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「意義がある時間」~2023.11.24 J1 第33節 川崎フロンターレ×鹿島アントラーズ レビュー

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レビュー

ロングボールが通用しないことが問題ではない

 立ち上がりからペースを握ったのは鹿島。長いボールをベースに2トップにボールを当てながらを前進を繰り返していく。いきなり存在感を見せたのは古巣対決となる知念。川崎のCBに競り勝ちボールを収めていく。山村とコンタクトがあった場面でPKを引き出すことができていれば、決定的な働きができたはず。そういう意味では紙一重と言える立ち上がりの知念のパフォーマンスだった。

 2トップの相棒である鈴木ももちろん前線のターゲットになる。前線の2枚のターゲットに絡んでいったのは松村。インサイドに入り込んでのミドルはここ数試合の調子の良さを窺わせる。後方の須貝は松村がボールを持つと愚直に追い越す形でのオーバーラップを見せていた。正直、ボールを受けられる機会は少なかったのだが、松村へのマークを分散するという部分では意義があった動きだった。

 逆に川崎はCFのダミアンへのロングボールが通用しない展開。ダミアンが相手に競り勝つことができない場面もあれば、単純にロングボールがダミアンに届いていない場合もあった。いずれにしても確かなのは後方からの長いボールを一発で収めるというメカニズムが鹿島よりも機能していなかったこと。鹿島が得た主導権の源は即ちCF×CBのマッチアップの差でもあった。

 川崎がまずかったのはダミアンへのロングボールが機能しないことではなく、ダミアンへのロングボールへの比重をいつまでも変えなかったことである。鹿島相手にダイレクトなフィジカル勝負で優位を取れないのは想定できること。競り勝てないのであれば、やり方は修正する必要がある。そこに着手するのが遅れた分、川崎はやたらと苦しい序盤戦を過ごしてしまった。

 バックラインにボールの出しどころを見つけるのが難しいくらい強烈なプレスが来ていたのならばわかるが、別にそういうわけでもない。ゴールキックからのリスタートも含めて、川崎は進んでダミアンにボールを当てては捨てていた。

 プレビューでも指摘したが、むしろ鹿島をプレスに引き出すというフェーズは攻略の第一歩。ロングボールは通用しなくてもFW-MF間を間延びさせて中盤でフリーマンを作るのは鹿島相手にはそこまで難しい話ではない。実際にトライをした数回では前進することができていたのに、頻度が上がらないのもなかなかに切ないところである。

 より効く方策を軽視してペースを握れない時間を過ごしてしまったのはとてももったいない。川崎はこうした立ち上がりの悪さで今季何度も先制点を許している。

 勘違いしてほしくないのは「川崎のプレースタイルは自陣からのショートパスを繋ぐものなのだから、ダミアンに放り込むのは良くない!」ということを言いたいのでないこと。鹿島の得意なところ、苦手なところと川崎のそれを天秤にかけた結果、プレッシャーのかからないバックラインからダミアンへの放り込みはあまり効かないのではないか?という観点でしか判断はしていない。

 前進のルートに貴賎はない。少なくともシーズン終盤のこの段階においては。手持ちの武器をフルで使う方が最優先。そうした部分で川崎は戦況の見極めがうまくいっていなかった序盤戦だった。

川崎が見出す前進のメカニズム

 川崎は25分過ぎから徐々にショートパスに出ていくフェーズを増やしていく。そして少しずつペースを取り戻す。

 ビルドアップの仕組みとしてはまずはGKを挟む形で大きく幅を開くCBと、相手の2トップの間に入るアンカーの橘田という形が基本線。広がるCBと間に立つアンカーで鹿島の2トップに対して判断を迫っている。2トップがCBを追いかければ2トップの幅は広がるし、アンカーを気にすれば幅は狭まる。こうした部分で鈴木と知念の間にできるギャップを生もうという考え方である。

 2トップの一角が外に広がるCBをケアすれば、アンカーの橘田はそれによってできそうなギャップでボールを受けるべく移動を開始する。こうした移動からフリーで受けられれば理想。FW-MF間を広げてアンカーをフリーにするアプローチである。だが、一発ではやり直しになる場合もある。こうした移動により橘田が中盤中央に立つことができない場合、2トップの間に立つ役割は脇坂や瀬古が代行する。いずれにしても2トップの幅を狭めるためのアプローチは中盤3人が入れ替わりながら常時行われていたことになる。

 鹿島は外に広がる川崎のCBのケアにSHが出てくることもある。この動きに対応する形でも川崎は前進のきっかけを作ることができる。大南で仲間が引き出された場合を考えてみよう。仲間はできれば大南のパスコースを切りながらプレッシャーをかけたいところ。しかしながら山根はインサイドとアウトサイドを自在に移動するので、仲間はなかなかコースを消しきれない。さらには山根が立たなかった方のレーンには川崎のMFがルートを作るように立つ。2つのルートを仲間は同時に消すことはできないのでこの場合も前進は可能になる。

