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「CF戦線に見られる変化」~2023.11.12 J1 第32節 川崎フロンターレ×京都サンガF.C. レビュー

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レビュー

奪取から保持まで滑らかな京都のサイクル

 勝てば間違いなく残留。引き分けでも数字上の降格の可能性こそ残すものの条件的には99%残留。降格は①横浜FCの連勝②京都の連敗③横浜FCに敗れてFC東京に勝利した湘南が京都との得失点差8をひっくり返すという3つが揃わなければ成立しない。③の条件の難しさを考えれば実質残留確実といっていいだろう。よって、京都にとっては最悪でも引き分けは欲しいという状況だった。

 しかしながら京都は高い位置からのプレスでスタート。特に右のCBに入ったジェジエウのところでボールをひっかけることで敵陣内でのカウンター発動をすることができていた。中盤へのマークは非常にタイト。バックラインから出るコースを絞り、ボールの収めどころにあたりをつけてきっちりとアプローチをかける。川崎は京都のこのプレスのアプローチに飲み込まれる序盤戦だった。ジェジエウ、シミッチを追い回しつつプレスをかけてショートカウンターに移行することでスムーズに攻撃に移行する京都は序盤の主導権を握る。

 さらにはボールを奪った後のパスワークも京都は見事。シミッチの脇を狙い、サイドのスペースに侵入して同サイドのDFを片側に寄せながら、逆サイドでフィニッシュを狙うという形で川崎のDFを意図的に動かしていく。

 先制点のシーンは主審ばかりが話題になるが、京都の保持が川崎の非保持を完全に上回ったシーンだといえるだろう。ポイントとなるのは武田がボールを持っている際の状況。シミッチ、山根、脇坂の3枚が武田に引き付けられているものの、パスコースを完全に防げてはいない。主審が武田のパスコースを邪魔する立ち位置を取っていてなお、武田には山崎のポストから逆サイドに安全にボールを運べるルートがある。

 特に逆サイドのカバーも視野に入れなくてはいけないシミッチに関してはすれ違われるリスクは大きい。主審がドロップボールを行わなかったことを呪うのはファンの自由であるが、こうした守備を行ったことからは目を背けるべきではない。

 シミッチに関してはこの日特にプレーが冴えていなかった。もともと、機動力が優れているわけではない分、ボールの雲行きを先読みする力で補うプレーができるのが彼の長所。しかしながら、この試合では攻守ともにプレーを先読みしたり、周りの状況を把握したり目が明らかに曇っていた。そのため、プレスにいったものの入れ替わられるケースが散見。潰せるはずのところで潰せない代償は逆サイドに思いっきりのしかかってくる。先制点の場面はまさしくその典型例だといえるだろう。

 この場面は縦方向に強いアプローチをかけつつ(山崎には高井がもっと寄せていいと思う)、逆サイドへの展開に備えてリトリートするのがベターか。それができればシミッチは先制点のシュートを放った福田を捕まえることができたように思う。

 脇坂、山根は同サイド側の人間な分、武田にボールを運ばれた時点でできることはないが、特に山根に関してはその前の麻田へのロングフィードへのアプローチが遅れたことがスムーズに京都にボールをつながれた一因。小林が戻らなかったといえばそれまでではあるが、こちらのサイドは日頃から家長の背後をカバーするという前提があるので、そういう意味では後方の脇坂と山根も含めて悪い形でボールを持たれることを許容してしまったととらえることもできる。小林が戻る頻度が高い分、対応に迷いが出たのだとすればギャップは理解できるが、いずれにしても山根の麻田への寄せはもっと早くできたように見える。

出ていくCBとカバーの関係性の不成立がしわ寄せに

 シミッチの受難は保持でも続く。京都のプレスは川崎のCBにはそこまで潰し切らず、MFには厳しく当たるというもの。高井がいるのであれば、ボールを持つ部分は彼にある程度任せてもよかったように思うが、シミッチはポジションの我慢が効かず、最終ラインに降り、それでもなおマークを振り払えないという状況が続いてしまう。

 警告を受けたシーンはシミッチの調子の悪さをよく表している。相手に気づかない状態で寄せられてボールを失い、あわてて相手との間合いを図れないタックルをしてしまう。正直な感想を言えば、ハーフタイムまで引っ張ったことはよく我慢した方だと思う。警告を受けたことを踏まえれば、前半で代える選択肢すら持っていてもいい出来だった。

