかくことができる。最終節の多摩川クラシコでの守備に走る背中を見れば、今季度々口にしていたタイトルや3連覇への思いは嘘ではないことは一目でわかる。果たせなかった思いの続きが来年にあることを願うばかりだ。

まだまだ!

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