MENU
カテゴリー

「大外で脅威を突きつけられない代償」~2024.1.19 アジアカップ2023 グループD 第2節 イラク×日本 レビュー

目次

ハーフスペース封鎖が最優先のイラク

 初戦のベトナムに苦戦した日本はイラン戦に向けて2枚選手を入れ替え。トップ下に久保、トップに浅野を入れて残りの9人は据え置きの形でイレブンを組んだ。

 立ち上がりはガチャガチャとしたスタートだった。日本の右サイド側から上がったクロスに対してCB陣が被りかけたり、南野が自陣で不用意なパスミスをしたりなど、連携面と個人のスキル面でのミスが目立つ展開となった。

 そんな混乱に乗じてイラクは先制。セットプレーの流れから日本の右サイドにボールを届けるイラク。ロングボールに競りかけた伊東、ピン留めされた菅原、外に引き出された板倉はいずれもイラクに対して後手を踏んでしまうことに。クロスを処理した鈴木に飛んできたクロスの鋭さを見ると、このシーンにおけるGKは少し貧乏くじだった感がある。

 追いかける展開になった日本。まずは縦に急ぐアクションを見せる。日本の降りてくる遠藤、守田に対してイラクのCH陣が厳しくチェックをかけるように追い回していたことも要因かもしれないが、シンプルに前線の浅野の特性を活かすという意味ではわからないでもない。鈴木のリスタートでも前に素早く蹴っ飛ばしているあたり、チームとしての共通認識だった可能性もある。

 しかしながら、長い裏へのボールが流れてしまう頻度も多く、なかなかこの狙いは上手く刺さらなかった。クリーンにハマったのは左サイドから抜けた浅野が伊東にパスをせずにシュートを選択したシーンくらいだろう。

 20分もすると日本はボールをゆったりと持ちながらポゼッションを始める。なお。この時間帯にイラクはプレスのラインを下げている。日本がテンポを落としたプレーを志向したのか、イラクがボールを持たせようとしたのかは判然としない。確かなのは最終ラインに降りる守田や遠藤へのプレスはイラクのCHではなく2トップが担当になったことである。

 イラクの4-4-2の守備の特徴はSHがかなりインサイドに注意を向けていること。日本は左のハーフスペースに南野、右のハーフスペースに久保が立っていたがイラクはここへのケアをかなり重視していた。特に日本の右サイドはこの傾向が顕著。大外の伊東にはアル-ハッジャージュがタイマンを張っている分、久保のケアはアル・アマリとアリ・ジャシムがシェアもしくは挟み込みながらケアしていた。

 日本の保持に対してイラクのケアが最も向いていたのはハーフスペース。では逆に手薄だったのはどこだろうか。比較的警戒が甘かったのはWGを外から追い越すSBのところだった。インサイドへのパスをケアする分、イラクのSHはオーバーラップする日本のSBへのケアは薄くなる。

 そのため、伊藤と菅原はフリーでクロスを上げられる場面があったが、なかなかこのクロスが刺さらず。グラウンダーのボールは跳ね返され、ファーのボールは流れてしまうなど、高さで勝るイラクのボックス内の守備に脅威を与えることはできなかった。

 振り返ってみればアタッキングサードでSBが相手に脅威を与えられなかったのは痛かったと思う。ここをイラクのSHがケアするようになれば、ライン間への縦パスが入るようになる。菅原がやたらビルドアップ時に低い位置に立っているなと思ったのだが、これは対面のSHを外に広げるための工夫の一種だったのかもしれない。だが、なかなかインサイドに縦パスは入らず。日本がイラクにダメージのある縦パスを刺すことができたのは40分あたりの谷口→遠藤のシーンまで待つ必要があった。

 そうしている間にもイラクはカウンターからチャンスを作る。トップのフサインはロングボールを収められるし、イラクの左サイドは日本の右サイドの裏を再三とる。イラクの追加タイムの得点は1点目と似た形。左の大外に飛び出すアル-ハッジャージュを板倉と遠藤が潰し切ることができず、クロスの先にいたフサインのゴールにつながる。

 25番のアル-ハッジャージュはMVP級の働きだろう。伊東との1on1では一歩も引かなかったし、オーバーラップでは菅原を完全に置き去りにしてみせた。イラクは左サイドからのクロスを2つゴールに結びつけてハーフタイムを迎える。

早々の5バック移行が効いた理由

 両チームともに2列目の配置を大きく変えた後半の立ち上がり。日本の2列目の配置変更の狙いは左サイドの縦の成分を増やすための伊東純也の移動の意味合いが大きいだろうか。個人的にはアル-ハッジャージュから逃すという意味でもこの配置変更は悪くなかったように思う。

 しかし、先に2列目の変更からチャンスを迎えたのはイラク。7番のアミンの抜け出しから菅原はあわやPK献上という対応に追われることに。後半早々の危うい場面だった。

 だが日本も左サイドに入った伊東の裏抜けが効く形に。抜け出しという前半にはなかった縦成分が入ったことで、イラクは後手に回った感がある。ちなみに右サイドは冨安がCBのポジションから引っかき回しにきていた。オーバーラップのたびに確実にズレを作るあたりは信頼の実績の冨安という感じであった。

 左サイドの伊東の縦抜けと右サイドの冨安の攻撃参加で主導権を握った日本。イラクは63分に早くも対策を打つ形で5バックに移行。2点差とはいえ早いかなと思ったが、アウトサイドでの1on1とボックス内でのシンプルな高さ勝負の2点で自信を持っているのであれば、むしろ早いいい手打ちだったのかもしれない。冨安相手にロングボールを収めて、独力でシュートまで持ち込んだ10番のアリの存在も撤退守備シフトへの後押しになっただろう。

 5バックでレーンを塞がれると日本は完全に沈黙。伊東の交代以降はWGの大外成分がなくなり、菅原と伊藤がひたすら大外からの突撃を繰り返す展開に。これであればイラクは流れの中からは自信を持って対応ができる。日本は旗手の素晴らしいCKから遠藤のゴールで1点を返すが、それ以降もイラクの前線に陣地回復を許すなど、なかなかリズムを掴みきれなかった。

 結局試合はそのまま終了。前半のリードを守り切ったイラクがグループステージ2連勝を決めることとなった。

ひとこと

 2列目の大外レーンを担当できる人材の手薄さは少し気になった。大外勝負が増えた菅原と伊藤は最後まで打開策を見つけられなかったし、内外のレーン移動で勝負できるアタッカーも浅野以降はいなかった。今大会のボールにフィーリングが合っていない選手もそこそこいる感じも受けたし、この大会で森保ジャパンが立ち向かうべき課題がイラクによってきっちり突きつけられた90分となった。

試合結果

2024.1.19
アジアカップ2023
グループD 第2節
イラク 2-1 日本
エデュケーション・シティ・スタジアム
【得点者】
IRQ:5‘ 45+4’ フサイン
JPN:90+3′ 遠藤航
主審:サレハ・アルトゥライス

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次