 CFの鈴木が仲間が出ていったスペースを埋めにいく場合もある。そうした場合、狙いは逆サイドになる。鈴木がケアするのはボールサイド側のSBもしくはIH。というわけで今度は川崎のCBの高さにプレッシャーをかける選手が減る。

15分のように山根が知念を越す形で逆サイドの山村に一気に展開すれば、あとはボールを運ぶだけで川崎は山村と登里で松村に二択を迫ることができる。鈴木が同サイドを埋めにくれば横を切るのは知念だけ。そうなれば、川崎はサイドを変えるのは難しくはない。

 もちろん、仲間を出し抜いて同サイドからボールを前に運ぶことができれば、それで問題がない。序盤に瀬古がPA内に飛び込んで迎えた惜しいシーンは仲間を置いていった山根のキャリーからチャンスを迎えている。

 鹿島がスマートなボール奪取を行うことができるのはSHの後方をCHが埋めるケースである。サウジアラビア帰りの佐野がボールサイドにいればこのタスクは問題なく遂行することができていた。逆に川崎はこの佐野のスライドが間に合わなければ中盤を横切る形で逆サイドまで前進が可能になる。

 ざっくりと川崎の前進のルートを整理すると「FWをCBに食いつかせることで中盤のスペースを開けてアンカー(もしくはその位置に立つIH)に前を向かせること」と「SHをCBに食いつかせて鹿島の縦方向にギャップを作ること」の2択である。

 保持での安定感が出てきた川崎は前半のうちに先制点をゲット。登里のスルーパスから背後を取る形でマルシーニョが左サイドを抜け出すと、マイナスの折り返しからダミアンが先制ゴールを仕留める。おそらく、この試合で広瀬ではなく須貝をSBに起用したのはマルシーニョへの縦パスを念頭に置いたものであると思うが、登里のスルーパスからこの目論見を破壊してみせた。

 プレビューでも触れたが鹿島の守備は「サイドで奥行きをとる→インサイドでマイナス方向の動き直しをする」の組み合わせに弱い。鹿島に限らずどのチームにも効くオーソドックスな攻略法ではあると思うが、それにしてもこの動きの組み合わせでフリーになる頻度が明らかに高い。マルシーニョ→ダミアンへのパスはこうした鹿島のボックス攻略の王道を突き詰めたものになる。

 このシーン以外ではむしろサイドの裏を取るのはトランジッションから裏に走る機会が多かった家長のサイドになる。こういった場面ではダミアンにより鹿島の2CBの高さが決まる。マルシーニョの位置の選手は単にファーで待つのではなく、ダミアンと縦関係を作るようなクロスの飛び込み方をして欲しかったところである。そういう意味では先制点以降のチャンスはマルシーニョよりも宮代や小林などストライカータイプの方が上手くいかせたのかもしれない。先制点はマルシーニョのスピードなしでは生まれなかったけども。

 ちなみにこの試合の家長は降りて受ける機会は皆無。必死に立ち位置を守っていた。立ち位置を守るだけの試合は割とあるが、トランジッションでとりあえず裏に走るという選択肢をこれだけ頻度高くやることはあまりないので、攻め上がる安西の背後を狙うというのはそもそもスカウティングで狙うと決めていた部分かもしれない。

 鹿島は川崎にポゼッションを握られはしたが、反撃の機会がないわけではなかった。CFへの長いボールもしくは関川やピトゥカからの対角パスから松村にボールを届けることができればチャンスはあった。しかしながら、失点以降は鈴木が左サイドの自陣側に降りる機会が増えてしまったのは難しいところ。川崎目線で言えば最終ラインに突っかける方が怖かったので、この辺りはなんでもやりたがる鈴木の性質が少し試合の流れとは違う方向に転がった時間帯と言えるかもしれない。

臨機応変な瀬古とご褒美をもらったマルシーニョ

 迎えた後半、川崎はポゼッションから鹿島のプレスをいなす立ち上がりになる。右サイドの裏をとった山根のクロスから生まれた立ち上がりの川崎の決定機は先制点の場面と同じく「サイドの奥を取る動き×PA内のマイナスのスペース」のかけあわせ。鹿島の王道攻略パターンは後半も健在だった。

 鹿島は鈴木が高い位置を取り戻すことで保持に回ると前進ができる機会が増えるようになった。鈴木は右サイドでロングボールの的になる機会が多かった。

 ロングボールとハイプレスの掛け合わせからペースを取り戻したい鹿島。長いボールでの全身は悪くなかった鹿島だが、ショートパスでの繋ぎにたまにトライすることも。このトライは正直パスミスにつながってしまい、鹿島にとってはあまりいい挑戦とは言えなかった。

 川崎はロスト後の即時奪回のプレスを積極的に行うことで鹿島のポゼッションを落ち着かせない。鹿島はボールを回しながら川崎のハイプレスの穴をつこうとするが、ボールを動かすフェーズでミスが出る。特に前半から早川のフィードのミスがあっさりと川崎ボールになっていたのは鹿島の保持において気になる部分だった。

 保持においては川崎は一日の長があった。前半も機能していた仲間を吊り出しての右サイドの駆け引きと、マルシーニョ×須貝のマッチアップを狙う左サイドの駆け引きの2つを使いながら川崎はスムーズに前進する。