 中盤がフィルターとして機能しないのであれば、割を食うのは当然最終ラインということになる。しかしながら、この日はバックラインがその受け皿になれない。失点シーンを抽出するまでもなくジェジエウは明らかに山崎に競り負けるシーンが多く、ロングボールでの勝率は怪しいところがあった。京都はとにかくFWに当てることの試行回数は重ねてくるチームなので、ジェジエウがこの出来の川崎のバックラインでは受けきるのが厳しいものがあった。

 2失点目の場面はシミッチがサイドの裏のスペースをジェジエウに受け渡したところから始まる。そこから原にクロスを上げることを許し、高井の背後から出てきた豊川がゴールを決めた場面だった。

 パッと見るとマークを外した高井が悪いようにも見えるが、情状酌量の余地はあるだろう。彼には手前のレーンを走っていた山崎が視野に入っているはず。決め打ちで豊川をマークするのは難しい。実は21分に大外のマークをジェジエウに託した失点シーンと似た構図のシーンがあったのだが、その場面ではシミッチが山崎をマークしている。

 山根でもシミッチでもいいのだが、この場面で手前の山崎を放流してしまったことが高井の判断を遅らせることになる。さらに言えば、ジェジエウは原にクロスを許すにしてもこれだけ鋭い弾道のクロスを打ち込ませるのはいただけない。いわゆるマークが外れない状態のクロスまで強いることができれば、クロスはより滞空時間が長くなり高井がバックステップを踏む時間もあったはず。下がりながらのヘディングのクリアが得意な谷口や大南であればまぁ問題ないのだろうが、高井にこの負荷をかけるのは少ししんどいところがあるだろう。

 3失点目も同じ形。ジェジエウがつり出されるきっかけはやや異なり、遅れて出ていった空中戦。シミッチに受け渡された2失点目に比べると、本人の判断が遅れた側面が強く、競り負けたことに関してはより重たい責任があるといえる場面である。

 3失点目の場面でも手前を通過する山崎に対して後手を踏んでいるのは2失点目と同じ。2失点目と状況が違う部分があるとすれば、この場面では瀬川の奥を通る選手がいなかったため、豊川に対して瀬川がより絞って対応することは可能ではあったところ。しかしながら、ヘディングのボールの落下地点が豊川側だったことや彼自身が本職のDFでないことを踏まえれば、もちろん彼だけを責めるわけにもいかない。

 出ていくCBの潰し切れない対応、CBの出ていった後のスペースのケア、そして最後にボックス内での守備の強度。足りないものが数珠つなぎのように指摘できる失点シーンだったといえるだろう。

躍動する2人のFW

 守勢に回れば苦しい川崎だが、保持においては反撃ができていた。京都の守備は中盤とDFの間のスペースが空きやすく、前にベクトルが強い中盤のプレスさえ剥がせれば攻略は難しくはなかった。

 この点で無双していたのは脇坂。ターンで相手の逆を取ることができる彼がプレスの打開役を積極的に担う。相手を外し切った後のワンプレー目も非常に見事。中盤でフリーになった脇坂から先の攻撃の成功率の高さは異次元だったといっていいだろう。

 広がった中盤の背後のスペースでは当然京都のバックラインの負荷は増えることになる。この点で怪しかったのはアピアタウィア。高い位置まで出ていく割には潰しの成功率が低く、奪いきったとしてもそのあとのワンプレー目が不用意なことが多い。川崎にとってここは明らかな狙い目だった。

 ゴミスがアピアタウィアを引き付けることにより、できた最終ラインのスペースにアタックをすることができていたのは宮代。1点目のゴールのシーンは非常に冷静にストライカーらしい一撃で試合を振り出しに戻して見せた。川崎のWGに入るマルシーニョと家長以外の選手はいかにCFの引力を使った崩しで得点に絡むことができるかが重要!という話をACLのプレビューで話したのだが、宮代はこの点で一歩前に出たといえるだろう。

 小林に関してはよりダイレクトに脇坂との関係性で存在感を示した。特に麻田とイヨハの間を貫くようなフリーランは非常に効果的。相手のバランスが崩れた状態でゴール前に迫る非常に重要な手段になっていた。

