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「糧にすらならない」~2022.5.25 J1 第15節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ レビュー

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目次

レビュー

■裏抜けってなんだっけ?

 湘南戦のプレビューで事前に指摘したお題は湘南の中盤より後ろをいかに動かせるかである。今季の湘南は2トップがCBに対して深追いはしてこない。しかしながら、中盤より後ろがプレスの意識を持っていないわけではなく、2トップを越えて相手チームにボールを運ばれた時に中盤が出ていって潰しに来る。

 だけども、この中盤の潰しに味方が連動できず、動きが単発になってしまう。そこが湘南の問題点であり、川崎はグラウンダーのパスをつなぐことで敵陣に侵入し、相手の守備が手薄なところまでボールを運ぶことが可能であると指摘した。

 そのために肝要なのはまずは相手を動かすこと。2トップ以外の選手を手前に引き出して湘南のズレのきっかけを作ることである。

 だけども、この日はこの一番初めのアクションが全くといっていいほどできていなかった。車屋と山村はボールを受けるとその場に根を張ったかのように動かない場面が多々。動かないということはラインを越えられないので、当然湘南を動かすことができない。

 象徴的な場面は33分のシーンである。佐々木が橘田への横パスをカットされた場面だ。この場面、佐々木は車屋からパスを受けているのだけども、その直前に全くボールを動かすことなくそのまま佐々木にボールを渡している。

 誤解を恐れずに言えば、佐々木のパスミスを生んだのはボールを車屋の責任である。佐々木→橘田へのパスカットをしたのは2トップの一角の大橋。車屋がボールを出す前に1,2歩ボールを運ぶアクションを見せれば、大橋は車屋の方に動いていたはず。

 この場面の車屋はボールを運ぶ動きを怠っている。よって、佐々木へのパスはCBがパスの出しどころのないSBにボールを預けてビルドアップを詰まらせるといういわゆる『嵌めパス』になってしまっている。

 CBが相手を動かせなかったのが問題の1つなのは明らかだ。その上で、アンカーの橘田にももっとできることはあった。川崎がこれまでプレスに苦しんできたのはG大阪、浦和のようにCBとアンカーに同時にプレッシャーをかけてくる相手である。

 だが、湘南はそういうチームではない。2トップが受け渡しながらアンカーへのパスコースを背中で消して、2CBには深追いしすぎない距離で寄せていく。その上、湘南のプレスは3センターと2トップの距離がコンパクトではない。

 例えば、6分のシーン、ボールを受けた橘田は簡単に湘南のFW-MF間で前を向いている。日ごろから『アンカーは1人で前を向くことを考えるのではなく、前を向かせてもらうべき!』とレビューでは書いているのだが、1人でターンして前を向けるくらいルーズな相手であれば、そんなことは気にする必要はない。

 この日の湘南のブロックのコンパクトさを考えれば、仮に川崎のCBがあまり相手を動かせなかったとしても、ターンがうまい橘田ならば前を向くチャンスは十分にあったはず。しかし、橘田は途中から最終ラインに落ちることで、ライン間に立つことをやめてしまった。

 それによって、横幅を取りやすくなったCBがボールを運べるのならばまだしも、特にCBのボールを運ぶ意識は変わらない。単に橘田がプレッシャーから逃げただけで終わってしまっている。全体が後ろに重くなっただけだ。

 相手を動かそうともせず、入り込もうともしないのだからブロックの間は使えなくて当たり前である。湘南のコンパクトさが原因ではない、相手の守備網を広げるトライも守備網の間で受けるトライもしなかった自分たちが悪いのだ。

 ライン間を攻める代わりに増えたのが裏抜けのためのロングボールである。例えば2:30、2トップ脇でボールを受けた山根が裏にボールを蹴ったけども、ターゲットが家長でこんなアバウトなパスを送る必要がない。

 確かに湘南は3センターがスライドしてボールを止めに来た。だけども、湘南の2トップは山根に対して特に山村へのバックパスのコースを消しに行っていない。

 ならばやり直せばいいではないか。3センターで横幅を賄い続けるのはなかなかハード。ボールの方が明らかに人よりも早く動ける。湘南の3センターに体力を使わせて後半勝負に持ち込んだってかまわない。とにかく、蹴ってボールを捨ててしまうのは湘南を楽にするだけである。

 せめて、前線がマルシーニョであれば話は違ったかもしれない。けども、そのマルシーニョを使う形にしたって急ぎすぎである。最終ラインの車屋からよーいドンのパスを蹴ったり、ショートパスをひたすら縦に縦につないだり。こうしたボールの効果は薄い。