 鹿島も川崎と同じく攻撃が終わったフェーズで即時奪回を仕掛けていくのだが、川崎は鹿島よりも速いテンポのパスワークには明らかに慣れているのでミスが少ない。特に工夫が見えたのは左サイドの瀬古。左の自陣深い位置をとってポゼッションの逃げどころを作る動き、登里と連携して高い位置を取り直す動き、そしてトランジッションからの裏のマルシーニョを狙うパスなど都度の判断が的確で鹿島の中盤に先手を打っていた。前半30分に見事なターンを見せたように体のキレがあるのだろう。それでもそのシーンは(瀬古にパスをつけたソンリョンも含めて)ノープレッシャーの登里にパスをつけるべき場面ではあったが。

 もう一人、体のキレが良さそうだったのはマルシーニョ。オフザボールの抜け出しは当然ながら、リードをしてからは非保持においても須貝のオーバーラップについていき、鹿島の右サイドの+1を作る狙いを防いでいた。気まぐれなハイプレスだけでなく、松村へのダブルチームへの加勢なども含めて、川崎の劣勢が予想される左サイドでリトリートのタスクもきっちりこなしていたのは非常に好感が高い。

 川崎はそのマルシーニョがハイプレスからご褒美をゲット。須貝のボールロストから失点を献上。ボックス内でフリーになっていたダミアンがゴールを仕留めてこの日2点目を決める。須貝にとっては裏抜けに根性でついていくシーンが目立っただけに悔しい失点になってしまった。

 このゴールシーンの植田も後半頭の山根のクロスの決定機の広瀬もそうなのだが、鹿島のDFはボックス内のフリーの選手のケアよりもゴールライン付近でのクリアを狙っているのかな?という動きをする選手が結構多い印象。先に述べたマイナスのケアが疎かになりやすいという鹿島のボックス守備の難点もこことリンクするのだろうか。とりあえず、ラインを下げて後ろを埋めるという理念の延長線にある動きといえば納得感はなくもないが、後半頭の広瀬はともかく、2失点目の植田は普通にダミアンをケアした方がいいように見えた。

 川崎は2得点を決めた後にプレスを落ち着かせてミドルゾーンやや後方よりにブロックを形成する。鹿島はボールを回しながら隙を作ろうとするが、ボールスキルのバラツキは気になるところ。パスを繋ぐうちにずれてしまったり、この日非保持の判断が冴えていた橘田を軸とした川崎の中盤に刈り取られてしまったりしていた。それでも、CBをサポートする形で佐野や須貝がバックラインから幅をとるようなポゼッションをしたり、ピトゥカが対角クロスからチャンスを生み出したりなどできる限りの範囲の中でボール保持から川崎の守備を脅かそうというトライは見えてはいた。

 しかし、次に点をとったのも川崎。ダミアンの抜け出しとそれを見逃さなかった家長は見事ではあるが、早川の対応は勿体無さが先に来る。彼が飛び出さなくとも鹿島のバックラインは抜け出しに対応できたように見えたし、間に合わずにタックルをする格好になってしまうのであれば、その判断の正当性には疑問がつく。

 3点目となるキッカーは脇坂。ハットトリックチャンスのダミアンが蹴るべきでは?というくらいしか目立った悩みはないというのも、川崎にとってはいつもよりも贅沢な後半を過ごした証左と言えるだろう。

 シーズン9点目となる脇坂のゴールで川崎はリードを3点に広げる。最後までこの点差を守りきり、川崎は対鹿島とのリーグ戦6連勝。ホーム最終節を白星で飾った。

あとがき

 25分以降の内容はほぼ完璧で特に大枠としてはいうことはない。ファーサイドへのクロス対応の甘さくらいだろうか。FKでの素早いリスタートを妨害するなどディティールも凡事徹底されており、この日は戦えている川崎だった。

 やはり修正点は前半になるだろう。ロングボールからの切り替えはもっと素早く判断ができたはず。相手に無駄な攻める機会を与えてしまったことを考えると、ビルドアップのテイストの変化はより早く行いたい。今季多く見られる序盤の失点は明らかに勝ち点を積むことを阻害している。序盤のリズムの修正の遅さはカップ戦でも命取りになりかねない。

 加えて、リズムをつかめなかった方向性も残念なものだった。本来やりたいことができなくて主導権を握れないのであれば納得感はあるが、CF×CBのやり合いで鹿島相手に後手を踏むのはある意味当然のこと。上手くいかないことは想定できる。

 最強のチームではないので上手くいかない時間ができるのは仕方がない。だが、上手くいかないにしてもそのアプローチ自体がこの試合にマッチにしているかは精査したい。上手くいかないにしても意義のある時間として昇華するのは重要である。なぜならば、今の川崎はまだまだ強くならなければいけないチームだからだ。

試合結果

試合結果
2023.11.24
J1 第33節
川崎フロンターレ 3-0 鹿島アントラーズ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:34′ 63′ レアンドロ・ダミアン, 84‘(PK) 脇坂泰斗
主審:笠原寛貴

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