 前半の崩しの主役というべき2人で取り切った2点目はそういう意味では象徴的な形でのゴール。川崎は1点差まで迫ってからハーフタイムを迎えることとなった。

仕上げに甘さが出た終盤戦

 後半も流れとしては似ており、京都の中盤のプレスを剥がすことができれば川崎は一気に加速することができるという状況。川崎はハーフタイムに2枚の選手を入れ替えて、ビルドアップ隊が山村、高井、橘田になった。この点で安定感が生まれたことは明らか。ゲームはより川崎サイドに傾く展開となった。

 脇坂→小林のラインは健在で後半もミドルゾーンからアタッキングサードまでの電車道が敷かれている攻撃を川崎は構築することができた。しかしながら仕上げの部分では難が見えてきたのも確か。特にゴミスが下がって以降の川崎の仕上げのクオリティは甘さが目立つこととなった。

 ゴミスがいるうちは彼にCB2枚の注意が向かうことを特に宮代がうまく活用していた。後半の中でも特大決定機である小林の2連シュートはゴミスで2枚のCBを引っ張り、宮代がSBを巻き取った結果、外側から誰もケアできない瀬川が攻めあがることで深さを作ることができた故の決定機である。

 しかしながら、ゴミス不在になった川崎のCFには彼ほどの引力を持った選手が入ることができず、歪みを作る→生かすの関係性の構築が一気に難しくなる。マルシーニョが左の大外から強襲するという武器は別途用意されてはいたが、これはむしろ独立した別の攻撃手段。CFでの関係性との関与は薄かった。

 得点を決めたこと、崩しのキーになったことという点では文句なしだった小林だが、後半2つの決定機を決められなかったこと、そしてCF寄りでプレーするようになった終盤戦に山田との関係構築がうまくいかず、ボックス内で存在感を放てなかったことはむしろ課題。一長一短といえる出来だった。

 京都は井上の投入以降5バックにシフトしたが、それでもなお中盤はプレスに前のめりだったため、前半のようにCFが縦の奥行きを使う関係性を構築できればまだまだ付け入るスキは十分にあった。その点で少し中央のDFライン周辺にプレーが集約しすぎたのは不満だ。橘田、瀬川が隙間を埋めようとフリーランで頑張っていたのは確かだが、前半のCFのタスクに比べると山田や小林には不満が残る。

 家長を投入したのであれば前線で踏ん張るタスクを明確に与えてもよかった感じがする。左サイドで落ちる役割も近頃得点感覚に優れている橘田を前に送り込むという部分では全く意義がないとは思わないが、相手を引き寄せる引力と空中戦の的になるという点でより高い位置でプレーした方が京都に対して怖さはあったのではないか。

 後方でゲームメイクを行った高井や山村もこれだけ相手の中盤がプレスに前のめりであるならば、ショートパスを使った相手の動かし方にももう少しトライしてほしいところ。もっとも、これは彼らが単独でトライできる話ではないのだが。

 脇坂→マルシーニョのラインで奪ったPKは非常に見事。そのうえで攻勢に出た川崎のほかの手段に怖さがなかったところは反省だろう。攻めに出たのであればそれ相応の収穫を持ち帰ってきてほしかった。劇的な同点弾で終わらせてほしくないのが本音だ。

あとがき

 勝てなかったのは前半の終盤に重ねた相似なパターンでの失点のせいだろう。しかしながら、もっとここはやれたのではないか?という点に関してはやはり終盤のCFの関係性づくりのところに集約できる。ゴミス-宮代ラインができたことに比べると、山田―小林ラインができたことの少なさは寂しかった。

 特に山田に関してはゴミスが加入してからじりじり序列が落ちてしまうのは納得感がある。ダミアンとゴミスの2人は引力もさることながら、周りのオフザボールを生かす形もうまい。大卒ルーキーにどこまで求めるかは難しいところだが、今の川崎はこの部分で得点を重ねているからこそ、物足りなさは否めない。チームにエネルギーが足りない時のギアチェンジャーとしては十分活躍してきた今季だが、仕上げの部分を託された分の甘さは気になるところ。ジェジエウ、シミッチと共に残りのシーズンの奮起に期待したい。

試合結果

試合結果
2023.11.12
J1 第32節
川崎フロンターレ 3-3 京都サンガF.C.
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:19‘ 宮代大聖, 45+5’ 小林悠, 90+1‘(PK) 脇坂泰斗
京都:6‘ 福田心之助, 42’ 45+1‘ 豊川雄太
主審:高崎航地

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