MENU
カテゴリー

「連続性、変幻自在性、専門性」~2023.8.12 プレミアリーグ 第1節 アーセナル×ノッティンガム・フォレスト レビュー

プレビュー記事

あわせて読みたい
「コミュニティ・シールドで見えた今季のテーマ」~2023.8.12 プレミアリーグ 第1節 アーセナル×ノッテ... 【Fixture】 プレミアリーグ 第1節2023.8.12アーセナル(昨年2位/26勝6分6敗/勝ち点84/得点88 失点43)×ノッティンガム・フォレスト(昨年16位/9勝11分18敗/勝ち点38/得点3...
目次

レビュー

アーセナル式3-1-6の特徴は?

 シティが勝利したオープニングマッチに続き、2番手として登場するのは昨年2位のアーセナル。対峙するのは昨季の終盤、アーセナルに勝つことで残留を決めたフォレストである。

 キックオフ前に観る側の頭を悩ませることとなったのはアーセナルの並びである。ガブリエウのベンチをはじめとして、並びが予想できない部分がいくつかある状況であった。

 蓋を開けてみるとアーセナルのフォーメーションはトーマスがSBに起用される4バックがベース。この言葉だけを受け取ると、昨季終盤のサリバ離脱時の応急処置のトレースのようにも思えるが、実際のところ個人の保持における移動を含めてると、むしろシティとのコミュニティシールドにおいて最後に見せた形の方が近いかもしれない。

 SBに入ったトーマスは外でプレーするパターンとインサイドでプレーするパターンを使い分け。インサイドに入ってプレーする時はライスの横に立つことよりも、むしろライスを押しのけるようにアンカーとして振る舞っていた。いわゆる3-1-6というフレーズはこの形がベースだろう。

 トーマスがアンカーであるならば、4バックで布陣を表現した時にアンカーに入るライスはジャカのような役割。左サイドに流れつつ、ビルドアップのサポートで降りてくる役割を果たす。逆にIHとして予想フォーメーションでは描かれていたハヴァーツは2トップの一角のような振る舞い。ビルドアップにはほぼ関与せず、サイドにもそこまで顔を出さず、エンケティアとフラットな役割をこなしていた。

 イメージとしては3人のDF、1人のアンカー、2人のIHに2人のサイドアタッカー、そして2人のストライカーというフィールドの構成と言えるだろう。コミュニティシールドのようにトーマスをCBにしなかったのは非保持で4バックで構えた時の布陣のナチュラルさを優先としたということだろうか。

 後方は3バック+アンカーで前にこれだけ人をかけるという形がここまでに見られたのはどうしても特典が欲しい状況下、もしくは相手がスペースを消して守ってくるチーム相手。前者はコミュニティ・シールドの終盤だし、後者はこのフォレスト戦。今後もこの形がベースになってくるかはわからないが、メンバーをいじらずに布陣のバランスを変えることは結構やりそうな気配なので、同じメンバーでポジションバランスを調整しながら、異なる相手や展開に対抗していくのかもしれない。

ズレをつなぐトライの左と保険と安定の右

 さて、フォレストは予想通り、5バックでスペースを消す形でアーセナルを迎え撃つ。アーセナルのこの日のテーマはフォレストの中盤4枚、特にCHの2枚をどのように動かすかがポイントにおいていた感がある。

 例えば、トーマスがアンカーの位置に移動する形もフォレストにとってはついていくか?いないのか?の選択を強いることになる。より具体的に移動で揺さぶってきたのはアーセナルの左サイド。

 ポイントとなったのはティンバーが高い位置でボール保持に絡んで、同サイドのシャドーを引き付けることだった。保持の時は後方は3バックベースとなったので、ガブリエウを使うこともできただろうが、左サイドではティンバーが高い位置でボール保持で絡んでいたことを踏まえると、よりサイドの高い位置でのフォローを求めていたのかもしれない。逆サイドのホワイトもトーマスがインサイドに絞った時はサカを追い越す形を見せていたことから、中央のCBをサリバorガブリエウという選択からサリバになったのかなと予想した。

 さて、少し話が逸れた。ティンバーはキャラクター的にも放置しにくいので、フォレストのシャドーであるギブス=ホワイトやダニーロ(2人はサイドを途中で入れ替えたりしていたので)が高い位置まで追い回していた。となると、前線とバックラインの間に立つライスは地味に捕まえに行きにくい存在となる。

 大外のオーリエはマルティネッリがピン止めされているし、3バックのワイドであるボリーが出ていってしまえば、後方は2トップが同数で受けなければいけなくなってしまう。消去法的にこちらのサイドのCHであるイエーツが出ていくことが多かった。

 そうなると、インサイドはマンガラが広いスペースをカバーしなければいけなくなる。アーセナルはこのエリアを活用する選手は流動的。2トップにウーデゴールがかわるがわるこのエリアを使っていく。あわよくばライスでイエーツを釣り出さなくとも、このエリアに縦パスを直接つけるケースもあった。

 ただ、ライスが広げた穴を活用し切れているかは別問題。スペースはそこにあるのに誰もいなかったり、あるいはボールを受けた選手のタッチが1つ、2つ多くなることで時間を先に送ることができなかったというのは課題。この先の連携の向上に期待したいところだろう。

 エンケティアの先制ゴールのシーンはミクロではあるが、1人が作った時間を違う人が活用できた場面だった。マルティネッリが2人を引きつけたところを起点にして、エンケティアがPA内で時間を作ることができた。ボリーの逆方向をとり、ワローの股を抜くシュートを振り抜く余裕がエンケティアにはあった。時間を作り出したマルティネッリと活用したエンケティアのラインがうまく繋がったゴールだったと言えるだろう。