 言葉としては『裏抜け』である。『抜け出す』のである。抜け出すというのは相手が逆方向に走ったり、止まっている状態の中で、味方だけが走り出しているのが理想なのである。裏に蹴ることが相手にバレていて、同じタイミングで守備者が裏に走れるのであれば、それは『裏抜け』ではなく『かけっこ』である。

 マルシーニョほどの走力があれば『かけっこ』でもいいのかもしれないが、彼1人が抜け出すことを意識して、むやみに縦に蹴れば味方は付いていけない。一人でシュートまで持って行けなければ、孤立した状態で味方が上がってくるのを待つことしかできない。ボールと共に人を前に送れていないので、ロストをしてしまえば当然即時奪回に移行することもできない。

 ダミアンへのロングボールもそうだけども、ACLの総括でも書いたが、こういった前線へのアスリート能力勝負に素材のまま挑むのは川崎の流儀ではないのだろうか。裏抜けを意識するにしても、まず相手を手前に引き付けるアクションをするべきである。

 仮に、湘南が前からガツンとマークを完全にハメてくるようなチームであれば、同数となる前線のアスリート能力を活かすやり方は効果的かもしれない。だけども、既に述べたようにこの日の湘南は極端な前傾プレスを行ってくるチームではない。

 それでも初めてのミスであれば、まだ弁解の余地はある。だけども、すでにこのチームは同じ過ちをACLでやっている。困った時のアスリート勝負に困る前から挑んで負けたというのを、今季最も重要な大一番ですでに経験済みである。

 そういうわけで同じことを繰り返すのは2回目。よって、この湘南戦の出来は無失点で終わった前半から全く擁護できるものではないというのが自分の意見だ。

■湘南はお手本になる

 皮肉なことだが、裏抜けの使い方としてはこの日の湘南のボールの動かし方はとてもよく参考になる。例えば25分。大橋からパスを受けたタリクのプレーは参考になる。ターンしながらボールをキープし、山村と正対の状況を作る。山村と正対したあと、ボールを少し動かす。これによって正対した山村の足は完全に止まる。その止まった山村の裏のスペースを大橋が走る。

 まず正対すること、そして相手の足を止めること。この場合は軽く持ち出した横のドリブルだったが、方法はより大きな横のドリブルでも向かっていくドリブルでも横パスでも何でもいい。目的は守備者に自分たちより前のスペースを意識させることである。これができれば、足は止まるし、大橋の役目の選手はマルシーニョのような爆発的なスピードがなくても無理なくボールを受けられる。

 32分の大ピンチも同様だ。DFラインの前でボールを受けた池田は山村に向かっていくドリブルをすることで相手の足を止める。止まったことにより、横に走る大橋にボールを渡す。この場面もDFを止めることと裏抜けがセットになっている。

 話は逸れるけど、この池田のプレーは前節の鳥栖戦で遠野が出来なかったプレーである。遠野は対面の田代が足を止める前にコースを変えてしまったことにより同数でつぶされてしまっている。

 もっとも、池田がボールを受けた場面においては池田は外に流れる方向にドリブルをして山根につっかけるのもなしではない。なぜならば、山根の近くにはタリクがいるし、その外も石原が走っているからである。

 池田にとってはどう転んでもチャンスの目があるシーンだったといえるだろう。そうなったのは直前の場面でサイドに引っ張られた橘田があっさりかわされてしまった影響もある。

 この試合の川崎はどうも急ぎすぎた。7:30のシーン、これも佐々木のパスミスだけど、前線には誰かしら一度ポストで脇坂が前を向ける落としをしてほしい。裏に抜けるのはそれからでも間に合う。

 34:30の山村→家長の裏抜けはいい。その手前で脇坂が自陣側に引く動きを入れているせいで、湘南の最終ラインの注意が前に向いている。そこを家長が逆を突く形で抜け出せている。相手の最終ラインは置いていけているし、川崎はダミアンとマルシーニョが無理なくクロスを受けられそうな立ち位置にいる。こういう動かし方を増やしたかった。

 佐々木はミスが多かったけど、どう動かしたいかについては理解できるものが多かったので個人的には好感。ボールを前に運ぼうとしていた脇坂にもやろうとしていることは感じ取れた。全員がダメな試合だったが、何人かはボールをどう動かしたいの意識は見えた試合というニュアンスである。

■CBがサイドに出ていく意味

 湘南にとって、この試合の川崎の守備の狙い目は一貫してSB裏だった。WBがボールを受けて、川崎のSBを引き付けると、その裏に誰かが走り込む。この動きはほとんどオートマティック。約束事として行われていた。

 その結果、引き起こされたのはCBが横に動かされることである。山村、車屋はSB裏のスペースを潰しに出てくることが多かった。そうなると、今度はPA内の配置がいびつになる。ファー側のCBがニアまで出てきて、SBがソンリョンの前位までずれる。

