「9人じゃ試合は勝てない」という原則が最上位
立ち上がり特有のとりあえず強くあたってから考えるシーンを抜けると、ボールを保持したのはトッテナム。チェルシーは自陣に引いて構える気は毛頭ないので、CBにボールを持たせつつ2列目がプレスを仕掛ける機会を伺う形でスタートする。
クルゼフスキのゴールはシュートシーンだけ見ればチェルシーからすると不運なもので片付けたい気がするが、プレッシングのところまで遡ってしまうと話は別。プレスのスイッチを入れたパルマーにジャクソンは連動しきれず、カイセドのサイドへのフォローが間に合っていない。スピードに乗せた状態でクルゼフスキにチャンスを与えてしまったのは、彼らのプレスがトッテナムのビルドアップに上回られてしまったからであり、そこには運の要素は少ないという点は指摘しておきたい。
トッテナムは先制点以降もこのバックラインを軸としたスウィングでチェルシーのプレスを振り回していた。マディソンの展開力は今更触れるまでもないが、逆サイドからのボールの引き取り手としてウドジェやサールの貢献度の高さはさすが。そして仕掛けるタイミングでの同じ絵の加速を作れているあたりはチームとしての完成度の高さだろう。
トッテナム優位の風向きが変わったのはウドジェの警告あたりからだろうか。徐々にチェルシーのロングカウンターがトッテナムのハイラインを侵食するようになる。さらにはエンソのミドルなど(リプレイが被ってるせいでおそらくにはなるが)ハイプレスからボールを奪い取るシーンも少しずつ出てくるように。
そして、カイセドのミドルのシーンも同じ文脈。ネットを揺らしたこのシーンは流れの中でロメロの退場を生み出しており、これ以降盤面は大きく変わることになるが、チェルシーの同点ゴールを生み出したのもまた必然性はあったことは付記しておきたい。
トッテナムは4-3-2でのハイライン継続を選択。マディソン、ファン・デ・フェンという攻守の要を負傷で失ってなお、この方向性は変わらず。チェルシーは無限に左サイドからスターリングが抜け出しを続けるが、ダイアーとエメルソンの急造CBが裏抜けに食らいついていく奮闘が光り、試合は1-1でハーフタイムを迎える。
前半はいろんなことがありすぎたのでトッテナムは単に盤面を整理する時間がなかった可能性もあったが、後半の頭からもポステコグルーは4-3-2のハイラインを選択したことで、彼らの哲学がそこにあるのだなということがわかる。もちろん、CBがベンチにいないのならば、その道を行くことになる納得感もそれなりにある感じはする。
しかし、カウンター対応で3対2の局面からウドジェが2枚目の警告を受けてトッテナムは9人に。スターリングの対応がまごついたものになったが、逆にそれが退場を誘発するのだから、サッカーは難しい。
9人でも4-3-1でハイラインを継続するトッテナム。ホルダーにプレスがかからないようになると、裏抜けを全部なんとかするのは難しいという点で4-3-2より難易度はグッと上がる。
だが、チェルシーはスターリングが何もかも1人でやろうとしたり、ククレジャのように抜け出した後の選択がイマイチだったり、ジャクソンがそもそも抜け出さなかったり、ムドリクが普通に人数をかけたサイドの突破を狙ったりなど難がかなり見えた。トッテナムは強気のプレスにヴィカーリオのリベロ仕事を掛け合わせることで流れを引き戻す。
しかしながら、9人でホルダーにプレスがかからないハイラインを続けてしまえば、破られるシーンが出るのは仕方ないこと。ジャクソンがスターリングの抜け出しを仕留めて本当にようやくリードを奪う。
だが、トッテナムはセットプレーを中心に反撃。交代で入ったウゴチュクがプレスで飲みこまれたり、ムドリクやグストが軽率なファウルを犯したりなど、チェルシーは足元を掬われてもおかしくない試合内容ではあった。
しかしながら、「9人でサッカーを勝つのは難しい」という原則は強固。更なるチャンスを迎えたジャクソンがハットトリックを決めて、最後はチェルシーが大勝。プレミアリーグから無敗のチームは消え去ることとなった。
ひとこと
魔の11節を締めくくるに相応しい内容だったと思う。語りたい角度があまりに多すぎる試合だった。9人じゃ試合は勝てないし、世の中にはいろんなハットトリックがある。試合は見ないとダメだ。
試合結果
2023.11.6
プレミアリーグ 第11節
トッテナム 1-4 チェルシー
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:6′ クルゼフスキ
CHE:35′(PK) パルマー, 75′ 90+4′ 90+7′ ジャクソン
主審:マイケル・オリバー