 右サイドはどちらかと言えば保険というか。昨シーズンのユニットをそのまま活用できるメリットがあったので、そこの破壊力で新しいテストのリスクの担保をしていたのかなと思う。大外のサカやホワイトのランについてはアイナや3バックがよく食いついていた。フォレストの3バックはサカとホワイトを主体としたアーセナルの右サイドの奥を取る動きにきちんとラインを下げながらついていった。特にファーサイド側から絞るようにクロスに体を張ったボリーはとても印象的な働きであった。

 サカの2点目のゴールはインサイドへのカットインからのミドル。シュートはスーパーではあったが、右サイドからハーフレーンへ侵入するような横の動きは右サイドからやや狙っていた部分。奥を取るアクションにうまくついてくるフォレストに対してのアーセナルの右サイドの次の一手だったのだと思う。トップのエンケティアもハーフスペースから裏を取る動きを見せることで奥行きをもたらしており、縦方向の動きのアクセントをうまくつけていた。

 アーセナルの保持のトライのベースとなるのは攻撃のターンを続けられるかどうか?というところも絡んでくる。ジョンソンの抜け出しから迎えた12分の決定機を除けば、フォレストはチャンスがなかなか巡って来なかったので、アーセナルはある程度試合の主導権を握ったと言えるだろう。

 フォレストが2点を奪われた後はギブス=ホワイトの左サイドからトーマスをスピードで後手に回す形で彼らも反撃の機会を得てはいた。しかしながら、アーセナルはこれをシャットアウト。2点のリードをキープしてハーフタイムを迎える。

冨安が見せたパフォーマンスの出来は?

 後半に起こった初めのアクシデントはティンバーの負傷退場。前半に痛めた膝?のところを再び痛めてしまい、開始間もないところで冨安と交代する。

 前半からもわかるように流動性がアーセナルのテーマだったが、2点リードという展開とティンバー→冨安という交代を踏まえてアーセナルはより一層安全運転を施行する。低い位置から積極的なサイドチェンジで前線からのプレッシャーを早い段階で回避。5-4型で守るチームが高い位置でボールを奪うにはある程度サイドを限定したかったはずなので、このアーセナルの方向性は頭が痛かったことだろう。

 冨安のパフォーマンスは可もなく不可もなくという水準だった。高い位置に出て行っての攻撃においては特筆すべき部分はなかったが、それは彼に望まれた役割や展開を踏まえれば納得できるもの。ポゼッションが詰まりそうなフェーズにおいては後方支援もできていたし、大きな問題にはならないだろう。

 カウンターの迎撃の部分はやや不満が残る。同サイドのフォローに出てきていたサリバやライスに比べると、ややPAまでは我慢するようなスタンスだったため、そこは味方とギャップができている部分もあった。アーセナルの非保持のスタイルを維持するためにも、冨安に期待されている役割を考えても次の出番までにはこのギャップは減らしておきたいところである。

 停滞気味だった試合を変えたのはアウォニイの登場だった。カウンターから投入早々に結果を出すのは千両役者。コンディションが十分じゃなくベンチスタートだったのはアーセナルにとっては助かったと言いたくなるようないきなりの追撃弾だった。アシストいう形で後押ししたエランガも見事。プレー個々では出来のムラが大きいが、フォレストが欲しかった推進力をもたらすことができてはいた。アーセナルからするとホワイトが前に入られてしまったのが痛恨。緊張感の伴う終盤戦を過ごすこととなる。

 リトリートの時間が多めになってきたアーセナルにとって助けになったのは前線の選手たちの陣地回復力。裏へのボールへの競り合いからあわやという決定機を見せたハヴァーツや前を向くことさえできれば底なしのキープ力を見せるトロサールはリトリート成分を増やした中での前進において大きな貢献を果たしたと言える。

 最後はガブリエウを投入し、盤石の形で逃げ切ったアーセナル。失点直後のワンプレー以外は軽さも見られずに落ち着いてゲームクローズはできたと言えるだろう。前日の王者ほどスマートではなかったが、アーセナルもまた開幕戦を勝利で飾ることとなった。

あとがき

 今年のテーマはズレを作ったところから活用するところまで持っていく連続性と、同じメンバーでも展開に合わせて出力を変えられる変幻自在性かなと思う。ハヴァーツがなんとなく地位を確立しつつあるのは、あらゆるプレーに顔を出すという彼の攻撃における万能性を見せやすい仕組みになっているからだと思う。もちろん、この仕組みが今季の基本形なのかあるいは極端な状況へのオプションなのかはわからないが、前線の万能性の需要は高まっている流れなのは間違いないと思う。

 逆にネルソン、スミス=ロウ、エンケティアのような起用されるポジションの想像がつきやすい前線の選手たちは、トロサール、ジェズスのようなマルチロールに勝つことができるかどうかが重要なポイントになる。前線ではないがティアニーの移籍がやや加速していることからもスペシャリストには厳しいシーズンになるかもしれない。専門性が高い選手がチーム内で立場を確立できるかどうかも今季の見どころの1つになるだろう。

試合結果

2023.8.12
プレミアリーグ 第1節
アーセナル 2-1 ノッティンガム・フォレスト
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:26′ エンケティア, 32′ サカ
NFO:82′ アウォニイ
主審:マイケル・オリバー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次