 こうなると、もはやクロスを上げられてしまった時点で不利である。この形で点を奪われるのは2点目まで待たないといけなかったが、前半からこうした形自体は湘南にたくさん作られていた。肝心のクロス精度のところで湘南が拙さを見せたため、助かっただけである。

 CBにとって、外に流れるということはなかなかリスキーな決断であるはずだ。一番大事なところを守るフィールドプレイヤーが自分の持ち場を離れて、相手に対応しているからである。

 特に川崎のCBはサイドに出ていっての対応を求められている。タスク自体が重たい。それでも出ていったならば潰し切らないといけない。

 谷口は決定機阻止の一発退場が多いのだが、その理由の1つとして彼は自分自身が越えられたらおしまいという意識を持ちながら、プレーしているからというのがあると思う。1つタイミングを間違えれば一発退場というところでチームを救うプレーと鳥栖戦の退場はコインの表と裏のようなものである。

 それに比べると、この試合の山村と車屋は比較的カジュアルにサイドに出ていった結果、ボールを逃がしてしまうことが多かった。出ていくのならば潰してほしい。そうでなければむやみにエリアから動く必要はない。プレビューでは外に流れる選手とクロス対応のバランスをCBの2人が見つけられるかがポイントになると話していたが、こちらは試合前の懸念が当たってしまった格好になる。

 そうした非保持面での懸念があるのにも関わらず、個人的には無理に縦に急ぐことで懸念を顕在化させてしまったことは反省点。保持でボールと共に人を前に運び、湘南の5-3-2ブロックを押し込むことができれば、そもそもこうした懸念点がピンチにつながる機会そのものが少なかったはずである。

 最終的に川崎は3-4-3にトライ。3トップを活かしたいことと、大外で湘南がボールを持った時の走り込みに対応しやすくはなったため、意味が全くないわけではない。けども、結局この日はどういうフォーメーションを使うかよりも、後方からズレを作る気がなければ一緒。そこはフォーメーションで解決できる話ではないので。

 後半はセットプレーから失点したことにより、前線からの守備の意識が切れてしまい、湘南のホルダーを捕まえられなくなた。湘南のような裏抜けをサボらないチームに対して、ホルダーを捕まえられないことはピッチのどこにでもボールを自由に運んでいいフリーパスを渡しているようなものである。

 すでに述べた通り、前半に得点が入らなかったのは崩した形を作った後の、湘南の精度不足のせいだったので、得点を決められるかどうかは全て彼ら次第である。押し下げて保持の機会を減らす方策をとるなどハーフタイムでの修正がない状況では、危険なシーンに晒されるリスクはそこにあるままなので、湘南の精度次第ではこれだけ失点が積み重なることはあり得る話である。

あとがき

■相手以前の問題

 湘南には失礼な話かもしれないが、この日の川崎は相手を見ることを全くしていなかった。どうやって後ろからパスをつなぐか、前の選手に時間を渡すにはどうしたらいいか?に関して、ほとんどトライせずに終わってしまった。

 トライした結果、失敗してくれれば『湘南のスライドが早かった』とか『思ったように相手を動かせなかった』という話ができるのだけども、トライしてくれていないのでそういう話もできない。川崎がそれ以前の問題だからである。もちろん、4-3-3だから・・・とか3バックならとかそういう次元の問題でもない。

 この試合のこのボールの動かし方で反省点があるとすれば『マルシーニョと同じくらい足が速い人がいれば』とか『ダミアンより屈強でポストがうまい人がCFにいれば』とかそういう話しかできない。でも、そういうことではないと川崎はACL敗退で学んだばかりではなかったのだろうか。

 同じ過ちを繰り返すならば、ACLでの敗退は何の授業料にも糧にもならないし、この敗戦も同じである。負けたから怒っているわけでもないし、4失点したから怒っているわけでもない。大敗したとて、横浜FM戦とかC大阪戦のように既存の課題にぶち当たってくれるのならば、選手たちはそれを次に生かしてくれると信頼しているからである。

 だが、この試合ではそれもない。チャレンジせずに負けたのだから課題の設定のしようがない。どこまでが監督のプランで、どこからが選手の責任なのかはわからないが、この試合のチームとしてのパフォーマンスにはかかわった全員が重く責任を受け止める必要があるだろう。

試合結果
2022.5.25
J1 第15節
川崎フロンターレ 0-4 湘南ベルマーレ
等々力陸上競技場
【得点者】
湘南:49‘ 59’ 町野修斗, 54‘ 池田昌生, 61’ タリク・エルユヌシ
主審:池内明彦

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